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紫導家ヒストリー  作者: AliceMa
第1章〜紫導家〜
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16/28

EP13〜氷華、炬乃恵〜転機〜

挿絵(By みてみん)


 時は2年前——。


 嵐華らんか緋織ひおりが中学へ入学した頃まで遡る。


 能力の素養があることが分かり、それぞれの家庭で心に傷を負った2人。


 あおい 氷華ひょうかくれない 炬乃恵このえ


 夕暮れの公園でどんな時でも支え合おうと誓った。


 親友であり、家族にも近い。


 互いにとって、誰よりも近い存在だった。


 炬乃恵は家では両親とはほぼ口を聞かなくなった。


 必要最低限の会話のみ。


 能力の話はしない。


 また拒絶されるのが目に見えていたから。


 兄とだけはいつも通りに接するが、それでも両親に優遇されている兄と少しずつ距離を置いていく。


 それでも炬乃恵は家で生活が出来ていた。


 だが、氷華は炬乃恵とは全く状況が異なっていた。


 両親から告げられた言葉。


 能力者支援施設へ送る。


 この施設は国が運営している。


 本来は能力者になった子供を育てるのが困難な親の為の制度だった。


 だが、両親はそんな気持ちで氷華を送らない。


 少なくとも氷華には、両親が罪悪感を抱いているようには見えなかった。


 ただ悪魔を追い出す。


 そうとしか思えなかった。


 施設の準備が整うまでの間も生活は完全に別になった。


 最低限のお金だけ部屋のドアの前に置かれる。


 自分でご飯を作り、服の洗濯をし、両親が寝静まった時にお風呂に入る。


 氷華はお風呂でひたすら泣いていた……涙が出なくなるまで。


 そんな生活が続き、施設へ行く為の車が到着する。


 引っ越しも兼ねている為、大型ワゴンが止まっていた。


 氷華は施設の職員と一緒に荷物を入れる。


 だが、両親は部屋に籠って出てこなかった。


 荷物の積み込みが終わり、職員が氷華に声をかける。


「……もう、出発する?」


 氷華は言葉を聞きつつも、両親の部屋がある2階の窓を見ていた。


 カーテンが閉まって何も見えない。


 そのまま深くお辞儀をする。


(……お世話になりました……)


