6章閑話
窓の外は、今日も曇っていた。
異界管理局管轄の拘置所。
デストロイの一件以来、この階層一帯には、通常の何倍もの結界と監視の魔法が張り巡らされている。
自力での脱出はまず不可能――そう判断するだけの理性は、栗島アキラにも、まだ残っていた。
彼は、久しぶりに、ぼーっとしながら、格子状の窓から外を眺めていた。
(面白いものだな。私が、こうして何もせず、ただ景色を眺める側に回るとは)
これまでの人生で、彼が「無駄な時間」というものを許容したことは、一度もなかった。
一分一秒が、実験のための資源だった。
だが、この独房の中では、その資源を使う先が、何一つない。
不思議と、焦りはなかった。
(まあ、慌てる必要もないか。私の役目は、もう、あの子たちに引き継がれている)
脳裏に浮かぶのは、二人の娘の顔だった。
一人は、道具として育て上げた、感情の乏しい娘。
もう一人は、まだ何も知らない、無邪気な娘。
どちらも、彼にとっては、長い実験の延長線上にある存在に過ぎなかった。
それを冷たいと詰る者もいるだろう。
だが、彼の中に、罪悪感という感情は、最初から実装されていなかった。
(浅野の血は、今どこまで育っているだろうな。 そら君は、ちゃんと役目を果たしているだろうか)
考えることは、いくらでもあった。
壁一枚隔てた向こうの世界がどうなっていようと、彼の思考だけは、どこまでも自由だった。
格子の隙間から差し込む、灰色の光。
それを眺めながら、栗島アキラは、口の端を、僅かに持ち上げた。
「――さて。こうなった以上、私にできることは、もうないみたいだな」
その呟きは、誰に届くでもなく、静かな独房の中に、溶けて消えていった。




