EP2〜娘〜
能力者と呼ばれる者達が存在する世界。
世界は能力者を中心に世界、国家のパワーバランスが保たれている。
暴走能力者の抑止の為、日本で組織された日本国防軍直轄組織「IRIS」。
日夜発生する暴走能力者を抑止する為に活動している。
その中で一際活躍するIRIS所属の一家がいた。その名は「紫導家」。
これは「紫導家」にとっての日常を描く物語。
Pixivで投稿しているものの再編集版。
神威と黒葉が結婚し、1年が経った。
2人はSランク能力者として、IRIS、ひいては日本を代表するトップクラスの能力者として活躍していた。
だが、彼らの異常性は、限られた者達の間でさらに明確なものとなる。
国際能力者連盟が定める能力者ランクは一般の能力者には公開されない。
この情報はIRISのような国家機関や軍等、一部組織にのみ公開されていた。
ランクによる”差別”を防ぐ為に決められたことだった。
その限られた枠・・・精鋭達のみが知ることが出来るランク。
そして、神威と黒葉が評価されたSランクは「世界100傑」とも呼ばれ、
純粋な戦闘能力だけでなく、能力研究への貢献度、国際的影響力、任務実績などを総合的に評価した上で選出される。
神威と黒葉はその中でも戦闘能力、能力の希少性でSランクと評価されていたが・・・。
能力者ランクは毎年更新される。
だが、その年にIRIS上層部へ届いた通達は、驚くべきものだった。
IRIS幹部会議室ーー。
神威と黒葉は任務を終え、IRISに帰投後、幹部から呼び出しを受ける。
神威、黒葉は不思議そうにしながらも会議室へ向かっていた。
「何かあったのか?もうSランク継続の通達は受けたが・・・?」
「ええ。特に任務も問題ありませんでしたし・・・」
2人が疑問を口にしつつも会議室前へ到着し、扉をノックする。
「飛鳥中尉、紫導中尉、入ります」
「入れ」
幹部の返事を受け、2人は入室する。
入室すると、幹部全員が集まっており、大型モニターには国際能力者連盟の上層部の姿があった。
モニター越しに連盟の上層部が口を開く。
「やぁ、呼び出してすまないね、飛鳥神威さん、紫導黒葉さん」
神威と黒葉は背筋を正し、敬礼をすると神威は疑問を問う。
「本日はなぜ私達を?昨年はSランク継続の時は特に何もなかったかと思うのですが?」
IRISの幹部が続いて口を開き、疑問に答えた。
「それはな・・・君達が”昇格”することになったからだ」
「昇格・・・ですか?」
黒葉がその言葉に対し、咄嗟に聞き返してしまう。
「あぁ・・・まず君達の能力に”固有名”が付くことになった」
そう言うと幹部がモニターを操作し、固有名が表示される。
神威の能力「硬質化」は「絶対防御」。
黒葉の能力「黒炎、不死」は「黒不死鳥」。
能力に固有名が付く・・・それは能力者として唯一無二と認められた名誉だった。
だが、神威と黒葉自身はあまり特別とは感じていなかった。
その反応に少し幹部は戸惑いつつも、話を続ける。
「・・・えぇ、さらに2人は能力者として最上級の”SSランク”への昇格になる」
「SSランク・・・」
神威がこのランクについて実感を持てない状態でいると連盟の上層部が口を開く。
「このSSランクは完全秘匿扱いになる」
「公開情報としては君達はSランクのままだ」
「そして・・・SSランクは君達を含め、5人しかいない」
「おめでとう、君達は世界の特異点となった」
「これからも能力者社会の為、尽力してほしい」
連盟の上層部はIRISの幹部へ一瞥する。
「では、この後の話はお願いするよ」
「はい、承知いたしました、お疲れ様でした」
そして、モニターが閉じ、連盟との連絡が切れる。
その後、IRISの幹部は頭を抱え、表情が暗くなる。
「・・・まさかお前達がSSランクまで上がってしまうのは予想外だった・・・」
その一言で神威と黒葉は察した。
「・・・何か弊害が?」
「一体どのような?」
2人が質問すると、幹部は連盟が定めたSSランクの運用ルールを話す。
SSランク能力者は基本Sランク任務級・・・つまり、災害レベルの時にしか出動出来ないこと。
さらに出動するには連盟上層部の90%以上の承認が必要であること。
その話を聞き、2人はすぐに意味を理解する。
「これは・・・俺達を出動させる気がない?」
「はぁ・・・そういうことだ」
「だが、今のIRISにはSランク以上はお前達だけでエース級・・・つまりAランクの能力者は少ない」
「一旦お前達をSランクで通常通りに運用出来るように打診した」
「で・・・一定人数のAランク能力者が増員するまでは通常運用は可能になった」
黒葉は微笑みながら答える。
「そういうことでしたら問題ありません」
黒葉がそう言うと神威も頷く。
「それではまた明日から任務に励みます」
