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紫導家ヒストリー  作者: AliceMa
第1章〜紫導家〜
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29/31

EP25〜それぞれの学生生活〜

挿絵(By みてみん)


 Case1——嵐華らんか緋織ひおり——。


 現在、高校2年生。


 そして、今日は急な全校集会があり、2人は校長と共に壇上に立っていた。


(ちゃんと言えるかな……)


 緋織が嵐華の袖を軽く引っ張り、小さく呟く。


「(大丈夫ですから、私が隣にいます)」


「(うん、ありがとう……)」


 2人は全校生徒に目を向ける。


 ——嵐華と緋織はIRISの正隊員となった。


 育成生としての訓練段階を終え、正式に「隊員」として任務につく……命をかける立場だ。


 しかし、本来はIRIS隊員は週3のローテーション任務で1日勤務が義務。


 大学に通っている隊員もいるが、基本は勤務日は授業を休む。


 だが、今まで現役高校生で隊員になったのは嵐華と緋織が初めてだった。


 IRIS上層部が下した結論は「学生運用」のルールを提示。


 平日は週2日で放課後から、土日はどちらか1日勤務。


 高校での学業を優先し、任務を少しずつ慣れてもらう方法をとった。


 2人は中学時代は学年1位2位と学力が高く、進学校レベルの高校へ進学。


 深山学園みやまがくえん——。


 共学の進学校であり、学力に加え、人間性を重んじる高校。


 校風と学力面で合っていた為、2人はこの高校を選択していた。


 入学時は中学校の頃と変わらず。


 むしろ悪化する形で……嵐華の容姿と雰囲気は校内の雰囲気を一瞬で変えてしまう。


 本人は無自覚だが……。


 緋織も当然注目されるが、嵐華はその上をいっていた。


 視線が集まる、息を呑む、声が止まる……それが毎日、当たり前のように起こっていた。


 そんな雰囲気にも関わらず、話しかければ優しく接してくれる。


 ただの高嶺の花ではなく、優しい天使な美少女としてすぐに認識は変わっていった。


 緋織は変わらず、嵐華のボディガードのように行動を共にする。


 誰かが近づきすぎれば、会話の流れを自然に変え、通路で混雑すれば先に立ち、嵐華の歩幅を作る。


 文化祭、林間学校、クリスマス、バレンタイン——。


 どのイベントも本人が望む、望まないに関係なく、中心に嵐華がいた。


 そして、この高校でも1年生の頃からすでに周知されていたことがある。


 それは2人が「IRIS育成生」であること。


 その事実はクラスの同級生達が目の前で見た光景で現実と理解する。


 包帯、擦過傷、打撲痕……そして、学校を休む日。


 怪我が日常の一部になっている。


 最初は中学時代と同様、恋愛感情で見ていた者が多かった。


 だが、時間が経つほどに空気は変わっていった。


 恋とか憧れよりも、まず普通に、元気に過ごしてほしい——。


 嵐華と緋織の同級生達はそういう考えになっていた。


 入学してから1年が過ぎ、高校2年生に——。


 嵐華と緋織はIRISの正隊員になった。


 そして、今、壇上に2人は立っている。


 全員が注目する中、校長から話が始まる。


「この度、紫導嵐華さん、紫導緋織さんがIRISの正式な隊員として、特例で昇格されました」

「能力犯罪、暴走事件が多発する現代において……お二人のご活躍とご健闘を祈り、我々も応援しましょう」


 体育館内が騒然とすることはなく、ただ息が止まる。


(まだ高校生なのに?)


(あんなに怪我をしていたのに?)


(本当に現場に行くってこと?)


