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EP38〜証明〜

挿絵(By みてみん)


 IRIS医療施設——。


 手術室の前で、緋織(ひおり)は地面に崩れ落ち、両膝を床につく。


 そのまま血に濡れた身体を小さく丸め、震える両腕で自分自身を抱きしめる。


「……嵐華(らんか)……私は……」


 緋織はIRISの任務がどういうものか……現実を思い知ることになった——。


 ……


 半日前、IRIS本部ブリーフィングルーム——。


 この日の任務は始まる前から空気が重かった。


 嵐華(らんか)、緋織(ひおり)を含めたIRIS隊員が集まり、分析官からの説明が始まる。


「今回の任務ですが……能力犯罪者の確保もしくは……処理です」

「能力は形状変化の”剣”で、データベースによると本来のランクは”C”となっていましたが、殺傷能力、そして、本件の被害状況から”B”へランクが上がりました」


 分析官はその能力犯罪者が犯した内容を言いにくそうに伝える。


「連続強盗……強姦殺人、そして……警察官数名を殺害」

「被害者は全員が”無能力者”であり、為す術がなかった状態と思われます……」

「また、女性が1名、現在、行方不明となっており、関連を調べています」


 嵐華達は憤りを感じていた。


 能力はこんなことをする為のものじゃない。


 ましてや人の尊厳、命を奪うなど以ての外だと——。


 そんな雰囲気の中、分析官は説明を続ける。


「現在、警察、IRIS、そして政府の承認で指名手配されており、居場所は特定されています」


 嵐華は分析官に質問をする。


「場所はどこなんですか?」


「はい、ここ3日ほど使われていない廃ビルに身を潜めていることが分かっています」

「ただ、警察官を数名殺害していることもあり、今は監視のみです」


 場所を聞き、緋織は自身の顎に触れながら考える。


「……ビル内ですと、狙撃は難しそうですね」


「そうだね……緋織は拳銃と警棒、それとシールドで援護をお願い」


「分かりました」


 今回の任務は嵐華が隊長、緋織が副隊長として対応することになっていた。


 10人編成の部隊となり、残り8人はBランク隊員。


 嵐華は一緒に任務へ向かう隊員達に自身の思いを告げる。


「今回の相手は何の罪もない人が大勢亡くなってる……実際、指名手配の内容も生死問わずになってる」

「でも、私はこの犯人は捕まえて、しっかり罪と向き合ってほしいと思ってる」

「私のわがままで任務の難易度が上がるかもしれないけど……ついて来てくれる?」


 隊員の1人が答える。


「それがIRISの信念よ」

「私達は野良能力者も犯罪者も殺す為の組織じゃない」

「だから、わがままじゃないわ……ランクは隊長と副隊長より低いけど、精一杯協力させて♪」


 その言葉に嵐華も安心して微笑む。


「……ありがとう♪」


(((……天使……)))


 隊員達と分析官は全員が嵐華の笑顔に心を撃ち抜かれた。


「じゃあ、みんな……よろしくね♪」


 そして、緋織以外の隊員達は立ち上がる。


「「「はい!!よろこんで!!」」


「?」


 嵐華が不思議そうに隊員達を見ていると、緋織は若干の不安を覚える。


(……本当に大丈夫でしょうか……)


 ……


 嵐華と緋織が率いる部隊が廃ビルから少し離れたポイントへ到着し、警察と合流する。


 隊長として嵐華が話を聞く。


「状況はどうですか?」


「ええ、あれから3日間、動きがありません」

「あらゆる出口を監視していますが、出た形跡は確認出来ませんでした」

「食料を調達していたのか……不気味です」


「……廃ビルにいない可能性もあるし、最悪、外からの襲撃にも備えないと……一旦2パターンは考慮して慎重にやろう」


「「「はい!!」」」


「私と緋織を部隊長として2チームに別れよう」


「了解しました」


 全員が拳銃を装備し、静かに廃ビルに侵入を始める。


 天井から雫が滴り落ち、その落ちた音しか響かない。


 抜けた天井の穴も見つつ、一部屋一部屋を確認していく。


 2階まで捜索を続けるが、人影は全くなし。


 だが、階段横の部屋へ入ると、おぞましい光景が広がっていた。


(……!!……う!!)