「本日はこれで失礼してもよろしいでしょうか?」
幹部も頷き、退出を許可した。
神威と黒葉が会議室から退室すると幹部達が会話を始める。
「はぁ・・・また使える駒に制限がかかる」
「私達の代で対応不能な事案など起きては困る・・・使える戦力は使えるうちに使うべきだ」
「Aランク能力者なんてすぐに育つものじゃないだろ・・・年間でどれだけ殉職してると思う?」
「IRISの隊員数は減少傾向だ・・・なんとかしないといけない」
「なら、今のうちはあの2人に動いてもらうしかない。SSランクが通常運用できる猶予期間など、本来あり得ないのだからな」
下卑た言葉、笑い声が会議室に響き渡る。
IRISの幹部達は自己保身の考えであり、能力者を駒としか見ていなかった。
そのことは神威も黒葉も感じ取っていた。
だが、今はこのIRISで戦うしかない。
必ず変えてみせる・・・まだ20歳の2人は未来へ向いていた。
しかし、2人にとって一番の問題は、ランクやIRISのことではなかった。
・・・
それからの2人は任務、任務、任務と休息が許されなかった。
「国家の抑止力」として扱われ、前線任務と管理業務の板挟み状態が続いていた。
そして、夫婦としての問題が2人を苦しめた。
ある日、神威はいつも通りに任務を終え、休養日で休んでいた黒葉の待つ自宅に帰る。
黒葉が夕食の準備をしてリビングで待っていたが、表情は暗かった。
神威と目が合うと、顔を伏せながら口を開く。
「・・・今回もダメでした」
神威はすぐに黒葉を抱きしめる。
夫婦の問題、それは・・・子供が出来ないことだった。
病院でも検査を受けていた。
神威は問題ない・・・あるのは黒葉の方だった。
妊娠出来ないわけではない。
だが、黒葉の能力である「再生」の力が強すぎるのが原因だった。
黒葉の身体は、妊娠による変化すら異常として判断し、元の状態へ戻そうとしてしまう。
黒葉は自分を責める。
「私の力のせいで・・・神威さんの未来を奪ってしまっていると思うと辛いです・・・」
神威は黒葉を責めなかった。
「黒葉がいる」
「子供が無理だったとしても・・・その時はそれ以上の未来は俺には必要ないさ」
神威は優しくも強く黒葉を抱きしめ、夫婦の絆は深まり続ける。
それでも・・・黒葉は夜が深くなるほど、1人で泣いていた。
神威の前では笑顔で・・・この感情は見せないように人気のない静かな廊下や庭で・・・。
そんな状況が続き、神威と黒葉が共に23歳になっていた頃ーー。
長期任務が完了し、ほんのわずかな平穏な日々が訪れた時だった。
神威と黒葉が2人で食事の準備をしている際、黒葉の体調が急変する。
「・・・うっ・・・」
黒葉はトイレへ駆け込む。
「・・・まさか・・・」
神威と黒葉はすぐに病院へと向かう。
「黒葉さん、おめでとうございます」
「よく頑張りましたね・・・妊娠しています」
黒葉は涙を流す。
「ですが、まだ気を抜けないですからね、頑張っていきましょう」
「・・・はい・・・よろしくお願いします」
検査の結果、更に2人が驚く・・・双子だった。
喜びつつも、妊娠したらしたで恐怖があった。
無事に産まれるのか?
自分達は親になって良いのか?
そのような気持ちがありつつも、出産当日を迎えた・・・。
・・・
2004年10月1日ーー。
「・・・ぅ・・・く!!!」
「頑張れ!!黒葉!!」
緊張に満ちた分娩室で黒葉は必死に耐える中、
神威はどんな任務でも崩すことがなかった冷静さを失っていた。
黒葉の手を必死に神威は両手で握る。
2人がそれぞれ必死になる中・・・産声が2つ重なる。
小さな双子の女の子。
小さな手、弱々しい呼吸・・・それは2人が命を懸けて守り続けてきた「世界」よりも重い存在だった。
「元気な双子の女の子ですよ♪もう名前は決まってたりしますか?」
看護師が神威と黒葉に尋ねる。
2人は微笑みながら頷く。
「はい・・・”嵐華”と・・・”緋織”です」
神威は小さな娘達の手に触れ、悟る。
ーーこの子達の為なら・・・世界を敵に回しても良いーーと。
黒葉は涙を流しながら微笑み、苦悩の日々があったからこそ、この命が奇跡であると理解していた。
嵐華と緋織が生まれたその日から、神威と黒葉は「親」としての人生が始まった。
新生児の双子は想像以上に弱々しく、任務でいくつもの命を救ってきた神威でさえ、
その小さな体を抱き上げる手は震えていた。
日本最強の能力者である神威も我が子の前ではただの親だった。
黒葉は出産後は自身の能力もあり、すぐに肉体は回復し、神威と共に育児に専念する。
だが、夜泣き、同時に泣く時もあれば、片方をあやせば、もう片方が泣いてしまうことも。
愛する娘を愛でつつも、初めての育児に2人は疲弊していた。
