104話 再対峙
光が奔る。
ヒマリの剣が、獣と化した何かの体を捉えるたび、澄んだ音と共に、その輪郭が淡い光の粒子となって消えていく。
「――まだ、来ます……!」
叫びながらも、ヒマリの動きに、迷いはなかった。
剣筋は正確に、そして最小限の痛みで、暴走する魂を鎮めるように振るわれている。
「こっちも!」
アサの周囲では、獣たちの動きが、次々と不自然に乱れていた。
踏み出す足が滑り、放った爪が空を切る。
確率を歪める力が、戦況を静かに、しかし確実に支えていた。
「まだいける……!」
ハルトも、右手に集めた光を放ちながら、必死に食らいついていた。
カイトに向けて放ったあの力は、実戦を重ねるごとに、少しずつ制御が上達している。
三人がかりで、駅構内に散らばる獣の数は、着実に減っていた。
だが――。
不意に、コンコースの空気が、ずしりと重くなった。
明らかに異質な気配が、雑踏の奥から、こちらへと近づいてくる。
「――この気配……」
ヒマリが、剣を構えたまま、鋭く振り返った。
「まさか……」
崩れた売店の看板の陰から、ゆっくりと、二つの人影が姿を現す。
一つは、穏やかな微笑みを浮かべたまま、足元に淀んだ影を纏う青年――そら。
そして、もう一つ。
その隣に、まるで従えられているかのように立っていたのは――全身を覆う漆黒の甲冑めいた異形と化した、大柄な男の姿だった。
「――お父、さん……?」
ヒマリの唇から、掠れた声が漏れた。
剣を握る手が、目に見えて震え始める。
「デストロイ……!?」
ハルトも、驚愕に目を見開いた。
かつて、ヒマリ自身が対峙し、乗り越えたはずの過去の象徴。
その存在が今、そらの隣に、意思のない駒のように佇んでいた。
「――お久しぶりです、皆さん」
そらが、穏やかな声で、まるで世間話でもするような調子で言った。
「随分と、賑やかにやっているようですね」
「そら……お前、ヒマリの父親に、何をした……!」
ハルトの声は、怒気に満ちていた。
「おや? ハルトくんもこの個体を知っているのですね?」
そらは、緩やかに首を傾げた。
「安心してください。ただ、我が主の役に立ってもらっているだけですよ。もっとも――」
そらの視線が、ちらりとアサへと向く。
「僕から見れば、あなた方の"父親ごっこ"や"姉弟ごっこ"も、大差ないように思えますけどね」
「……そら」
アサの声が、震えていた。
怒りと、悲しみと、それでもまだ捨てきれない何かが、その一言に滲んでいる。
「今日は、遊びに来たわけじゃないんです」
そらの表情から、ふっと、笑みが消えた。
「我が主より、伝言を預かっています。――『これ以上、無粋な邪魔をするなら、次はこの街ごと、綺麗に消してやろう』、と」
その言葉に、辺りの空気が、一段と冷たく張り詰めた。
「デストロイ、行きなさい」
そらが、静かにそう告げると、漆黒の異形が、地響きを立てながら、ゆっくりと前へと進み出た。
「――お父さんっ……!」
ヒマリの悲鳴じみた叫びが、崩れかけた新宿駅の構内に、虚しく響き渡った。




