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EP1〜終わりと始まり〜

挿絵(By みてみん)


 これは……とある家族の始まりの物語——。


 「能力者」


 1800年代初頭、世界各地で確認されるようになった新人類。


 ある者は異端と呼ばれ、ある者は怪物と恐れられ、またある者は神の力を宿す存在として崇められた。


 対応は国や地域によって大きく異なった。

 迫害する国もあれば、保護する国もあった。

 そして、その力を軍事利用しようとする国も少なくなかった。


 能力者の存在は、やがて国家戦力、犯罪抑止、災害対応、軍事バランス、国際政治にまで影響を及ぼしていく。


 日本も例外ではない。


 その中で、日本の能力者社会において長く特別な地位を築いてきた一族があった。


 その一族の名は……「紫導家」。


 優秀な能力者を数多く輩出してきた、日本屈指の名家だった。


 1992年3月——。


 紫導家が能力者の名家として認められてから100年が経過しようとしていた頃、

 その一族の中に1人の少女がいた。


 紫導(しどう) 黒葉(くろは)。10歳。


 黒葉は紫導家現当主の娘。


 だが、まだ能力に目覚めておらず、兆候もない。


 一族からも冷ややかな目で見られていた。


 自分の両親からも冷たい視線を浴びるも、当主の娘であることから最低限の世話はされていた。


 紫導家の中で高位の人物には紫導家に仕える御庭番の一族「飛鳥家(あすかけ)」の護衛が付く。


 黒葉も対象だが、誰も護衛に付こうとしなかった。


 その中で宛てがわれた少年がいた。


 飛鳥(あすか) 神威(かむい)。10歳。


 神威も飛鳥家当主の息子。


 そして、神威も能力に目覚めていなかった。


 紫導家の御庭番として無能力者は論外……神威は「落ちこぼれ」の烙印を押されていた。


 同じ年齢、同じ立場であることから両家の合意で黒葉の護衛として神威が選ばれたのだった。


 能力はないが、神威は戦闘訓練を受けていた為、守れるだろうとの判断だった。


 黒葉と神威はお嬢様と護衛という立場であれど、他に会話出来る家族はいない。


 2人には上下関係はなく、幼馴染のような関係となっていった。


 紫導家、飛鳥家は優秀な能力者を多数輩出している。


 だが、一族全員が能力者というわけではない。


 まず能力者同士の間に生まれた子供であっても、必ず能力者になるわけではない。


 この2つの一族ですら、4割は能力を持たない者……「無能力者」だった。


 その4割は一族の一員として扱われず、能力を持つ者達に仕えるだけの存在へと押し込められていた。


 能力者界隈で紫導家は「華やかな能力者一族」と見られていた。


 だが、その実態は違う。


 能力者と無能力者による、「閉じた蠱毒」だった。


 黒葉は能力には目覚めていない。


 だが、当主の娘であり、容姿にも恵まれていた。


 そのため、一族の中には彼女を将来の駒として見ている者もいた。


 能力がないなら、別の形で利用すればいい。


