EP3〜雷が目覚めた日〜
この日、紫導 嵐華の生き方が決まった。
そして同時に……紫導家の生き方もまた、大きく変わることになった。
紫導家リビング——。
冬の寒さが残る昼下がり。
紫導家のリビングには、今日も穏やかな温もりが満ちていた。
愛する娘達が生まれ、IRISにも復帰し、任務に集中しつつも家族としての日常を過ごせるようになった神威と黒葉。
嵐華と緋織は6歳、愛里と瑞帆は4歳になっていた。
今日は神威も黒葉もIRISは非番の日だった。
リビングでは娘達4人が思い思いに遊んでおり、その様子を見守りながら、2人は昼食の支度をしていた。
「……幸せです」
唐突に黒葉が呟き、神威は動かしていた包丁を止める。
「どうしたんだ?急に」
黒葉は娘達を見ながら答える。
「……家族に愛されなかった私にとって……神威さんと結ばれて……」
「たくさんの子がいて……毎日が幸せで仕方ありません」
神威は黒葉を後ろから抱きしめる。
「……まだまだこれからだ……もっと幸せになろう」
「はい……」
抱きしめられた腕に手を添え、黒葉は目を瞑り微笑む。
「よし、もう料理はあと少しで出来るから黒葉はテーブルの準備をしてくれ」
「はい♪」
黒葉はキッチンから離れ、テーブルに食器を並べる。
神威はその姿を見て微笑みつつも料理を再開する。
だが……その幸せの時間が突如崩れる。
黒葉が皿を並べていると、嵐華がゆっくりと黒葉の元へ近づいてくる。
黒葉はすぐに気づき、しゃがんで優しく声をかける。
「ん?どうしたんですか?嵐華♪」
嵐華は胸元を押さえながら答える。
「……ビリビリする」
「ビリビリ?」
黒葉が首を傾げた……その瞬間だった。
嵐華の体から青白い光がふわりと漏れ始める。
「!?」
黒葉は反射的に嵐華を抱きしめた。
「大きく深呼吸して……神威さん!!」
神威はその呼び声に反応し、手を止めて駆け寄る。
「どうした?くろ……これは……」
神威は嵐華の状態を見て表情が一気に強張る。
「まさか……”発現”したのか?」
黒葉は嵐華を抱きしめたまま、小さく震える声で答える。
「恐らく……ただ、早すぎます……」
能力の発現は基本的に12歳以降が多い。
早い子でも10歳前後。
だが嵐華はまだ6歳だった……。
さらに神威は嵐華から漏れる青白い光を見て嫌な予感がしていた。
「この反応は……まさか……」
「……”雷”です」
黒葉の目から涙が流れ、嵐華を抱きしめる腕の力がさらに強くなる。
嵐華から漏れる微量な雷に黒葉は軽度だが感電していた。
だが、そんなことよりも嵐華が心配だった。
嵐華は苦しそうに身をよじった。
「お母さん……苦しい……泣かないで……う……うわーん!!」
嵐華は自分が黒葉を泣かせてしまったのだと思っていた。
6歳にして嵐華は自分よりも周囲を気にする子だった。
その泣き声につられるように愛里と瑞帆も泣き出してしまう。
緋織は姉として、2人を落ち着かせようと必死だった。
神威はすぐに救急へ連絡する。
……
消防通信司令室——。
日夜、火災や能力を含む救急の指令を迅速に対応していた。
この日も連絡が入り、オペレーターが対応する。
「はい、火事ですか?救急ですか?」
『救急です……娘が能力を発現しまして、危険な状態なので救急車をお願いします』
連絡をしたのは神威。
オペレーターは状況を確認する。
「では貴方のお名前と娘さんの名前を教えてください」
「あと能力は何か分かりますか?」
『紫導神威です』
『娘の名前は嵐華です』
『能力は……』
通話先からの神威の言葉が一瞬詰まる。
『……雷です』
「……分かりました、特殊車両で向かいます」
「娘さんのご年齢は?」
『……6歳です』
段々と神威は言葉が出しにくくなる。
自分の娘が前例のない状況になり、冷静さを保つのに必死だった。
通信司令室内でも年齢を聞き、驚愕していた。
