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EP32〜風当たり〜

挿絵(By みてみん)


 平日の昼下がり——。


 指名手配されていた能力犯罪者をIRISがマークし、追跡していた。


 路地裏に逃げ込み、賢治(けんじ)と嵐華(らんか)が追い詰める。


「嵐華少尉!!回り込め!!」


「はい!!」


 嵐華は雷を足に集中させ、横の壁を蹴り、能力犯罪者の目の前へ。


「どけおらーーー!!!」


 犯人は能力を発動する。


 能力は「氷」。


 拳に氷を纏い、嵐華に殴りかかる。


(氷華(ひょうか)と同じ……でも!!)


 嵐華は犯人の攻撃をいなしていく。


「っ……くそがぁ!!」


 頭に血が上ったのか、嵐華に怒涛のラッシュを見せる。


 だが、嵐華は全てをかわす。


「避けてんじゃ!!ねぇ!!…………!?」


「……俺のこと忘れてんじゃねぇよ」


 犯人の脳天に後ろから賢治の踵落としが炸裂する。


 そのまま、犯人は意識が飛び、人形のように倒れる。


 嵐華は戦闘不能であることを確認し、戦闘モードをOFFにする。


「ふぅ……お疲れ様でした♪」


「あぁ、お疲れ」


「では……私は学校に戻りますね」


「……大丈夫か?」


 賢治の言葉に少し言葉は詰まりながらも嵐華は笑顔で答える。


「みんなの為に頑張るって決めましたから♪」


「嵐華少尉〜!!車準備出来てるぞ〜!!」


 IRIS隊員が車を準備して待っていた。


「後ろが着替えるスペースになってるから制服に着替えろ〜」


「すみません、報告はお願いします」

「では、失礼します」


 嵐華は賢治に会釈し、車へ。


 車に乗り、そのまま高校へ向かう。


 賢治はその車を見送るが、表情は少し曇っていた。


(本当に……上層部は何を考えてる……)


 嵐華は制服に着替え、後部座席に姿を見せる。


 運転する隊員に申し訳なさそうに言う。


「……すみません、毎回こうして対応していただいて……」


 隊員は笑って返事をする。


「大丈夫だ♪心配すんな♪俺達はおまえの……紫導家の味方だ!!」


 嵐華は微笑み、感謝を伝える。


「……ありがとうございます♪」


(おぉ……やっぱり天使の微笑みはグッとくるぜぇ……)


