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Youtuberの旅行オタクと方向音痴の魔法少女  作者: エアポート快特
第七章

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106話 覚悟

「――さて。それでは、僕とも遊んでもらいましょうか」


そらの足元から、幾筋もの影が、鎌のような刃となって伸びた。


「アサ、後ろに!」


ハルトが叫びながら、咄嗟に光の盾を展開する。

だが、影の刃はまるで液体のように盾を回り込み、二人の間際を掠めていった。


「――くっ……!」

「気をつけて。あの影、直進しかしないと思ったら大間違いよ」


アサが、頬に浅い傷を負いながらも、すぐさま確率の力を展開する。

だが、そらの動きは、以前とは比べ物にならないほど洗練されていた。


「以前より、多少はマシになったようですね。……ですが」


そらの声には、余裕が滲んでいた。


「その程度では、まだ届きません」


放たれた影の群れが、四方八方から、二人を包囲するように迫る。


「――アサ!」


ハルトが叫び、庇うように前に出た瞬間、鋭い影の一撃が、彼の脇腹を掠めた。


「がっ……!」

「ハルト君……!」

「大丈夫、まだ動ける……!」


強がる声とは裏腹に、ハルトの息は、既に荒く乱れていた。


「そら、お願い、やめて……!」


アサが、悲鳴のように叫ぶ。


「僕は、僕の役目を果たしているだけです。姉さんこそ、いつまでそんな甘いことを言っているんですか」


そらの声は、あくまで淡々としていた。

だが、その言葉の端々に、以前にはなかった、微かな苛立ちのようなものが滲んでいるのを、ハルトは見逃さなかった。


(――何か、違う)


以前の戦いの時よりも、確かに冷酷さは増している。

だが、その分だけ、どこか、無理をしているようにも見えた。


「アサ、僕らも仕掛けるよ……!」

「わかってる……!」


アサが、確率を歪める力を、影の一本一本へと丁寧に纏わせていく。

回避が難しいはずの一撃が、次々と、わずかに軌道を逸らされていった。


「――ほう」


そらが、初めて僅かに眉を動かす。


「精度が、上がっていますね」

「当たり前でしょ……! 私だって、あの日から、ずっと――」


アサの叫びと同時に、ハルトが光を放つ。

二人の連携は、確かに以前より噛み合い始めていた。

だが、そらの余裕は、崩れなかった。


「連携は、悪くありません。ですが」


そらが、指を軽く鳴らす。

影が、まるで意志を持つかのように、二人の連携そのものを分断するように広がっていった。


「――なっ……!」

「離れちゃ、だめ……!」


アサの叫びも虚しく、二人の距離が、無理やり引き裂かれていく。


「ハルト君……!」

「アサ……!」


呼び合う声が、崩れた駅構内に、虚しく反響した。

一人になったハルトの目の前に、そらが、静かに歩み寄ってくる。


「秋津ハルトさん。あなたには、少し、聞きたいことがあります」

「――なんだよ」


肩で息をしながら、ハルトは、それでも睨み返した。


「あなたは、僕の姉に、何を望んでいるんですか。……あの人を、幸せにできる自信は、あるんですか」


思いがけない問いに、ハルトは、一瞬言葉を詰まらせた。


「……そんなの」

「答えられない、ということは」


そらが、影の刃を、静かに構え直す。


「その程度の覚悟しかない、ということですね」

「――違う!」


叫びながら、ハルトは光を集める。

だが、疲労と痛みで、思うように力が定まらない。

放たれた影の一撃が、無防備なハルトの体を、正面から捉えた。


「――ぐあああっ……!」


吹き飛ばされたハルトの体が、崩れた売店の残骸へと叩きつけられる。


「ハルト君っ……!!」


離れた場所から、アサの悲痛な叫びが響いた。

そらは、倒れ伏すハルトを、ただ静かに見下ろしていた。

その瞳の奥に、勝利の色はなく――ただ、何かを試すような、冷たい観察の色だけが浮かんでいた。

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