 誰もが心の中で思うが、言葉にはしない……出来なかった。


 ただ唖然としていた。


 そんな中、嵐華が一歩前に出る。


 その瞬間、さらに全員が静かになった。


 嵐華は緊張はしていたが、柔らかい表情を崩さず、喋り始める。


「皆さんはすごく驚かれていると思います」

「私の両親もIRISに勤めています」


 拳を握る力が強くなる。


「私達は両親の背中を見て育ちました」

「私達も……”守れる人間”になれるように頑張ります」


 そして、深々と頭を下げる。


 その所作は礼儀ではなく、「決意」に見えた。


 次に緋織が前に出て、嵐華の横に並ぶ。


 同じように静かに、そして正確に言葉を選ぶ。


「姉と同じ言葉になりますので、割愛させていただきます」

「ただ……私達はまだ高校生の身です」

「基本は普段と同じように高校へ通学いたします」


 そして、クラスメイトが並ぶ場所に視線が向く。


「ですので……ご学友の皆様には、これからも仲良くしていただけますと幸いです」

「私達は”日常”を捨てません」


 話し終えると緋織も深々と頭を下げた。


 顔を上げ、緋織と嵐華が顔を見合わせると、どちらも優しく微笑んでいた。


 顔は見えていたわけではない。


 だが、その雰囲気を感じ取り、クラスメイト、そして同級生達は安堵していた。


(良かった……)


(どこか遠くへの世界へいっちゃうわけじゃないんだ……)


(まだ、ここにいてくれる)


