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EP0〜プロローグ〜

挿絵(By みてみん)


 某都市・都市開発地区(夜)——。


 工事現場——。


 歪んだ鉄骨が赤熱し、溶けたアスファルトが黒く泡立つ。

 クレーンの影は炎に照らされ、夜の闇の中でゆらりと揺れていた。


 その中心に、1人の男性が立っている。


 男性は能力者だった。

 有している能力は「炎」。


 この世界には、能力を持つ者と持たざる者が混在している。

 それに伴い、能力者による犯罪や事故も決して珍しいものではなくなっていた。


 中でも最も危険視されている現象。


 それが「野良化」。


 精神的、あるいは肉体的に限界まで追い込まれた能力者が、自身の能力を制御出来なくなり、暴走状態に陥る現象。


 この男性もまた、仕事での過度なストレスに追い詰められ、野良化していた。


 理性はほとんど残っていない。

 爆ぜる炎は感情と連動するように荒れ狂い、周囲の建材を焼き、夜空を赤く染めていた。


 野良化した能力者は、こう呼ばれる。


 「野良能力者」と。


 日本国防軍直轄組織「IRIS(アイリス)」管制室——。


 複数モニターに映し出される現場映像。


 警報音は鳴っていない。


 淡々とオペレーターと分析官の音声が流れる。


 管制室の指揮席に座ってモニターを眺める人物。


 銀髪のロングヘアーに金色の目の男性。


 IRIS大将「飛鳥(あすか) 神威(かむい)」


 神威は自身の補佐官に確認をする。


「……現場の避難、被害状況は?」


「被害拡大中ですが、市民の避難は完了しています」

「しかし、このまま暴走が進めば、収拾がつかない恐れがあります」


 そう答えたのは神威と同じ銀髪のロングヘアー、後ろに黒い大きなリボンを付け、赤色の目をした美しい女性。


 IRIS大将補佐官「紫導(しどう) 黒葉(くろは)」。


 神威の妻でもある。


 神威は報告内容を確認しつつ、オペレーターへ確認する。


「紫導隊の到着予定は?」


「残り1分ほどで現着します。」


 オペレーターが答える中、補佐官の黒葉は自分の両手を胸の前で握り合わせ祈る。


「……無事で……」


 現場には6人のIRIS部隊「紫導隊」が到着した。


 紫導隊は、全員がまだ20歳にも満たない若き隊員達で構成されている。


 しかし、IRIS内でも屈指の実力を誇るエース部隊だった。


 到着後、隊長である少女が任務対象である野良能力者を確認していた。


 紫髪のロングヘアーに黄色いカチューシャ。

 赤い瞳で美しい顔立ちの少女。


 紫導(しどう) 嵐華(らんか)。


 神威と黒葉の娘であり、19歳にして階級は大尉。

 自身の隊も持つようになったエース級隊員。


 「……対象、確認」


 嵐華の隣の水色の髪の少女が嵐華へ情報を共有する。


 葵(あおい) 氷華(ひょうか)。


 紫導隊の戦術・分析担当であり、嵐華の配偶者でもある。


「本部からの情報では野良化により本来の能力ランクより推定危険度が引き上げられています」

「周囲の温度上昇、異常値……嵐華、直接打撃は最小限に」


 氷華の情報を聞き、嵐華は微笑みながら頷く。


「了解、みんな、いつも通りに行こう」


 その声は落ち着いていた。


 迷いも、恐れもない。


 嵐華は自身の専用武装である二丁拳銃「オルトロス」を構える。


 氷華と他の部隊員の飛鳥(あすか) 緋織(ひおり)、紅(くれない) 炬乃恵(このえ)、

 紫導(しどう) 愛里(あいり)、紫導(しどう) 瑞帆(みずほ)の5人は嵐華の言葉に頷く。


 まず動いたのは、後方の狙撃ポイントへ移動した緋織だった。


 嵐華の双子の妹であり、黒髪のロングヘアーに赤色のアッシュ、後ろに大きな赤いリボンを付けている少女。

 嵐華と同様に赤い瞳を持ち、専用装備の対戦車ライフル「グングニル」を携える。


 狙撃ポイントに到着後、緋織はまず自身の能力を使用する。


『相手の後退経路、周囲への防壁を展開します』

『エリアが広大なので、嵐華達にはシールドを張ることが出来ませんので気をつけてください』


 緋織の能力「シールド」により、野良能力者の背後と周囲の建造物の間にエネルギー状のシールドを形成、戦闘エリアを限定する。


 そして、野良能力者との戦闘が開始する。


 前衛担当である炬乃恵、愛里、瑞帆が突撃する。


「いくぜ!!」


 勢いよく叫んで突撃したのは炬乃恵。


 真紅の髪のロングポニーテールに金色の瞳。

 緋織の配偶者であり、能力は「炎」と「爆破」。

 複合種(ふくごうしゅ)と呼ばれる、希少な2種類の能力を持つ少女。