「……そんな……すぐに向かわせますので、少々お待ちください!!」
『……はい……よろしくお願いします』
通話が終了し、オペレーターが迅速に対応する。
「雷能力者用の特殊車両を至急向かわせてください!!」
「まだ6歳の女の子です!!細心の注意で対応をお願いします!!」
指令を受けた救急隊員達は準備を整え、紫導家へと向かう。
……
紫導家リビング——。
救急との通話を終えると、神威は緋織達のところへ。
緋織、愛里、瑞帆に無理をしながらも笑顔で声をかける。
「……今からお出かけだ……準備をしようか……」
愛里と瑞帆はすでに泣き止んでおり、“おでかけ”という言葉だけにはしゃいでいた。
「おでかけ♪おでかけ♪」
「……おでかけ♪……おでかけ♪」
愛里と瑞帆ははしゃいでいる中、緋織は違った。
幼いながらも、何かただ事ではないことが起きていることを察していた。
緋織は神威の服の裾をそっと引く。
「……お姉ちゃん……どこか悪いの……?」
逆の手はスカートを握り、泣くのを必死に堪えていた。
神威はその場でしゃがみ、緋織を抱きしめる。
「大丈夫……嵐華は大丈夫だ……」
だが、神威の手は震えていた。
その震えに気づいた緋織も、ついに泣き出してしまう。
……
やがて、救急の特殊車両が紫導家へ到着した。
正門では黒葉が嵐華を抱き抱えて待っていた。
救急隊員が状況確認に入る。
「娘さんの状態は?」
黒葉は冷静に答える。
「今のところは少し電気を帯びているだけのようです……」
「ではこちらのベッドに」
この特殊車両は”雷能力者の医療車両”。
ベッドには放電機能が備わっており、纏った雷を吸収し、内部での雷の循環を抑える仕組みになっている。
「少し窮屈するかもしれないけど、我慢してね?」
「……うん」
嵐華は不安な表情をしつつも、小さく頷いた。
隊員達は嵐華に出来る限り優しく接しながら、専用のプロテクターを取り付けていく。
隊員の1人が黒葉へ確認する。
「お母さんが一緒に乗られますか?」
「はい」
黒葉が返事をすると、隊員は特殊ローブを渡す。
「こちらは雷の感電防止用のローブです」
「一緒に乗られる際に服の上から着てください」
「はい……ありがとうございます」
特殊なローブを受け取り、嵐華が通常の状態ではないことがさらに現実味を増していた。
その後ろから神威が正門から出てくる。
「俺は緋織達を乗せて車で行く」
「はい、お願いします」
そうして、黒葉は嵐華と共に特殊車両へ乗り込んだ。
車両が動き出し、嵐華は小さな声で黒葉に呟いた。
「……こわい……」
黒葉は隊員から渡された特殊ローブを身に纏い、嵐華の手を強く握る。
「私がいますから……大丈夫です」
病院へ向かう中、黒葉の不安はどんどん強くなっていた。
神威との間に初めて授かった双子の娘。
人生をかけて守り抜くと決めた子。
それなのに……よりにもよって発現した能力は”雷”だった。
能力の中でも「通常種」と呼ばれる種類に分類されており、世界でも発現率が高い。
しかし、雷だけは別格だった。
発現率は高い……だが、雷能力者は短命。
その雷の出力に肉体が耐えきれない。
今まで確認されている雷能力者の最大寿命は……14歳。
雷の発現は余命宣告されたようなものだった。
自分の娘も同じ運命を辿ってしまうのか……。
そんな不安が頭の中をぐるぐると巡る中、
黒葉は嵐華の様子が急変していることに気づく。
「……う……ぁ……」
「嵐華?……嵐華!!」
次の瞬間、嵐華の体が跳ね上がる。
「あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”!!!!!!!!!」
嵐華の体から強烈な光が迸る。
その光は青白い色から紫色へ変わっていく。
「あ”あ”!!!い”た”い”!!!い”やぁぁぁぁぁ!!!」
