EP21〜進化②〜昇格〜
訓練を始めてから半年——。
非戦闘状態では段々と内部制御を使えるようになっていく。
嵐華の飲み込みの速さに教官達、紫導グループ、そして神威と黒葉も驚いていた。
だが、ここから課題が浮き彫りになる。
それは実戦での運用。
非戦闘では自分の思う通りの動きをすれば良い。
だが、実戦は違う。
相手の動きにも注意を払い、制御もこなさないといけない。
今日も模擬戦があり、嵐華は1対1での対人戦。
『模擬戦終了——成績を確認した後、訓練へ戻ってください』
勝者が立ち去る中、敗者は床で座り込んでいた。
体育座りでただ天井を見上げる。
「……ふぅ……今日も上手いこと出来なかったな……」
敗者は嵐華。
相手の動きに合わせようとすると内部制御が乱れ、隙ができ、そのまま倒されてしまう。
他の育成生から噂が流れる。
紫導嵐華は弱くなった……と。
自分で選んだこと。
だが、上手くいっていない現状に嵐華は焦りを見せる。
その焦りを訓練にも持ち込み、内部制御の失敗が頻発する。
「はぁ……はぁ……ぐ……」
周囲も心配するが、嵐華は周囲の声が耳に入っておらず、ベンチで座りながらぶつぶつと試行錯誤をしていた。
「(この動きになったら足の分配を変えて……でもそうすると均等が乱れる……じゃあこうして……)」
(……嵐華)
(…嵐華!)
「嵐華!!」
急に大きな声が耳に入り、嵐華はその方向に振り向く。
そこには氷華がいた。
「あ……氷華?どうしたの?」
「何度も呼びました……嵐華、ちょっと良いですか?」
そう言うと嵐華の隣に座る。
「嵐華……焦ってはダメですよ?」
「焦っても何も解決しません」
「また焦って怪我でもしたら……緋織もみんなも心配しますよ?」
「でも……出来るようにならないと……」
「みんなに心配をかけても、ですか?」
「あ……ちが……」
「誰の為ですか?」
「……緋織やお父さん達……それに氷華、炬乃恵……」
「私も入っているなら……ゆっくりで良いですから、まだまだ時間はあります」
その言葉に自分が誤った方向へ向かっていたことに気づく。
誰の為に強くなるのか?
そのことを嵐華は忘れかけていた。
嵐華は目を瞑り、深く深呼吸をする。
「……ごめん、大事なこと忘れてた……」
氷華は自然と嵐華の手を握る。
「はい、思い出していただけて良かったです♪」
お互い見つめ合う中、ふと握っている手を見て、嵐華も氷華も頬が赤くなる。
氷華はぱっと手を離す。
「あ、す、すみません……」
「あ、いや、私こそ……」
その姿を炬乃恵が目撃し、2人の気持ちが近づいていることを確認する。
(ほほう……これはこれは♪)
「炬乃恵?どうしたんですか?
緋織が炬乃恵がニヤニヤしていることが気になり、声をかける。
「いや?なんでもねぇよ」
氷華の恋の行方を応援する炬乃恵だった。
それから嵐華の内部制御は激変していく。
相手に合わせようとしすぎて、乱れていた雷の均等化。
それを嵐華と氷華は「合わせない」ことを選択した。
訓練中は常時、内部制御を行い、ただ馴染ませる。
どんな動きでも自然に均等化を維持出来るように。
その後は模擬戦の戦績にも変化が生じる。
最初は負けていた。
だが、勝ちが先行し始める。
それも圧倒的な戦闘能力の差を見せる。
その嵐華の奮闘に負けじと、緋織も模擬戦では優秀な成績を収めていく。
さらに緋織は嵐華を支える為に神威、黒葉と共にある物を用意していた。
……
そして、内部制御の訓練を始めて1年——。
嵐華と緋織は高校1年生として、もう残り1ヶ月を切ろうとしていた時だった。
紫導グループは模擬戦でも優秀な成績を収め、将来は正隊員確実という評価を得ていた。
だが、その中でも嵐華と緋織は育成生ではもう相手に出来ないレベルになっていた。
2人の模擬戦の相手はとうとう「正隊員」が相手になった。
模擬戦当日——。
嵐華と緋織は模擬戦を行う仮想フィールドに足を踏み入れる。
だが、2人が現れた時に観戦していた者達、対戦相手はざわつく。
2人は専用の戦闘服を装備して現れる。
まるで女神のようなデザインに視線が釘付けになる。
双子らしい意匠を基調としながらも、機能は全く異なっていた。
嵐華専用装備「ライトニングバースト」——。