 上体を起こし、職員へ向き直る。


「……行きます……お世話になります」


 職員も両親が一切顔を見せないというのが初めての経験で戸惑っていたが、出発することにした。


 氷華が車の後部座席に乗り、出発しようとした時。


 ごめんなさい……。


 聞こえるはずのない母の声。


 幻聴と思った。


 だが、鮮明に氷華の耳に入ってきた。


 氷華は車の窓から両親の部屋を見る。


 カーテンが閉まったまま……。


 出発する……両親との別れ。


 あの幸せだった時間が一瞬で終わってしまった。


 泣いた。


 大声で。


 職員が隣にいることなんて関係なく。


 ……


 施設へ移り、生活面は特に問題なかった。


 問題だったのは、小学校だった。


 氷華と炬乃恵は小学6年生。


 能力検査での騒動。


 親に捨てられたという噂。


 元々物静かで、男子達にちょっかいをかけられていたこともあった。


 成績優秀ということにも拍車がかかる。


 氷華は「いじめ」の対象となっていた。


 今まで仲が良かった友達と思っていた同級生から受ける仕打ち。


 陰口。


 無視。


 そして物の紛失。


 直接的な暴力はない。


 だが、精神を削るタイプの陰湿な行為が続く。


 氷華はただ耐えていた。


 感情を表に出さず、ただ静かに過ごす。


 だが、その同級生の中で変わらない子がいた。


 炬乃恵。


 幼馴染であり、氷華が施設へ行っても、距離は変わらない。


 むしろ近くなっていた。


 いじめを察知すれば氷華の前に立ち、暴力でなく言葉で止める。


 時には睨み付ける。


 正面から炬乃恵も逃げずに立ち向かう。


 それでも2人と多数。


 炬乃恵もいじめの対象になりかけたこともあった。


 だが、炬乃恵の場合、他クラスにも友人が多い。


 小学生ながら報復を恐れ、炬乃恵へは実行していなかった。


 それでも氷華のいじめが少し減った程度。


 2人は必死でこの小さな世界で戦い続けた。


 それは結局、小学校を卒業するまで続くことになった。


 ……


 小学校を卒業した氷華と炬乃恵は、地元を離れ、寮のある進学校へ進学することにした。


 白泉はくせん学園。


 全国一の中高一貫の進学校だった。


 成績が優秀であれば、学費が一定額免除されるという制度もあったことから2人は選ぶ。


 どちらも推薦入試に合格し、進学の内定をもらっていた。


 氷華は両親の許可がいる為、施設から電話をかける。


 電話には出た。


「あの……氷華です……ご相談したいことがありまして……」


 両親は無言のまま、氷華の声だけを聞く。


 施設から一定額の学費は出ること。


 氷華もバイトで少しずつでも学費に充てること。


 そして、残りの学費を援助してほしいということ。


 正直、捨てられた自分に援助してくれるとは思っていなく、奨学金も考えていた。


『勝手にしろ……金だけは送ってやる』


 意外な回答に氷華は戸惑うも感謝を伝える。


「……ありがとうございます」


 また送金用の口座の資料を送ることを伝え、電話を切る。


 これが両親との最後の会話になった。


 一方、炬乃恵は白泉学園へ進学することを両親へ伝える。


「進学校なら良い」


 許可はされたが、実際は厄介払いに近い対応だった。


 その後は特に何も言われることはなく、家で静かに過ごす。


 氷華と炬乃恵はそれぞれの家庭の温度差に悩みつつも小学生から中学生へ歩み始める。


 ……


 白泉学園中等部——。


 進学校という環境は小学校とは全く違っていた。


 入学早々の実力テストでは氷華は学年1位。


 すでに教師の中では「将来は有名大学へ」と早くも期待される存在として見られていた。


 氷華の容姿も相まって注目され、人気があったが、校内では恋愛禁止の校風だった為、負担もなかった。


 成績上位者が尊重される校風。


 実力主義の空気。


 いじめもない。


 氷華は初めて「快適」という感覚を知った。


 一方、炬乃恵は男勝りで天真爛漫。


 学力面も優秀だが、それよりも運動神経が目立っていた。


 運動部に正式に入部してはいないが、助っ人としてあちこちに呼ばれる。


 走れば速い。


 スポーツのセンスは抜群。


 男女共に人気があり、友達100人できるかな?を地で行く交友関係を築いていた。


 能力に関しては中学へ進学して間もなく、氷華と炬乃恵は能力を発現させていた。


 氷華は「水」と「氷」。


 炬乃恵は「炎」と「爆破」。


 1人で2つの能力を操れる「複合種ふくごうしゅ」と呼ばれる能力種。


 能力者向けの授業も受けることになり、2人は1年生ながら注目の的になっていた。


 授業が終わり、炬乃恵は寮へ帰るが、氷華はバイトの時間。


 中学生が出来るバイトは限られている。


 氷華は学校と施設の許可を得て、夕刊配達で生活費の足しにしていた。


 学費は施設と……両親が払ってくれていた。


 正直、氷華は金額を見て驚いていた。


 学費に加え、最低限の生活費も振り込まれていた。


 嫌われていてもしっかり卒業して感謝を伝えないといけない。


 氷華はそう思っていた。


 氷華がバイトから寮へ帰り、部屋へ入ると、そこには炬乃恵もいた。


「おつかれ〜」


「はい、ただいま戻りました」


「今、飲み物入れるな〜」


「ありがとうございます♪」


 バイトから帰った氷華に炬乃恵が温かい紅茶を渡す。


 氷華が紅茶の良い香りを感じ、一口飲む。


 落ち着く。


「ここでなら卒業まで過ごせそうです」


「なら良かったよ」


 2人は同室。


 夜には氷華が炬乃恵に勉強を教えたり、一緒に雑談をしたりして過ごしていた。


 時には無言で同じ空間を共有する。


 恋愛とは違う。


 それでも、互いにとって誰よりも近い存在だった。


 そんな氷華と炬乃恵の生活が安定してきた中学1年生の年末——。


 氷華がお世話になっていた施設から連絡が入る。


『氷華さん……ご両親が亡くなりました』