 嵐華はその光景を目の当たりにし、吐き気がしていた。


 隊員が嵐華を介抱する。


「大丈夫か?……流石にあれは酷いな……」


「能力犯罪の現場でもここまでのものは中々ないわね……副隊長も大丈夫?」


「……はい……なんとか……でも、これは……なんですか?一体……」


 隊の中で中堅クラスの隊員が答える。


「……これはショッキングな内容だが……あれは……”強姦した後、食ってる”な……それも下半身だけ残してる」

「おそらく……行方不明になった女性……だろうな……」


「3日間……出てない理由がこれってことね……」


 嵐華はやっと落ち着き、絶望するような声色で言う。


「……こんなの人間のすることなの?」


「これが能力犯罪者よ」

「こういう凶悪犯に、こっちの常識が通用すると思わない方がいいわ……こんな奴も、たまにいるわ」

「けど、それでも私達は殺さずに捕まえて来た」


 嵐華は深呼吸をし、拳銃を構え直す。


「……絶対、捕まえて罪を償わせる」


 隊員達は頷き、3階から上への捜索へ移行する。


「ここからは別れよう……緋織班は3階へ……私の班は4階へ向かうよ」


 緋織達は静かに頷き、それぞれの階へ向かった。


 ……


 4階へ上がると、部屋の数は少なかった。


 薄暗く長く幅広い廊下に、元々社長室と大会議室があった部屋が並ぶ。


 割れた窓から風の音だけが妙に響いていた。


 一番奥にあるのは社長室だった部屋——。


 まずは大会議室の部屋へ入るが、特に人影は無し。


 隊員はハンドサインで報告する。


(クリア)


(じゃあ、前進)


 報告を受け、嵐華が先頭に立ち、廊下の奥へと進んでいく。


 そして、奥の社長室に近づくと、嵐華は感じ取った。


(何かいる……待機)


 即座にハンドサインで隊員4人は周囲を警戒したまま、待機状態へ。


 嵐華が扉がなくなった社長室を覗き込む。


 その瞬間……剣が嵐華の顔目前まで迫っていた。


(……!!)


 嵐華は体を捻って回避し、そのまま銃口を上げて撃つ。


 だが、銃弾は剣の面で弾かれた。


 嵐華が下がり、5人で拳銃を構える。


 ゆっくりと出て来たのは細身の犯人。


 その両腕は両刃の剣の形状になっていた。


 警戒する中、犯人は笑いながら口を開く。


「……へぇ、やるじゃん」


 そして、嵐華をまじまじと眺め、下卑た言葉を投げる。


「……?よく見るとめっちゃ可愛いじゃん♪」

「前に犯した女とは比べ物にならねぇな〜……周りの奴を始末したら犯してやるよ」


 嵐華の表情が冷め、隊員達も表情が歪む。


「……あなたを拘束します」


 犯人は鼻で笑い、大声で言い放つ。


「は!!やれるもんならな!!」


 そのまま嵐華へ距離を詰め、腕の剣を振りかざす。


 嵐華は躱しつつ、4人の隊員に指示を出す。


 そして、4人は逃走経路を塞ぎつつ、いつでも援護できる体勢を整える。


 嵐華は1対1での戦いに挑む。


「緋織!!犯人と交戦開始!!3階で待機!!」


『……はい!!了解しました!!』


 3階へ緋織班を待機させ、臨戦態勢を整えさせる。


 嵐華はもう一丁の拳銃を抜き、二丁拳銃のスタイルへ切り替え、接近戦へ。


 犯人の剣術を習っていたかのような剣捌きにもしっかり対応する。


 そして、丁寧に、的確に剣の側面へ銃弾を撃ち込む。


(確かに強い……けど、負けない!!)


 何度も剣部分に銃弾を撃ち込むと、鈍い金属音と共に、小さな亀裂が入る。


 亀裂が入った腕を見て犯人は驚く。


「……まじかよ……強さは全然可愛くね〜なぁおい!!」


 そう言うと、すぐ横の窓を破り、飛び出すと、剣を伸ばし下の階へ突き刺した。


 そして、そのまま3階へ移動する。


「く!!緋織!!そっち行った!!」


 緋織が嵐華の通信を聞き、警戒した瞬間、窓から犯人が突入してきた。


「止まってください!!」


 緋織が銃を構えると、即座に犯人が急接近。


「上の女といい、また良い女がいるじゃねえか!!楽しめるぜこりゃ!!」


 犯人の斬撃が緋織に迫るが、両腕で小型シールドを展開。


 シールドで防いで弾き返し、緋織も二丁拳銃に持ち替える。


 嵐華と同様に1対1へ持ち込み、緋織はシールドを両腕以外にも設置しながら応戦する。


 躱わすのではなく、受け止めてから拳銃で肩と膝……致命傷にならない箇所を撃ち抜こうとするが、全ての銃弾を弾き、避ける。


 緋織は犯人の戦闘能力に疑問を持つ。


(……本当にBランク相当ですか?)


