EP17〜吐露〜
嵐華が医療施設へ運ばれて数日が経過していた。
この日も緋織は訓練場に立つ。
淡い赤色のシールドを展開し、飛来するゴム弾を正確に弾き返していく。
動きの乱れもなく、精度も申し分ない。
だが、緋織の表情はどこか張り詰めている様子だった。
花梨もそれを察し、休憩を促す。
「緋織、少しあっちで休んでいなさい」
「炬乃恵、あなたも一緒に休憩よ」
「……分かりました」
「……うっす」
担当教官が体調不良で休んでおり、この日は臨時で花梨が炬乃恵も見ることになっていた。
少し離れた場所で炎を纏う訓練を終え、汗を拭いながら、休憩に向かう緋織の背中をずっと見ていた。
(やっぱ元気ないよな……?)
緋織は壁際に腰を下ろし、考え事をしているようだった。
炬乃恵も緋織の隣に座り、いつもより柔らかい口調で声をかける。
何を思い悩んでいるのか理解していたから。
「無理……してないですか?」
炬乃恵の声かけに、緋織は反応するが、視線を落とし、小さく息を吐く。
「……嵐華のことが……少し」
緋織はそう言うとぽつりぽつりと語り出す。
「……雷の能力は昔から”呪い”と呼ばれてきました」
「発現すれば短命、制御不能、暴発すれば……高確率で命を落とす……」
「暴発しても嵐華が……助かっているのは運良く”特別”だからです」
「制御出来ていること自体が”奇跡”なんです……」
今の嵐華がどれだけの事象が重なり合って成り立っているのか。
炬乃恵は緋織から聞き、改めて雷の能力の残酷さを知る。
「小学校の頃は……嵐華だけずっとリモートでした」
緋織は静かに言葉を続ける。
「いつ暴発するか分からない」
「暴発したらどうなるか分からない」
「だから……学校にも通わせられなかったんです……」
あの頃の不安。
両親の張り詰めた空気。
そして、自分にはどうにも出来なかった無力感……。
緋織の声は震えていた。
「今回も……」
言葉が詰まる。
「また……無理をしてしまったんじゃないかと……思ってしまって……」
緋織の言葉に炬乃恵は黙って真剣に聞いていた。
茶化さない。
軽く流さない。
真正面から緋織の気持ちを受け止めていた。
緋織が喋り、炬乃恵は黙って聞く。
その時間がしばらく続き、緋織の肩の力がほんの少し抜ける。
真剣に聞いてくれる炬乃恵に対し、安心感を抱いていた。
緋織は小さく微笑み、炬乃恵を見る。
「……不思議ですね」
「炬乃恵には本音を言えてしまいますね」
その言葉と微笑みに炬乃恵の顔が一気に赤くなる。
「そ、それは……」
一瞬言葉に詰まりながらも、炬乃恵はまっすぐ自分の気持ちを伝える。
「俺には……まだ嵐華さんと緋織さんの苦しみを全部理解出来ているわけじゃないっす」
「でも……俺はいつも緋織さんの味方ですから」
迷いのない声。
緋織はその表情を見つめ、炬乃恵への壁が1つ無くなった気がした。
「私のことは……緋織で良いですよ」
その一言は距離が一歩縮まった証だった。
炬乃恵は一瞬固まり、とまどいながらもゆっくり頷く。
「……じゃあ、緋織……」
「はい」
緋織は嵐華に負けない「天使の微笑み」を見せた。
名前を呼んだだけで胸の奥が熱くなる。
2人の間には静かな信頼が芽生え始めていた。
それを遠くで見ていた花梨はただ目を瞑り、安心したように微笑んでいたのだった。
……
医療施設内個室——。
訓練が終わり、帰る前に緋織は嵐華の元を訪れていた。
家族以外面会謝絶であり、炬乃恵はそのまま寮へ戻っていた。
嵐華は意識も回復していたが、腕など裂傷した箇所には包帯が巻かれ、まだ自身の感電ダメージから回復出来ていなかった。
「……緋織……?……もう……訓練……おわっ……た?」
緋織は嵐華の言葉を止める。
「喋らなくて良いですよ……ゆっくり休んでください」
嵐華はゆっくりと頷き、そのまま眠りにつく。
緋織は嵐華に聞こえているか分からないが、喋り出す。
「……今日、炬乃恵に嵐華のことを色々喋ってしまいました……すみません」
「でも、炬乃恵は信頼出来る人です……今までIRISで私達に接してきた人達とは違います」
「多分……氷華も信頼出来る人だと思います」
緋織は炬乃恵のことを喋ると何か胸の中で詰まるものを感じていた。
「……何なのでしょうね……この気持ちは……」
緋織はその後は黙り、ただ嵐華を見つめていた。
緋織と炬乃恵。
それはまだ始まりに過ぎないが、確実に緋織と炬乃恵の物語も静かに進んでいた。
次回、EP18〜絆〜




