EP20〜紫導グループ訓練レポート〜
IRIS分析室——。
ここはIRISに所属する分析官専用の部屋。
分析官は各隊員の能力波形、身体データ、そして能力犯罪、暴走事件のデータ管理。
能力者のデータ管理を一手に引き受ける。
それは育成生も同じ。
将来的なIRISでの任務を見据え、育成生の段階から実戦武術、射撃、戦術基礎までカリキュラムが組まれている。
現在、とあるグループの訓練データをまとめていた。
そのグループの名は「紫導グループ」。
嵐華、緋織、氷華、炬乃恵、愛里、瑞帆。
この6人が一緒に訓練するようになり、数週間——。
元々嵐華、緋織という象徴と言える存在が目立っていた。
そこへ4人の期待の育成生が集まり、更に注目を集めるようになった。
訓練場、食堂、座学、戦術研究と常に6人で行動している姿から、いつの間にかこの呼び名が付いていた。
最初は軽い冗談での呼び名だった。
だが、やがてそれは育成機関内で一目置かれる存在を示す名称となる。
嵐華達はすでに「チーム」として形成され始めていた。
データまとめを担当する分析官もデータを見て驚いていた。
(このデータは……もう育成生でもトップクラスね……)
分析官は各個人のデータをまとめていく。
File No.1 紫導 愛里
能力:重力【超常種、固有名:グラビティウォーカー】
能力ランク:C
基本戦術:テコンドー
重力操作との相性を考え、蹴技主体の武術を選択。
持ち前の運動神経で跳躍と回転を組み合わせ、さらに重力制御と連動した蹴りは威力絶大。
相手の癖や感情を読み解く力が高い。
じっくり相手を見て、時間をかけて戦うスタイルが定着しつつある。
(重力操作はもうIRISにいる重力能力者の中でもトップね……次)
File No.2 紫導 瑞帆
能力:ダイヤモンド生成【超常種、固有名:ダイヤモンドエッジ】
能力ランク:C
基本戦術:剣道、抜刀術
ダイヤモンド生成能力との親和性を重視し、生成後の持続時間に難あり。
よって、抜刀術による一撃必殺のスタイルを選択。
居合いのセンスもあり、短時間での斬撃勝負に特化。
課題は1対多数になった際の立ち回りの方法だろう。
(”はずれ”って言われてたダイヤモンド生成でここまでの硬度を保てるのはやはり才能ね……次)
File No.3 紅 炬乃恵
能力:炎、爆破【複合種、固有名:無し】
能力ランク:C
基本戦術:古武術 (トンファー)、空手、柔道
制圧特化型として、剛柔の武術の体得を目指す。
体幹と瞬発力が育成生の中でもトップクラスであり、組み技から打撃への移行もスムーズ。
更にトンファーの扱いも上手く、近距離のエキスパートとして期待。
猪突猛進に見えるスタイルも、状況判断が早く、前線で生き残ることを前提にしているように見える。
(総合力で見れば、このグループでトップかも……次)
File No.4 葵 氷華
能力:水、氷【複合種、固有名:無し】
能力ランク:C
基本戦術:古武術(小太刀二刀流)、弓道
水、氷との同調性を重視し、斬撃と射撃の両立を目指す。
小太刀の二刀流に非凡な才能を感じるが、軌道計算能力が突出しており、弓道では理論値に近い矢の軌道を描く。
戦術理解度の高さから近〜中距離を制御する司令塔タイプを目指す。
紫導嵐華と組むことを目的としたスタイルにも見える。
(この子は本当に頭が良い……この中なら一番指揮官タイプかもね……次)
File No.5 飛鳥 緋織
能力:シールド【超常種、固有名:無し】
能力ランク:B
基本戦術:拳銃、スナイパーライフル
シールド能力との相性を考慮し、中〜長距離支援を想定。
能力制御に関してはすでに育成生の範囲に収まらず、正隊員への昇格基準を年齢以外は満たしている。
狙撃訓練時の姿勢、呼吸の静止制御の安定性が群を抜いており、スナイパーとしても将来の有望株。
(紫導嵐華さんの双子の妹さん……やっぱり頭一つ抜けてるわね〜でもなんで”飛鳥”なんだろ?)
