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紫導家ヒストリー  作者: AliceMa
第1章〜紫導家〜
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EP6〜中学1年生〜

挿絵(By みてみん)


 4月——。


 嵐華らんかにとって初めての「外」での学生生活が始まった。


 嵐華と緋織ひおりは共に12歳。


 嵐華は雷能力の制御が可能になり中学校へ入学、そして通学が許可された。


 それは嵐華にとってただの入学ではなかった。


 画面越しではない教室へ自分の足で向かうこと。


 それ自体が雷に奪われていた日常を取り戻す第一歩だった。


 小学生時代は常時リモート授業。


 教室の空気もざわめきも……画面越しでしか知らない。


 雷を制御出来るようにはなってはいたが、安全面、精神面を考慮し、リモート授業を続けることになっていた。


 さらに中学校で小学生時代の同級生に直接会えるというわけではなかった。


 IRIS能力育成機関への入所に伴い、嵐華、緋織が在籍していた小学校とは別の校区の中学校へ進学することになっていた。


 リモートで交流していた同級生とは別の道を歩む。


「……寂しいなぁ」


 同級生達から卒業前に緋織に渡され、プレゼントされた寄せ書きの色紙を確認しながら嵐華は少し肩を落とす。


 直接会えなかったこと、そして中学でも離れ離れになることが残念だった。


 嵐華の手を握り、緋織は微笑みながら励ます。


「大丈夫です……私がいます」

「きっと、友達がいっぱい出来ますよ♪」


 嵐華は小さく頷き、緋織の手を握り返す。


 不安で嵐華の手の平が冷たかった。


 緋織は嵐華が小学生の頃に味わえなかった分まで、精一杯学生生活を楽しめるように支えたいと思っていた。


 そして、その邪魔をするものがあるなら自分が守る。


 12歳にして緋織はそう決めていた。


 そして、入学式当日——。


 玄関では嵐華と緋織が靴を履いて準備している中、神威かむい黒葉くろは愛里あいり瑞帆みずほは見送りをする。


「本当に初日から電車で良いのか?」


 神威が心配して嵐華達に声をかける。


 初めての通学……親として心配しないはずがなかった。


 だが嵐華は神威と黒葉をしっかり見て答える。


「うん……電車通学に慣れたいし……緋織もいるから」


 だが、嵐華の顔は不安の表情が強かった。


 強がっている……そう思っていた時、緋織が嵐華の手を握る。


「お父さん、お母さん、大丈夫です」

「私がいますから……絶対守ります」


 神威と黒葉は娘達がIRISに入ることを決めた時から護身術は教えている。


 だが、まだ12歳の女の子……本当は毎日でも送迎してあげたいと神威は思っていた。


 その気持ちを察していた黒葉は小声で神威の耳元で呟く。


「心配なのは分かりますが……信じてあげましょう♪」


 黒葉はそう言うと嵐華と緋織を抱きしめ、優しく微笑む。


「新しい学校生活……嵐華は初めてですね……しっかり楽しんでください♪」

「私と神威さんはあとで行きますので♪」


 嵐華も黒葉に抱きつき、少し気持ちが落ち着いたのか表情が柔らかくなった。


「うん♪行ってきます♪」


 神威と黒葉の後ろで見ていた愛里と瑞帆も声をかける。


「嵐華姉、緋織姉、いってらっしゃい♪」


「気をつけてくださいね……いってらっしゃい」


 元気よく送り出す愛里と心配が勝っている瑞帆。


 そして、黙って頷きながら見ている神威。


 嵐華と緋織は妹達と両親に笑顔で手を振りながら玄関を出る。


 家の正門を抜ける。


 嵐華にとって初めての通学。


 今から歩く歩道がすでにとてつもなく広く、長く見えた。


 何度か家族で買い物等は行ったが、それも近くを車で行った程度だった。


 歩き、電車に乗り、学校へ行き、初めて緋織以外の同い年の子達に直接出会う。


 世界が広い……雷という呪縛から解放され、自由に外を歩ける喜びと不安が押し寄せる。


「行きましょう、嵐華」


 緋織が嵐華の手を取り、歩き出す。


「うん」


 嵐華は初めての学校へ行く「第一歩」を踏み出した。


 ……


 駅のホームに到着し、嵐華と緋織は手を繋ぎ続けながら待っていた。


 電車へ乗り込み、角へ2人は移動する。


 嵐華は緊張していて気づいていなかったが、緋織は異変を感じ取っていた。


 ホームで待っている時も、電車に乗った後も……見られている。


(……多い)


 小学生時代……嵐華本人が知らぬ間に付けられたあだ名。


 「デジタルエンジェル」


 画面越しでも分かる優しい笑顔。


 透き通る声。


 そして、柔らかな雰囲気。


 人気があることは緋織も分かっていた……しかし、外へ出るとこんなに見られるものなのか?


 さらに緋織も感じていたこと……それは嵐華が能力を制御出来たことによる変化だった。


 能力を制御出来るようになり、常時張り詰めていた神経の緊張が薄れていた。


 それによって嵐華の「素」の部分がより全面に出るようになっていた。


 嵐華自身は緊張している……だが周囲の視線に全く気づいていない。


 黒葉に落ち着かせてもらったはずの気持ちは、どこかへ飛んでしまっていた。


 雷と一緒に警戒心も置いてきてしまっている……日常面での「無防備さ」として表面化していたのだった。


(緊張しているのに……視線には気づかないなんて……)


 緋織は内心、頭も抱えていた……私が守らなければ。


 そう思い、さりげなく嵐華の立ち位置を調整し、視線を遮るように半歩前へ出る。


「……ちゃんと通えるかな」


 視線ではなく、ただちゃんと通学出来るか心配しているだけ……緋織はため息を吐く。


(前途多難ですね……)


 通学初日からこれか……と思いつつも、緋織は気づいていなかった。


 嵐華の双子の妹。


 清楚で整った顔立ち。


 凛とした立ち姿。


 周囲は嵐華だけを見ているわけではなかった。


 双子……その存在そのものが周囲から異質な目で見られていた。


 それは畏怖ではなく、尊いという意味で……。


 ……


 「天使」と「盾」の少女達は見られながらも中学校の最寄り駅へ到着する。


 改札を抜け、駅から出ると学校はすぐ近くだった。


 生徒の数も増えていく。


 先輩と同級生……制服の状態でなんとなく分かる。


 だが、その全員に2人は見られていた。


(……見られすぎですね……私も?)


