EP11〜初めての文化祭①〜準備〜
嵐華と緋織が通っている中学校では毎年2学期に大きなイベントがある。
それは「文化祭」。
この中学校では土日の2日間で開催される。
嵐華と緋織のクラスは1日目の出し物担当となっており、現在、話し合いの真っ最中。
色々な案が出るが、最終的に決まったのは「和風喫茶」。
女子は和服ウェイトレス。
男子は和菓子調理担当。
構想は順調だが、そもそもの問題があった。
「……着物って誰が準備するの?」
「そもそも着付け出来る人いる?」
クラスの数名から問題提起され、沈黙……。
そんな中、嵐華が小さく手を挙げる。
「嵐華?何か意見ある?」
進行役のクラスメイトが嵐華に聞くと少し自信がなさそうに手を下げる。
「あ……いや……やっぱりいい……。」
嵐華の前に座っていた緋織が後ろに振り向く。
「嵐華……何か言いたいことがあるならはっきり言わないと……」
嵐華はしゅんとなっていたが、進行役がしっかり嵐華の意見を聞き出そうとする。
「じゃあ、嵐華、どうしたの?」
「なんでもいいんだよ?」
目が泳いでいて、本当に良い意見なのか迷っていた。
だが、意を決して答える。
「お母さんに頼んだら……いけるかも?」
「お母さん?あの美人な嵐華達の?」
緋織が嵐華の意見を聞き、なるほどと思いながら淡々と捕捉を入れる。
「そうですね……お母さんなら出来るかもしれません」
「家でも着物を着ている時があるので」
普段から着物を着ている?
あの美人の嵐華と緋織の母親が着物……見たい。
そんな気持ちが出始めた。
「……着付けの仕方を教えてもらうのって?」
クラスメイトの1人が嵐華達に聞く。
すると緋織が少し考える。
「聞いてみましょうか?」
そう言うと緋織はスマホを取り出す。
「少し席を外しますね……嵐華、行きましょう」
「え?……うん」
2人は教室から出て廊下で黒葉に電話をかける。
すぐに黒葉が出る。
『はい♪緋織?どうしました?』
「仕事中に申し訳ありません……今お時間大丈夫ですか?」
『ええ♪大丈夫ですよ♪』
「実は……」
緋織は経緯を説明し、嵐華はその横で静かに聞いていた。
自分の意見で黒葉に迷惑をかけていないかを心配していた。
『なるほど……私は大丈夫ですよ♪』
『来週で良ければお休みですので、採寸も含めて学校に伺いますね♪』
「来週ですね?ありがとうございます」
緋織は黒葉と電話している中、ふと嵐華を見る。
心配そうにずっと見ていた。
「……お母さん、嵐華に変わっても良いですか?」
『はい、大丈夫ですが……何かあったのですか?』
「ええ、今回の案は嵐華が提案したのですが、どうやら迷惑かけていないか心配みたいです」
「ちょっと!?緋織!?」
その言葉に嵐華は焦る。
「……では代わりますね」
緋織はスマホを嵐華に渡し、恐る恐る電話に出る。
「……もしもし、お母さん?」
『はい♪嵐華♪』
「あの……ありがとう……了承してくれて……」
『いえいえ♪可愛い嵐華の頼みなんですから気にしないでください♪』
黒葉がそう言うも嵐華はまだ少し申し訳なさが勝っていた。
『……私はこうして嵐華が同い年の子達と直に会話して学生生活を楽しく過ごしてくれるのが嬉しいんですよ?』
少し黒葉の声が震えていたのを嵐華は感じた。
「お母さん?」
『あなたが能力を制御出来るようになるまで怪我をしたり、ずっと学校に行けなかったり……友達ともまともに遊べない……』
『嵐華にそんな生活をさせてしまったことに私も申し訳なさを感じていました』
嵐華はそのまま黙って聞いていた。
『そんな嵐華がこうして同級生の子達と一緒に生活をしていることが、私にとって一番の幸せです』
『だから……何かあれば遠慮なく言ってください?私は嵐華達の母親なんですから♪』
「……うん……ありがとう」
嵐華の目にも涙が。
『ではまた家に帰ったらお話しましょう』
『初めての文化祭……頑張ってください♪』
「うん、またね」
黒葉との電話が終わり、緋織にスマホを返す。
スマホを受け取った緋織はゆっくりと嵐華の頬に手を添える。
「……嵐華は色々と遠慮しすぎです」
「家族なんですから、私含めて言いたいことは言ってください?」
嵐華は添えられた手を両手で触れる。
「……うん」
そして、緋織は教室に戻り、着付けの日程を調整した。
「あれ?嵐華は?」
「嵐華は少しお手洗いに行っています」
(あの顔だと何かと誤解されそうですしね……)
嵐華はトイレの鏡で顔を確認し、少し洗った後、いつもの笑顔に戻る。
(うん……頑張る!!)