 嵐華と緋織は壇上から下り、クラスメイトのところへ戻る。


 クラスメイトの女子は感極まったのか、嵐華に抱きつき、泣き出してしまった。


 嵐華はそのクラスメイトの頭を撫でながら微笑む。


 何も言わない。


 ただ、落ち着くまで静かに撫で続けた。


 緋織もただその光景をただ見つめていた。


 静かに、だが嵐華と緋織は日常とIRIS——。


 育成生が終わり、生死をかけた「非日常」へ踏み込んだ。


 ……


 Case2——愛里あいり瑞帆みずほ——。


 姉の嵐華と緋織の母校である中学校。


 そこで2人は中学3年生であり、最上級生になっていた。


 入学当初は「紫導嵐華、緋織の妹達」と騒がれていた。


 更に双子であることも話題性抜群。


 最上級生になる頃には嵐華と緋織の妹という肩書きは薄れていった。


 ようやく平和に……とはならなかった。


 単純に「嵐華と緋織の妹」から「愛里と瑞帆」へ注目が移っただけだった。


 愛里は嵐華とは別ベクトルで人気があった。


 明るく、誰とでも仲良くなれるし、空気も軽く出来る。


 教室でも廊下でも自然と人が集まる。


 一方、瑞帆は静かで清楚な佇まい。


 瑞帆は愛里と違い、まさに名家のお嬢様のようだった。


 大人しくても芯はあるが、おしゃべりは苦手。


 愛里とは正反対。


 だが、そのギャップが姉妹として更に魅力となっていた。


 当然のように告白は多い。


 嵐華ほどの「災害級」とはいえないが、それでも最上級生になってからも後輩からラブレターが何通も届く。


 昼休みに食堂へ向かいながら、瑞帆はため息混じりに小声で言う。


「……愛里はモテモテですね」


 愛里は笑いながら返事をする。


「え〜?瑞帆も貰ってんじゃん♪」


 その言葉に瑞帆は小さく視線を逸らす。


 否定はしない。


 ただ、その仕草ですら、後輩達の心臓には悪いことを本人は知らない。


 食堂で同級生、仲良くなった後輩達と一緒にご飯を食べていると、愛里のスマホが震える。


「ん?誰だろ?」


 スマホの画面には「嵐華姉」と表示されていた。


「あ、ちょっと電話するね〜♪」


 愛里は席を立ち、少し離れて電話に出る。


「もしもし〜♪嵐華姉〜?どうしたの?」


 電話越しの声を聞いた瞬間、愛里の声色がさらに明るくなる。


 同級生達にも見せないほどの笑顔を見せていた。


「迎えに?みんなで?あ〜良いよ♪どんな学校か気になってたし」

「だって進学校だもんね〜」

「うん、また駅で待ち合わせね?じゃあまたね〜♪」


 そして、通話を切り、笑顔で席に戻る。


 瑞帆はその表情を読み取る。


「嵐華姉からですか?」


「うん、放課後一緒にIRIS行こうって〜♪」


「今日は勤務日でしたっけ?」


 嵐華の名前を聞いた同級生が質問をする。


「嵐華先輩?なつかしいな〜元気にしてるの?緋織先輩も」


 愛里は胸を張る。


「うん!!めちゃくちゃ元気だよ♪」

「2人共正隊員になったから忙しくなるだろうけどね〜♪」


「正隊員!?もう!?まだ高校生だよね!?」


「うん♪やっぱりすごいよね〜嵐華姉と緋織姉は♪」


 愛里の言葉に瑞帆も静かに頷き、言葉を重ねた。


「私達も……頑張らないとです」


 そんな中、一緒にいた後輩が恐る恐る尋ねる。


「お二人にお姉さんがおられるんですね?2人も」


 愛里達の同級生が即答。


「2人共やばいくらい美人だよ?もう”超絶美人”」

「しかも愛里達と一緒で双子だし」


「双子2組!?凄いですね!!」


 瑞帆がスマホを取り出し、淡々と写真を見せた。


 そこには嵐華と緋織が卒業式の日に卒業証書を持って、笑ってピースしている写真だった。


 その写真を見て、後輩は固まる。


「……え……やば……美人すぎません?」


 瑞帆はその事実にため息を吐きながら答える。


「はい、特に嵐華姉は天使みたいな人です」

「なので、普段はナンパされまくるので、守るのが大変です……」


「もう……瑞帆それ言う?」


 愛里が笑って言うが、否定はしなかった。


 最上級生になっても結局、平和なんて簡単には来ない。


 今日も姉達の背中を見続け、追いかける。


 ……


 Case3——氷華ひょうか炬乃恵このえ——。


 氷華と炬乃恵はIRISの寮で生活。


 そこから高校へも通学していた。


 氷華と炬乃恵が通学していた白泉学園はくせんがくえんは中高一貫校だった為、そのまま高等部へ進学。


 白泉学園は「全国一の進学校」。


 それでも、2人の学力は問題なく、平穏に学生生活を送れる……そう思っていたが、問題が発生する。


 その問題とは恋愛だった。


 中等部では「校内恋愛禁止」。


 氷華も炬乃恵も注目はされていたが、このルールがあったおかげで特に何もなかった。


 だが、高等部ではそのルールが撤廃される。


 その解放が、氷華達にとっては最悪の方向へ作用していた。


 進学校だが、カップル率が多いことも有名だったが、氷華達は全く知らなかった。


 氷華と炬乃恵は……中等部から一緒だった同級生達から告白を受け続けることになってしまった。


 そして、今日も氷華は告白を受ける。


「中学の頃から好きだった……付き合ってください!!」


 真っ直ぐな言葉に対し、氷華は迷うことなく、丁寧に返す。


「申し訳ありません……すでに好きな方がいますので……」


 嵐華とはもう恋人同士。


 だが、それはまだ2人の秘密。


 単純にその方が周囲も気を使わずに済む。


 嵐華と氷華もそう考えていた。


(……公言した方が良かったかもしれませんね)


 心の中でほんの少し後悔があった。


 告白が終わり、その場を立ち去る。


 廊下を歩いていると、炬乃恵が壁際で立っていた。


「終わったか?」


「ええ」


「本当……多いよな〜」


「それはあなたもですよ?ほら」


 氷華がそう言い、視線を炬乃恵の先に向ける。


 その先には女子が下を向いていたが、顔を赤くして待っていた。


 炬乃恵は目を瞑った後、その女子の元へ。


 炬乃恵も氷華に負けず劣らず、人気があった。


 ただ、炬乃恵の場合は男女両方から告白される。


 しかし、炬乃恵の回答はいつも同じ。


「悪りぃな……俺にはもう好きな人がいるから」


 いつものように断り、その場を立ち去る。


 すでに好きな人がいる。


 最初はこれで諦めてくれるだろうと氷華と炬乃恵は思っていた。


 だが、相手の考えがポジティブすぎた。


 好きな人=実は俺?私?という勘違いムーブが発生していた。


 止まらない。


 終わらない。


 氷華と炬乃恵にとって、高校初年度は最初から前途多難だった。


 そう思っていた矢先、昼休みが終わりかけの時間——。


 炬乃恵のスマホが震える。


 緋織からの連絡だった。


 炬乃恵はメールを確認し、隣の席に座っていた氷華に伝える。


「授業終わったら迎えに来るってさ」

「緋織と嵐華が、愛里と瑞帆も連れて」


 氷華はそれを聞き、思考が止まった。


「……ここに……ですか!?」


 今の氷華、炬乃恵への告白事情を見れば、高校になって恋に飢えている輩がいるところに……。


(嵐華が来る?……最悪の組み合わせでは?)