 明らかに戦闘能力が高すぎる。


 緋織は他の隊員に援護のみを指示し、緋織が距離を広げた際には4人は拳銃、能力での援護射撃をする。


 だが、それでも犯人の体捌き、剣捌きが冴え渡り、全くダメージが入らない。


(このままではジリ貧ですね……)


 緋織が危機感を持っている時、嵐華班は4階から急いで3階へ急行していた。


 嵐華も緋織と同じことを考えており、管制室のオペレーターへ通信を入れる。


「犯人の素性をもう一度洗い直して」

「あの動き……戦闘の素人じゃない」


『分かりました』

『分析官と共有して調査します』


「お願い」


 そして、嵐華班が3階へ到着すると、緋織班はいたが、戦闘が終了した後だった。


 嵐華は緋織に話しかける。


「緋織、犯人は?」


「先ほどまで交戦していましたが、急に後退しました」

「……逃げたのでしょうか?」


 嵐華は首を振る。


「いや……いる……私を”犯す”って言ってた……狙いを定めてる」


 その言葉に隊員達の怒りが一気に沸き上がる。


 空気は張り詰めていた。


 嵐華は状況を確認しながら、次の一手を考える。


「……一旦4階の大会議室へ陣取ろう」

「あの剣の強度だと、床は貫通までは無理そうだから、広い場所を確保しよう」


「了解しました」


 そして、嵐華達10人全員で警戒しながらも、4階の大会議室へ向かう。


 大会議室へ入ると、ちょうどオペレーターから嵐華達隊員に一斉に通信が入った。


『確認しました……結論から言うと、犯人は何もしていません』


「何もしてない?」


『分析官も確認し、戦闘訓練の経験もない……無職です』

『ただ……欲望のままに強くなったとしか説明がつきません……』


「……狂気じみてるね……戦った感じ、IRISのAランク隊員でも良いくらいだよ」


 緋織も同意する。


「ええ、私もそう思います」

「能力はCランクなのかもしれませんが、技術で底上げされていますね……」


 大会議室の真ん中に嵐華と緋織が陣取り、周囲を隊員達が警戒していた。


 嵐華が考え事をしていると、緋織が話しかける。


「……どうしました?」


「いや……能力者でも色んな思想があると思って……」

「私自身、相手を傷つけようなんて思ったことないから……」


「それが普通なんですよ?」

「異常者を基準にするべきではありません」


「そうだよね……こんなことに使わなければ……!?」


 嵐華の言葉が止まる。


「嵐華?」


 すると、嵐華は緋織の顔を一瞬見た。


 そして、小さく微笑むと、嵐華が走り出す。


 足に雷を纏わせ、全力で飛び出す。


 その先には1人の隊員の姿。


 周囲を見回そうと、方向転換をした時、犯人が剣を伸ばし、至近距離の位置にいた。


(あ……)


