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紫導家ヒストリー  作者: AliceMa
第1章〜紫導家〜
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27/28

EP23〜告白〜

挿絵(By みてみん)


 2021年4月8日——。


 この日、嵐華らんか緋織ひおりは晴れてIRISの正隊員になった。


 そして、その夜——。


 嵐華は氷華ひょうかの部屋で小さなお祝いが開かれていた。


 派手な祝賀ではなく、静かな場所。


 テーブルには氷華の手作りの料理。


 氷華がエプロン姿で立ち、嵐華の前に並べる。


「お口に合いますか?」


 初めて手料理を好きな人に食べてもらう。


 少し緊張しながら聞く。


 嵐華は一口食べ、満面の笑みを浮かべていた。


「うん♪美味しい♪本当に美味しいよ♪」


 その笑顔に氷華の胸が解けていく。


(誘って良かった……)


 おぼんを握り締め、氷華は笑みが溢れていた。


 ……


 2日前——。


 嵐華と緋織は紫導グループでの訓練が始まる前に、教官である花梨かりん右近うこん左近さこんに挨拶をする。


 正隊員になると教官の指導から外れ、訓練は基本的に自主訓練となる。


 そして——今日でその指導が終わる。


 嵐華から3人に話しかける。


「花梨さん、右近さん、左近さん」

「私と緋織は、明後日から正隊員になります」

「今の私達があるのは花梨さん達のおかげです……ありがとうございました」


 少し感傷に浸りながらお辞儀をする。


「嵐華……別に私達と今生の別れってわけじゃないんだから……訓練場に来たら顔見せなさい」


 花梨は嵐華の頭を優しく撫でながら、自身も少し涙目になっていた。


「はい♪」


(((鬼の目にも涙……)))


 花梨の姿を見て、炬乃恵このえ愛里あいり瑞帆みずほは自然と内心、思ってしまった。


 花梨は緋織の方に目を向ける。


「緋織も、嵐華としっかりやりなさい?」

「私みたいに大怪我しないようにね?」


 緋織は真剣に花梨の言葉を聞き、即答していた。


「はい、私も嵐華も絶対守ってみせます」


 右近と左近は後ろでただ腕を組み、涙を我慢していた。


「右近さん……左近さん……寂しいですよね」


「いいえ……育成生から正隊員になることは栄誉なのよ……だから……嬉しいわ」


 右近は言葉とは裏腹に掠れた声で寂しそうだった。


「絶対!!訓練場に来いよ!!」


 左近は熱くなり、嵐華と緋織を2人同時に抱きしめる。


「左近さ〜ん?男が抱きついたらセクハラだぞ〜?」


 炬乃恵が半分冗談で言うと、左近は熱い涙を流しながらも答える。


「嵐華と緋織は娘みたいなもんだ!!娘に抱きついて何が悪い!?」


(……おお、熱血教官……最初はクールだと思ったんだけどな〜)


 紫導グループで訓練するようになってから、一番変わったのは……左近だった。


 神威かむいを除いて、唯一の紫導グループで男性。


 ずっと嵐華達を指導することで、段々過保護になり、「紫導グループのお父さん」的ポジションになっていた。


 そんな感情の為、周囲の教官や育成生からは特に羨ましいと思われなく、ただ微笑ましい光景として認識されていた。


 抱きしめられながら、嵐華と緋織は左近に優しく抱きしめなおす。


「左近さん……いつもみんなを見てくれてありがとうございます♪」


「今後も愛里達をよろしくお願いします」


「ああ……任せろ!!」


 抱擁を交わす中、花梨が左近を引き剥がす。


「さ!!まだ今日の訓練始まってないのよ?」

「始めるわよ!!」


「「「「「「はい!!」」」」」」


 嵐華達は大きな声で返事をし、6人では最後の訓練を開始する。


 もう嵐華の特訓は秘匿ではなくなったので、通常の中距離戦術がメインのM-2訓練場で訓練を実施。


 雷の外部放出、内部制御を完璧にこなす嵐華。


 最適の位置にシールドを即時展開し、正確無比な狙撃を魅せる緋織。


 重力を操り、ダンスをしているように見え、強烈な一撃を浴びせる愛里。


 ダイヤモンドで生成した刀で抜刀術、居合いを中心に剣術を磨く瑞帆。


 炎と爆破による突破力で、壁をぶち破り、目標に対して打撃、捕縛で無力化する炬乃恵。


 そして、水と氷を天才的な制御で操り、中距離での空間を支配する氷華。


 6人がいつも通りの訓練をする中、ある2人にも変化が生じていた。


((……あ))


 嵐華と氷華——。


 訓練中や休憩中でも自然とお互いの位置を探すようになっていた。


(……分かりやす……)


 炬乃恵は2人の行動に気づいていたが、なぜか他の3人は全く気づいていない。


(恋愛に興味なさすぎだろ……緋織も興味ないのか……?)


