EP45〜専用武器〜
IRIS訓練場——。
この日、嵐華と緋織は非番の日だったが、訓練場に赴き、隊員たちと意見交換したり、戦闘のノウハウを共有していた。
中でも、話題の中心になっていたのは……嵐華の拳銃の話だった。
嵐華は支給品の拳銃を手にしながら、少し困ったような顔をする。
「任務中でも訓練中でも速射について来れなくて……トリガーやバレルがすぐにダメになります……」
実際に嵐華が見せた拳銃は任務中に壊れた拳銃だった。
トリガーが緩んでおり、さらにバレルの銃身が歪に溶けていた。
隊員もその拳銃を手に取り、銃身を眺める。
「これは……弾丸の射出される間隔が狭すぎて……か?」
もう1人の隊員も見て、苦笑いをする。
「……他の隊員でここまでなる奴はいないな……」
技術班も記録を見ながら頷く。
「射撃間隔が短すぎることで、機構の作動限界を超えています……なので、銃身の放熱が追いついていませんね……」
「部品の交換はすぐにできますが……任務中に壊れると厳しいですね……」
拳銃を受け取り、嵐華は拳銃を見つめながら、しゅんとする。
「はい……なので基本は1丁で使用することが増えてます……」
横で話を聞いていた緋織は技術班に話す。
「わざわざ能力を制限するのはデメリットですから……特別支給のような形はできますか?」
技術班はタブレットに表示されている武器リストを見る。
少し考えるが……。
「……拳銃サイズだと、既存のものだと多分無理でしょうね……完全オーダーメイドになると思います」
緋織は頭を抱える。
「それだと設計から見直さないといけませんね……すぐには難しそうです……」
嵐華も苦笑いをする。
「……そうだよね……迷惑かけてすみません……」
技術班は全員が全力で首を左右に振って、嵐華に非がないことを伝えた。
「嵐華少尉は悪くありませんよ!?……私たちが嵐華少尉に合う武器を揃えられていないだけです……気にしないでください」
「……はい」
「う〜ん……でも、どう設計するかですね……拳銃サイズだと中々……」
新しい嵐華用の拳銃について議論が続く中、訓練場へある人物たちが現れる。
「なにか話が盛り上がってるみたいだが……どうした?」
「嵐華のお話のように聞こえましたが?」
その2人の声に訓練場にいた全員が反射的に姿勢を正した。
「「「神威大将!!黒葉大将補佐!!お疲れ様です!!」」」
神威は周囲も見回し、手を上げ、敬礼を解かせる。
(やっぱりお父さんとお母さんが来ると空気が変わるな〜♪)
(やはりトップは違いますね)
嵐華と緋織は内心で両親の立場を改めて理解したのだった。
しかし、そこは嵐華……自然に声をかける。
「お父さん、どうしたの?」
神威は一瞬だけ顔をしかめる。
「……仕事中にお父さんは……まぁいい……」
黒葉は隣でくすくす笑う。
(呼ばれるだけで嬉しいんですから♪本当に子煩悩ですね〜ふふ♪)
気を取り直し、神威は再度、話の内容を確認した。
「……で、どうしたんだ?」
緋織が代表して話をした。
「実は……」
一通り話を聞き終えると、神威は腕を組み、嵐華を見る。
「それなら、もう考えてる」
嵐華が首を傾げる。
「考えてる?」
「ああ、だから少しの間だけ、今の拳銃で我慢してくれ」
技術班が神威の回答に、目を見開いて驚いていた。
「もう嵐華少尉の専用拳銃を考えられていたのですか?」
神威はため息交じりに語る。
「……嵐華の雷能力は特殊だからな……雷の放出や内部制御はあくまで”切り札”だ……負担も大きいしな」
「任務の大半は”伝達速度の強化のみ”使うのが基本になる……こういう銃火器で補填していくしかない」
隊員たちを見渡しながら、話を続ける。
「他の隊員は能力が自由に使えるからな……まだ特別製にする必要はないってだけだ」
隊員たちは納得していたが、技術班は前から疑問に思っていたことがあった。
「神威大将、今IRISで専用装備を持たれているのは何人ほどおられるのですか?データベースにも載っていなくて……」
「それは私から答えましょうか♪」
黒葉が技術班の疑問に、柔らかい声で説明する。
「もう隠す必要はありませんね♪」
「今までは上層部が意図的にデータベースを秘匿していたんです」
「サイバー犯罪対策という名目もありましたが……もうセキュリティ面に関しても当時とは比べ物になりませんから……もう優秀なエンジニアさんたちもおられますし、問題ないでしょう♪」
「私と神威さんの権限で閲覧できるようにしておきますね♪」
技術班たちは一斉に頭を下げた。
「「はい!!ありがとうございます!!」」
ただ、黒葉は少し申し訳なさそうな顔になる。
「ただ……そんなに専用装備はありませんよ?」
「あなたたちが既に知っているのは嵐華の”ライトニングバースト”と緋織の”スパルタンガンナー”だけですね?」
「他には私の”臥龍”と神威さんの”ケラウノス”だけです」
「あれは私たちがIRISに入って正隊員になった頃に作ったものですので……かなり年季が入っていると思います」
「なので、今後の最新装備を考えるなら……不向きだと思います」
黒葉専用打撃剣——臥龍。
神威専用対戦車ライフル——ケラウノス。
今の若手隊員たちは、神威と黒葉の本格的な戦闘を見たことがない。
2人に専用装備があることすら知らない者もいるほど。
だが、技術班の1人は疑問に思っていた。
「戦闘服は専用ではないのですか?」
「以前、嵐華少尉の任務に同行した際に着ておられましたよね?」