 平静を装いつつも、安全運転で嵐華を学校へ送り届ける。


 ……


 現在、IRISは「内紛」へと突入した。


 今回の内紛は嵐華の件が発端なのは事実。


 だが、神威(かむい)と黒葉(くろは)、そして三枝(さえぐさ)達若手幹部達はずっと我慢してきた。


 神威は大将。


 本来であればIRISのトップ。


 だが、本来の権限を秘匿され、上層部内での発言を制限されていた。


 さらに神威と黒葉はSSランクの枷があり、勝手に力を行使することも許されない。


 極め付けは……安西(あんざい)達「正規派」は全員が現場の声を一切聞かないこと……これに尽きた。


 安西達は全員が無能力者。


 実は能力者で幹部になり始めたのは三枝達からだった。


 IRISの組織としての悪しき習慣……能力者を物扱い。


 神威達は内心で感じ取っていた。


 神威と黒葉は何度も何度も提起し、改善されたものはいくつも存在する。


 ローテーション。


 福利厚生。


 任務後の休暇。


 これらの改革で、殉職率は目に見えて減っていた。


 当たり前のように思える内容。


 だが、その当たり前のことが出来ていないのがIRISという組織だった。


 2人の貢献度は計り知れないのだが、それでも安西達は認めなかった。


 結果が出ても、思想が違えば排除する。


 組織である以上、神威達は耐えていた。


 だが、嵐華の件で5人は立ち上がった。


 そして、行き着いたのが「嵐華が結果を出せば、上層部総入れ替え」。


 だが、安西は外部へ悪い情報を流さない条件で、嵐華への任務を選ぶ権利を得ていた。


 この争いの情報が外部へ漏れれば、誰に非があるかとは別に、IRISという組織そのものの信用が傷つく。


 神威と黒葉は嵐華を信じ、嵐華自身も承諾したことで、正式に安西の提案を受ける。


 この瞬間から……嵐華はIRISの運命を一手に受け、風当たりが強くなった。


 ……


 そして、現在——。


 嵐華を乗せたIRISの車が嵐華の通う深山学園(みやまがくえん)に到着する。


「ありがとうございます♪」


「ああ、じゃあ本部に戻って、ライトニングバーストも整備に出しておくからな」


「はい♪ありがとうございます♪」


 嵐華はお辞儀をし、そのまま学園内へ。


 もう5時限目も終わり、6時限目が始まろうとしていた。


「間に合ったかな?」


「嵐華!!怪我はありませんか?」


 嵐華が教室に入ると、緋織(ひおり)がすぐに駆け寄り、体の状態を聞く。


 緋織を優しく抱きしめ、頭をぽんぽんと叩く。


「大丈夫♪今日は賢治さんも一緒だったし……今日は流石にもうないと思うしね♪」


「……今日は学校終わったらすぐに帰りますよ?任務以外は休養が第一優先です」


「うん……分かった♪」


 そして、嵐華は6時限目の授業を受けるのだった。


 夜には家族と食事をし、部屋に戻ると電話をかける。


『嵐華?今日もお疲れ様です♪』


「うん……氷華も訓練お疲れ様♪」


 嵐華は現在、氷華に会えない日々が続いていた。


 それは単に任務の対応で時間が全く取れていなかったからだった。


 少しでも嵐華にとっても、氷華にとっても幸せを感じ、癒される時間だった。


「……もう寝ないといけないかな……会いたいよ……」


『任務に支障が出てはいけませんから……あなたが無事であれば、私は大丈夫ですから……』


 お互い名残惜しくも、通話を終了する。


 嵐華はスマホを握りしめる。


(絶対……私がお父さん達と一緒にIRISを守る!!)


 ……


 次の日——。


 嵐華は緋織と一緒に深山学園へ通う。


 午後の授業に入った時——。


 嵐華のスマホからアラームが鳴り、教室に鳴り響く。


 同級生達は何度も聞くこのアラームに困惑する。


(また?)


(これで何度目なんだ?)


 嵐華が立ち上がり、授業を受け持っていた先生に言う。


「……先生、すみません……IRISの任務で早退します」


「いくらなんでも多すぎじゃないか?昨日もだっただろ?」


 嵐華は微笑む。


「任務ですから」

「いってきます」


 嵐華が出ようとすると、緋織も立ち上がる。


「嵐華、私も行きます」


 だが、嵐華は首を振る。


「ダメだよ?緋織は呼ばれてないでしょ?」

「また帰ったらノート見せて♪」


「……はい」


 緋織は拳を握りしめながら耐えるしかなかった。


 そして、嵐華はIRISの部隊が乗る車に乗り、現場へ向かう。


「嵐華少尉」

「後ろにライトニングバーストを置いてるから着替えてくれ」


「はい!!分かり……?……ありません……よ?」


 隊員は急ブレーキを踏み、車が止まる。


「なんで!?行く前に載せたの確認したぞ!?」


「IRISに電話してみますね?」


 嵐華がIRISに電話し、確認する。


「すみません、IRISの車両準備スペースに私の戦闘服はありますか?」

「……はい……はい……すみません、確認をお願いします」


 現場に向かいつつ、嵐華は通話を続ける。


「はい……え?……そうですか……分かりました……確認ありがとうございます」


 電話を切ると、他の隊員が聞く。


「どうだったんだ?」


「ありました……別の車両に……」


「別!?この車両の番号はNo.61だよな!?そこに入れたぞ!?」


「はい……別の車両もNo.61でした……」


「……は?」


「この前、番号の振り分けのし直しがあった時に不備があったのかもと……」


「いやいやいや……場所は一緒だったんだぞ?間違えるわけ……まさか……?」


 その後は誰も言わない。


 流石にそこまではしないと思っていたから。


 だが、結論は出ていた。


(((((……車両を入れ替えられた?)))))


 後部座席にいた隊員が後ろを指差し、標準の戦闘服と拳銃を指差す。


「……仕方ない……予備の装備だ……これに着替えてくれ」


「はい……分かりました」


「もう現場に着く……早めに着替えてくれ?」


 嵐華は無言で頷き、着替えのスペースへ入り、扉を閉める。


(……今日は戦闘モードだけで戦わないと……)


