EP41〜継続〜
IRIS訓練場では、嵐華は炬乃恵、愛里、瑞帆の3人を相手取り、組手によるリハビリを行なっていた。
その様子を緋織と氷華がベンチから見守っていた。
嵐華は一般病棟に移ってからというもの、またしても異常な回復を見せた。
腹部を剣で貫通し、本来であれば半年以上は復帰にかかるはずだった。
しかし、今の嵐華の腹部には傷跡は全く残っていない。
身体能力も負傷前と全く変わらなかった。
嵐華の様子を見て、氷華は嬉しくも、少し呆れたように言う。
「暴発の時もそうでしたが……やはり回復速度は常軌を逸していますね」
緋織も腕を組んで頷く。
「ええ、嵐華の雷能力の性質なのか、また別の能力でもあるのか……」
「謎は深まるばかりですが、元気になったのなら良いことです」
氷華は柔らかく微笑みながら言う。
「……そうですね♪」
2人はそのまま、嵐華を見ながら談笑していたが、周囲の育成生、隊員達はなぜかざわついていた。
(……最近、あの2人……なんか”良い感じ”じゃない?)
(まさか……あの2人は付き合ってる!?)
完全に的外れな妄想が勝手に膨らんでいく……今日もIRIS訓練場は平和だった。
……
一方、訓練場の中心では、嵐華が炬乃恵、愛里、瑞帆を相手取り、組手の真っ最中。
炬乃恵、愛里は素手、蹴りによる近接格闘。
瑞帆は日本刀型の訓練用武器を使用し、抜刀と居合を軸にした戦術。
嵐華はいつも通りのボクシングスタイルで応戦。
「ふっ!!」
炬乃恵の右拳で放たれたストレートを躱し——。
「はぁ!!」
愛里の飛び蹴りを掻い潜り——。
「……!!」
瑞帆が抜刀で一閃!!
「え?」
嵐華は瑞帆の放った一閃を横から叩き落とす。
その瞬間を見た愛里は叫んだ。
「あれ当てる!?」
「隙あり♪」
愛里の顔面寸前で嵐華の拳が止まる。
「うん♪これはヒットだから私の勝ちかな〜?」
炬乃恵は頭を掻きながら、拳を下ろし、悔しがる。
「あぁ……一発もかすらねぇのかよ……」
愛里も悔しがり、地面にあぐらをかいて座り込む。
「もう!!くやしい!!」
瑞帆は弾かれた訓練用の日本刀を見て、反省していた。
「……今回は不用意でした」
瑞帆の言葉に嵐華も反応する。
「そうだね……あそこはもう刀を抜いて、炬乃恵と愛里と一緒に整えるべきだったかな♪」
「それと、炬乃恵と愛里はね〜……」
嵐華は戦闘モードをONにしており、自分のリハビリも含め、3人を同時に相手取りながら、攻め方、崩し方、反応の癖、間合いの詰め方など、動きの細部まで確認していた。
愛里は悔しさも消え、嵐華のアドバイスを聞きながら、楽しそうに言う。
「嵐華姉の伝達速度って意外と指導向きかも?分かりやすい♪」
嵐華は戦闘モードをOFFにし、少し困ったように笑った。
「でもずっと使ってるとすぐ疲れちゃうよ」
炬乃恵は興味深そうに聞いてみた。
「大体どんくらい使いっぱなしにできるんだ?」
嵐華は自身の顎に触れながら、少し考えてから答えた。
「う〜ん……試したことないけど、体感で1時間かな?」
「それくらい使いっぱなしだと、段々疲れが出てくる気がする」
「それに雷も使い始めるともっと短くなるかも?」
「ふ〜ん……じゃあ、この前の筋肉の女の人との戦いだと結構早くOFFなりかけたんだよね?」
愛里が質問すると、嵐華は苦笑しながら答える。
「あれは雷の放出も内部制御も全部使ったし……あと、手首やられちゃったからね……」
瑞帆は今の嵐華の能力について答えを出した。
「では基本は”短期決戦”向けなんですね?」
「うん、今は時間がかかるけど、”ONしたい時にちゃんとONできるように”かな……当面の目標は」
炬乃恵も顎に手を当てながら言う。
「ならチーム組めたら前線は場合によっては、嵐華を集中させるための時間稼ぎも視野に入れないとな」
愛里も同意する。
「うん、正直さ〜氷華さんと緋織姉も入れて、6人で隊作れたら良いよね〜♪」
冗談まじりに提案するも、嵐華は笑いながらもその案を否定しなかった。
「うん、でも意外と理想の形だったりするんだよね」
「バランスが完璧というか……こればっかりは運用してみないと分からないけど」
「その前に……お前と緋織に追いつかねぇとな?」
「うん、待ってるよ?炬乃恵♪愛里も瑞帆もね?」
4人はそのまま編成案まで含めて、自然に議論していた。
まだ未来のお話……だが、その未来を嵐華達は「本気で想像できる」段階まで進んでいた。
……
その4人の様子を見ていた緋織だったが、隣にいる氷華へ小さな声で尋ねた。
「嵐華とのことは公言しないのですか?」
「恋人と分かっていれば、何かあった時にお互いに融通が利くと思いますが……?」
氷華は少しだけ視線を落とし、それから静かに答えた。
「……いえ、それだと色んな考えの方がおられますから……」
「もし公言するとしたら、正隊員になって、結果を出してからですね♪」
緋織はその答えに納得したように頷く。
「そうですね……氷華ならなれますよ、絶対」
その言葉に少しだけ口元を和らげる。
「実は……もうお話はあったんです」
「来年の4月に昇格する予定でした」
「……でした?」
「ええ、嵐華が重症を負いましたし、上層部とのいざこざもありましたから……」
「一旦、昇格については様子を見させて欲しいと神威大将から直々に言われました」
「!?……お父さん自らですか」
緋織は目を見開きながら言い、氷華は頷いた。
そして、ほんの少しだけ悪戯っぽく笑った。
「その代わりに……”お給料”が上がるそうです♪」
「……へ?……ふ!!」
緋織は思わず笑ってしまう。
氷華も少しだけ楽しそうに話を続ける。
「色々と将来のために貯めておきたいですし……良いお話でした♪」
「しっかりしてますね」
そう返しながら緋織は心の中で思っていた。
(本当に……良い人に出会いましたね……嵐華♪)
緋織の視線はふと炬乃恵の方へ向く。
いつも通り、嵐華達と混ざって軽口を叩きながらも、要所では確実にみんなを支えていた。
(……私もいつか……言えないと)
そう思いながらも、その想いはまだ胸の中に隠したまま——。
緋織は今日もいつも通りの顔で業務に励むのだった。
次回、EP42〜救済と執行〜




