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Youtuberの旅行オタクと方向音痴の魔法少女  作者: エアポート快特
第五章

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81話 久しぶり!?

「本日は、こちらにご記入をお願いします」


差し出された事務用のクリップボードを受け取り、ハルトは面食らった。

総務省異界管理局、二階の受付窓口。

てっきり、また土方の執務室に直行するものだと思っていたのに、今日は勝手が違うらしい。


「あの……この用紙、なんですか?」

「今回発令される、地方巡回任務の同行申請書です。緊急性を伴わない案件なので、通常の事務フローに乗せる形になります」


窓口の向こうから返ってきた声に、ハルトは反射的に顔を上げた。

見覚えのある、けれど記憶よりずっとこざっぱりとした顔立ちの青年が、涼しい表情で書類を捌いている。


「……あれ?」

「はい? 何か、書き方に不明点でも――」


言いかけて、青年の方も、ハルトの顔をまじまじと見つめ返した。

数秒の沈黙。


「……秋津、ハルトくん?」

「く、桑原くん!?」


思わず声を裏返らせたハルトに、桑原は眼鏡の位置を直しながら、ばつが悪そうに笑った。


「うわ、マジで久しぶりだな。……いや、久しぶりって言葉で片付けていい再会か、これ」

「なんで桑原くんが、ここに……ってか、普通に格好良くなってない!? 前会った時と全然違う……」

「あー、それは……まあ、色々あって。妹に叩き直された、っていうか」


桑原は照れくさそうに頬をかいた。

細身のシャツに眼鏡という、以前の「ナルトch」からは想像もつかない、こなれた出で立ちだった。


「事務員として、こっちで働いてるんだ。1ヵ月くらい前から」

「事務員……って、じゃあ、桑原くんも、その、こっち側の人間になったってこと?」

「いや、俺は魔力……だっけ? そういう能力は特にないから、普通に一般職員。書類仕事とか、外部との連絡窓口とか、そういうのを回してる」


桑原は肩をすくめた。


「まあ、自分、色々あったろ。あの後、しばらく腑抜けてたんだけどさ。今働いてる場所から、連絡があったんだ。ここで働きませんか?って……」

「働く……? 桑原君は、ここがどんなところかって知って……」

「まあね。総務省異界管理局……いわゆる、異世界との交流を担当するところだろ?」

「う……うん」

「全く……異世界だなんて、ライトノベルの中だけの話だと思っていたし、正直今でも自分は信じてないよ」

「じゃあ何で……」


桑原は、少し声のトーンを落とした。


「福利厚生がかなり充実してるからな。ここで働きながら、大学にももう一度行けることになったんだ」


ハルトはその言葉に、目を見開く。


「……自分は、大学はとっくに辞めて、堕ちるところまで堕ちていた人間だ。そんな自分でも、ハルト君に出会った後、もう一度受験して大学に行こうか、それとも働くべきか、どっちにしろ、もう一度社会に出たいって思うようになったんだ」


桑原はもう一度顔を上げた。


「……ここで働くようになってまだ2か月くらいだけど、初めて、自分にもできることがあるんだって思えたんだ。ハルトくんたちみたいに、直接戦うことはできないけどさ。大学だって、ここで働くのと交換条件で支援してくれてるんだ」


その声には、以前の卑屈さも、痛々しい嫉妬の色も、もうなかった。

ただ、地に足のついた、静かな充実感だけがあった。


「……そっか」


ハルトは、自然と口元が緩むのを感じた。


「桑原くん、良かったね」

「お前が言うと、なんか説教臭くて腹立つな」


軽口を叩きながらも、桑原は照れくさそうに視線を逸らした。

そこへ、後ろから声がかかった。


「――ハルト君、お待たせしました」


書類仕事を終えたらしいヒマリが、少し険しい表情でこちらへ歩み寄ってくる。


「先輩、こちら、桑原くん――」

「存じています。今回の巡回任務、事務手続きを担当してくださっている方ですよね」


ヒマリは軽く会釈をしてから、すぐに本題に入った。


「ハルト君、話が変わりました。私は、今回の巡回には同行できません」

「――え?」


思いがけない一言に、ハルトの声が裏返る。


「別件の捜査に、急遽召集されました。詳細は言えませんが……浅野家の、先代当主に関連する案件です」


その一言に、ハルトは息を呑んだ。

アサの母――おとはについて。

まだ何も明らかになっていない、あの事件の糸。


「アサには、まだ話さないでください。確証もない段階で、余計な期待や不安を抱かせたくありません」


ヒマリの声は静かだったが、有無を言わせぬ強さがあった。


「……わかりました」

「代わりと言ってはなんですが」


ヒマリは、一枚の書類を、ハルトの手元にそっと重ねた。


「今回の巡回任務、アサと二人で向かってもらうことになります。土方さんの承認も、既に取れています」

「アサと、二人で……」


窓口の向こうで、桑原が興味深そうにこちらを見ていた。


「へえ。……なんか、青春っぽいな、それ」

「な、な……! 桑原くん、余計なこと言わないでよ!」

「あーあー、照れちゃって」


からかうような桑原の声に、ハルトは真っ赤になった顔を隠すように、書類に視線を落とした。

だが、その拙い文字の羅列を見つめながら、ハルトの胸の内には、期待と不安が入り混じった、複雑な感情が渦巻いていた。

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