睡眠時間は細かく刻まれることとなり、
黒葉は長期の育児休暇を取得し、IRISでの任務から一時的に離れることになった。
育児は黒葉がメインで対応となり、さらに疲弊。
一方、神威はIRISの任務へ復帰し、任務をこなしながら、合間は育児に協力する。
任務をこなしながらの育児・・・境界が曖昧になっていく感覚があった。
任務完了後、少しふらついている様子だった神威を同期の隊員達は心配する。
「大丈夫か?神威・・・黒葉も大変なんだろう?ベビーシッターとかお願いした方が良いんじゃ・・・」
だが、神威の気持ちは変わらなかった。
「・・・いや、大丈夫だ・・・2人で育てたいんだ・・・娘達を」
外部に助けを求めることはしなかった。
誰かに任せることが怖かった。
心は繋がっていなかった家族だったが、
全てを失った2人だからこそ、娘達のそばにいたかった。
名家の紫導家、飛鳥家の末裔でも、SSランク能力者でもない。
「普通の両親」として、自分達で向き合おうと決めていた。
2人が必死に育児をこなす中、嵐華と緋織にも変化があった。
嵐華はよく泣き、感情表現が激しい。
緋織は嵐華につられて泣くこともあるが、基本は静かにじっと神威と黒葉の顔を見ている。
2人の違いに神威、黒葉は何度も微笑み、幸せを感じていた。
そして、嵐華と緋織が生まれ、2年の年月が経っていたーー。
黒葉の体に再び変化があった。
育児に余裕ができ、久々の夫婦の時間が生まれた時期。
病院で診断を受け、その結果に神威と黒葉は言葉を失う。
妊娠・・・それもまた双子だった。
喜びは確かにある・・・が、別の不安があった。
嵐華、緋織を守りながら、この子達も守れるのか?
自宅へ帰った後、黒葉は不安を口にし、神威は即答はしなかった。
だが、黒葉を抱き寄せていた。
その夜、神威は並んで寝ている嵐華と緋織を見つめながら呟く。
「この家に生まれてくる命は・・・全て俺が守る」
神威の側にいた黒葉はその言葉に何も言わず、ただ神威の手を強く握った。
・・・
2006年10月1日ーー。
黒葉が新たなる命を出産する日・・・それは嵐華、緋織が生まれた日と全く同じだった。
運命を感じつつも無事に双子を出産。
新たな娘・・・”愛里”、”瑞帆”と名付け、紫導家の子供は4人となった。
その後の紫導家は常に賑やかだった。
泣き声、笑い声、走り回る足音・・・それは全て神威、黒葉が求めていた「家族」という「日常」そのものだった。
しかし、そんな幸せを感じていた黒葉の体に異変が生じていた。
再生能力の影響が大きくなり、肉体は常に「初期状態」に戻ってしまう。
傷も残らない。
もう妊娠ですら、「修復対象」と扱い始めていた。
黒葉は自覚する・・・もう子供は望めない・・・と。
しかし、黒葉はこれを諦めではなく、現実を受け入れ、娘達を絶対守るという決意を更に確固たるものにしていた。
また、別の変化も感じていた・・・。
(・・・歳を取っていない?)
黒葉は自分の容姿が愛里と瑞帆が生まれてから変わっていないことに気づく。
単純にそう見えるだけかと思っていたが、能力の感覚からそうではないと感じ取っていた。
黒葉は神威に相談するが、神威も不思議な現象が起きていた。
「俺も体が少し若返った気がする」
黒葉も神威も現在27歳となっていたが、感覚的には25歳ほどの外見まで若返っていると感じていた。
黒葉の能力?
神威の能力にも再生能力が?
2人で考えていると神威はその若返るタイミングがある行為の時の翌日であると気づく。
「俺と黒葉が一緒に寝た時・・・か?」
それは夫婦の営みだった。
その行為によって、黒葉の能力が神威へ一時的に干渉し、神威の若返りにも起因しているのだろうと結論付けた。
その事実を知ってから、2人は互いの時間を繋ぎ止めるように、夫婦として寄り添い続けた。
黒葉は神威に一度だけ確認していた。
「神威さん・・・無理をしなくても・・・」
だが、神威は即答する。
「俺は黒葉と同じ時間を生きる、それだけだ」
これは義務でも使命でもなく、選択だった。
神威は黒葉と違い、若返る能力はない。
だが、黒葉と共にいる限り、同じ時間を歩める。
神威にとって、最重要なことだった。
神威と黒葉は能力者として人の枠から外れた存在になろうとしていることを自覚しつつも、それでも、親であることは変わらない。
そう思いながら2人は4人の娘達を見つめるのだった。
「・・・俺達より歳を取った娘達に会うことになるかもしれないな」
黒葉は神威に抱きつく。
「それでも私達の可愛い娘ですから・・・2人で見守っていきましょう♪」
「ああ・・・。」
2人の運命は4人の娘と時間軸が異なる人生になるかもしれない。
それでも、親としてずっと娘達を守り続けると誓う。
次回、EP3〜雷が目覚めた日〜




