17話 ナイトメア・レイルウェイ
今回は、制作都合で短いです。
「……ん」
ハルトは目を覚ました。
眩しい光に目を細める。
「ここは……?」
気がつくと、彼は電車の座席に座っていた。
ふかふかのベルベットシート。
車内は黄金色の装飾で埋め尽くされ、シャンデリアがぶら下がっている。
まるで、王侯貴族が乗る豪華列車のような内装だ。
「あ、ハルトくん! 大丈夫!?」
向かいの席に、アサが座っていた。
だが、彼女の服装がおかしい。
いつものカジュアルな服ではなく、フリルのついたゴシックなドレスを着せられている。
「アサ……その格好……」
「わかんないわ! 気づいたらこれを着てたのよ!」
「なるほど……?」
「それよりも、ここはどこかしら? 土樽駅じゃないみたいね……」
ハルトは窓の外を見た。
息を呑んだ。
窓の外には、空がなかった。
あるのは、赤紫色に渦巻く混沌とした空間と、そこを走る無数の「線路」だった。
空中に敷かれたレールの上を、見たこともない異形の列車たちが走っている。
目玉がついた蒸気機関車、骨でできた新幹線、触手が生えた通勤電車。
「夢……なのか?」
いや、夢にしては感覚が鮮明すぎる。
これは――。
『レディース・アンド・ジェントルメン! そして憎きリア充YouTuber諸君!』
車内放送のスピーカーから、ノイズ混じりのハイテンションな声が響き渡った。
『ようこそ! 俺の精神世界……「ナイトメア・レイルウェイ」へ!』
車両のドアが、ひとりでに開いた。
そこから入ってきたのは、車掌の制服を着た男。
だが、その顔はかつてコラボしたナルトchのそれではない。
顔の半分が黒い影に覆われ、頭からは二本の角が生えている。
手には、巨大なハサミのような切符切りを持っていた。
「ナルト……君なのか?」
「その名前で呼ばないでくれないかな?」
怪物は、ニタニタと笑いながら、ハサミをジャキッ! と鳴らした。
「今の俺は、この世界の支配者『ナルト・エンヴィー』様だ」
怪物……ナルトchの一人称は、コラボ撮影の時の『自分』から、いつの間にか『俺』に変化していた。
「エンヴィー……? 嫉妬ってことか……?」
「さぁ、コラボ動画の撮影といこうじゃないか! 企画名は……『生きて帰れるか!? 地獄のミステリーツアー』だ!!」
怪物が指を鳴らすと、豪華列車の床から、無数の黒い手が伸びてきた。
「ひっ!?」
「アサ、逃げるぞ!」
ハルトはアサの手を引いて立ち上がろうとした。
だが、体が動かない。
黒い手が足首を掴み、座席に縫い止めているのだ。
「無駄だよ。ここは俺の夢の中。ルールブックは俺だ」
ナルトは歪んだ笑みを浮かべ、二人に近づいてきた。
「現実では勝てなかった。数字でも、人気でも、その女の輝きにも勝てなかった。……だから、ここで終わらせてやる。お前らの精神を破壊して、一生目覚めない植物人間に変えてやるよ」
巨大なハサミが、ハルトの首元に向けられる。
逃げ場はない。
魔法も使えない。
絶体絶命の窮地。
その時。
アサが、震える声で叫んだ。
「……ふざけんじゃないわよ、このド陰キャ眼鏡!!」
その一喝は、車内の空気をビリビリと震わせた。
「人の夢に勝手に引きずり込んで、変なドレス着せて、何が支配者よ! 私達の許可なく撮影始めるなんて、YouTuberとしてのマナーがなってないわ!!」
アサの瞳が、怒りで燃え上がる。
その瞬間。
彼女の胸元から、眩い光が溢れ出した。
「な、なんだ!? 俺の空間で魔法は使えないはず……!」
「そんなの知らないわ! 私がルールになればいいだけの話じゃない!」
パリーン!!
空間に亀裂が入る音がした。
土樽駅の静寂な空気が、この悪夢の世界に一筋の風穴を開けようとしていた。