幼い子供の絶叫。
あまりにも痛々しいその声に、黒葉はどうすることも出来なかった。
「お母さん!!離れて!!」
隊員が必死に処置に入る。
「放電容量!!上げて!!」
もう1人の隊員が計器の情報を確認しながら対応する。
「ほぼ最大です!!今までの雷の比じゃない!!」
雷能力者への対応手順は間違っていない。
だが、嵐華の出力はその想定を大きく超えてしまっていた。
嵐華の叫びが車内に響く。
そして……。
ピ——————。
「!?心停止!!」
すぐに心肺蘇生に入る。
「心臓マッサージ!!」
「嵐華ちゃん!!がんばって!!」
黒葉は泣き崩れて祈るしか出来なかった。
隊員の声がどんどん遠くなっていく。
目の前にいるはずの嵐華が、どこかへ連れて行かれるような……そのような感覚だけがあった。
必死に蘇生が続けられる中……やがて、心電図に小さな反応が戻る。
「心拍再開!!」
「……嵐華ちゃん!!がんばったね!!もうすぐ病院だからね!!」
「病院での放電装置をさらに2セット準備してもらいます!!」
「はい!!お願いします!!」
黒葉は現実に帰ってくる。
嵐華が戻ってきてくれたことに力が抜けていた。
「……嵐華?……ああ……嵐華!!」
隊員が黒葉へ静かに声をかける。
「お母さん、嵐華ちゃんは頑張っています」
「一旦落ち着きましたので、手を握ってあげてください」
「はい……嵐華……」
黒葉は涙を流しながら、再び嵐華の手を握った。
……
車両が病院へ到着し、嵐華はそのまま処置室へ運ばれていく。
嵐華は自身の雷のダメージで、全身に裂傷を負っていた。
黒葉は処置室の前のベンチで、ただ祈るように待つ。
しばらくして、神威達も病院へ到着する。
緋織、愛里、瑞帆を連れ、受付を済ませた後、処置室の前へ案内された。
そして、ベンチに座っている黒葉と合流する。
「黒葉……嵐華は……?」
神威の問いに黒葉はそのまま神威に抱きつく。
「車の中で……心臓が止まって……一命は取り留めましたが……傷だらけで……」
言葉にする度、言葉が詰まっていき、神威の胸で号泣する。
神威は強く黒葉を抱きしめ、緋織達も黒葉へ抱きつき、家族全員で嵐華の処置が終わるのを待った。
やがて、処置室のランプが消える。
担当医が中から出てきた。
「嵐華ちゃんのご両親ですね?」
神威が不安な表情になりつつも答える。
「はい……あの……嵐華は……」
「処置は完了しました」
「命に別状はありません……しかし、危険な状態に変わりはありません」
黒葉はその言葉に震える声で尋ねる。
まだ黒葉の目元は赤い。
「……雷だから……ですか?」
担当医は言いにくそうにするも、誠実に答える。
「はい……まず、6歳で能力が発現するなんて……前例がありません」
「さらに雷の出力に関してですが……計測史上……過去最高値を出しました」
神威と黒葉の表情から血の気が引いていく。
担当医は言葉を続ける。
「……これからの生活方針やケアの方法を一緒に考えていきましょう」
担当医が神威と黒葉へ説明を続ける中、嵐華は処置室から集中治療室へ運ばれていく。
体中に包帯が巻かれており、裂傷がどれだけ広範囲のものだったか分かる。
「今は雷は落ち着いています」
看護師が神威、黒葉に伝える。
2人はそれだけでも今は安心出来た。
黒葉は緋織に声をかける。
「緋織……愛里と瑞帆を連れて、嵐華と一緒にいてあげてください」
「私とお父さんはお医者さんとお話がありますので……お願いしますね」
緋織は嵐華の顔を見ながら頷く。
「はい」
黒葉は看護師に一礼をする。
「すみませんが……娘達をお願いします」
看護師は微笑み、緋織達を見て声をかける。
「はい、分かりました」
「じゃあ、行きましょう、緋織ちゃん、愛里ちゃん、瑞帆ちゃん♪」
「……はい」
「「うん!!」」