 そんな下卑た思惑が、まだ10歳の黒葉に向けられていた。


「俺が守るから安心して」


「……はい……神威」


 2人はその視線、思惑を理解しており、お互い家の内側でも外側でも気が抜けることがなかった。


 そんなある日の夜——。


 紫導家の100年記念として紫導家、飛鳥家の一族全員を集めた総会が行われていた。


 黒葉と神威も、それぞれ当主家の子であることから、顔見せだけ参加することになった。


 顔見せが終わると、紫導家の当主、黒葉の父は笑顔から一気に冷めた顔で黒葉に伝える。


「黒葉……神威と一緒にもう出なさい」


 黒葉はスカートの裾を握りながら俯き、答える。


「はい……」


 その隣にいた飛鳥家当主、神威の父も淡々と自身の息子に伝える。


「神威……お嬢様をお連れしなさい」


「承知しました」


 神威はもう自分の父を親だとは思っていなかった。


 黒葉が気を落としている中、神威が付き添い、そのまま会場を後にしようとしたその時、異変が……。


 会場の扉がゆっくり開く……。


 身体中血まみれの男が会場に入ってきた。


 入り口の近くにいた一族の数名は扉の隙間からの光景を目撃する。


 無能力者を含めた警備担当達が倒れ、血の海と化していた。


 会場には、紫導家と飛鳥家の主だった能力者達が揃っていた。


 1人が能力を使い、血まみれの男を処理しようとする。


 だが、能力を使おうとした瞬間、腕が飛び、首から上が無くなった。


 全員が戦闘員というわけではないが、全員が高ランクの能力者達。


 悲鳴が飛び交い、戦闘が出来る紫導家、そして護衛の飛鳥家が全員で相手をする。


 しかし、血まみれの男が腕を振り上げると触れてもいないのに切り刻まれていく。


 能力での攻撃が当たらない。


 距離が縮まらない。


 防御能力を使ってもすり抜けられて何かに斬られる。


 ただ蹂躙されていく。


 血飛沫が舞い上がり、紫導家当主、飛鳥家当主も応戦。


 当主として能力も高い……戦闘能力も一族トップだった。


 だが全く相手にならない。


 血まみれの男に近づけず、ただただ空間の斬撃のようなものに2人とも切り刻まれ……絶命。


 残ったのは……黒葉と神威だけだった。


 黒葉は恐怖で全く動けない。


 神威は黒葉の前に立つ。


「黒葉!!後ろに!!」


「……はい!!」


 神威は男の顔を見る。


「……え?あなたは……」


 だが男はそのまま腕を振り上げ、そして振り下ろす。


 神威の後ろで血飛沫が飛ぶ。


 力無く黒葉が倒れた……。


「黒葉!!」


 振り返るが、神威は背中に激痛を感じ、そのまま意識を失ってしまった。


 数時間後——。


「……う……ぁ……?」


 神威は目を覚ます。


「……生きてる?」


 なぜ生きているのか不思議だった……感触的に斬られたはずだった。


 背中に少し触れる。


 確かに傷がある……だが、骨にも内臓にも到達していなかった。


 そして、違和感を感じる。


 何かが体の中で巡っている感覚……能力?