そして、教室に戻るのだった。
数日後——。
文化祭の準備期間に入り、月、水、金は昼から準備に入れる。
嵐華と緋織もIRISの訓練はこの日はお休み。
「ちゃんと学生生活は楽しみなさい」
教官からそう言われ、訓練自体を休んでも良いことになった。
昼休みの時間帯——。
校門前に着物姿の黒葉が現れる。
薄紫色のラベンダーの柄があしらわれた着物。
静かな所作で無駄のない歩き方。
それは「大和撫子」そのものだった。
黒葉を目撃した生徒、教師達はざわつく。
「え……あの人誰?」
「めちゃくちゃ綺麗……」
「紫導さん達のお母さん!?」
黒葉はそのざわつきにも意に介さず、微笑みながら校内へ。
職員室へ挨拶に行った後に嵐華へ連絡し、嵐華と緋織に迎えに来てもらった。
「お母さん♪お待たせ♪」
「今日はありがとうございます」
嵐華達が微笑みながら黒葉の手を取る。
「ええ、問題ありませんよ〜♪」
嵐華は黒葉の姿を見て思わず言葉が出る。
「……綺麗……」
「ふふ♪ありがとうございます♪」
「嵐華と緋織も今日試着しますからね〜♪」
「じゃあ、案内よろしくお願いします♪」
「うん、こっち♪」
嵐華が黒葉の手を引き、案内する。
嵐華はどちらかといえば「お母さんっ子」。
4姉妹では一番黒葉に甘えているだろう。
緋織は外でも黒葉に対して他の人よりも満面の笑みを浮かべている嵐華を見て微笑ましかった。
その姿を後ろから眺めながら一緒に教室へ向かった。
教室へ入るとクラスメイト達が完全に固まる。
「お邪魔します♪娘達がお世話になっております♪」
黒葉が丁寧にお辞儀をすると、全員起立し、姿勢を正す。
進行役を担当していたクラスメイトが代表して喋る。
「紫導さん達のお母さん」
「本日はよろしくお願いします」
黒葉は落ち着いて今日の段取りを説明。
女子が着替えられるスペースを仕切りで確保し、採寸を開始する。
「順番にお願いします」
「嵐華、緋織の着物は持ってきていますので、後で参考に着て、皆さんに見ていただきますね」
黒葉はクラスメイトの女子1人1人丁寧に採寸。
姿勢や体型を見ながら最適な柄や色味を判断する。
優しい表情だった黒葉が鋭い目つきになり対応していた……完全にプロの目。
一通り採寸が終わると全てのデータをノートにまとめる。
「これで全員分ですね」
緋織がそのノートを受け取ろうとする。
「それではこちらで注文しますね」
だが黒葉はノートを渡さず自身の胸元に寄せる。
そして笑顔のまま黒葉は答えた。
「着物はこちらで用意します」
クラスメイトの女子達は「え?」となる。
着物に関してはネットでレンタルを注文する予定だった。
「知り合いの呉服店に頼みましょう」
「私から注文させていただきますね♪」
「恐らくその方がお安くなるでしょうし♪」
黒葉は微笑みながら女子達に言い、値段を比較したものを見せる。
すると半額になっていた……。
「本当にこのお値段で良いんですか!?」
「ええ、宣伝にもなりますし、中学生価格でレンタルしていただけるように話はしていますので♪」
全員安堵するも……紫導さんの家、何者……?と思った。
この呉服店は全国的に有名な老舗だった。
そこで安くレンタルが出来るというのは一般家庭からすればありえないことだった。
その様子を見て嵐華は自慢げに言う。
「お母さん何かと顔広いから♪」
「……嵐華が自慢することでもないと思いますが……でもお母さんは人脈が広いのは確かですね」