緋織は嵐華を心配し、反応が遅れた返事をするが、愛里と瑞帆は元気に答えた。
3人が嵐華と一緒に移動した後、
神威と黒葉は担当医から、今後の生活について説明を受ける。
どちらかが基本付きっきりでそばにいること。
専用の放電装置を常時取り付けること。
基本的に外出は禁止であること。
そして……雷の暴走……「暴発」の度に覚悟をしておくこと。
担当医は現実の話を神威と黒葉に告げた。
「……雷の能力は、能力者が生まれた頃から確認されている能力です……ですが、まだ制御出来た人間が1人もいないのが現状です」
神威はその言葉を聞き、言葉に詰まりながらも答える。
「……はい、知っています……私達はIRISですから……」
担当医はIRISという言葉を聞き、少し驚く。
「!?……そうですか……これから嵐華ちゃんが精一杯生きていけるように……我々もサポートします」
黒葉は深くお辞儀をする。
「……はい……よろしくお願いします……」
話を終えた神威と黒葉は集中治療室へ向かう。
足取りは重い。
なぜ……自分達の娘が……やっと授かった天使。
嵐華の代わりなど、どこにもいない。
だが、担当医の言葉の端々から伝わってくる……長く生きられないと……。
黒葉は震える声で呟く。
「嵐華……私は……」
神威は黒葉を抱き寄せながら、静かに言い切った。
「……俺達で嵐華を守るぞ」
集中治療室に入ると、緋織、愛里、瑞帆は嵐華が寝ているベッドの横のソファーで眠っていた。
泣いてしまったのか、目の周りがほんのり赤くなっている。
嵐華は安らかな寝顔で眠っていた。
傷だらけなのは変わらない……嵐華が落ち着いている……今はこの時間を大切にしたかった。
だが、その先には過酷な生活が待っていた。
……
退院後、神威と黒葉は交代で娘達の世話とIRIS任務をこなしていくことになる。
そして神威は、もう一つの戦いを始めていた。
雷能力そのものの研究だった。
雷を抑えるにはどうすればいいのか。
世界中から集めた過去の論文、現役能力者達の制御訓練方法……。
その全てから、何か手掛かりを探していた。
そして、神威はある論文に辿り着く。
そこに書かれていた言葉は……"スイッチ"だった。
論文「無能力者と能力者の境界線〜スイッチ切替理論〜」
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無能力者と判定された者にも、少なからず能力の力の通り道"回路"が存在する。
だが、なぜ能力が発現しないのか。それは回路に"スイッチ"が存在し、
能力者はこのスイッチがONになることで発現するからだ。
そして、そのスイッチがOFFのまま入らない。これが無能力者と能力者の境界線である。
これが手動で操作出来れば、能力者も無能力者と同様の生活が送れるようになるだろう。
だが、このスイッチを動かせた事例は存在しない。
スイッチの存在の証明は出来たが、肝心の制御方法は、さらなる研究が必要である。
———————————————————————————————————————
神威はその論文を握りしめながら呟く。
「……スイッチ」
著者はすでに亡くなっていた。
これ以上、本人へ聞くことも出来ない。
さらにそれ以外の解決策が全く見当たらなかった。
だからこそ神威は決めた。
「なら……俺がOFFしてみるしかないな」
成功する保証はない。
だが、愛する娘の為にやるしかなかった。
神威は自分自身の生活の中にも、能力OFFの訓練を取り入れていく。
そして、嵐華の能力発現から1年後——。
神威は自分の中で、ついに明確な感覚を掴む。
「……これがOFFか……」
単純に能力を抑えるわけではなかった。
完全に……何も感じない。
「……これなら……」
神威は拳を握りしめる。
さらに嬉しい誤算もあった。
この1年の間、嵐華は何度か暴発を起こしていた。