 奇襲——。


 隊員が死を覚悟する暇がなく、咄嗟に目を瞑る……だが、何も感じなかった。


「……え?……隊長?」


 隊員と犯人の間に立つ人物がいた……紫色の髪、そして白い戦闘服の背中。


 だが、地面には赤い液体が滴り落ちる。


 嵐華が庇い、剣が腹部に深く突き刺さっていた。


「隊長!!」


 犯人は愉快に笑う。


「あ〜あ……可愛いのに勿体ないな〜♪まぁ死んでから楽しむか……な!!」


 そう言うと更に力を込める。


 剣が……嵐華の腹部を貫通した。


「う……ごふ!!」


 嵐華は吐血。


 それでも相手の腕を両手で握り、放さなかった。


「……お前……放せよ!!」


 抜こうとしても、嵐華は内部制御でリミッターを外した握力でがっちり放さなかった。


 意識が落ちる前に、嵐華は緋織へ向けて叫ぶ。


「……緋織……!!」


「!!」


 緋織は嵐華の言葉に反応し、拳銃を抜く。


 そして、回り込み、横から両膝へ向けて発砲する。


 緋織は冷静さを欠き、全弾で両膝を撃ち抜いた。


「がぁ!!」


 犯人は絶叫し、その場に崩れる。


 剣の能力が解除され、嵐華から剣が抜ける。


 その瞬間、腹部から大量に出血し、その場に倒れた。


 緋織と2人の隊員は嵐華の元へ、そして、残りで犯人を拘束する。


 緋織が必死に嵐華に呼びかける。


「嵐華!!嵐華!!しっかりしてください!!」


 嵐華の顔は白くなり、口元からも血が流れている。


 意識も朦朧としていた。


「……あぁ……ひ……おり……」


「喋らないでください!!」


 緋織は出血箇所の腹部をシールドで覆い、刺し傷からの出血だけは止めた。


 しかし、内臓の出血までは止められない。


(出血量が多すぎる……)


 緋織は即座に管制室へ通信を入れる。


「管制室!!嵐華隊長重症!!急を要します!!」

「すぐに医療チームと救急車を!!」


 緋織は連絡を入れ終わると、出来るだけ悪化させないように応急処置をする。


 その横で嵐華を見て、刺されそうになった隊員は憔悴しきっていた。


「すまない……俺のせいで……」


 警戒していたのに、奇襲されて、隊長とはいえ、後輩に庇われた。


「いえ、あなたのせいではありません……」

「迅速に嵐華が運べるようにルートを確保しましょう」


「ああ!!」


 待っている中、嵐華を介抱し続ける。


 緋織の戦闘服は床に溜まった嵐華の血で染まっていく。


 しばらくして、救急車が到着し、緋織が同乗。


 救急車が出発する中、隊員達はただ見送り、無事を祈ることしか出来なかった。


「嵐華……嵐華!!……しっかり!!」


 IRIS内の救急手術室へ運ばれる中、緋織は必死に嵐華に声をかける。


「ここからはお待ちください!!」


 嵐華がIRIS医療施設の手術室へ運ばれ、扉が閉まり、緋織は崩れ落ち、扉の前で両膝をつく。


 そのまま血に濡れた身体を小さく丸め、震える両腕で自分自身を抱きしめる。


(……守れなかった……私は……嵐華を……姉を……)


 いつも人のために無茶をする人だと分かっていた。


 分かっていたのに、止められなかった……。


「……嵐華……私は……」


 ただ静寂な時間が流れる中、緋織はただ後悔に苛まれていた——。


 ……


 数十分前、IRIS訓練場——。


 氷華(ひょうか)、炬乃恵(このえ)、愛里(あいり)、瑞帆(みずほ)は今日も訓練と座学に励んでいた。


 そして、紫導グループとして訓練を実施後、教官の花梨(かりん)の号令で休憩に入る。


 愛里はスポーツドリンクを飲みながら軽い調子で言う。


「嵐華姉と緋織姉……任務大丈夫かな〜?」


 炬乃恵は肩をすくめながら答える。


「あの2人なら大丈夫だろ?もうエース級の扱いなんだろ?」

「それに嵐華なんてもう何回か隊長してるみたいだしな〜」


 炬乃恵の前向きな言葉に瑞帆も頷く。


「はい♪無事に帰ってきますよ」

「いつも通りに♪」


 氷華も穏やかな表情で返す。


「……ええ、そうですね」


 だが、内心は逆だった。


 嵐華が任務に出る度、氷華は不安だった。


 エース級の扱いを受ける……それはつまり、危険度の高い任務に就くことが増えるということだった。


 以前の内紛の時のように無謀な待遇はない。


 本人も「隊員のみんなが助けてくれる」と言っていた。


 それでも……氷華は嵐華が任務に出る度、心の中で無事を祈っていた。


(……今回も……無事ですよね?……嵐華……)


 その時、IRIS内に緊急アナウンスが流れた。


『重症者発生!!命の危険あり!!血液型がA型の方は、最悪の場合、献血のご協力をお願いします!!』


(……A型?)


