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Youtuberの旅行オタクと方向音痴の魔法少女  作者: エアポート快特
第一章

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19話 エゴイスト

今のナルトの顔には、かつてコラボ動画で見せた、自信なさげな青年の面影は微塵もなかった。

あるのは、成功者への妬みと、それを踏みにじる愉悦だけ。


「なんで……」


アサは膝をつきながら、問いかけた。


「なんで、そんなに私たちを憎むの? 鉄道が好きなんでしょ? 同じ『好き』を持ってるなら、仲良くすればいいじゃない……!」


「仲良く? ハッ、おめでたい頭だね」


ナルトは吐き捨てるように言った。


「『好き』なら平等? そんなわけあるか。知識の量、費やした時間、金、情熱……すべてにおいて俺の方が上だ。なのに、なんでお前らごときがチヤホヤされる!? なんで俺は『キモい』と言われて、お前らは『尊い』なんだ!?」


ドス黒いオーラが膨れ上がる。

それが理屈では説明できないことなのは、火を見るよりも明らかだった。


「この世は不公平だ。だから、俺はこの世界で『神』になる。お前らを始末したら、次は他の人気YouTuberも全員ここに引きずり込んでやる。全員の精神を破壊して、俺だけの王国を作るんだよ!」

「そんなこと……させるわけ……ないじゃない!」


アサは震える足で立ち上がろうとする。

だが、ナルトの重機アームが、無慈悲に振り下ろされた。


「フンッ!!」


ドガァァァン!!


「あがぁっ……!!」


鉄の爪が、アサの体を真横から薙ぎ払った。

彼女の体は枯れ葉のように吹き飛び、車両の壁に激突した。

壁がひしゃげ、窓ガラスが粉々に砕け散る。


「アサァァァァッ!!」


牢獄の中から、ハルトの絶叫が響いた。

アサは床に崩れ落ち、動かない。

華やかなドレスはボロボロに汚れ、あちこちから血が滲んでいる。


「……ふん、脆いな」


ナルトはつまらなそうに鼻を鳴らした。

彼はゆっくりと、倒れたアサに近づいていく。

その手には、あの大ハサミが握られている。


「トドメだ。あの世行きの切符を拝見してやる」


ナルトが大ハサミを振り上げる。

ハルトは檻を叩き、叫び続けた。

だが、その声は届かない。

アサの意識は、薄れゆく闇の中にあった。


痛い。寒い。怖い。


これまで、魔法の力でなんとかなってきた。

ハルト君が助けてくれた。

でも、今は違う。

純粋な悪意の前では、ただの「ラッキー」は通用しない。


(ここで……死ぬのかな……)

(ごめんね、ハルトくん……)


諦めかけた、その時、アサはハルトと出会ってからの1ヵ月を思い出していた。

新宿駅での出会い、最初に喧嘩してYoutuberコンビを結成したこと、いろんなところに依頼に出かけたこと、その度に鉄道の解説をするハルトの目が輝いていたこと。

アサはフッて笑った。


「1ヵ月……短くて楽しい時間だったわね……」


(アサー!)


誰かが私の名前を呼んでる。


誰?


……ああそうか、ハルト君。


まだ終わってないよね。


だって……。


「……この世界は、ハルト君の好きな鉄道の世界じゃないもんね」


かすれた声。

ナルトが動きを止めた。


「あ?」


アサが、ゆらりと顔を上げた。

額から血を流しながらも、その瞳だけは、死んでいなかった。

いや、さっきよりも強く、激しく燃えていた。


「私の……相棒が好きなものを……こんな風に汚すなんて……」


アサが地面に手をつき、歯を食いしばって立ち上がる。

その背中から、微かだが、しかし決して消えない光が漏れ出していた。

それは「幸福」の光ではない。

もっと根源的な、大切なものを守るための「勇気」の光。


「……絶対に、許さないんだから!!」


アサの絶叫が、悪夢の世界『ナイトメア・レイルウェイ』を震わせた。

彼女の背中から噴き出した光は、もはや「小さな幸せ」を生むような柔らかなものではない。

それは、暴走する列車を強制的に止める、非常ブレーキの火花のような、激しく鋭い光だった。


「無駄だ! ここは俺の世界! 俺の鉄道だ! おまえらごときがダイヤを乱すなァァァ!!」


怪物化したナルトが咆哮する。

背中の重機アームが一斉にアサへ襲いかかる。物理法則を無視した、亜光速の打撃。

だが。


「――違う!」


牢獄の中で、ハルトが叫んだ。


「お前の鉄道は、鉄道じゃない! ただの『模型』だ!」

「あァ!?」


ナルトの動きが一瞬止まる。


「お前の作る世界には、決定的な欠陥がある! さっきからお前の走らせている列車、ダイヤ、すべてがお前の『エゴ』のためだけに動いている! 誰かを運びたい、誰かに届けたいという『目的』がない!」


ハルトは鉄格子を握りしめ、喉が裂けんばかりに叫んだ。


「乗客のいない鉄道なんて、ただの鉄塊だ! そんなスカスカな世界に、アサの『想い』を乗せた魔法が負けるはずがない!!」


ガガガガッ……!


世界に亀裂が走る。

ハルトの指摘は、この精神世界の根幹――「一人のエゴイストの自己満足」という脆い地盤を貫いた。


世界のバグ。


矛盾。


ナルトの動きが鈍る。


「今だ、アサ!! この世界を終わらせてくれ!!」

「了解ッ!!」


アサは地面を蹴った。

傷だらけの体など忘れたかのように、光の矢となってナルトへ突っ込む。


「私の、そしてハルトくんの大好きな鉄道を……返せぇぇぇぇ!!」


アサの拳が、光の塊となってナルトの胸郭に突き刺さる。

それは攻撃魔法ではない。

ただの、想いを込めたストレート。

だが、その拳には、ハルトの知識とアサの情熱――二人の「魂」が乗っていた。


「が、あ、あァァァァァァァッ!?」


ナルトの体が内側から発光する。

悪魔の黒い影が、アサの光に焼かれ、剥がれ落ちていく。


「ご乗車、ありがとうございましたァァァッ!!」


カッッッ!!!!


視界が真っ白に染まる。

悪夢の豪華列車が、レールが、どす黒い空が、ガラス細工のように砕け散った。

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