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EP43〜夏祭り〜

挿絵(By みてみん)


「緋織(ひおり)……今」


『はい』


 嵐華(らんか)の合図で放たれた緋織のスナイパーライフルの弾丸が能力犯罪者の足を貫く。


「……っが!!?」


 足を撃ち抜かれた能力犯罪者はその場で倒れ、のたうち回る。


 嵐華と隊員数名はそのまま相手を囲い、銃口を相手に向け、緋織も照準で捉えている。


「……これ以上の抵抗は……命の保証はできません……投降してください」


 能力犯罪者はただ静かに頷き、抵抗を諦めた。


 拘束される中、嵐華が通信を開き、オペレーターへ報告する。


「こちら嵐華少尉、制圧完了」


『お疲れ様です、嵐華隊長♪』

『あとは警察へ引き継ぎをお願いしますね』


「はい、お疲れ様でした♪」


 嵐華がIRISへ復帰し、緋織と共に任務へ戻ってからしばらく経ち、夏休みを過ごしながらも、2人は変わらず、任務を遂行していた。


 今回の任務も滞りなく完了し、警察へも引き継いだ。


 その後、嵐華がきょろきょろ周囲を見渡している。


「嵐華?」


 緋織が気になり、嵐華に声をかけた。


「ん?何?」


 いつも通りの嵐華の口調。


「いえ……なんでも」


「さ、車に乗ろ♪」


「はい」

(気のせいですか……?)


 気になりつつも、緋織は嵐華と隊員達と一緒に車両に乗り、帰路についていた。


(……あれは……?)


 信号待ちをしている中、嵐華は窓から外を見ていると、お店の窓に貼られた1枚のポスターが目に入った。


(……夏祭り……?)


 そこには「夏祭り開催」という大きい文字で華やかなデザインのポスターがあった。


 色鮮やかな文字と提灯の絵柄。


 いかにも楽しげな雰囲気。


「夏祭りか……いいな〜……」


「どうしました?」


 その呟きに緋織もポスターへ視線を向ける。


「夏祭りですか……訓練も忙しかったですし、中々こういったイベントには参加できていませんでしたからね……行きますか?ちょうどお休みの日ですし」


 嵐華はすぐ笑顔になった。


「うん♪」


 そして、色んな顔が思い浮かび、提案する。


「じゃあ、他の4人も呼んで一緒に行く?」


 緋織も頷く。


 嵐華の言った4人は誰なのかすでに理解していた。


「いいですね♪夏休みも終わりに近いですし、良い気分転換になりそうです」


 嵐華はすでにわくわくしながら、嬉しそうに座っており、完全に年頃の女の子。


 さっきまで隊長として任務をしていた人とは思えない変わりように、同行した隊員達は驚きつつも、癒されていた。


 ……


 本部へ戻ると、軍服へ着替え、報告を済ませると、訓練場へ向かう。


 嵐華の言っていた4人はもちろん紫導グループのメンバー。


 氷華(ひょうか)、炬乃恵(このえ)、愛里(あいり)、瑞帆(みずほ)。


 嵐華達が到着すると、丁度休憩中だった。


「あ、嵐華♪お疲れ様です♪」


 いち早く気づいたのは氷華だった。


 その様子に炬乃恵は少し呆れながら思った。


(氷華……隠す気はもうないのか?)