 静かな声だが、決意を込めて炬乃恵に言う。


「……炬乃恵、授業が終わったら、すぐに正門へ行きますよ」


 だが、炬乃恵は少し曇った表情で答える。


「あのさ……多分、4人の方が早いぞ?」

「俺らって”特進クラス”だから他のクラスより時間長ぇし……」


(あ〜……)


 氷華は机に項垂れていた。


あおいさんがあんなに悩んでるなんて珍しい)


 周囲の同級生達は勝手に勘違いしていた。


 ……


 授業が終了する頃には、もう正門が騒がしかった。


(もう来ていますか……)


 氷華と炬乃恵は急いで帰り支度をする。


 そして、窓から正門の方を見る。


 嵐華、緋織、愛里、瑞帆の4人が到着し、正門で待っていた。


 他校の生徒であり、しかも全員が高レベルの美人……特に嵐華。


 何も起きないはずがなかった。


 案の定、すぐに声をかけられていた。


 学生だけでなく、警備員まで……。


 警備員ですら、嵐華と会話し、ほんのり鼻の下が伸びている。


(あいつ……)


 警備員を見て、氷華が苛立ちを見せる。


(……あの距離で見えてんのかよ……恋の力か?)


「……行きますよ」


 氷華は遠目で冷静になりつつ、炬乃恵と全力で向かう。


 その間にも嵐華達は話しかけられ続けられていた。


 行列が出来るほどに……。


「誰か待ってるんですか?」

「良かったらこの後お茶でも」


「いえ……友達を待っていますので……」


 嵐華は氷華、炬乃恵の名前は出さないが、質問に対して丁寧に答えてしまう。


 嵐華がたじたじしている間、緋織、愛里、瑞帆はガードを徹底するが、その3人も声をかけられる。


 どう対応しようかと緋織達が悩んでいた。


 その時——。


「(……こんな時でも無防備なんですね、嵐華は)」


「氷華?」


 氷華が到着し、嵐華の隣へ立ち、小さい声で話しかける。


 炬乃恵もさりげなく、緋織の隣へ。


「炬乃恵、お疲れ様です」


「……お疲れ……うん、お疲れ」


 2人が嵐華達に話しかけていたことに同級生達が尋ねる。


「え?葵さん達の知り合い?」


「ええ、IRISの先輩です」


 その言葉に周囲は騒然となった。


 特に嵐華を見て驚いていた。


「あの人もIRISなの?」


 周囲から見れば嵐華はどう見ても「無害で優しそうな美人なお姉さん」にしか見えなかった。


 氷華は少し微笑みながら言葉を続ける。


「外見で人を判断してはいけませんよ?」

「訓練の時間に遅れますので失礼します」


 氷華は歩き出す。


「行きましょう、皆さん」


 その一言で空気が変わり、6人はそのまま駅へ向かい始める。


 白泉学園の生徒、関係者達は嵐華達「美人集団」をただ見たまま呆然としていた。


 駅へ歩きながら氷華は嵐華達に釘を刺す。


「……皆さん、高校の前まではご遠慮願います」


 内心は嬉しかったが、感情は隠す。


 嵐華は小さく頷く。


「……はい、そうします……」


 嵐華の妹達は大変だったが、嵐華の人気になぜか誇らしげだった。


「いや〜進学校でも思った以上のナンパ率だったね〜♪」


「流石です♪」


「……想定の範囲内でした」


 炬乃恵も同じような感情だった。


「俺と氷華よりやっぱ人気あんな〜嵐華は〜♪」


 各々嵐華の人気っぷりに少しからかいながら言う。


 嵐華は頬を赤らめ、ぼそっと呟いた。


「……あんまり自慢出来ることじゃない……」


 だが、そんな困った表情でも周囲の視線を釘付けにしてしまう。


(私は……とんでもない人の恋人になってしまったのでは?)


 氷華は嵐華の人気を改めて認識した出来事だった。


 そして、6人は駅へ向かい、そのままIRISへ——。


 日常から非日常へ……今日も戻る。

次回、EP26〜男の影〜Side.H〜

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