(さて……次は大本命……と)
File No.6 紫導 嵐華
能力:雷【通常種、固有名:ライトニングバースト】
能力ランク:A
基本戦術:ボクシング、拳銃(二丁拳銃)
能力ランクは育成生としては破格のAランク判定。
これは雷の能力を制御出来ているということが大きい。
しかし、専用装備のプロテクターが必須であり、常時運用は難しい。
雷の能力OFF時の護身を前提にし、飛鳥大将からボクシングの基礎を教わっており、打撃主体の近接戦闘を選択。
中距離での戦闘手段として拳銃を選択し、二丁拳銃での精度も高い。
純粋な打撃、射撃の命中精度に限れば、正隊員を含めても上位に位置すると推定。
(この子の飛び抜け方は常軌を逸しているわね……でも……)
一番分析官が気にしていたのは嵐華の能力OFF状態でも見せる「圧倒的な戦闘能力」だった。
見ていたデータはある日に行った育成機関の合同訓練日——。
嵐華はこの日は能力「雷」を一切使用していなかった。
雷能力の出力波形ログは完全に0%。
それにも関わらず、ボクシングのミット打ちでは正確無比なパンチの精度。
対人スパーリングでは相手から一撃も被弾せずに能力も使用した相手をノックダウン。
そして、拳銃での射撃訓練は精度、速射速度共にトップ。
そのデータを見返し、分析官は嵐華の驚異的な反応速度を示す結果を見て考え込み、呟いた。
「……いくらなんでも速すぎる」
モニターを見て何度も確認するも、能力波形は検出されない。
つまり、「純粋な身体能力のみ」でトップの成績を叩き出していた。
「これは本人に聞いた方が早いわね」
分析官は紫導グループの予定を確認し、訓練場へ向かう。
……
M-5訓練場——。
分析官が到着すると、グループは休憩時間だった。
教官の花梨が分析官に気づく。
「あら?何か用事かしら?」
「ええ、実は紫導嵐華さんに確認したいことがありまして」
「嵐華に?」
「はい、本人はどちらに?」
花梨は無言で指を指す。
指を指した方向を分析官が見ると、嵐華はベンチに座っていた。
だが、天井を見上げ、ぼ〜っとしながら休んでいる嵐華の姿だった。
(あの成績を収めている子に見えないわね……)
分析官はそう思いながらも嵐華に近づこうとするが、近くにいた緋織が止める。
「すみません、嵐華は必要な休憩をしていますので、お話があれば私が」
少し圧のかかった言葉にたじろぐ分析官だが、気を取り直して聞く。
「……じゃあ、嵐華さんのこの動きについて説明お願いしても良い?」
パソコンのモニターで緋織に見せ、更に他のメンバーもやって来て、一緒に見ることになった。
モニターに映る嵐華の反応速度を確認すると、緋織は答える。
「嵐華は集中すると……見てからの反応速度が異常に速くなるんです」
緋織の回答に割り込むように愛里達も話す。
「昔からそうだよね?」
「はい、本気の時は別人みたいです」
愛里と瑞帆もその反応速度については気づいていた。
だが、なぜそうなるのかは分かっていない様子だった。
氷華と炬乃恵も内容を確認し、意見する。
「確かに速いですが……反射とも思えない動きですね……」
「ああ……まるで答えが分かってるみたいに先に動いてるのか?って動きだな……」
動きの始まりについて疑問に思っていると、緋織が再度、回答の続きを喋る。
「最初は雷を使っている時にしかないものかと思ったのですが、雷を使わなくても使用出来ることが分かり、運用しています」
「なので、雷とは”別の能力”と思っていますが、原理はまだ分かっていません」
「別の能力?ということは嵐華さんは複合種ということですか?」
「しかし、波形パターンを見ると通常種の波形パターンなんですけどね……」
緋織の話を聞いても分析官の疑問は膨らむばかりだった。
その時、訓練場に珍しい人物が現れる。
「どうした?休憩中か?」
「皆さんモニターを見て、どうしたんですか?」
神威と黒葉が様子を見に訓練場へ足を運んでいた。
大将、大将補佐という立場だが、現場主義の為、こうして訓練場に定期的に見に来ていた。
