EP15〜妹達〜
嵐華と氷華。
緋織と炬乃恵。
お互いの交流が増えていく中、姉妹、幼馴染の関係もあり、4人で言葉を交わしていく。
訓練は別メニューだが、休憩時間、食堂では一緒にいることが増えていた。
「今日はあまり話しかけられないな〜……なんでだろ?」
「さぁ……なんでしょうね?嵐華さん、こちらの席へどうぞ」
氷華は周囲を気にしつつ、嵐華と一緒に食堂の席へ向かった。
出会ってから数週間経ち、嵐華への呼び方も「先輩呼び」から「さん付け」に変わっていた。
嵐華と氷華が向かい合い、その隣に緋織と炬乃恵が座れるように、4人分の席を確保する。
そして、緋織と炬乃恵はそれぞれ2人分の料理を運んでくる。
「はい、嵐華さん、どうぞ」
炬乃恵が嵐華の料理を前に置く。
「ありがとう♪炬乃恵♪」
嵐華の天使のような微笑みを見て、炬乃恵は少し悶絶しかける。
それでも、いつも同じことを思っていた。
(本当……緋織さんと全然ちげぇな……)
「氷華、こちらをどうぞ」
「ありがとうございます」
4人で一緒に食事をし、談笑をする。
年齢の近い女の子達の日常的な風景が広がる。
その光景を面白くないと思う者も一定数はいたが、いざこざを起こすようなことはしなかった。
ただ、その4人を遠くから見ている2人がいた。
「……本当に信用出来るのかな……?」
「緋織姉がいるので大丈夫だと思いますが……まだ話したことありませんし、心配です」
愛里と瑞帆。
嵐華、緋織とは別メニューで2人は基本一緒に訓練と座学を順に受けていた。
その影響もあってか、姉達と時間が合わず、基本は学校からIRISへ行く時とIRISから帰る時以外は別行動になっていた。
そして、気づけば姉達の横に知らない人がいた。
妹達は姉達に近づいた2人を見定めていた……姉達を守るために。
今まで嵐華と緋織は妹の愛里と瑞帆と一緒にいることが多く、他の育成生とは距離を置いていた。
というよりも教官の花梨と妹の愛里、瑞帆以外に本当の意味で心を許せる人がいなかった。
ただ嵐華に関しては他の育成生と会話している時も笑顔で対応し、特に気にしていない様子だったが、緋織からすれば相手の邪な気持ちが透けて見えていた。
大将の神威、大将補佐の黒葉の娘。
世界初の雷能力の完全制御者。
天使。
育成生の年代からすれば逆玉狙いの気持ちでアプローチしているのがあからさまだった。
緋織は嵐華へのそのような障害から守り続ける日々だった。
訓練は嵐華とは別メニューだが、雷の暴発の危険性も考慮し、花梨が嵐華の訓練に付き添う。
それ以外は緋織が極力合流していたのだが、氷華と炬乃恵に出会ったことで状況は変化していく。
嵐華の側には2人がいる時間も増え、自然と守りが強固になっていった。
ただ、嵐華はそのことには全く気づいておらず……家族達はその鈍感さを心配していた。
翌週の土曜日——。
IRIS能力育成機関では学業優先の方針が取られており、平日は通常の学校に通い、夕方から育成機関で訓練。
土曜日は朝から夕方まで集中訓練が組まれている。
ただし、嵐華と緋織は神威、黒葉、花梨の意向により、定期的に午前中のみ紫導家の地下訓練場で別メニューを受けていた。
よって、育成機関には不在。
この訓練に関しては神威の大将権限なので誰も文句は言えないし、雷関連の話だということは周知していた。
(……今日は嵐華さんがいない日か……)
氷華はいつものように能力訓練と座学に励んでいた。
だが、嵐華がいない……それだけでも心の中に寂しさを感じる。
流れるように水と氷を操作し、数m先の的へ当てる。
すでに能力制御に関しては育成生の中でも群を抜いていた。
担当教官もそのレベルに驚愕していた。
(……あまり教えることないかも……)
水と氷が流れる音のみが反響する空間で静かな訓練が続く。
一方、炬乃恵の方は荒々しい。
「おらぁあああ!!!!」
特殊強化プレートの標的を拳に炎を纏い、殴りつける。
プレートが凹み、炎が残っている……すると……爆発が生じ、大きな穴が開く。
訓練を一区切りし、担当教官は炬乃恵へ話しかける。
「炬乃恵……もうお前の火力は育成生でもトップクラスだ」
「あざす!!」
「早く正隊員になりたいっすから♪」
「……おまえはまだ13歳だろ?」
「正隊員は基本18歳以上だからな……この調子なら正隊員になれるさ」
教官の言葉にさらに胸を高鳴らせる。
「はい!!次もお願いします!!」
炬乃恵の目的はただ一つ、緋織に並ぶこと。
(絶対並ぶ!!……そしたら……)
目指す目標の為、日々鍛錬をこなす。
そして、昼休み——。
氷華と炬乃恵は食堂で並んで昼食を食べる。