「……え?」


 その言葉に理解が追いつかなかった。


 交通事故。


 2人とも即死だった。


 氷華は葬儀に出席する。


 だが、周囲の視線は冷たかった。


 能力者……それだけで忌避きひされる。


 能力者の娘を持ったから呪われた。


 そんな言葉が小声で呟かれていたが、氷華には聞こえていた。


 氷華を引き取る親族なんていなかった。


 お金の件も含めて両親が本当はどう思っていたのか分からない。


 しかし、これで氷華は完全に1人になった。


 その後は両親が本当の意味でいなくなった現実を少しずつ意識していきながら生活を送る。


 親族による引き取りが拒否された為、学生寮に住みつつも、能力者支援施設が氷華の保護と各種手続きを担当することになった。


 炬乃恵も氷華に寄り添って支える。


 だが、氷華には新たな問題が発生することになった。


 お金の問題である。


 両親が亡くなったことで、学費を払うことが困難になった。


 学校側も優秀な氷華を手放したくなかった。


 奨学金という形で卒業後に返済計画を立てるというのが最善のルートと思われた。


 その時、白泉学園へ電話が入る。


 相手はIRISだった。


 その後、IRISのスカウト部門、白泉学園の校長、担任教師、そして氷華が応接室に集まる。


 スカウト部門の職員から口を開く。


「この度はお時間をいただき、ありがとうございます」

「単刀直入に言います……葵氷華さん、IRISへ来ませんか?」


「IRISへ……ですか?」


 氷華は驚いていた。


 IRISはいわゆる能力者のエリート集団。


 そんな場所からスカウトが来るとは思っていなかった。


 だが、すぐに入所というわけではない。


 条件は1つだけ。


 中学2年生進級後に育成機関へ入所すること。


 さらにスカウトは条件を出す。


「入所していただけるなら……学費、生活費、寮費全て援助しましょう」

「さらに入所いただけますと毎月給与も支払われます……悪い条件ではないと思いますが?」


 しかし、好条件には別の条件が付きもの。


 スカウトが続けて氷華に伝える。


「その代わり、規定の訓練と教育課程を受け、将来的には正隊員を目指していただきます」


 この時、氷華に選択肢などなかった。


「……分かりました……よろしくお願いします」


 氷華は迷わなかった。


 能力者として生きるしかないと理解していた。


 氷華との話が終わり、スカウトは校長と担任に質問をする。


「紅炬乃恵さんは今どこに?」


 担任が答え、氷華にも質問する。


「葵さんと同じ寮の部屋ですので……今、寮に帰っているかしら?」


「はい、帰っていると思います」

「それでは……私はバイトがありますので失礼します」


 氷華は一礼し、そのまま応接室を出る。


 スカウトはそのまま校長、担任に話をし、寮の管理人立ち会いのもと、炬乃恵と話をする。


 氷華が入ることも聞き、炬乃恵は二つ返事でIRISへ入ることを決める。


 だが、実はスカウトが来る前に氷華から連絡をもらっており、その時に気持ちは決まっていた。


(氷華が行くなら俺も行く……氷華を守れる人が現れるまで……俺が守る)


 話が終わり、炬乃恵はスカウトを見送った後は寮で氷華の帰りを待っていた。


 帰りのIRISのスカウトはウキウキしていた。


 氷華、炬乃恵の能力はかなり希少だった。


 1人で2つの能力を操れる「複合種ふくごうしゅ」。


 学校の能力者向け授業でも、2人の能力操作技術はすでに育成生として通用する水準に達していた。


 どちらも将来性があるとしてIRISの監視網に入り、さらに超有望株としてマークされていた。


 その2人がIRISへ入所の意思を示してくれた。


 嵐華達「紫導4姉妹」が入所してからスカウトに対する幹部の圧も強くなっていた。


 次こそは嵐華達に匹敵する能力者を発掘してみせる。


 そう意気込みながら報告書を作成するため、IRIS本部へ戻るのだった。


 寮で過ごしていた炬乃恵は両親へ連絡を入れる。


『……もしもし』


 電話の相手は父親。


「……俺だけど……IRISにスカウトされた」


『……なに?……女が前に出るな!!能力者になるな!!』


 突然の怒号にも炬乃恵はもう怯まない。


「……俺はIRISに入る……もう仕送りもしなくて良いから……」

「これからは1人で生きていくよ」


『ちょっと待て!!おまっ!!』


 話の途中で炬乃恵は電話を切る。


 天井を見上げる。


(……やっぱ……俺って認められねぇんだな……)


 1人で生きていく。


 その言葉は両親との絶縁宣言だった。


 ……


 バイトが終わった氷華が寮に戻り、炬乃恵の顔を見る。


「……ご両親とは上手くいきませんでしたか?」


「あぁ……結局な……IRISで頑張るしかねぇな」


「……はい」


 2人はお互いの顔を見て、無言ながらもこれからの生活が良くなるように祈っていた。


 そして、3月になり、中学2年生になる前の2人は先立ってIRISの育成生用の寮に引っ越していた。


 設備も整っており、1人1室、1LDK。


 さらに消耗品も支給される。


 これで学費も払ってもらえるのはなんとも待遇が良すぎだった。


「これが国家機関の財力なんでしょうか?」


「まぁ、生活面は快適そうだから良かったじゃね〜か♪」


「えぇ……それではこれからもよろしくお願いします」


「おぅ!!」


 寮の配置は氷華と炬乃恵はお隣さんになっていた。


 これからも学生生活、IRISでの生活も一緒に過ごすことになるだろうと少し安堵していた。


 そして、4月に入り、正式にIRIS能力育成機関へ入所。


 見学時に2人は嵐華と緋織を目撃することになる。


 こうして、長く暗いトンネルを抜け、その先に紫導家と出会い、人生が交錯していく。


 ここから全てが始まる。

次回、EP14〜嵐華と氷華、緋織と炬乃恵〜

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