「飛鳥大将、紫導大将補佐、お疲れ様です」
分析官は2人を認識すると、お辞儀をする。
そして、抱えている疑問を投げかける。
神威と黒葉は何の話か聞いた後、少し考えた後、神威が口を開く。
「それは雷を制御する上で生まれた”副産物”だと思ってる」
「副産物?……ですか?」
「そうだな……」
「人間の基本的な運動プロセスは【視認 → 脳処理 → 筋肉への命令 → 動作】という段階を踏むんだが、嵐華の場合は”見た瞬間に判断が終わっている”」
「反射でも、思考の省略でもないんだ……”最適解が見えている”」
「天性もあるだろうがな」
神威の説明に黒葉も補足する。
「雷の能力は人間の神経伝達と密接に関わっています」
「制御訓練を繰り返す中で、神経の情報伝達効率が異常なレベルまで高まったのでしょう」
「雷を扱う為に作られた身体構造……とも言えますね」
「だが、問題もある」
神威は、ぼ〜っとして座っている嵐華を見て、苦笑しながらその問題を語る。
「常時、その状態を続けていれば神経に過負荷がかかってしまう」
「だから嵐華には……この”伝達速度”にもON/OFFのスイッチを作らせた」
「普段はあんな反応はできんぞ?あれは”戦闘モード”だ」
その話を聞き、氷華は理解する。
(だから普段、あんなに……)
訓練時の嵐華と日常の嵐華が別人に見える理由。
OFFにしていることで戦闘時ほど周囲の情報を拾わなくなる。
元々の天然さも相まって、日常では非常に無防備に見える。
ぼんやりしていることもある。
それは天然なだけではなく、神経を休ませている状態も含んでいた。
炬乃恵も腕を組み、頷いた。
「あれが常時だったら……正直怖いっすね」
「でも、OFF出来るからこうやって日常を送れてるんすね」
神威は小さく笑う。
「だから”守る側”と”守られる側”を切り替えるんだよ」
緋織はさらに補足する。
「なので、普段は警戒心がほぼ0なのですぐにナンパされますし……告白もされます」
「だから私が学校や外では基本守らないといけませんので、そこが大変ですね……嫌ではありませんが」
緋織はそう言いつつも少し微笑んでいた。
「……あんまりそのことは言わないで……」
嵐華は緋織の言葉が聞こえていたのか、少し恥ずかしそうに言った。
頬は少し赤くなっていた。
「まぁ、今後は訓練場では俺達もいるからよ♪安心しな♪」
炬乃恵が力強く言うが、嵐華の返事にあっけを取られる。
「?IRISでは何もないよ?」
全員がため息を吐いた。
「え?なに?」
(……これが嵐華姉だよね〜)
愛里は嵐華らしい返事に苦笑いしながらも、このまま優しい人でいてほしいと思う。
「嵐華姉は気にせず、そのままで良いよ♪」
「え?うん♪」
何が何だか分かっていない様子だったが、メンバーに向かって嵐華はただ微笑んでいた。
……
そして、花梨の号令がかかり、訓練を再開する。
分析官は神威達にお辞儀をした後、分析室へ戻り、レポートの続きを作成する。
File No.6 紫導 嵐華
能力:雷【通常種、固有名:ライトニングバースト】
能力ランク:A
基本戦術:ボクシング、拳銃(二丁拳銃)
能力ランクは育成生としては破格のAランク判定。
これは雷の能力を制御出来ているということが大きい。
しかし、専用装備のプロテクターが必須であり、常時運用は難しい。
雷の能力OFF時の護身を前提にし、飛鳥大将からボクシングの基礎を教わっており、打撃主体の近接戦闘を選択。
中距離での戦闘手段として拳銃を選択し、二丁拳銃での精度も高い。
純粋な打撃、射撃の命中精度に限れば、正隊員を含めても上位に位置すると推定。
これは伝達速度の強化が発現したことが大きく影響する。
しかし、これは別の能力ではなく、雷の能力を制御する過程で生まれた、本人の能力運用を支える特殊な身体機能と考えられる。
雷の制御が可能になるまでに、どれほどの努力と時間を必要としたのか。
その全てが、紫導嵐華の積み上げてきた成果であることは間違いない。
紫導グループ訓練レポート作成完了——。
次回、EP21〜進化〜(2話構成)