「偶然?……それとも能力?」


 助かった理由を模索する中、ふと下を向く。


 黒葉が血まみれの状態で倒れていた。


「黒葉!!しっかり!!」


 神威がすぐに黒葉を抱き抱える。


 だが、名前を呼んでも返事がない……息をしていない。


 守ると誓った。


 守れなかった……後悔しても現実を受け入れるしかなかった。


「……生き残ったのは俺だけか……」


 黒葉を床に寝かせ、両手を握らせる。


 もう諦めていた……その時、黒い炎が黒葉の体を覆う。


 すると見る見るうちに傷が癒えていき、その後、黒葉が目を覚ます。


 黒葉は神威を見て不思議そうに聞く。


「……ん……神威?」


 神威は黒葉を抱きしめ、涙を流した。


 黒葉は何が起こったのか全く理解出来ておらず、ただ混乱していた。


 神威は周囲を見渡すが、血まみれの男の姿はなかった。


 野良能力者なのか、能力犯罪者なのか……だが、神威はその顔を忘れなかった。


 2人は血塗られた会場を後にし、紫導家の門を抜ける。


 そこまでの道中にいた紫導家、飛鳥家の関係者全員が殺されていた。


 そのまま近くの交番へ駆け込む。


 その後は警察の事情聴取を受けるが、まだ10歳の少年少女であることから情報は不確定となり、

 警察、政府関係者、IRISが動くも、犯人は逃げたまま消息不明となった。


 この凄惨な事件により、一夜にして紫導家、飛鳥家は黒葉と神威の2人だけになった。


 黒葉と神威は身寄りがなくなり、病院で能力検査の結果、能力が発現していることが確定した。


 それも黒葉と神威の検査結果は「不明」……能力者の歴史上、初めての能力波形が確認された。


 能力に目覚めたことから、IRISが保護し、能力者育成機関で能力者としての生活が始まった。


 IRISでの訓練を受けながら、学校にも通う2人。


 「紫導家惨殺事件」と言われるようになったこの事件は一大ニュースとして取り上げられ、

 世界でも日本に対する国際的立場が危うくなっていくことも示唆されていた。


 この事件の生き残りである2人は学校でも容姿、境遇の2つの要因からかなり目立つ存在になり、浮いていた。


 それでも神威は黒葉を守り、黒葉は神威を信頼する。


 事件から2年——。


 能力の訓練を受けていた黒葉と神威は自身の能力を自覚し、鍛錬を積んでいた。


 黒葉の能力は「黒炎、不死」。


 黒い炎を纏い、その炎は黒葉が許さない限り、消えることはない。


 さらに異常な回復能力。


 どんな傷も瞬時に修復してしまうことから、「再生」ではなく「不死」と言われるようになった。


 神威の能力は「硬質化」。


 体の全てが何も通すことのない壁となる絶対防御。


 皮膚も髪の毛も目でさえ、銃弾やロケット弾ですら神威を破壊することは出来ない。


 2人の能力は過去にも前例がないほど強力な能力だった。


 特別な能力、そして圧倒的な戦闘センス。


 この2年だけでも育成生の中で突出した存在になっていた。


 事件以来、2人にとって互いの存在は、家族であり、唯一の居場所でもあった。


 そして、この2年で能力だけでなく変わったもの……それは「お嬢様と護衛」から「恋人」になったことだった。


 一緒にいるのが当たり前、そして別の異性と一緒にいることが考えられなかった。


「これからもずっと一緒にいてほしい……大切な人として」


「……はい」


 さらに時は流れ——。


 18歳となった神威と黒葉はIRISの正隊員となる。


 そして、能力者を保護、管理する「国際能力者連盟」が決めたルール……ランク評価。


 神威と黒葉は正隊員になったばかりにも関わらず、世界上位100名のみが選ばれる「Sランク」の評価を受ける。


 若手のエースコンビ、IRISでも屈指のコンビとして活躍する。


 背中を預けられる相手が「唯一」だとお互い理解していた。


 神威は黒葉を守る為に。


 黒葉は神威を失わない為に。


 そして、これ以上自分達と同じ境遇の被害者を出さないように……。


 正隊員になり、しばらく経った頃、神威と黒葉は紫導家の別荘を自宅として利用していた。


 任務を終えてIRISから帰宅した後、2人は正装に着替え、レストランで夕食を取った。


 周囲からは仲睦まじい美男美女の恋人だった。


 その後、華やかな灯りに包まれた公園に立ち寄る。


 神威から口を開く。


「……黒葉。」


「はい。」


「俺は世界を守るなんて大義名分なんてない」

「ただ……俺は黒葉……君を守れたらそれで良い」

「世界がどうなろうと、俺は君を選ぶ」

「……結婚してほしい」


 黒葉は一瞬だけ目を伏せ、その後、涙を流しながら微笑む。


「……はい♪」


 そして……神威と黒葉は「恋人」から「夫婦」となった。


 Sランク能力者として「世界を守る義務」を背負った存在になるも、

 神威の価値観は常に「世界よりも黒葉、家族」であり、

 黒葉もその覚悟を受け止め続けることを選んだ。


 数々の任務と苦悩、子を授かるまでまだまだ長い道のりだが、

 こうして紫導家が終わり、始まるのだった。

次回、EP2〜娘〜

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― 新着の感想 ―
Xからきました。 おもしろいです! 能力者の家族なのですね。 なかなかの惨劇からのスタートでどうなるかと思いましたが、こうして二人は家庭を作っていくということなんですね。 展開が楽しみです。 また…
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