EP21〜進化①〜理論〜
紫導グループが形成されてから半年が経過しようとしていた——。
嵐華と緋織は中学を卒業し、高校へ進学。
高校へ入っても基本的に訓練のカリキュラムには変更はない。
夕方にはIRISで6人が集まり、訓練、座学を繰り返す。
模擬戦でも紫導グループの実力は、訓練での成果が遺憾無く発揮され、連戦連勝を重ねていた。
ただ、その中で一人だけ、別の壁にぶつかり始めていた。
嵐華だった。
嵐華は6人で訓練するようになってから雷の暴発は1回だけ起こしたものの、軽症だった。
それからは暴発も起こらず、能力の50%を安定して出力出来るように。
専用プロテクターが必要とはいえ、雷の完全制御が可能になったと神威、黒葉、そして紫導グループの面々は安堵していた。
嵐華も模擬戦は無敗。
だが、嵐華は自分の能力に限界を感じ始めていた。
ある日——。
訓練中に嵐華は雷を発動し、高速移動による打撃、射撃の訓練を行っていた。
訓練が終わり、緋織達も帰り支度をする中、嵐華の表情は暗かった。
その表情に気づいたのは氷華だった。
「嵐華?どうしました?どこか体調が悪いのですか?」
「え?ううん、大丈夫……」
何か歯切れが悪い返しに氷華は質問を続ける。
「それでは……訓練内容……ですか?」
「……なんで……?」
嵐華が言い当てられたことに驚いていると氷華は微笑みながら答える。
「嵐華は人間関係では特に問題ないと思っていますから、体調面でないのであれば消去法で……ですね」
通路で歩いている中、緋織、炬乃恵、愛里、瑞帆は嵐華と氷華の前を歩いていた。
嵐華は氷華にだけ聞こえるように言葉を発した。
「あのさ……今日、氷華の部屋行っても良い?」
「…………?…………ひゃい!?」
いきなりの嵐華のお誘い?に氷華は自分で出したこともない声を上げる。
その声に緋織達は振り向くが、「なんでもありません」と氷華は両手を振る。
緋織達が疑問に思いながらも、また歩き出し、氷華は嵐華に聞き返す。
「……私の部屋ですか?」
「うん、ちょっと相談したいことがあって……良い?」
(そういうことですね)
「分かりました、良いですよ」
氷華は嵐華の言いたいことの意図を理解し、了承した。
そして、更衣室で着替えた後、嵐華は緋織に氷華の部屋へ行くことを伝える。
「分かりました、ただ帰りはタクシーを使ってください……分かりましたね?」
「う、うん……分かった」
緋織の念押しの言葉にたじろぐが、了承も得たことで、嵐華、氷華、炬乃恵は寮へ向かう。
「じゃあな、また明日〜」
寮に戻り、炬乃恵は自分の部屋へ、ただ炬乃恵の表情はニヤニヤしていた。
その表情に氷華は少し苛立ちを持つも、嵐華は全く気にしてなかった。
「何か炬乃恵、笑ってたね♪どうしたんだろうね?」
「……さぁ、どうしてでしょうね……」
自分の中なる気持ちを隠しながらも氷華は嵐華を自分の部屋へ招き入れる。
あの負傷中の時から2回目。
嵐華へ対する気持ちを自覚してからは初めて招く。
心臓の鼓動が速くなるのを感じていた。
「コーヒーで良いですか?」
「うん、ありがとう♪」
テーブルにコーヒーを置き、2人とも椅子に座る。
「相談とはどのような?」
「うん……氷華の能力制御のノウハウを教えてほしい」
「私の……ですか?」
「うん、私の能力はスイッチをONにしてから、雷を使うんだけど、使う時は50%の出力で放出するだけなんだ」
「だから、全く戦術の幅がないんだよね……ただ爆発させてその勢いで戦ってるだけ」
「その……だからね?雷を精密に扱えるようになりたいんだ」
「放出しないように」
「放出しない……内部制御ですか?」
嵐華の提案。
それは雷の制御を「放出制御」に加え、「内部循環制御」を取り入れたいというものだった。
「でもなぜ私なのですか?」
「能力の制御だと、緋織や愛里も繊細な操作をしていると思いますが?」
「ううん、緋織も愛里も能力操作は上手いけど、氷華は他の人と違う」
「能力を流れで操作してるのを見てて感じるから……私も参考にしたいなって」
言うことは簡単。
だが、雷を体の中で循環させることの危険性を氷華は危惧していた。
内部で循環させることで内部に直接ダメージが伝わる確率が放出より上がる。
氷華は嵐華が内部循環させる為にどうするべきか考える。
そこで氷華は水で分かりやすいようにイメージの形を作る。
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嵐華は水で作られたイメージを見る。
「これは?」
「正直に言います……これはかなり難しい制御方法です」
「嵐華の言われている内部制御は雷による筋力強化と伝達速度の更なる強化ですね?」
「すごい……そこまで理解してくれてるの?」
嵐華が驚いてる中、氷華は話を続ける。
「私が能力を操作する時に意識しているのは確かに”流れ”です」
「脳から首へ、首から両腕、そして指先へ……基本は上半身だけに能力を使っているイメージです」
「ただ、私の場合もどちらかというと放出制御です」
「体内に水や氷を生成することはしませんので」
氷華は深呼吸する。
「なので、嵐華がすることは私にとっても未知の領域です」
「それでも……やりますか?」
嵐華は氷華の問いを真剣に聞き、ゆっくり口を開く。
「……うん、やりたい」
「そうしないと……お父さん達や緋織達に追いつけないし、これ以上強くなれないから……」
「私は守れる人になりたい、だから……やる」
嵐華の決意を聞き、その真剣な目を見る。
「……分かりました、ではこのイメージの説明をしますね」
そして、氷華が考えた内部制御の方法を嵐華に教える。
「これはまず嵐華が自分の体の構造を知ることです」
「内臓と筋肉、そして筋肉と皮膚の間に”壁”を作るイメージを作ってください」
「そうですね……例えるなら”筋肉と神経だけに雷を通す回路”ですね」
「ただこれは凄く繊細な制御が必要です」
「それを戦闘を行いながら行うのは並大抵のことではありません」
「最悪、体の中で暴発する可能性もあります」
「自分で言っておいてなんですが、あまりおすすめ出来ません……」
正直に制御方法を伝えるが、やはり嵐華の体への負担が跳ね上がることが一番心配だった。
その気持ちも嵐華は理解していた。
「ありがとう……でも大丈夫」
「私、頑張ってみるね♪」
「教えてくれてありがとう」
「氷華は将来、教官になれるね♪」
嵐華の真剣な表情からのあどけない笑顔にまた氷華の胸の鼓動は速くなる。
「い、一緒に訓練してますので、私もお付き合いしますよ」
「いいの?」
「はい、ぜひ頼ってください♪」
「分かった、ありがとう♪」
そして、時間も遅くなったのもあり、嵐華はタクシーで紫導家へ帰宅することに。
タクシーの中で嵐華は氷華のことを考えていた。
(氷華……優しくて、頭も良くて……とっても良い子)
(でもなんだろ……話してると癒される)
(緋織ともお父さん達とも話してる時に感じたことない感じ……なんだろ?)
