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EP4〜氷華、炬乃恵〜

挿絵(By みてみん)


 紫導家に嵐華(らんか)と緋織(ひおり)が生まれてから、1年ーー。


 葵家(あおいけ)、紅家(くれないけ)ではそれぞれ1人の女の子が生まれる。


 葵(あおい) 氷華(ひょうか)。


 葵家の長女として生まれ、裕福な家庭ではなかったが、静かだが幸せな毎日を過ごしていた。


 葵家の隣には正反対とも言える裕福な名家があった。


 それが紅家だった。


 紅(くれない) 炬乃恵(このえ)。


 紅家の長女として生まれ、7歳離れた兄と共に厳格な父親のもと、厳しい教育を受ける。


 思想に関しても全く異なっていた。


 葵家の家系は「能力否定論者」の思想を持っており、能力は呪い、悪魔の力と教え込まれる。


 能力者を「社会不安の種」とみなし、能力者になった時点で葵家から断絶される。


 葵家から能力者は数名いたが、全員が追い出され、その後の行方が分からなくなった者ばかりだった。


 紅家は能力は否定されない。


 だが、男が家を継ぎ、女は夫を支える。


 そんな古い価値観が強く残る家だった。


 氷華は幼いながらも思慮が深く、物静かながらも両親から深い愛情を注がれる。


 対照的に炬乃恵は真逆と言って良い性格だった。


 男勝り。負けず嫌い。天真爛漫。


 親から言われたことに素直に従う気はなかった。


 家では衝突が絶えない。


 兄を優遇する家庭。


 父とぶつかり、母と口論となり、それでも曲げない。


 兄は炬乃恵を気遣っていたが、それでも両親との仲が良くなることはなかった。


 そんな家庭も性格も違う2人。


 それでも家が隣だったことから、いつの間にか幼馴染となっていた。


「氷華!!帰り遊ぼうぜ!!」


「・・・良いですが・・・また運動ばかりは・・・」


 炬乃恵は元気よく氷華に話しかけ、戸惑いながらも氷華も答える。


 2人は小学生になってからは登下校は常に一緒。


 2人の通う学校は私立の進学校・・・氷華は奨学金で、炬乃恵は一般入学。


 氷華はクラスでも真面目で静かに過ごすことが多い。


 学力面で頭一つ抜けており、飛び級の話も出ているほどだった。


 炬乃恵はその明るい性格からムードメーカーとしてクラスの中心にいた。


 性格は全く違う・・・クラスメイトも不思議そうにしていたが、当の本人達はお互いに気が合っていた。


 炬乃恵は家で嫌なことがあれば氷華の家へ遊びに行ったり、氷華に宿題を見てもらったりしていた。


 氷華もクラスの男子にからかわれたりしていた時は炬乃恵が怒って助けてくれていた。


 家庭の境遇は違えど、氷華と炬乃恵は現状でも幸せを感じていた。


 しかし、あることがきっかけでその生活は一変することになる。


 ・・・


 氷華と炬乃恵が小学6年生・・・11歳になっていた頃ーー。


 小学校高学年から毎年実施される検査・・・「能力検査」。


 これは能力者として素養があるかどうかの確認を行うものだった。


 能力に関しては謎な部分も多く、能力者同士で必ず能力者が生まれるわけではない。


 無能力者同士でも能力者が生まれることもある。


 だからこそ、この検査はその人の人生においても重要なことだった。


 氷華と炬乃恵は5年生までは能力の素養は見られなかった。


 だが、今回は違っていた。


 検査をした医師が結果を伝えていく。


「紅さん、能力の素養ありですね」


「マジ!?やり〜!!」


 炬乃恵は腕を振り上げ、飛び上がって喜んでいた。


 喜んでいる姿を横で見ながら氷華は少し遠い目をしていた。


 氷華自身、能力者は悪とは思っていない。


 だが、自身の家でずっと能力は呪い、悪魔の力と言われて育ってきた。


 それで炬乃恵を嫌いになることはないが、少し戸惑っていた。


 そして、氷華の結果も伝えられる。


「葵さん、あなたも能力の素養ありですね」

「同じクラスから能力者の素養がある子が2人も出るのは珍しいですね」


 クラスメイト達は2人をヒーローのように見ていた。


「いや〜まいったね〜な〜氷華〜・・・氷華?」


 しかし、氷華はその言葉を聞き、瞳が揺れ、動揺を隠しきれなかった。


 冷や汗が止まらない。


 動悸が激しくなる。


 葵家で能力者になる・・・それは「追放」を意味する。


 ずっとそう教えられてきた・・・ショックで倒れてしまった。


「氷華!?」


 いち早く倒れた氷華に近づくが、医師に静止され、介抱される氷華を、見守ることしか出来なかった。


 しばらくした後、保健室で氷華は目覚める。


 氷華の視界には両親がいた。


「あ・・・お父・・・」