 専用トンファー「トリスタン」を構え、突撃する。


「援護するよ!!」


「まいります!!」


 炬乃恵の左右に展開する2人の少女。


 金髪のロングヘアーに左側がサイドテール、紫色の瞳の少女、愛里。


 愛里の双子の妹であり、銀髪のロングヘアーに水色の髪留め、青緑色の瞳の少女、瑞帆。


 2人は神威、黒葉の娘であると同時に、嵐華、緋織の妹達。


 愛里は専用籠手「ヘカトンケイル」、瑞帆は専用日本刀「白桜(はくろう)」を装備し、炬乃恵の援護を行う。


 野良能力者の炎の塊が襲いかかる。


「効くかよ!!」


 炬乃恵は自身の能力が炎。

 耐性があり、衝撃を受け止める。


 炬乃恵が防ぎきれない範囲の炎は愛里と瑞帆が対処する。


 愛里の能力は「重力」。

 重力操作により、炎の軌道が建物に向かわないよう逸らしていく。


 一方、瑞帆の能力は「ダイヤモンド」。

 ダイヤモンドで生成した白桜の刃での抜刀、居合いを軸に対処。

 刃が閃き、迫る炎を一刀のもとに断ち切った。


 前衛組が対応している中、その後ろで嵐華と氷華は状況を確認。


 嵐華はオルトロスで相手の動きを封じる為に足元を銃撃。

 しかし、到達する前に弾丸が融解し、ダメージが入らない。


「通常弾じゃ効果が全くないね……」


 最後衛の緋織も通信を入れる。


『私のグングニルでは絶命させてしまう可能性が高いです』


「だね……緋織はシールド制御を優先して」


『了解しました』


 緋織がシールド制御でエリアを制限している中、氷華が動く。


「私は分析をしつつ、周囲の火事を鎮静化します」


 氷華の能力は「水」と「氷」。

 複数の系統を扱う、極めて希少な能力者。


 熱された鉄骨、火事となった建造物に対し、水と氷を生成し、鎮静化を図る。


 氷華は能力を行使しながら分析を続け、管制室へ通信を入れる。


「私では被害拡大の抑制が限界です」

「早めの対応をお願いします」


 IRIS本部のオペレーターが即座に対応する。


『承知しました』

『消防へは連絡済、すぐに動けるように後方待機させます』


「お願いします」


 各々が役割をこなす中、

 炬乃恵、愛里、瑞帆の活躍で野良能力者が疲弊。


 嵐華は野良能力者の前に立ち、説得を試みる。


「……聞こえる?まだ間に合う」

「このままじゃ、もう戻れなくなる」


 野良能力者への対応任務は相手を殺すことではない。


 助けることが第一優先。


 一瞬、炎の揺らぎが弱まった。


 だが……怒りが勝る。


 地面が溶け、爆ぜる。


 嵐華は一瞬で間合いを取り、警戒。


 炬乃恵、愛里、瑞帆が再度、臨戦体勢を整える。


 氷華が相手の情報を分析。

 IRISにいる分析官からの情報も加え、更新する。


「先ほどの能力解放の反動か上半身、特に首より上の温度が下がっています」

「まだ通常よりは高い数値ですが、嵐華の戦闘服なら耐えられる温度です」


「了解、あとは私がするよ」


 嵐華はそう言うと、オルトロスを収めた。

 炬乃恵、愛里、瑞帆は嵐華に相手への道を開ける。


 嵐華が集中……嵐華の体の内部で「雷」が巡る。


 火、水、風、土……。


 世界には様々な能力が存在する。


 その中で、世界でも嵐華だけが完全制御に至った能力。


「雷」。


 外部にはなにも変化がないように見えるが……嵐華が拳を構える。

 ボクシングの構えを取り、嵐華が動く。

 その瞬間、一瞬で野良能力者の目の前にいた。


「これで終わり」


 右拳でのフックでテンプル一閃。


 野良能力者は膝をつき、力無く倒れた。


 調整されたその拳は相手の意識のみ刈り取った。


 炎は静かに消えていく。


 その後、専用の拘束具を野良能力者に取り付ける。


「……拘束、確認」

「本部、こちら紫導隊」

「対象拘束完了、負傷者無し、被害拡大無し」


 嵐華が報告後、氷華も続けて通信を入れる。


「待機させていた消防の出動をお願いします」


『了解しました、あとは別働隊が対応します、お疲れ様でした』

『本部へ戻られた際に初期報告をお願いします』


 嵐華に神威から通信が入る。


『嵐華』


「あ、お父さん、お疲れ様」


『任務中にお父さんと言うな』


 そう言いながらも神威の表情はどこか緩んでいた。


『……よくやったな』


「うん、みんなも頑張ったよ」


『……ああ、分かってるよ』


「ふふ♪」


 黒葉は神威の横で日常でも業務でも変わらない親子のやり取りに笑みを浮かべる。


 その様子を見ていた分析官は思っていた。


(神威大将も任務中なのに、嵐華隊長を呼び捨てにしているのは黙っておこうっと……)