 嵐華レーダーの精度は相変わらずで、愛里と瑞帆、それに3人の教官には公言しているが、態度はあからさまだった。


 それでも、周囲は仲の良い先輩後輩にしか見えていない。


 愛里と瑞帆は炬乃恵に話しかける。


「本当に私達……気づかなかったんだ……あれに……」


「思い込みって怖いです……」


 炬乃恵は笑って答える。


「まぁ、おまえらも恋をすれば分かるんじゃないか?」


 愛里は少し意地悪そうに言う。


「ふ〜ん……緋織姉に恋してるから?」


 炬乃恵が飲もうとしていたスポーツドリンクを吐き出しそうになる。


「ごふ!?……おま!!……知って!?」


「うん、そりゃ……あんだけアピールしてればね〜」


 愛里の言葉に瑞帆は驚いていた。


「え?そうなんですか?」


 不思議そうに見る瑞帆に愛里は頭を撫でる。


「瑞帆はそのままでいいよ〜♪うちの一番純粋な末っ子なんだから♪」


「……む〜……からかわないでください……」


 瑞帆の顔が膨らみ、愛里と炬乃恵はその表情に癒されていた。


 一方、嵐華と緋織の方へ一直線に向かった氷華。


 あからさまにご機嫌になり、2人に話しかける。


「今日も任務お疲れ様です♪どうして訓練場まで?」


 嵐華も氷華に会えて嬉しそうに話す。


「うん♪実はね〜今度、夏祭りみんなでどうかな〜って♪」


「夏祭り?」


 緋織が補足する。


「はい、実は近くで夏祭りがもうすぐ開催されるので、6人でどうかなと」


「そうなんですね……良いですよ♪ご一緒させていただきます」


「なんだ?何の話をしてんだ?」


 炬乃恵、愛里、瑞帆も3人の話に入り、緋織から説明を受ける。


「夏祭り?いいぜ♪」


「行こう♪行こう♪」


「楽しみですね♪」


 3人とも快く了承する。


 愛里と瑞帆はわくわくしながら言う。


「じゃあ、浴衣準備しないとね〜♪」


「去年のはまだ大丈夫でしょうか?」


 その時、氷華がふと呟く。


「……浴衣買わないといけませんね……間に合うでしょうか?」


 それは炬乃恵も同じで、肩をすくめながら言う。


「俺も持ってね〜な……買ったこともねぇし」


「では……私が準備しましょうか?」


「「!?」」


 背後から柔らかい声が突然聞こえ、驚いた2人が振り向き、嵐華達4人もその方向へ向いた。


 嵐華がその人物を見て、初めに声を出した。


「お母さん?どうしたの?」


 黒葉(くろは)は微笑みながら答えた。


「いえ、私もポスターを見ましたので♪嵐華達もどうかと思ったのですが……氷華さんと炬乃恵さんが浴衣をお持ちでないのであれば、採寸してご用意しましょうか?」


 氷華は驚き、目を見開く。


「よろしいのですか?」


 黒葉は笑顔で頷く。


「はい♪いつも4人がお世話になっていますからね♪そのお礼も兼ねてです♪」


 炬乃恵もぱっと明るい表情になる。


「ありがとうございます!!」


「ん〜では、今日の訓練後に採寸をしましょうか?」

「花梨(かりん)さ〜ん!!少しこの子達の訓練の強度落としてもらっても良いですか〜?」


 教官の花梨は聞こえたのか、手を上げてにっこり微笑んでいた。


「はい♪OK出ましたので、訓練後に寮までお邪魔しますね♪」


 2人は頷き、嵐華と緋織は黒葉と一緒に訓練場から立ち去り、残りの紫導グループは訓練を再開する。


 ……


 そこから黒葉の仕事は早かった。


 寮で氷華と炬乃恵の採寸を済ませ、知り合いの呉服店へ連絡。


 更に嵐華達4人の浴衣も新しいものを購入。


 翌日にはもう全員分の仕立てが終わっていた。


 黒葉と嵐華が浴衣を渡しに寮へ向かい、渡された氷華と炬乃恵はその早さに驚いていた。


「……早すぎません?」


 氷華が驚いていると、嵐華は慣れた口調で言う。


「お母さんは何かと人脈広いから♪」


(……それで片付くレベルなんですか?)