能力名と同じ名前を付けられた装備。
雷の出力が50%を超過、つまり暴発兆候があった場合の強制急速放電機構。
内部制御を安定化させる為の内部放電制御機構。
そして、神経伝達の安定化サポート機能。
これは神威、黒葉、緋織の監修によるIRIS技術班と共同開発された技術の結晶。
ライトニングバーストは単なる装備ではなく、嵐華を守る為の制御装置だった。
そして、緋織専用装備「スパルタンガンナー」——。
外見はただの色違いに見えるが、中身は全くの別物。
高耐久防護素材で作られ、長距離狙撃時の反動制御抑制機能。
シールド展開時の能力負荷分散。
射撃と防御を両立させた設計となっていた。
この装備の思想はただ一つ、緋織が嵐華を守り、自身も守る為。
個別の専用装備でありながら、2人1組で100%の性能を発揮する仕様にしていた。
まさに双子専用装備。
嵐華はIRIS標準装備の拳銃を2丁準備し、模擬戦用の弾丸入りのマガジンを装着する。
緋織もIRIS標準のスナイパーライフルに弾を込める。
「嵐華……ライトニングバーストは問題ありませんか?」
緋織が嵐華に装備の状態を聞く。
嵐華は拳銃を腰に装着し、フィンガーレスグローブの装着具合を確認しながら、微笑んだ。
「……うん、問題なし♪」
「ありがとう……お父さん達と一緒に考えてくれて」
「いえ、妹ですから」
「姉を守る為に頑張ることは当然です」
「ありがとう、私も緋織を守るからね♪」
「はい、期待しています♪」
拳を合わせ、笑顔で話をしていた。
その様子を見ていた模擬戦の相手——。
2人の正隊員。
能力ランクはAランク。
強さとしてはエース級に近い存在。
能力は「火」と「風」のコンビ。
どちらも拳銃を準備し、中距離戦を主体としていた。
装備はIRISの標準戦闘服。
軽量ながら耐衝撃繊維を主素材とした汎用装備。
嵐華達の専用装備にも搭載されているが、通信装置、バイタルセンサー、能力出力モニター、耐刃、耐熱機能を標準搭載。
IRISの装備は他国の機関から見てもかなりコストが高く、生命維持を目的とした装備構成となっている。
「……1人はスナイパーか」
「だが、ここは完全に中距離用だ
「障害物も少ないし、スナイパーライフルを持ったところで問題ないだろ」
「よし、期待の育成生だが、こっちも負けられないな」
こちらも拳を合わせ、開始位置に移動する。
相手が移動することを確認し、嵐華と緋織も移動を開始。
嵐華は目を瞑り、集中する。
(大丈夫……緋織もいる……私は……みんなを守る!!)
互いに開始位置に付くと、アナウンスが流れる。
『模擬戦を始めます……カウントダウン開始……3……2……1……』
ブザーが鳴る。
鳴った瞬間、嵐華は飛び出す。
相手の正隊員はそれぞれ火炎弾、真空弾を生成し、拳銃を構えながら2人で同時に飛び出す。
嵐華も二丁拳銃を構え、臨戦体制。
正隊員がどちらも射撃を開始し、嵐華へ向かって放たれる。
だが、撃った瞬間、嵐華はすでに回避行動をしていた。
弾丸は綺麗に嵐華の横を抜ける。
(こっちが撃った瞬間に躱すだぁ!?)
(それなら!!)
躱すのを確認すると、射撃も交えながら生成した火炎弾、真空弾を放つ。
だが、次は嵐華は躱さなかった。
(……なぜ躱さない?)
疑問に思っている中、嵐華が小さく呟いた。
「緋織」
嵐華の目の前にシールドが即座に生成される。
弾丸、火炎弾、真空弾の全てがシールドに命中する。
だが、シールドには一切ヒビも入っていなかった。
(前の模擬戦でのデータと比べて、明らかに強度が上がっている?)
即座にリロード、火炎弾、真空弾の再生成をしようとするも、2人の足元の手前にライフル弾が命中し、地面が抉れる。
緋織の狙撃が始まった。
スナイパーライフルはIRIS標準。
だが、種類は対物ライフル。
模擬弾とはいえ、威力は絶大。
体に命中させず、相手の退路、陣形を崩すことに集中する。
(……これじゃ簡単に生成する隙がねぇな)
2人は顔を見合わせ、一度散会しようとした時——。
目の前に嵐華が現れる。
雷の内部制御に加え、足元に放出制御を行い、爆発的なダッシュで一瞬で間を詰めていた。
その間も二丁拳銃で突撃しながら牽制射撃をしていた。
(あの地面への狙撃は目隠しもあったのかよ!?)
