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Youtuberの旅行オタクと方向音痴の魔法少女  作者: エアポート快特
第六章

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95話 書斎

栗島邸のインターホンを鳴らすと、しばらくして、不機嫌そうな顔をしたチハルが玄関に現れた。


「――は? なんで、あんたまで来てんのよ」


チハルの視線が、アオイの隣に立つハルトへと突き刺さる。

剥き出しの敵意が、真っ直ぐにこちらへ向けられていた。


「久しぶり、チハルちゃん。アオイと一緒に、ちょっとお邪魔しようと思って」


ハルトは、できるだけ柔らかい声を心掛けて言った。


「別に、歓迎してないんだけど」


そう言いつつも、チハルは扉を大きく開け、二人を中へと通した。

素直じゃないだけで、拒絶するつもりはないらしい。


「……広い」


初めて栗島邸を訪れたハルトは、玄関に足を踏み入れた瞬間、驚きの声を漏らしてしまう。

天井の高さも、廊下の奥行きも、自分の家とはまるで違う規模だった。


「……当たり前でしょ? 私達は由緒ある魔法使いの家――秋津家に仕える家柄なのよ。みっともない家でいいはずがないじゃない」


チハルは、腕を組んで顎を上げながら言い放った。


「ごめんね。今の本家が、ごく普通の一般住宅で」


ハルトが、思わず苦笑いしながら謝ると、チハルは鼻を鳴らした。


「……いえ、責めるべきことでも謝るべきことでもないわね。大体今の時代に、こんな広い豪邸なんて時代遅れなのよ」


チハルは、吐き捨てるようにつぶやいた。


「大体、こんな広い家……固定資産税だって馬鹿にならない。お父さんもとっとと売ればいいのに」

「……チハル」


アオイが、抑えた声で名前を呼ぶ。


「お姉ちゃん、哀れまなくていいの。……私は今、幸せだよ?」


チハルのその声には、全くと言っていいほど幸せな気持ちは含まれていなかった。

むしろ、意地を張っているだけのようにしか聞こえない。


「チハル、ハルト君を書斎にご案内してよろしいでしょうか?」

「……まあ、いいわ」


チハルを先導して、ハルトとアオイは続く。

廊下は薄暗く、歩くたびに床板が小さく軋んだ。

やがて廊下の突き当りに、一つの重厚な扉が現れた。

チハルは、ドアノブのカギ口に鍵を差し込む。

ガチャという音と共に鍵が外れると、チハルはドアノブに手をかけ、ゆっくりとドアを開けた。


「……ゴホッ、ゴホッ!?」


中に入るなり、チハルは咳き込んだ。

どうやら長く使われていなかったらしく、部屋の中は埃で充満していた。

差し込む光の中を、灰色の粒子がゆっくりと舞っている。


「……アオイ、この埃って」

「……はい。微弱な魔力が含まれています。しかも、悪いエネルギーです。気を付けないと、体力が削られるでしょう」


アオイが、目を細めながら、部屋の奥を見据えた。


「……調べるなら、急ぎか」


ハルトとアオイは、書斎の中を調べ始めた。

チハルには、部屋の外で万が一に備えて見張りをやらせている。

本当はチハルにも調査を手伝ってほしかったが、彼女ではこの部屋の埃に耐えられない。

少しでも影響を抑えるため、彼女を部屋の外へ追い出すほかなかったのだ。

本棚には、古い専門書らしきものがぎっしりと並んでいる。

だが、目につく場所には、それらしきものは何一つ見当たらなかった。


「……見えるところには、流石に重要なものは置かないか……。アオイ、解錠魔法は使える?」

「……解錠魔法自体は基礎的な魔法ですが、この部屋の中で鍵がかかっているところは全て、魔法により特別な細工がされています。人力で解除するのが早いと思います」

「……人力か。手こずりそうだね」


ハルトが、机の引き出しに手をかけようとした、その時だった。


「なるほど。それは困るなぁ」


ハルトとアオイの背中に、冷たい冷気が走った。

声は、すぐ後ろから聞こえた。


「やあ、秋津ハルト君、久しぶりだね。アオイとはよい関係を紡いでそうで、お父さん、安心したよ」

「……栗島アキラ」


ハルトとアオイは、ゆっくりと部屋の入口を振り向いた。


そこには、ねっとりとした笑みを浮かべながら、片腕でチハルを拘束する男――栗島アキラの姿があった。

腕の中で、チハルの顔は蒼白になっている。


「ああ、この子か。この子はね、我が家の期待の跡継ぎなのだよ。チハルには、俺の意思を継いでもらおうってね」

「……チハルちゃんを離せ」


ハルトは、キッと睨んだ。


「ほう、威勢がいいんだなぁ。本家の人間の跡継ぎはこうでないと、仕えがいがないから、結構なことだ」


アキラは、口元だけで笑った。


「……お、とう……さん」


チハルの声が、掠れて震える。


「……アオイ?」


ハルトが、隣を見た。

アオイは、小刻みに震えていた。


「おや、アオイ。久しぶりだね。俺は父親として、悲しいよ。大事な娘が、父親を裏切るだなんて」


アキラは、アオイにニコリと笑いかけた。


「どうだい? 父親の顔に泥を塗った気分は? ああ、そうか。アオイにとって、俺は父親ではないんだっけ?」


その一言に、部屋の空気が、一段と冷たくなったように感じられた。


アオイにとって、アキラは父親ではない――?


ハルトは、その言葉に大きな引っかかりを感じた。


「おや、ハルト君は聞いてなかったのかい? アオイは、栗島家の人間ではない。彼女は、養子なのだよ」


アキラは、愉しげにそう言い放った。

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