 現場に到着し、嵐華以外の5人の隊員は警察と状況確認を行う。


 野良能力者の発生。


 能力は「エスパー」。


 超常種に分類される能力であり、超常種の中では一番発現率が高い能力。


 だが、これも形状変化と同様に、系統が分かれる。


 浮遊、遠隔操作、テレパシー等様々だが、今回、暴走した相手の系統は——「読心」。


「心を読む?」


 隊員の質問に警察が答える。


「ええ、こちらの行動が手に取るように分かるみたいで……それに加え、あの筋肉質の大男です」


 現在、警察が包囲して、中央に立っている男。


 身長が2m近い筋骨隆々の体格をしていた。


「……格闘技経験者か?」


 するとIRISのオペレーターから連絡が入る。


『能力データの照合が取れました』

『この男性は……プロボクサーです』

『プロと言っても、そこまで結果を出せている人ではありません』


「まぁプロでは能力使用厳禁だからな……腕輪付けたり色々必要になるし、相当ストレスあるだろうな」


『さらに言うと、体格もあそこまで大きくなく、本来は170cmほどです』


「能力の暴走はどんな作用が生じるか分からないからな……身体強化は暴走の特徴の一つだが、極端だなこりゃ……」


「じゃあ……能力の暴走で体も大きくなってるということですか?」


 戦闘服に着替えた嵐華が通信を拾いながら答える。


 黒いIRISの戦闘服を身に纏い、拳銃を装備し、合流する。


「お待たせしました」

「話は聞いていました……私が1人で対応しても良いですか?」


「……は?1人で!?あれを!?」


 嵐華の突拍子もない発言に隊員はびっくりしていた。


「大丈夫ですよ♪それに私が適任だと思います♪ボクシングならお父さん以外に負けませんから」


 隊員は頭を掻き、ため息を吐きながら答える。


「……分かった……でもバックアップ出来るように待機しとくからな」


 嵐華は拳銃を隊員に渡し、いつもの柔らかい表情で笑う。


「はい♪では行ってきます♪」


 そして、警察の包囲網内に入る。


 野良能力者と対峙すると、嵐華の表情が変わる。


 天使から戦士の顔へ——。


 嵐華がファイティングポーズを取る。


 すると、それに呼応するように野良能力者もファイティングポーズを取る。


(本当に暴走状態なのかな?……静か……)


 嵐華がそう思った瞬間、相手が踏み込み、右ストレートを放つ。


(右……!?)


 避けた瞬間、左のフックが顔面に迫っていた。


 嵐華はスウェーでなんとか避け、距離を取る。


(……そうか、心読まれるから、考えちゃダメだ……)


 構え直し、距離をつめる。


 そして、ほぼ0距離の位置に嵐華は陣取る。


(あんなん危険すぎるだろ!!)


 隊員達は能力の使用準備、そして拳銃も構える。


 嵐華と野良能力者が睨み合い、長い静寂が流れる。


 野良能力者は暴走していながらも困惑していた。


 何も読めない。


 ただ、嵐華は待っている。


 そして、静寂を破り、野良能力者が右フックを放つ。


 すると、嵐華の右のボディブローが突き刺さる。


 だが、勢いは収まらず、左拳を嵐華へ向けて打ち下ろす。


 相手の拳は空を切っていた。


 次は嵐華の左……リバーブローが突き刺さる。


 体がくの字に曲がり、整わないまま、追い討ちに再度、右のボディブロー、さらに左のショートアッパー。


 2mの巨体が少し浮き、倒れ……そのまま意識が飛んだ。


 その光景に隊員、警察はなにも言えず、嵐華が小さく言う。


「……制圧……完了」


 歓喜の渦が巻き起こり、そのまま野良能力者は拘束。


 IRISへ連行する。


 隊員が嵐華に尋ねる。


「なんで心が読める相手にあんなことが?」


 嵐華は戦闘モードを解除しており、柔らかくなった笑顔で説明した。


「ええっと……私が先に動くと読まれてしまうので、相手の攻撃を全てカウンターすることに決めました♪」


「あの拳を?全部?」


「?はい」


 当たり前のように言う嵐華に隊員一同は何も言えなかった。


(((((えぐ!!)))))


 そして、IRIS本部へ報告に戻る為に歩き出した時。


「あ……」


「おっ……と!?」


 嵐華がつまずき、隊員の1人が正面から抱く形で支える。


(あ……いい匂いする……)


「あ……えへ……すみません♪」


 上目遣いで少し恥ずかしそうに微笑むその笑顔を至近距離で見てしまった隊員は固まってしまう。


(……これは……やばい!?)


 他の隊員が思うことは1つ。


((((うらやま!!!???))))


 現場でも嵐華の戦闘モードのON/OFFのギャップが認知されつつあった。


 ……


 IRIS内M-4訓練場——。


 紫導グループは変わらず花梨(かりん)達の指導の元、訓練を頑張っていた。


 その中で氷華は模擬戦。


 育成生同士での近距離戦を繰り広げていた。


 模擬の小刀による小太刀二刀流。


 相手は六尺棒による棒術。


 さらに風の能力で踏み込み、一気に間を詰める。


 リーチの差が明らかにあり、氷華が不利と思われていた。


(く……全部いなされる!!)