(明日も会えるのが楽しみだな〜♪)
嵐華は氷華に対して特別な感情を抱くようになっていた。
だが、まだ確信めいた感情にはなっていない。
……
次の日からは新しい制御に関して花梨に許可を取り、「S-1訓練場」で紫導グループは訓練することになった。
S訓練場は特別訓練で使用する場所であり、基本は「秘匿」レベルの時のみ使用する。
だが、雷の制御はやはり世界唯一の為、すんなり許可が降りる。
嵐華は氷華と共に訓練場の真ん中へ。
氷華は氷で壁を形成し、嵐華の四方に配置する。
「じゃあ、始めなさい」
花梨が号令をかけると嵐華は集中する。
壁を作る。
筋肉にだけ雷を通す。
放出はしない。
「どうですか?」
氷華が嵐華に尋ねる。
「……うん、内臓には雷は流れてないけど……ゔ!!」
嵐華が鈍い声を出し、しゃがみ込む。
「嵐華!?」
氷華が嵐華の肩に手を添え、支える。
「大丈夫ですか!?」
「うん……大丈夫、ちょっと痺れちゃった」
緋織達も駆け寄り、ひとまずベンチで休ませる。
このS-1訓練場を使うにあたって、緋織達にも情報共有はされていた。
少し、休んだ後に状況整理を始めた。
花梨は嵐華に問いかける。
「じゃあ、今嵐華はどうして痺れたのか説明出来る?」
嵐華は痺れも取れ、感じたことを正直に話す。
「はい、体全体の雷の分配が不均等になっていたと思います」
「さっきは右足に雷の出力が集中して痺れました……」
嵐華の考察に愛里も自分なりの解釈を伝えた。
「う〜ん、半信半疑だったんだけど、暴発の時もそうだけど嵐華姉って体が丈夫だよね?」
「筋肉に雷を直接通しても痺れだけで済んでるってことは……これが本来の雷の使い方なのかも」
その話を聞いている中でも緋織と瑞帆は嵐華を見てずっと心配していた。
「本当にここまでする必要あるのですか?」
「わざわざ体の中に雷を通すなんて……」
緋織が嵐華の安全第一の考えを口にし、瑞帆も頷いていた。
嵐華は2人が心配してくれることを嬉しく思いつつも、笑顔で返す。
「みんなに守られるだけじゃなくて、私も守りたいから♪」
「迷惑かけちゃうと思うけど……わがまま聞いてくれる?」
心配だが、姉の意思を尊重したいと3人の妹達はそのわがままに付き合うことにした。
「じゃあ、痺れもなくなったので、訓練に戻ります♪」
そして、氷華が氷の壁を再配置し、嵐華はもう一度集中する。
壁を作る。
筋肉にだけ「均等に」雷を通す。
放出はしない。
嵐華の中で回路が形成されていくイメージが膨れ上がる。
雷放出時の爆発的スピードはない。
だが、常人を超える瞬発力を発揮し、氷の壁へ急接近。
拳で殴ると氷の壁が砕け散る。
「……は?」
炬乃恵が自然と声を発した。
氷華が生成した氷の壁の厚さは10cm。
常人ならまず拳で砕くことは不可能。
グローブを装着しているとはいえ、常軌を逸した破壊力を発揮した。
だが、その後はまた痺れが出て、訓練を中断する。
その氷の壁が砕けた跡を見ると教官の右近と左近も驚愕する。
「これって嵐華の砕ける分厚さじゃないわよね?」
「ああ、ヘビー級のボクサーでもヒビが入るくらいだろ?」
2人は顔を見合わせ、嵐華の手を見る。
「骨とか大丈夫?」
右近が確認するが、嵐華はきょとんとし、平気な顔をして笑顔で答える。
「はい、問題ありません♪」
2回目にして、短時間だが、内部制御を成功させた。
だが、これ以降は苦難の時期が訪れる——。
〜続く〜
次回、EP21〜進化②〜昇格〜




