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Youtuberの旅行オタクと方向音痴の魔法少女  作者: エアポート快特
第六章

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100話 戻す魔法

「――アオイ」


崩れ落ちた書斎の残骸の中、ハルトは、震える膝を叱咤しながら立ち上がった。


「僕に、考えがある」

「考え……?」

「アオイの護りの力、あれは、繋ぎ止めるための力なんだよね。チハルちゃんにやったみたいに」

「はい。……ですが、この力は、相手の中にある"戻りたい"という気持ちに寄り添う力です。アキラ様に、その気持ちが残っているとは、思えません」


アオイの声には、迷いのない諦観があった。


「うん。多分、アオイの言う通りだと思う」


ハルトは、意外にもあっさりと頷いた。


「あの人は多分、変わってない。人間の時からずっと。だから――」


ハルトは、荒い呼吸の合間に、なおも言葉を続けた。


「気持ちに訴えるんじゃなくて、力尽くで押さえ込む。アオイの力、そういう使い方もできないか?」

「……力尽くで」


アオイは、一瞬だけ目を見開いた。


「戻りたいかどうかなんて、関係ない。私が、戻す。それだけでいいんですね」

「うん」

「――やってみます」


獣が、再び咆哮を上げながら、崩れた壁の隙間から巨腕を伸ばしてくる。


「時間を作る……!」


ハルトは、残った力の全てを右手に集中させた。

東京駅でカイトに放った、あの光の魔法。

あの時よりも粗く、不安定な光だったが、それでも今、出せる最大のものだった。


「――うおおおおっ!」


光弾が、獣の顔面を正面から捉える。

怯んだのは、ほんの一瞬。

だが、それで十分だった。


「アオイ、今……!」

「はい……!」


アオイは、両手を大きく広げ、意識を一気に集中させた。

淡い光が、彼女の手から放たれ、獣の巨体を包み込んでいく。

今度は、優しさのためではない。

楔を打ち込むような、強引な光だった。


「あなたが、何を思っていようと構いません」


アオイの声はこれまでになく硬く、揺るぎなかった。


「あなたはもう二度と、チハルにも、他の誰にも、これ以上のことをさせません。だから――戻ってもらいます」


光が獣の輪郭を、内側から強引に押し込めていく。


「――ぐ、るる……!」


抵抗するように、獣が身をよじる。

だが光は緩まなかった。


「あなたの意思なんて、聞いていません」


アオイは、繰り返した。

まるで、自分自身に言い聞かせるように。


「――終わりです、アキラ様」


その一言と共に、アオイの光が一際強く輝いた。


「がぁああああああッ……!」


断末魔にも似た絶叫を最後に、獣の巨体が、まるで空気が抜けるように急速に縮んでいった。


黒く爛れていた皮膚が、元の人間の肌へと戻っていく。

伸びていた爪も、翼も、跡形もなく消えていった。

そして、痩せ細ったアキラの体が、糸の切れた人形のように、瓦礫の上へと崩れ落ちた。

わずかに開いた唇の端に、微かな笑みが残っていた。

反省でも、後悔でもない。

むしろ、何か面白いものを見た後のような、乾いた笑みだった。


「……終わった……?」


ハルトは、その場に膝から崩れ落ちながら、掠れた声で呟いた。

アオイが、震える足取りでアキラに駆け寄り、その胸に手を当てる。


「……息が、あります」

「……良かった……」


安堵の息を吐いた瞬間、屋敷全体を包んでいた重苦しい気配が、まるで潮が引くように消えていった。

――結界が、解けた。


「ハルト君! アオイさん!」


砕けた玄関の方から、アサとヒマリの声が響いてくる。


「――アサ! 先輩!」


ハルトが声を張り上げると、瓦礫を踏み越えながら、二人が駆け込んできた。


「一体、何が……! 結界が急に消えたと思ったら、この惨状はどういうこと……!?」


ヒマリが、崩れ落ちた書斎を見渡し、絶句する。


「無事なの、二人とも……!?」


アサが、血だらけのハルトの姿に、悲鳴じみた声を上げた。


「大丈夫……ギリギリだったけど、なんとか」


ハルトは、力なく笑ってみせた。

眠るチハルと、意識を失ったアキラ。

そして、満身創痍のハルトとアオイ。

崩れ果てた栗島邸の中に、ようやく、静けさが戻ってきていた。

だがその静けさの中で、アオイだけは、倒れたアキラの顔から目を離せずにいた。

彼の口元に残った、あの笑み。

それが、何を意味するのか――アオイには、まだわからなかった。

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