 氷華の胸がざわついた。


 氷華も血液型はA型。


 そして……嵐華の血液型もA型。


(A型なんて珍しくない……でも……)


 胸のざわめきが段々大きくなっていく。


 身体はすでに救急エリアへ走り出していた。


「え?氷華!?」


 炬乃恵はびっくりし、様子がおかしいことに気づく。


 愛里、瑞帆と見合わせ、共に氷華を追いかけた。


 4人が走り去った後、花梨に連絡が入る。


「どうしたの?なにか急用?」


 今回の嵐華の任務を担当していたオペレーターだった。


『花梨教官にはお伝えしようと思いまして……』


「どうしたの?」


『嵐華少尉が……重症です』


「……今……なんて……?」


『先の任務で腹部を貫通……出血多量で危険な状態です……』

『現在、緊急手術中ですので……立ち会いは無理ですが……』


 花梨は拳を握りしめる。


「……分かったわ……連絡ありがとう……」


 通話が終わり、右近(うこん)、左近(さこん)にも共有する。


「……正隊員になれば、こうなることも覚悟は必要です……でも……」


「あの子はまだ16歳……なんとか助かってくれ……!!」


 ずっと育成を担当してきた3人は訓練場から嵐華の無事を祈る——。


 氷華達が救急エリアへ到着すると、ディスプレイに表示された使用状況を確認する。


(Aエリアの手術室だけ使用中になってる……)

「こっちです」


 4人は使用中の手術室の前へ向かう。


 手術室の前まで近づくと、人影が見えた。


 ……


(……立たないと……何かあったら、邪魔になる……)


 しばらく座り込んでいた緋織はようやく立ち上がった。


 だが、力が全く入らず、少しでも押されたら倒れてしまいそうな状態だった。


「嵐華……私を……置いて……いかないで……」


 涙が止まらない。


 ただ、嵐華に帰ってきて欲しい……それだけだった。


「……緋織?」


 いきなり背後から声をかけられ、びくっとするも振り返る。


 そこには氷華、炬乃恵、愛里、瑞帆が信じられないようなものを見るかのような表情をしていた。


 緋織の戦闘服は血塗れのままだったから……。


 そして、炬乃恵が緋織へ声をかけていた。


「……あ……あぁ……」


 4人の姿を見て、堪えきれず、炬乃恵に抱きつく。


「嵐華が……嵐華が……!!」


「……嵐華?」


 氷華の呼吸が止まる。


 視線を上げ、点灯している手術室のランプを見る。


 勘違いかもしれない。


 そう思っていた氷華だったが、緋織と、その言葉で現実を理解してしまう。


「……そんな……嵐華姉?」


「いや……」


 愛里と瑞帆も顔色が真っ青になり、崩れ落ちた。


 氷華は唇を震わせながらも、緋織に聞いた。


「……何があったのですか?」


 緋織をゆっくり通路脇の長椅子に座らせ、落ち着かせる。


 そして、緋織はゆっくり任務の内容、その時に起きたことを4人に話した。


 話を聞き終えると、氷華は理解してしまった。


(……まさか……そんな……?)


 正確に言うと、理解したくないのに、答えにたどり着いてしまった。


「氷華?どうした?」


 炬乃恵が氷華が困惑しているような表情をしているのが気になり、声をかける。


「……伝達速度……」


 小さな声だったが、その場にいた全員に届いた。


 炬乃恵も少し考え、伝達速度の強化について思い出す。


「……!!……まさか……?」


 氷華は手術室のランプを見ながら言う。


「嵐華は……”最適解”が見えています」

「嵐華なら剣を避けて対応することも出来たはずです……でも、庇った」

「それはこうしないと守れないと判断したとしたら……つまり……”わざと刺された”ということになります」


 その言葉で緋織は思い出す。


 嵐華が動き出す前の一瞬。


 緋織を見ていた。


 微笑んでいたが、覚悟を決めたような顔をしていた。


 緋織はその記憶に押し潰され、泣き崩れた。


 愛里、瑞帆も声を上げて泣き出した。


 炬乃恵は何も言わず、ただ緋織を抱きしめた。


 そして、氷華は一歩も動かず、手術室の赤いランプをただ見つめ続ける。


 嵐華は「守る人」になりたかった。


 そして、その願いは最悪の形で証明されてしまう——。


 ——自分の命を削ってでも、守る人だった。

次回、EP39〜約束〜

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