 紫導隊は任務を終え、初期報告も完了。


 その後、更衣室へ。


 6人は戦闘服から私服に着替えていた。


「今日、飯どうする?」


 炬乃恵が全員に確認すると、愛里が答える。


「う〜ん、夕飯の準備の途中だったからな〜」

「帰って再開するとしてちょっと遅くなるかも……」


 その言葉に炬乃恵は落胆し、肩を落とす。


「……まじかよ……腹減った……」


「帰ったら私も手伝いますよ」


 氷華が愛里に微笑みながら言う。


「氷華姉ありがとう♪」


 すると瑞帆も愛里に声をかける。


「私も手伝います」


「瑞帆もありがとう♪」


 愛里は満面の笑みで2人の提案に感謝した。


「私と炬乃恵は料理専門外ですから……お願いします」


 緋織は愛里に申し訳なさそうに口を開く。


 炬乃恵もその横で申し訳なさを手でジェスチャーしていた。


「気にしなくて良いよ♪適材適所だからね♪」


 そんな中、嵐華は着替えが完了する。


「私はこの後、お父さん、お母さんと一緒に帰るよ」


「「了解」」

「「「了解しました」」」


 5人は一斉に返事をする。


「……大丈夫でしょうか?」


 氷華が小さく呟くが、嵐華には聞こえており「?」を浮かべていた。


 大将執務室——。


 神威、黒葉が今回の任務の報告書、資料を確認している時、執務室のチャイムが鳴る。


「私だよ、嵐華」


 娘の声を聞き、神威はすぐに答える。


「入っていいぞ」


 嵐華は執務室に入り、神威に声をかける。


「仕事終わりそう?」


「ああ……あと少しで終わ……」


 神威は硬直し、黒葉も嵐華の姿を見て口を開く。


「私服で来たのですか?」


「あ〜うん、緊急出動で自宅から本部へ直行だったし、みんなもそうだよ?」


 嵐華は私服で来たことに対し、特に意識はしていなかった。


 黒葉は任務前に隊員、職員が騒いでいたことを思い出す。


 その騒ぎの後に嵐華達が戦闘服を身に纏い、合流していた。


「あの時騒いでいた理由はこれだったんですね……」


 嵐華の服装は黒のミニスカにベージュのブーツ、上には白のジャケットを着用している。


 普通の女性なら特に問題ではなかったが、嵐華は違う。


 170cmの高身長にモデル並みのプロポーション、そして任務以外で見せる柔らかい笑顔。


 大学やIRISでも「天使」というあだ名が付いているほどだった。


 本人は意識していないが、紫導家の女性陣の中でNo.1の美人と周知されている。


 さらに普段、IRIS内では基本制服、戦闘服しか見ないので、私服姿の嵐華は刺激が強すぎた。


 神威と黒葉は同時に嵐華へ指示を出した。


「業務が終わって着替えが終わるまで執務室から出るな」

「業務が終わって着替えが終わるまで執務室から出ないでください」


 嵐華は不思議そうに首を傾げながら答える。


「え?なんで?外で待ってるよ?」


「「ダメ」」


 2人は業務を終わらせ、制服に着替えた後、IRISから出るまで嵐華を護衛。


 その間も、普段見ることのない嵐華の私服姿に、周囲の隊員や職員は男女問わず視線を奪われていた。


 IRISを出たところで、神威と黒葉はようやく安堵の息を吐いた。


 その横で、嵐華がぽつりと呟く。


「……過保護すぎじゃない?」


 神威と黒葉は、ほとんど同時に答えた。


「可愛い娘だから当たり前だ」

「可愛い娘だから当たり前です」


 嵐華は呆れたように、だが嬉しそうに笑う。


 そして3人は、神威の運転する車に乗り込んだ。

 向かう先は、先に帰った5人が待つ紫導家の自宅。


 命を懸ける戦場と、笑い合える帰る場所。


 そのどちらもが、彼女達の「日常」だった。


 ——これが、紫導家の日常。

次回、EP1〜終わりと始まり〜

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― 新着の感想 ―
Xの企画から来ました。 「野良化」という設定が切なくて、殺すのではなく助けるのが任務、という姿勢に胸が熱くなりました。各メンバーの能力と役割が明確で、連携戦闘が読んでいて気持ちいいです。雷を完全制御し…
「紫導隊」の息もつかせぬ連携バトルに終始ハラハラ、ドキドキしっぱなしでした! 「雷」のボクシングスタイルによる一撃、カッコいいですね! 戦場と日常のギャップが本当に魅力的で、これからの紫導家の戦い…
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