 恋愛関連で緋織と温度差があるのではないか?と勝手に少しだけ落ち込んだ……。


「どうしたの?炬乃恵さん?」


 愛里はなぜか落ち込んでいる炬乃恵に話しかける。


 炬乃恵はじ〜っと愛里を見る。


「……嵐華と氷華を見てどう思う?」


「え?嵐華姉と氷華さん?……う〜ん……凄く信頼し合ってる先輩後輩?」


(そう見えるのか……あれが?)


 炬乃恵からすればお互いを意識しているように見える。


 だが、確かに周囲も恋愛の空気で見ていない。


「(俺が意識しすぎなのか?)」


 小さく呟くが、愛里の隣にいた瑞帆は聞き逃さなかった。


「意識って何をですか?」


 きょとんとしながら聞く瑞帆に炬乃恵は全力ではぐらかす。


「なんでもねぇよ!?」


「……何を騒いでいるんですか……」


 その様子を呆れた様子で見ていた緋織だった。


 そんなやり取りを挟みつつも、紫導グループでの訓練は終わりを迎える。


 花梨の号令の元、6人は集まり、嵐華と緋織は4人の前に立つ。


 そして、嵐華から口を開く。


「……今日で育成生として、みんなで訓練するのは最後」

「私と緋織は正隊員として……待ってるからね♪」


 緋織も続ける。


「私と嵐華も明日から会えなくなるわけではありませんから」

「氷華も炬乃恵も……毎日ではありませんが、訓練には顔を出しますね♪」


 笑顔だが、少し寂しい。


 そんな声色をしていた。


 2人の言葉に氷華から答える。


「私達もお二人とまた”正隊員”としてご一緒出来るように頑張ります」


 炬乃恵も続く。


「ああ、絶対俺達も続くからな」

「待ってろよ!!」


 愛里と瑞帆はどちらもそこまで悲しそうではなかった。


 なぜなら家でも会えるから。


「家で会えるからそんなに寂しくないけど……私と瑞帆もこれからもっと頑張る♪」


「はい、必ず私達も続きます」


 妹達の言葉に嵐華と緋織は微笑み、正隊員としてさらに身が引き締まった。


 そして、花梨から最後の号令がかかる。


「じゃあ、今日の訓練はここまで!!各自しっかり体のケアをしなさい!!」


「「「「「「はい!!ありがとうございました!!」」」」」」


 育成生としての嵐華と緋織の時間が終わりを迎えた。


 紫導グループの中で、その意味で一番焦っていたのは……氷華だった。


(明日から……簡単に会えなくなる……)


 次にいつちゃんと話せるか不透明。


 それが氷華にとっては苦痛だった。


 帰り支度をし、全員が更衣室を出る。


 通路で以前と同じように緋織達4人は前を歩き、後ろで嵐華と氷華が並んで歩いていた。


 嵐華の横顔を見ながら、氷華は意を決して、嵐華に話しかける。


「あの……嵐華……ちょっとお時間良いですか?」


 嵐華はいつもの天使の微笑みをしながら答える


「うん♪いいよ、どうしたの?」


 腕を組み、もじもじしながら氷華は言葉を続ける。


「良かったら……お祝いしませんか?……2人で」


「お祝い……2人で?」


「はい……正隊員になられますし……ご迷惑でしょうか?」


「ん?全然?」

「むしろ凄い嬉しいよ♪」

「でも……いつにしようか?」


 了承を得られたことで氷華の気持ちが少し落ち着く。


「では……明後日の夕方から如何でしょうか?」

「訓練はお休みを頂いていますので」


 嵐華は天井に目線を向けながら考える。


「明後日か〜……ちょうど正隊員の任命式がある日だから、それが終わってからにしようか♪」

「場所はどこでする?」


「……私の部屋でもよろしいでしょうか?」


「氷華の部屋だね♪分かった♪」


「では、お料理を準備して待っていますね♪」


 氷華が笑顔で答えると、胸の鼓動が高鳴ることを嵐華は感じていた。


「……うん、楽しみにしてる♪」


 少し動揺しつつも、笑顔は絶やさなかった。


 嵐華自身もこの気持ちに気づき始めていたが、まだ確証が持てなかった。


 氷華がそう思っていなかったら?