 そして、炬乃恵は浴衣の生地を触りながら更に驚く。


「素人でも分かるぞ……これめっちゃ良いやつだ……」


 黒葉は笑って答える。


「ふふ♪あなた達に似合う柄を選ばせていただきました♪」


 黒葉の……そして、紫導家の非日常ぶりを遠い目をしながら、氷華と炬乃恵は体験したのだった。


 ……


 そして、夏祭り当日——。


 紫導家、そして氷華と炬乃恵は全員浴衣姿で集合していた。


 それに女性陣の浴衣の柄にはそれぞれにしっかり意味が込められていた。


 嵐華:コスモス (美しさ)


 緋織:薔薇(ばら) (純潔)


 氷華:紫陽花(あじさい) (知的)


 炬乃恵:グロリオサ (燃える情熱)


 愛里:向日葵(ひまわり) (明るく元気)


 瑞帆:エーデルワイス (忍耐)


 黒葉:黒薔薇 (永遠の愛)


 そして、唯一の男性の神威(かむい)は黒と白のストライプ。


 シンプル・イズ・ベストである。


 8人が揃って集まっていると周囲がざわついていた。


 美男美女の浴衣軍団。


 通り過ぎる人々は、ほぼ全員が目を奪われていた。


 炬乃恵が嘆くように呟く。


「すげぇ見られてる……」


 氷華は特定の人物たちを見ながら言う。


「そうですね……嵐華と黒葉さんもいますし……」


 視線の先にいる嵐華と黒葉は仲良く手を繋いで祭りの風景を見ていた。


 まだ入り口だったが、嵐華は異様に喜んではしゃいでいた。


「わぁ!!すご〜い♪早く行ってみたい♪」


 黒葉も手を繋ぎながら満面の笑みでなだめる。


「お祭りは逃げませんから♪」


 炬乃恵は不思議そうに言った。


「嵐華はしゃぎすぎじゃないか?」


 すると緋織は嵐華を見て、笑顔だったが、少し感慨深そうに言った。


「夏祭りは初めてなんですよ」


「え?」


 それを聞いた氷華は驚き、声が漏れた。


 炬乃恵は口元に手を当てる。


「……雷か?」


 緋織は頷く。


「そうです……それに克服してからはIRISの訓練を優先して行ってましたから」


 氷華は疑問に思う。


「中学校や高校のお友達ともですか?流石に夏休みだと時間はあると思いますが……?」


 緋織が少し黙っていると、神威が代わりに答える。


「嵐華が一度、友達と出かけたことがあったんだ……その時にナンパにあってな……その時に友達が怪我をしたんだ」


 氷華と炬乃恵は驚き、緋織はうつむいていた。


 神威は話を続ける。


「その友達は嵐華は悪くないと言ってくれたんだが……嵐華は責任を感じてな……それ以来、俺達と買い物へ行く以外は外へ出なくなった……だから、夏祭りも1回も行ってない」