 自身が注目されていることに緋織は遅れながら気づく。


 周囲から囁き声が聞こえる。


「可愛い」


「双子?」


「モデルみたい」


 モデル……そう見られるのは仕方がない。


 嵐華と緋織は身長がかなり高かった。


 どちらも身長は160cm……同じ年齢の女子と比べるとかなりの高身長。


 さらに黒葉譲りの美貌。


 自然だった、そう思われるのは。


 2人は受付へ向かい、クラスを確認。


「あ……同じクラス♪」


(ふ〜……良かったです)


 嵐華と緋織はお互い安堵していた。


 だが、2人は知らない。


 これは神威、黒葉が学校へ掛け合っていたこと。


 嵐華が小学生時代6年間、常時リモートだったこともあり、緋織と同じクラスの方が打ち解けやすくなるだろうという配慮だった。


 教室へ入り、座席を確認する。


 苗字が「紫導」であることから前後の席で緋織が前、嵐華が後ろの席。


「助かりましたね……」


「緋織と一緒で良かった♪安心♪」


 だが安心していたのも束の間だった……。


 2人でホームルームが始まるまで席に座って待っているまでの時間……一気に周囲に人が集まってきた。


 質問攻めの時間。


「双子?」


「芸能活動してるの?」


「小学校どこ?」


 嵐華は緊張しながらも、初めての同い年の子と直接話す。


 全ての質問に丁寧に答えていた。


 少しずつ緊張がほぐれてきたのか段々と表情が柔らかくなっていく。


 その柔らかい物腰と、丁寧な受け答えでさらに印象が良い。


 緋織は緊張がほぐれ、楽しく会話をしている嵐華を見て嬉しく思いつつも、この状況に警戒していた。


(逆効果ですね……)


 緋織は自身にも話しかけられるが、しっかりと受け答えをしつつ、会話を切り分けながら話題を分散させ、嵐華を守る。


 そこへようやく担任教師が入室し、ようやく教室は静まった。


(ふぅ……)


 緋織は静かにため息を吐いていた。


 ……


 嵐華と緋織がホームルームを受けていた頃——。


 体育館——。


 別の騒ぎが起こっていた。


 神威と黒葉が到着し、保護者席で待機していた。


 周囲の保護者からざわめきが広がる。


「若くない?」


「兄姉?」


「え?保護者?」


 中学生の両親であれば、若くても30代前後だが……外見はどう見ても20代中盤。


 さらに圧倒的な美男美女。


 保護者達の目線からしても「異常」だった。


 気にならない方がおかしい。


 そんな雰囲気の中、入学式が始まる。


『新入生、入場』


 アナウンスが流れ、嵐華と緋織が体育館へ。


 神威、黒葉は2人の入学を祝福しつつも、嵐華がこうして「普通」に外へ出て、同い年の子達と一緒にいることに顔には出さないが、内心は泣きそうなぐらい嬉しかった。


 別の保護者達も嵐華と緋織を視界に入れると、思わず見入ってしまっていた。


 そして、入学式が終わり、再度ホームルームに入り、しばらくして解散。


 生徒達がそれぞれの保護者達のもとへ向かう中……嵐華と緋織は神威と黒葉の前へ。


 満面の笑みで神威達を見る嵐華。


 黒葉に頭を撫でられ恥ずかしがりながらも少し口元を緩める緋織。


 その光景に周囲の生徒、保護者達が再びざわめく。


「この親にしてこの子あり……」


「なんかドラマみたい……」


「顔面偏差値どうなってんの?」


 そんな中……。


「すみません。写真の撮影をお願いしても良いですか?」


 神威は近くにいた保護者に写真撮影を依頼する。


 4人で並び、カメラを向けられる。


 向けられた瞬間、周囲が静まる。


 カメラを持った保護者の手は震え、何度か撮り直しをする……。


 なんとか撮影が終了し、カメラを神威が受け取る。


 写真の写りを確認すると神威はわずかに微笑む。


 その表情に目撃した保護者……特に奥様方はダウン一歩手前。


 黒葉はそれを見て微笑みながらも内心は黒い炎が燃え上がっていた。


「……黒葉?」


「いいえ?何もありませんよ〜♪」


 ……なぜか寒気がした神威だった。


 帰ろうとした時、緋織が口を開いた。


「帰りは車でIRISアイリスに行きましょう」


 今日の朝に話していたのは嵐華と緋織は電車とタクシーで、神威と黒葉は車で小学校へ愛里と瑞帆を迎えに行った後、IRISへ合流する予定だった。


 神威と黒葉は理由を察したのか、無言で頷いた。


 嵐華だけは不思議そうだった。


「え?私と緋織は電車で行くんじゃ?」


「……その方が効率が良いので」


 緋織は言葉ではそう言うが、内心は違った。


(……あなたが原因です)


 こうして、嵐華と緋織の中学校生活の初日は周囲が騒がしかったが、何事もなく平和に過ごせたのだった。

次回、EP7〜IRIS〜

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