黒葉は「確かに」と思いつつも、淡々と説明する。
「あれはデザインは特別なんですが、基本能力は皆さんの戦闘服とあまり変わりませんよ?」
「というよりも、その戦闘服のプロトタイプとも言えるでしょうね♪」
黒葉が笑みを浮かべながら話していると、神威は少し苦々しそうな顔をする。
「……あれは”象徴”を作るために、上層部が勝手に作ったものだからな……流石にデザインには口を出したが……」
技術班は首をかしげる。
「デザインに何か問題でも?」
「……思い出しただけでも、腹が立つ……」
神威は拳を握りしめる。
「……あのエロジジィどもが……完全に黒葉の服装に関しては”搾取目的”だったからな……流石にキレたよ」
神威の怒りも当然だと思いつつも、周囲の反応はほとんど一緒の反応だった。
(今のデザインも凄いと思うけど……胸元見えてるし……スタイルが良すぎるのもあるけど……)
黒葉は周囲からの無言の視線を察する。
どう思われたのかも理解し、頬がほんのり赤くなり、恥ずかしがる。
「……少し視線が気になります……」
その表情を見て、周囲は改めて嵐華と緋織の母親なんだと思う。
笑う、恥ずかしがるの表情は3人とも瓜二つだったのだから——。
この空気を変えるように、技術班の1人が神威に質問をする。
「あの……もう1つ質問よろしいでしょうか?」
神威は仕切り直すように感情を抑える。
「……なんだ?」
「その……嵐華少尉と緋織少尉の戦闘服のデザインは誰が?」
ライトニングバーストとスパルタンガンナー。
機能面——お互いの能力に合わせた機構。
シルエット——ほぼ色違い。
肩——肌が見える。
胸元——谷間が見える。
スカート——スパッツを履いているが、ミニスカート。
総評——露出多い……。
「確かに設計通りに作成したのは我々技術班です」
「ただ、黒葉大将補佐のお話を考えると……なぜこのような設計に?」
周囲は沈黙する……特に男性陣。
理由は一つ。
このデザインで良いから。
「ん〜……それはだな……」
神威が答えにくそうにしていると、緋織が淡々と答えた。
「機能面は父ですが、デザインは私がしました」
技術班の面々はその言葉に驚いていた。
「え!?緋織少尉がデザインしたんですか!?ご自身が着るのに!?」
「?はい」
嵐華も隣で聞き、驚きと戸惑いがあった。
「……てっきり技術班がデザインしてるんだと思ってた……今は慣れたけど……最初恥ずかしかったのに……」
話しながら少し顔を赤らめていた。
「流石に……ではなぜこのデザインに?」
緋織は特に気にせず、そのまま質問に答える。
「最初は嵐華の方のデザインをして、私のは嵐華のを流用しました」
「可動域、視界、反応速度、それと心理的圧を考えた結果、あのデザインになりました」
「あとは……」
少し言葉に詰まり、恥ずかしそうに言う。
「……姉妹なので並んだ時に違う形にしたくなかっただけです」
このデザインは流行ではなく、色気目的でもなく、さらに個性重視でもなかった。
ただ姉妹が並んだ時に1つの完成形になるようにしたかっただけ……らしい。
理由はさておき、技術班たちは緋織の想いを感じ取った。
「この戦闘服たちにそんな想いがあったんですね……変な質問をしてすみませんでした……」
緋織は首を振る。
「いえ、お気になさらず……父には最初反対されましたから」
全員、神威へ視線を向けるが、同時に本人は顔を逸らす。
「……娘たちの服装を気にして何が悪い……」
神威を見ながら、黒葉はくすくす笑っていた。
「ふふ♪まぁ本人たちが問題なければ大丈夫ですよ♪」
嵐華が少し不満げな顔を見せる。
「……私は納得したくないけど……仕方ないな〜」
すると、嵐華に緋織がべったり寄り添う。
「……気に入りませんか?」
(かわいいな〜もう……)
嵐華は緋織の頭を撫でる。
「そんな目で見られたら嫌って言えないよ……」
それを見ていた隊員たちは、ただただその光景を羨ましがっていた。
((撫でられたい……))
だが、すぐに近くにいた父親はそれを許さない。
「お前たちにあれはさせんぞ……」
隊員たちの気持ちを察し、静かな圧をかけていた。
……
戦闘服の話もひと段落し、武器の話に戻る。
神威は咳払いをしながら、話を戻す。
「まぁ、少し脱線したが……嵐華、そして緋織……お前たちの専用武器は用意する」
「……?……私もですか?」
緋織が驚いている中、黒葉が話を続けた。
「あなたの狙撃能力と、嵐華との任務難易度を想定すると、今のライフルでは調整に限界がありますからね」
「あなたにも専用ライフルが必要と判断しました……嵐華と行動する為に♪」
緋織は自分の気持ちを汲み取ってくれた父と母に感謝し、深くお辞儀をした。
「……ありがとうございます」
そして、神威は微笑みつつも、技術班へ向き直る。
「今後の為に、データベースにも仕様を送るから、参考にしてくれ」
技術班も力強く返事をした。
「「はい!!ありがとうございます!!」」
そんな中、嵐華は自身の拳銃を見ながら、少し握る力が強くなる。
(……私の新しい武器……これでまた、助けられるようになるかな……)
そして、緋織は嵐華を見ながら、決意を新たにする。
(これで……嵐華をもっと守れるように……)
嵐華は人を助けるために——。
緋織は大切な姉を守るために——。
守る意思を新たに、IRISでは2人の「専用武器」の開発が正式に動き始めたのだった。
次回、EP46〜姉妹の秘密〜