 氷華は再度、嵐華を見る。


「そうだったんですね……だからあんなに……」


 だが、炬乃恵には、また新たな疑問が浮かぶ。


「……じゃあ、なんで浴衣全員持ってたんすか?今回は新しく買い替えたとは聞いたっすけど……?」


「それはだな……」


 神威が答えようとすると、愛里が話に加わる。


「それはね〜♪夏祭りの日は家でみんなで花火する時に着てたんだ〜♪」


 瑞帆も話に加わる。


「私達も嵐華姉のことがあってから、夏祭りに行ってません……嵐華姉だけを置いていけませんから……それは緋織姉も一緒です♪」


 その緋織は嵐華と黒葉のところへ行き、嵐華の袖を小さく握っていた。


「緋織?」


 嵐華がきょとんとしていると、緋織は泣きそうな顔になっていた。


「……嵐華がこうして出かけれるだけで……私は幸せです……」


 嵐華は微笑んで、緋織を抱きしめる。


「もう……今からお祭りなんだから♪泣いてちゃ損だよ♪」


 そして、更に黒葉が2人を優しく包み込む。


「はい♪みんなで楽しみましょう♪」


 緋織は涙を拭い、笑顔になった。


「はい♪」


 3人を見て、神威達も感傷に浸りながらも、集まり、夏祭りの会場へ入っていく——。


 ……


 面々は夏祭りを満喫していた。


 屋台へ行けば——食べ物が増量される。


 くじ引きを引けば——なぜか回数が増える。


 妙にコスパが良かった……嵐華が……。


 何かを買うたびに嵐華が天使のような笑顔で微笑む。


「ありがとうございます♪」


「お嬢ちゃん……サービスだ」


 それだけで屋台の店の店主達が明らかにサービスを盛る。


「わぁ……こんなにいっぱい♪」


 その横で氷華は常に悶絶していた。


「……嵐華の笑顔は凶器です」


「?」


 周囲の男性達も声をかけようとするが、それは神威と黒葉が許さない。


 視線が刺さり、一定の範囲へ近づけなかった。


 緋織達も美人だが、やはり嵐華の天使っぷりは別格だった。


 結果として、嵐華以外の7人は祭りを楽しみながらも、自然な形で嵐華を護衛している構図になっていた。


 その陣形を取っていると氷華がふと笑う。


「どうしたんですか?」


 緋織が聞く。


「いえ……だれが長女なのか分かりませんね♪」


 楽しく綿飴を食べる嵐華を見て、愛里と瑞帆がひっぱりながら歩かせる。


 緋織はそれを見て、柔らかく微笑んだ。


「……そうですね♪」


 氷華は緋織の笑顔を見てドキッとした。


(……嵐華とそっくり……)


 そして、その笑顔を見ていたのは、氷華だけではなかった。


(……天使だ……)


 炬乃恵はかき氷を持ったまま静止していた。


 胸の鼓動が高鳴る。


(やっぱ……俺は……緋織が……)


 だが、気持ちを押し殺す。


(まだ、タイミングじゃない……)


 炬乃恵が深呼吸をし、緋織に自然に話しかける。


「なんの話してたんだ?」


「あ、炬乃恵……いえ、嵐華は長女なのに末っ子みたいだなと」


 嵐華の方を見て、納得する。


「あ……あ〜確かにな」


 嵐華が視線に気づき、綿飴に続き、フランクフルトを食べながら言う。


「ん?どういあの?」


「もう嵐華姉……食べながらしゃべっちゃだめじゃん♪」


「ちゃんと食べきってから話してください」


「ん〜むにゃむにゃ……食べたよ♪」


 その返事で末っ子確定——そう思った面々だった。


 ……


 祭りも終盤に差しかかり、夜空に打ち上げ花火が咲き誇る。


 光の花が咲き誇り、音が遅れて胸の中に響く。


 全員が見上げる中、氷華はそっと嵐華の隣へ寄り添う。


 誰にも気づかれないように……けれど静かに、嵐華の手を握る。


 そして、嵐華も手を握り返した。


 嵐華と氷華にとっては初めての外での触れ合い。


 ほんの少しの接触でも2人には十分だった。


 ——小さな幸せ。


 それを夜空の花火の下で静かに感じていた。


 一方、炬乃恵は緋織の隣に自然に立つ。


 手は握らない……ただ、並んで同じ花火を見ていた。


 炬乃恵はタイミングを待っており、緋織は勇気が出ない。


 本当は両想いの2人。


 それを横で見ていた愛里と瑞帆は内心で思っていた。


((なんで付き合わないんだろ?))


 緋織は隠しているつもりでも、愛里には気づかれており、瑞帆にも共有済みだった。


 そして、不思議なことに、炬乃恵は気づいていない。


(鈍いのはどっちなんだろうね〜?)


(お二人が上手くいくことを祈りましょうか……)


 愛里と瑞帆はそんなことを思いながら花火を見上げていた。


 その後ろで6人をしっかり見ていた神威と黒葉はお互い微笑んでいた。


「ちゃんと青春してるんじゃないか?」


「本人達は秘密にしているつもりでしょうけどね♪」


 ただ2人は何も追求することはせず、優しく見守るのだった。


 嵐華にとっては初めての夏祭りだった。


 だが、紫導家にとっても特別な日になった。


 まだ「8人家族」ではなかったが、これが全員で出かけた初めてのイベントとなったのだった。

EP44〜師弟〜

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