「……はぁ……」
「どうした氷華?ため息なんか吐いて?」
氷華は炬乃恵には隠し事はしない。
今の自分の気持ちを素直に答える。
「……嵐華さんがいないので、なんかモヤモヤします……なんなんでしょ……これ?」
「え?……それは〜……」
(おぉ……氷華は嵐華さんのこと……そうかそうか♪)
ニヤニヤしながら氷華を見る。
「……なんですか?その顔」
「いや〜?お互い頑張ろうな〜♪」
(……なんかイラッときた)
氷華はぷいっと顔を横に向け、少し不機嫌になる。
炬乃恵は少しからかいすぎたと思い、少し弁明する。
「すまんすまん……まぁ、その気持ちは大事なもんだし、自分で気づくもんだ」
「……気づく?」
「そ!!だから俺からは言えん!!」
「……分かりました」
あまり納得がいっていない様子だったが、一旦この話は終わった。
「さて、メシ食おうぜ!!腹へ……た?」
炬乃恵が食べ始めようとした時、目の前の席に少女が2人立っていた。
愛里と瑞帆。
嵐華と緋織の妹達。
嵐華と緋織と話しているところを何度か見てはいたが、話したことがなかった。
氷華と炬乃恵が少し話すのに困っていると、愛里から声をかける。
「氷華さんと……炬乃恵さん……ですよね?」
その真っ直ぐな問いに2人は頷く。
すると愛里は言葉を続ける。
「一緒にお昼、食べませんか?」
少し間があったが、氷華が答える。
「ええ、良いですよ♪」
「みんなで食った方が美味えしな」
炬乃恵も快く了承した。
愛里は笑顔になり、さっきよりも声色が明るくなる。
「よかった〜♪改めまして紫導愛里です♪」
「……紫導瑞帆です……よろしくお願いします」
あ〜ここも双子で全然違うな〜。
氷華と炬乃恵は同じことを思っていた。
4人で昼食を食べ始めると、愛里と瑞帆の質問攻めが始まった。
内容はド直球だった。
姉達は「能力」や「出自」ではなく、ちゃんと「人」として見ているのか?
愛里ははっきり言う。
「今の育成機関の教官達は嵐華姉と緋織姉を”優秀な物”みたいに扱ってる気がするんだ……」
「他の同期の人や先輩達から人気もあるけど……なんか目が怖いし……」
瑞帆も静かに頷きながら心配な気持ちを言う。
「お父さん、お母さんや花梨教官が強く牽制してくれているので……今は大丈夫ですけれど……」
「それでも、心配です」
IRISの育成生の中でも最年少。
それでも姉達を守る立場として、2人は常に強い警戒心を抱くようになっていた。
愛里と瑞帆はまだ中学1年生。
それでも本来の規定年齢より早く入所し、姉達と共にIRISの思惑に晒され続けてきた。
本来なら、今もまだ育成機関にいるはずのない年齢だった。
そんな幼い子達に、ここまで強い警戒心を抱かせている。
氷華と炬乃恵は初めて、IRISが抱える闇の一端を感じ取った。
良い部分しか見ていなかった。
だからこそ、こうして愛里も瑞帆も自分達を警戒するのだろうと思った。
(……だから私達のことも警戒されているんですね……)
(姉達を守る為だもんな……仕方ねぇよな……そう思うのも)
2人は顔を合わせ、そして愛里、瑞帆をしっかり見た上で真剣に答える。
「私は……嵐華さんを”能力者”ではなく、”1人の人間”として見ています」
「緋織さんも同じだ……”強い”とか”凄い”とか以前に、ちゃんと”意思のある人”だと思ってる」
氷華と炬乃恵はお互いに嵐華、緋織への気持ちを素直に愛里達に伝えた。
その言葉を聞いた愛里達は安堵し、2人に向かって頭を下げる。
「嵐華姉と緋織姉のこと……よろしくお願いします」
その後、瑞帆がさらに少し照れたように言葉を続ける。
「それから……良ければ私達とも……仲良くしてほしいです……」
氷華と炬乃恵の胸に、妹を見守るような愛おしさが自然と込み上げた。
「……ええ……もちろんですとも!!」
「任せとけ!!」
自分達にも妹が出来たような……そんな気持ちだった。
こうして……愛里と瑞帆は「姉達を託せる相手」として2人を受け入れた。
食堂で交わされた短い会話だったが、それは後に家族となる彼女達にとって、静かな信頼の始まりとなる出来事だった。
翌週——。
紫導4姉妹がIRISへ到着した時、ばったりと氷華と炬乃恵に会う。
「あ♪氷華さん♪炬乃恵さん♪こんにちは〜♪」
愛里が元気よく声をかけ、瑞帆も微笑みながらお辞儀をする。
「こんにちは♪」
「今日も頑張ろうな♪」
氷華も炬乃恵も機嫌よく返す。
「あれ?4人って話したことあったっけ?」
「いつの間に?」
嵐華と緋織が不思議そうに聞くが、愛里は少し意地悪気味な返事をする。
「……内緒♪」
次回、EP16〜意味〜