間合いが完全に近接戦闘の距離になった瞬間、嵐華は拳銃を放り投げ、ガンナーからボクサーへ変わる。
即座に近接戦闘へ切り替えようとするも、反応が追いつかない。
嵐華は目の前の相手に向かって、左フックで顎に一撃を加える。
すると脳震盪が起こり、膝をつき、動きが止まる。
嵐華はすぐにもう1人の正隊員と向き直ると一瞬で間を詰める。
相手もボクシングスタイルで対抗し、牽制で軽くジャブを入れる。
しかし、そのジャブを躱し、一瞬で嵐華の拳がボディに入る。
16歳女子の拳。
相手は我慢すれば大丈夫と思っていた。
(……なん……だ……この……威力……!?)
戦闘服の衝撃吸収でなんとか耐えたが、体はくの字に曲がり、後ろへ後退する。
嵐華はさらに追撃。
リバーブローから右フックのコンビネーションでノックダウン。
相手は全く動かなくなり、脳震盪させたもう1人も戦闘継続不可能。
一気に制圧が完了する。
模擬戦開始わずか数十秒の出来事だった。
ブザーが鳴る。
『模擬戦終了——今すぐ医療チームは治療を開始してください』
観戦していた面々は唖然とする。
ほぼエース級の隊員が全く相手にならない?
実戦経験豊富な正隊員が育成生に圧倒された。
もはやその能力は「育成枠」ではなく「現場戦力」だった。
その模擬戦も上層部は見ていた。
……
それから2週間も経たない内に神威、黒葉を含めた上層部で会議が開かれる。
議題は「紫導嵐華、飛鳥緋織の正隊員への昇格について」だった。
2人の能力評価、実戦適正、精神安定度等あらゆる項目が基準値を大きく上回っていた。
あとは年齢のみ。
本来、正隊員への昇格は18歳以上、高校卒業が原則となっていた。
幹部の1人が口を開く。
「この2人はもう育成生の枠に収めておくことは出来ないな」
「実戦はまだだが、すでに正隊員でも上位層の実力だ」
「……これは異例の判断だが……例外措置で昇格させても良いと思うが、どうだ?」
その言葉の先にいたのは神威と黒葉。
大将、大将補佐という立場で公平に意見をする。
神威から口を開いた。
「俺は正隊員に昇格させても良いと思う」
「だが、まだ高校生だ……任務の範囲、頻度は限定はした方が良い」
黒葉も続く。
「はい、これは私達の娘というだけではありません」
「あの子達の若い才能を活かす為の運用を今後は考えないといけません」
基本的に2人と上層部間では溝があるが、今回は意見が一致していた。
「因みに他の4人はどうする?」
「正直、実力も申し分ないとは思うが?」
4人とは氷華、炬乃恵、愛里、瑞帆のことだった。
この4人も基準を満たしており、昇格案は上がっていた。
だが、黒葉はそこで線引きをした。
「愛里と瑞帆はまだ中学生ですし、氷華さんと炬乃恵さんは入所してからまだ2年経っていません」
「いくら才能があっても、経験が浅いことは危ないですから、特例は”16歳以上”としましょう」
こうして、嵐華と緋織のみ異例の正隊員への昇格が決まった。
……
S-1訓練場——。
紫導グループで訓練をしている中、神威、黒葉が直接、嵐華と緋織に伝えることに。
「嵐華、緋織、ちょっと良いか?」
「良ければ全員集まってください」
2人の声かけに花梨は号令をかけ、6人を神威と黒葉の前まで行かせる。
「お父さん、お母さん、どうしたの?」
嵐華が2人に話しかけると、神威は連絡事項を伝える。
「ああ……嵐華、緋織、お前達の正隊員昇格が決まった」
突然の昇格の通達に嵐華と緋織は現実味がない顔をしていた。
「しかし、まだ正隊員になるまで2年以上はあるのでは?」
緋織が疑問に思うが、黒葉が答えた。
「ええ、なので、今回は特例です」
神威が話を続ける。
「だが、これはお前達が了承すればの話だが……やるか?」
その言葉に嵐華と緋織に迷いはなかった。
「やる」
「やります」
2人の意思を尊重し、神威と黒葉は正式に昇格させることを承認する。
こうして、2021年3月——。
嵐華と緋織は正隊員へ昇格することが決定。
正式な時期は4月になってからになる。
正隊員になることで階級が付き、「少尉」となる。
そして、氷華、炬乃恵、愛里、瑞帆は2人の背中を見ながら各々決意を固める。
嵐華、緋織はIRISの主戦力として、本格的な任務が始まろうとしていた——。
次回、EP22〜飛鳥を名乗る理由〜