 氷華は言葉が出なくなった。


 昨日まで優しくいつも笑顔を絶やさなかった両親。


 だが、父は氷華を「化け物」を見るような恐怖の対象として見ていた・・・。


 母は泣いていた・・・だがそれは氷華を心配した涙ではなく、娘が”そうなってしまった”ことに対する恐怖だった。


 氷華は、たとえ自分に能力の素養があると分かっても、両親だけは変わらない。理解してくれる。そう信じていた。


 しかし、そんな考えは両親の顔を見て・・・ないのだとすぐに悟った。


 ・・・


 一方、炬乃恵はそのまま家へ帰宅。


 足早に父のもとへ向かい報告する。


「親父!!俺、能力の素養あるって!!」


 これで父も認めてくれる・・・そう思っていた。


 だが、返ってきた言葉で炬乃恵は現実を知る。


「・・・女が能力だ?おこがましい」

「女は男を支えていれば良い、能力は邪魔だ」


 炬乃恵はすぐに反発した。


「・・・なんでだよ・・・兄貴が能力に目覚めた時めちゃくちゃ喜んでたんだろ!?」


「それは”男”だからな」


「なんだよ・・・親父も”無能力者”のくせに」


 炬乃恵の発言に父が全力で炬乃恵の頬を引っ叩く。


「・・・っ」


「”女”が!!口答えするな!!」


 炬乃恵はそのまま無言で自分の部屋へ戻る。


 しばらくして炬乃恵の部屋をノックする人物がいた。


「炬乃恵?入るわよ?大丈夫なの?」


 母が入ってくる。


「・・・なんだよ・・・いつもみたいに親父のご機嫌取りしとけよ・・・」


「・・・なんでそんなこと言うの?」

「まぁいいわ・・・それより能力を今後使えるようになっても家では使わないように」


「・・・あんたみたいにか?」


 母は黙り込む。


 母は能力者だった。


 紅家へ嫁いだ際に父の能力者への葛藤を見て、自身で能力を使うことをしなくなった。


 今では能力の力もほとんどない状態へとなっていた。


 黙り込む母に炬乃恵はさらに言葉を続ける。


「・・・俺はあんたみたいには絶対ならない・・・絶対に」


 炬乃恵の反発する言葉に我慢の限界だった。


 咄嗟に呟いてしまう。


「・・・あなたなんか産まなければ良かった」


 その瞬間、母ははっとするがもう遅かった。


 炬乃恵は黙って家を出た。


 ・・・


 いつも氷華と放課後に遊んでいた公園。


 炬乃恵はベンチに座り、空を見上げ、ただただ夕日を眺めていた。


「・・・頑張っても認めてくれねぇんだな・・・」


 炬乃恵は小さく呟く。


 だがその声を聞いた人物がいた。


「私は炬乃恵を認めていますよ?友人として・・・いえ、幼馴染として」


 炬乃恵がびっくりして振り返ると、そこには氷華がいた。


「氷華!?なんで!?」


「あなたこそどうしたんですか?こんなところで」


 氷華は炬乃恵の言葉に返事をしながらも炬乃恵の横に座る。


 だが、氷華の表情は暗かった。


「・・・倒れたけど大丈夫だったか?」


 氷華は言葉にはしなかったが、ただ頷いた。


「なんかあったのか?」


 炬乃恵は恐る恐る話を聞く。


「・・・私がなんで倒れたか分かりますか?」


「いや・・・でも能力には関係あるのかとは思ってる」


 氷華はスカートの裾を握り、言葉を詰まらせながらも言葉にした。


「・・・私にも・・・能力の素養があると分かったからです」

「私の家では・・・能力は呪い、悪魔の力と教え込まれてきました・・・」


 炬乃恵は氷華の言葉を黙って聞いていた。


「私は能力者が悪い人とは思っていません」

「でも・・・私の家ではそうはいかないんです・・・」

「炬乃恵が能力者になっても友人なのは変わりません」

「でも私は・・・あの家を出ていくことになるでしょう・・・近いうちに」


 氷華は能力に目覚めた葵家の人間がどうなったのか、両親から何度も聞かされていた。


 もう両親と同じ道を歩めない・・・それが氷華にとって・・・まだ11歳の少女には辛い現実だった。


 涙は流さない。だが、心は傷ついていた。


 炬乃恵は氷華の話を聞き、自身のことも話す。


「・・・俺も親に認められなくてさ・・・さっき親父に殴られたよ・・・女が口答えすんなってさ」

「母さんにも産まなきゃ良かったって言われたんだぜ?笑えるだろ?」


 そう言いながらも炬乃恵の目から涙が流れていた。


「・・・なんで・・・こんな上手いこといかないんだろうな・・・」


「・・・お互いにですね・・・」


 夕日の影に溶けてしまいそうなほど心に深い傷を負った2人・・・。


 それでもお互いに手を握り、どんな時でも支え合おうと誓った。

次回、EP5〜世界が雷を知った日〜

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