 そんな不安を抱えつつも、誰にも相談しなかった……緋織にさえも。


 これは自分で解決すること。


 なぜかそう思った。


 ……


 そして、2日後——。


 嵐華は緋織と共に高校で始業式を終えた後、IRISの大将執務室にいた。


 正隊員の任命式。


 式となっているが、神威かむい黒葉くろはから内示を伝えるだけのものだった。


 嵐華と緋織が横に並び、姿勢を正し、立っていた。


「紫導嵐華少尉、飛鳥緋織少尉、貴殿らをIRIS正隊員へ昇格させ、今後の任務活動に尽力するよう命ずる」

「訓練の成果を発揮し、能力犯罪にIRIS一同、共に立ち向かい、活躍と健闘を祈る」


 神威は内示の文書を読み、嵐華と緋織に渡す。


 大将として、親として、色々な感情が混ざっていた。


「これでお前達は正隊員だ」

「改めて、ようこそIRISへ……だな」


 神威の横で立っていた黒葉くろはも複雑な気持ちだったが、笑顔で祝福する。


「嵐華、緋織、正隊員への昇格おめでとうございます♪」

「これからは野良能力者、能力犯罪への対応に、あなた達も任務として参加することになります」

「親としては心配しかありませんが、IRISとしては期待していますよ♪」


「うん♪頑張る♪」


「お父さん達と正式に一緒に働けるようになって嬉しいです♪」


 神威は緋織を。


 黒葉は嵐華を。


 それぞれ抱きしめる。


「……絶対、無理はするなよ……」


「私達もあなた達を守りますから……」


「うん……」


「はい……」


 室内はIRISではなく、ただの親子として、静かな時間が流れた。


 その後、神威と黒葉、緋織は夕方には業務を終了し、紫導家の自宅へ帰る。


 そして、嵐華は氷華の部屋へ向かうのだった。


 ……


 現在——。


 嵐華は氷華の部屋にいる。


 氷華の手料理を食べ、その美味しさに満足していた。


 一緒にテーブルを囲みながら食べ、他愛のない雑談をする。


 そんな中、氷華が雷のことについて話す。


「本当に雷の制御が安定して良かったです」


 嵐華はその理由を誰よりも理解していた。


「氷華がいたから……出来たんだよ」


 氷華に相談し、そして、たどり着いた「内部制御」。


 今の嵐華がいるのは氷華のおかげ。


 嵐華は優しい口調で、まっすぐ氷華の顔を見ながら話す。


「本当にありがとう……氷華がいなかった私は今、正隊員になっていないと思う」


 氷華は頬を少し赤らめながら目を逸らす。


「……いえ、嵐華は放出制御だけでも正隊員になれていたと思いますよ?」

「……でも、そうですね……そう思っていただけて……ありがとうございます」


 視線が下がり、スカートを握った自身の手を見る。


(嬉しい……でも……)


 正隊員になり、これからは本格的に任務が始まる。


 育成生の氷華とは立場も時間も変わっていく……。


「……簡単に会えなくなりますよね……」


 ぽつりと本音が漏れてしまう。


「……氷華?」


 嵐華には聞こえていた。


 氷華は静かに言葉を続ける。


「……私は、まだ正隊員になるのは先だと思います……でも……」


 言葉が詰まる。


 でも言わなければ。


 氷華は嵐華の顔をしっかり見る。


「IRISでも……”普段”でも……隣にいては……ダメでしょうか?」


 遠回しな言い方だったが、氷華なりの告白だった。


「……それって……?」


 氷華の顔は真っ赤になっていた。


 嵐華は氷華の言葉の意味を知り、自身の気持ちにも確信に変わる。


(そうか……やっぱり、私も氷華のこと……)


 胸のモヤモヤしていた気持ちが分かり、嵐華は目を瞑り、少し微笑んでいた。


 少しの間、2人は黙る。


 そして——。


「……私で良いの?」


 氷華の顔は真っ赤なまま。


 瞳が左右に揺れながらも、ゆっくりと頷いた。


「うん……嬉しいよ……」

「私で良ければこれからも隣にいてほしいな♪」


 その言葉で氷華の心が解ける。


 気づけば氷華は立ち上がり、椅子に座っている嵐華に抱きついていた。


「これから……よろしくお願いします」


 嵐華も氷華を優しく包み込む。


「うん……こちらこそ……」


 そのまま見つめ合い、距離が縮まる。


 氷華は一瞬ためらうが、嵐華は氷華から目を離さない。


 どちらからというわけでもなく、自然に——。


 そっとお互いの唇が触れる。


 強くはない。


 確かめるような初めてのキス。


 唇が離れ、お互いの顔を見る。


 幸せに満ちたこの瞬間の顔を2人は生涯忘れないだろう。


 この夜——。


 嵐華と氷華は先輩後輩から恋人になった。


 これから、2人の重なった人生が始まる。

次回、EP24〜変化無し〜

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