 氷華は相手の突きや薙ぎを小太刀で角度をズラしながら牽制する。


 相手の棒が大振りになり、床に叩きつける。


(なら次は……!?)

(なんだ!?棒が床に貼り付いて!?)


 よく見ると棒の先端と床の間に氷が出来ており、硬められていた。


(この一瞬で凍らせれるのか!?)


 氷の生成速度、さらに急速冷凍。


 もう氷華は能力操作に関しては正隊員に匹敵する実力だった。


 そして、氷華の小太刀が相手の首元に添えられる。


「これで、終了ですね?」


 相手は棒から手を離し、両手を上げる。


「はぁ〜参った……降参だ」


「模擬戦ありがとうございました」


 氷華は氷を解除し、棒を返す。


「いや〜本当、俺先輩なのにな〜頼もしい後輩だよほんと」


「ふふ♪お褒めいただきありがとうございます」


「もしかしたら次の飛び級は君かもな」


「……いえそんな……まだ嵐華達には足元にも及びませんから」


「お?噂をすれば」


「え?」


 相手の育成生が指を指した先に嵐華の姿があった。


 だが、服装はIRISの標準戦闘服。


 見慣れない姿に周囲もざわついていた。


「嵐華、お疲れ様です」

「任務だったんですか?その格好は?」


「うん、ちょっと手違いでライトニングバーストが無かったんだよね」


「え?じゃあ雷は?」


「うん、使ってない」


「じゃあ援護ですか?」


「ううん、タイマンで倒した」

「援護してもらえるようにバックアップはしてもらってたけど」


(タイ……マン?)


 雷が使えない状態で、伝達速度の強化と戦闘技術だけで勝った。


 嵐華はやはり規格外。


 そう思ってしまうほど、戦闘モードの嵐華は強い。


 そう氷華でさえ思ってしまう。


(これで上層部から忌み嫌われる意味が分かりませんね)


 上層部への不信感が募るばかりだった。


 嵐華は何事もなかったかのように言葉を続ける。


「さっきの模擬戦観てたよ♪本当に氷華は制御凄いね〜"音"も洗練されてる感じだし♪」


(また音?……音ってなんのことだろう?)


「あの、嵐華?音ってなんのことなんですか?」


「ん?音は音だけど……聞こえない?」


「はい、何のことなのかさっぱり……」


 嵐華は少し考え、言葉にした。


「ん〜っとね……能力を使うとね?私には音が聞こえるんだよね」

「その音の状態でその人の能力が強いか弱いか大体分かるっていうか……」

「それでね?氷華のは特別綺麗なんだ〜♪」

「本当に音が乗ってるみたいな♪」

「多分それだけ制御が上手いってことだと思う」

「緋織も愛里も綺麗な音聞こえるんだけどね♪」


 緋織も愛里も能力操作はIRISの中でもかなり上位。


 それと並べていると嵐華に評価されて氷華は嬉しかった。


「嵐華がそう言ってくれるなら……嬉しいです」


 氷華の言葉に嵐華も微笑みで返す。


 2人の仲の良さに周囲にも癒しが伝播していた。


 だが2人が付き合っているとは微塵も思わない面々だった。


 ……


 IRIS本部幹部執務室——。


 任務完了の報告を事前に受け、机を握った拳で叩く。


「なぜだ……なぜ失敗しない!?」

「あの暴力事件でマイナス査定にしていたのに……もうそれを覆すほどに……!!」

(紫導嵐華の能力は欠陥品じゃなかったのか?……本当に、連盟の判断が正しいのか?)

(いや……能力者なんて野蛮な人種は物で十分なんだ!!)


「入るぞ」


 安西の執務室に神威が入る。


 報告資料を握りしめている安西に神威は言い放つ。


「今日はもう嵐華は任務をこなしたから、今日はもう帰らせる……良いな?」


「……ぐ……!!……ああ……それでいい!!」


 神威は何も言わず、そのまま反転して執務室を出ようとするが、振り返らずに言う。


「そうだ……今日、1人の教官から一身上の都合ということで退職願いを受け取ったんだ……何か知ってるか?」


「……いや、知らんな」


「そうか……ならいい」


 それ以上何も言わず、そのまま執務室を出ていく。


 安西は椅子に深く座り、怒りが頂点に達していた。


(神威……もう娘に何があっても知らんぞ……)


 嵐華の活躍により、このままIRISは生まれ変わる。


 改革派がそう思っていた中、安西のどす黒い闇が嵐華を襲おうとしていることをまだ知る由もなかった。

次回、EP33〜覚悟〜

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