だが、その度に分かったのは、嵐華の異常な耐久力と回復力だった。
裂傷を負っても、常人の倍以上の速度で治癒していく。
黒葉のように一瞬で再生するわけではない。
しかし、それでも嵐華は"特別"だった。
……
神威がそのスイッチの感覚を完全に掴んでいた頃、嵐華は小学校のリモート授業を受けていた。
リモート授業がまだ普及していない時期だったが、紫導家がある校区内では先行で提供されていた。
外出は出来ない。
専用の放電装置が必要で、私服は着られても自由は少ない。
それでも、画面越しに同年代の子と話せることは、嵐華にとって何よりも大切なことだった。
授業が終わり、緋織も画面越しに「また家で」と伝えて、通信を切る。
休憩している嵐華の部屋へ、神威が入ってきた。
「授業は終わったか?」
嵐華は元気よく答えた。
「うん♪何か用事?」
神威は意を決したように嵐華へ口を開く。
「ああ……おまえにこれから教えたいことがある」
「……教えたいこと?」
神威はスイッチについて説明した。
「……雷の出力そのものを細かく制御するのは難しいだろう。」
「だが……スイッチで切れば……。」
嵐華の目がぱぁっと大きくなる。
「……雷が出ない?」
「ああ……やるか?」
嵐華は迷わなかった。
「やる」
この日から、神威と嵐華のスイッチ訓練が始まった。
最初は前途多難だった。
全くスイッチを動かせず、逆に出力を上げてしまったり、暴発頻度が一時的に増えたりもした。
黒葉がやめさせようとしたこともある。
だが、嵐華は首を横に振った。
「みんなとおでかけしたい」
「……お母さん達にちゃんと触れたい……」
黒葉は嵐華の言葉を聞き、その想いを理解する。
「……分かりました、でも無理はダメですよ?」
「うん♪」
嵐華はまた家族と触れ合う為、スイッチ訓練を続けた。
……
それから5年——。
その間に緋織、愛里、瑞帆も能力を発現していた。
緋織はシールド、愛里は重力、瑞帆はダイヤモンド。
全員が制御難易度の高い「超常種」という種類に分類される希少な存在だった。
嵐華のようにすぐに命に直結する能力ではなかったことで、神威と黒葉は安心していたが、悩みの種が増える日々でもあった。
それでも、嵐華の訓練は続いた。
この時、嵐華は11歳。
嵐華は自室で専用装置を付け、目を閉じて集中していた。
カチッ。
カチッ。
頭の中にある見えない何かをON、OFFと切り替える感覚。
ONにすると一気に50%から100%まで雷の出力が跳ね上がる。
OFFにすると……完全に0%になる。
嵐華はスイッチの制御をものにしていた。
装置を外し、リビングへ下りる。
そこには嵐華以外の家族が全員ソファーに座っていた。
神威が嵐華を視界に入れる。
「今日はどうだ?」
嵐華は淡々と答えていた。
「うん、やっぱりONにすると一気に開いちゃうみたい」
「でも、OFFは問題ないかな」
黒葉は安堵し、優しく微笑んだ。
「……それは良かったです♪」
すると緋織が、すぐに嵐華の手を握る。
「……出てませんね、雷」
緋織は嵐華がOFF出来た時は必ず手を握るようになっていた。
この数年、まともに触れ合えなかった寂しさが、妹として積み重なっていたからだった。
愛里と瑞帆もすぐに嵐華へ抱きつく。
「……苦しいよ〜」
そう言いながらも、嵐華の顔は満面の笑みだった。
姉妹との触れ合い。
当たり前なのに、ずっと出来なかったこと。
そして……。
「嵐華♪」
黒葉が両腕を広げる。
「うん♪お母さん♪」
嵐華はそのまま黒葉へ抱きついた。
家族と触れ合える。
誰も傷付けない。
嵐華の雷は、残酷な運命と思われていた。
だが紫導家……神威と黒葉は諦めなかった。
向き合い、支え合い、絆で繋ぎ止めた。
こうして、最悪の未来だけは回避されたのだった。
次回、EP4〜氷華、炬乃恵〜




