表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
紫導家ヒストリー  作者: AliceMa
第1章〜紫導家〜
PR
21/28

EP18〜絆〜

挿絵(By みてみん)


 IRIS育成生寮——。


 氷華ひょうかは自分の部屋で紅茶を飲みながら、学校の課題に取り組んでいた。


(……もうすぐ終わり)


 完了の目処が立ち、小休憩でソファーに座って窓に視線を移す。


 もう夜も遅い時間。


 綺麗な月が海を照らし、東京湾越しに見える街の光と合わせ、幻想的な風景が氷華を落ち着かせる。


 だが、心の奥では引っ掛かりが消えなかった。


 嵐華らんかが医療施設へ運ばれてから数日——。


 訓練中に教官から聞くも、まだ治療中ということしか分からなかった。


 氷華はその間も学業や訓練をいつも通りに真面目にこなしていた。


 手を抜くことはない。


 やるべきことは全てやっている。


 それでも……胸の奥にぽっかりと穴が空いたような感覚だけが残っていた。


 氷華自身、その理由は分かっていた。


(……嵐華さん……あの人に出会ってからずっと目で追ってる)

(一緒にご飯を食べるようになったり、訓練もたまに一緒にしてアドバイスしてくれたり……)

(でも……あんな怪我をして……)


 脳裏に嵐華が倒れている映像がフラッシュバックする。


 腕から裂傷で血が流れていた。


 白い訓練服が赤く染まっていたのも。


(……私は……何も出来なかった)


 ただ寄り添っただけ。


 見ていることしか出来なかった。


(あの人は自分が苦しんでいたのに……それでも私に声を……)


 頭の中で嵐華の微笑みと倒れていた姿がぐるぐる回る。


 それでもやることはしないといけない。


(課題の続きをしないと……)

(それに訓練レポートも)


 紅茶を飲み切ると、ティーカップを置き、課題を終わらせる。


 そして、訓練レポートを書こうとした時——。


 部屋のチャイムが鳴った。


(こんな時間に?……炬乃恵このえ)?


 首を傾げながらも氷華はドアを開ける。


「はい、なんで……」


「やぁ……氷華♪」


 目の前の人物を見て、氷華は信じられない様子だった。


 そこに立っていたのは嵐華だった。


 包帯がまだ所々に巻かれているが、しっかりと立っており、松葉杖もしていない。


(ここまで歩いてきた?)


 表情も穏やかだった。


 だが、嵐華の服装を見て、言葉を失う。


 ……「パジャマ」だった。


(…………)


 施設内とはいえ、その格好で歩き回るのはどうなのか?


 それ以前に……「可愛い」という感情が先に出てしまっていた。


(あまりにも”無防備”すぎる……)


 少しの沈黙が流れるも、氷華は平静を装い、嵐華に話しかける。


「どうしたんですか?中へどうぞ」


 とりあえず部屋の中へ招き入れ、ソファーに座らせる。


 そして、温かい紅茶を淹れ、嵐華の前のテーブルへ。


「どうぞ」


「ありがとう」


 嵐華はティーカップを持ち、揺れる水面を見つめる。


「しかし……どうしたんですか?こんな時間に?」


 氷華の問いに、嵐華は少し照れたように答える。


「倒れてた時、氷華に支えてもらってたって緋織から聞いてさ……」

「動けるようになったから直接お礼に来たんだ」


 そして、嵐華は紅茶に口をつける。


「それなら連絡いただければ病室へ伺いましたのに……」


 嵐華の回答に氷華は驚きつつも、その行動を不思議に思った。


 訓練をしている時は集中しているせいか、全く隙がない状態に見える。


 だが、休憩中や食堂で一緒に食事をしている時は本当に天使のように優しいが、周囲の反応に疎い。


 正直、同一人物には見えないほどに。


(この二面性はいったい……?)


 氷華が不思議そうに見ているが、嵐華は気にせず紅茶を飲んでいた。


 少し飲み、ティーカップをテーブルの皿に戻すと、少し考えるような間を置き、ぽつりと口にした。


「なんでかな?氷華がいてくれたって聞いた時、なんか安心したんだよね」


 その後、すぐに笑顔で氷華を見る。


「だから直接お礼を言いたかったんだ〜♪」


 嵐華の唐突な言葉と真っ直ぐ見つめる目に、氷華は一瞬だが、完全に思考が止まり、慌てて視線を逸らす。


「え、えっと……」


 心臓が妙に速くなる。


 氷華はゆっくりと自分を落ち着かせ、そのまま他愛のない内容を交え、話を続ける。


 嵐華が休んでいる間の訓練のこと。


 炬乃恵も心配していたこと。


 話を続けているとお互い笑顔が溢れていく。


 さっきまで胸にあったぽっかりとした感覚がいつの間にか消えていた。


 嵐華への気持ちで満たされていく。


 そして、氷華はこの気持ちを理解した。


(……あぁ、私は……この人が好きなんだ)


 その事実を静かに受け入れる。


 そして、勇気を出して、氷華も嵐華へ伝える。


「……私もです」

「嵐華さんと一緒にいると……落ち着きます」


 氷華の言葉に嵐華は少し驚くも、優しく微笑みながら氷華を見る。


「氷華もそう思ってくれてるなら良かったよ♪」


 嬉しさが込み上げる。


「あの……教官とも相談になることは重々承知しているのですが……」

「これからも……訓練をご一緒してもよろしいでしょうか?」


 氷華の問いかける声はいつもよりも少しだけ震えていた。


 その不安を包み込むように嵐華は微笑んで頷く。


「うん、花梨かりんさんならOK出してくれると思うよ?」

「これからもよろしくね♪氷華♪」

「それと……私のことは嵐華で良いよ♪」


「……はい、よろしくお願いします……嵐華」


「うん♪」


 その瞬間、言葉にしなくても分かる何かが、2人の間に確かに結ばれた。


 この先、何度もお互いを支えることになる絆の始まりだった。


 因みに——。


 嵐華は医療施設から誰にも言わずに勝手に抜け出していた。


 医療施設では患者が突然姿を消したことで大混乱となっており、神威かむい黒葉くろはにも連絡が入っていた。


 そのことを氷華が聞き、炬乃恵と共に嵐華を施設へ送ることになった。


 嵐華は神威と黒葉に怒られたことは別のお話。

次回、EP19〜復帰〜

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