2人が黒葉を尊敬の眼差しで見ているが、黒葉は別の場所に目を向けていた。
「……男性方は料理を?」
「あ……はい」
「材料も練習用に買ってはいますが、今から料理本で勉強です」
本を読みながら悪戦苦闘している様子。
黒葉は少し考えるとスマホを取り出す。
「料理は……神威さんにお願いしましょうか」
その場で神威に電話する。
『はい』
……まだ仕事中のはずなのに1コールで出た。
「すみません、お仕事中に」
「ちょっとお願いがありまして、嵐華達のクラスの男性方に料理を教えていただくことは出来ますか?」
少し迷うか?と思っていた黒葉だったが、神威は即答。
『嵐華と緋織の店ならやる』
……親バカである。
実は紫導家で最も料理が上手いのは神威。
和洋中なんでもこなし、実際にIRISの会食の際に料理を振る舞い、高官経由で有名店からスカウトが来たこともある。
黒葉との電話が終わると、神威は即動く。
「今日は早退する」
「資料は纏め終わってるから後は頼む」
黒葉の代理補佐に完了した仕事を渡し、そのまま職場を後にした。
補佐はぽかんとしながら神威の背中を見つめていた。
1時間後——。
神威到着。
黒葉と同様に職員室に挨拶し、教室の場所を確認した後、すぐに移動。
「待たせたな」
「いや、早いよ」
嵐華が迅速にツッコミを入れた。
「仕事は大丈夫なんですか?」
緋織が心配する。
「引き継ぎは完璧だ」
「だから心配するな」
お父さんがそう言うならと緋織も納得した。
「じゃあ……話を聞こうか?」
男子達からコンセプトを聞き、料理を選定。
みたらし団子。
大福。
ぜんざい。
抹茶セット。
料理に慣れてない子でも作れるように工程を簡略化したレシピをすぐに作成。
そして実際に神威が料理を見せる。
長い髪を縛り、料理人モードへ。
その姿に男子、女子ともに釘付けになっていた。
それぞれの料理が出来上がり、試食をする。
「うま!!」
「こんなに美味しいお団子初めて〜♪」
美味しいと言ってくれるのが料理人として一番嬉しいこと。
神威はみんなの表情を見て微笑んでいた。
だが後ろで黒葉が少し顔が膨れていた。
子供相手でもヤキモチを妬いてしまう。
神威は手を洗い、スマホで黒葉にメッセージを送る。
メッセージの受信を確認し、黒葉は神威からのメッセージを読む。
『帰ったら黒葉へ特別な和菓子を作ってやる』
黒葉の顔がぱぁっと明るくなり、周囲のクラスメイトがその顔を目撃。
(ああ……やっぱり嵐華の親だ……)
遺伝子はしっかり受け継いでいる……そう納得した瞬間だった。
そのまま神威は男子達の指導に入る。
包丁の持ち方から徹底指導。
教室の一角は、一瞬で「料理道場」と化した。
「砂糖は焦がすな」
「火加減は一定に保て」
「餡は練りが命だ」
男子達は思う……なんか修行してる……。
そんな中、1人の男子が質問する。
「あの……どうして包丁の練習を?」
和菓子でも包丁を使う。
だが、この選定された料理ではそんなに使う機会がないはずだった。
すると女子に聞こえない程度の声でその質問に答える。
「将来の為だ」
「将来?」
「ああ……料理ができると……”モテるぞ?”」
「俺も料理で黒葉を満足させてきたからな」
料理だけではないが、男子達のモチベーションを上げる為の言葉だった。
その効果は絶大。
包丁訓練、和菓子作りにそのまま没頭。
(男って本当……)
神威は自分で言っておきながらも本能は素直と思うのだった。
一方、黒葉は嵐華と緋織へ事前に用意していた着物で着付け練習。
仕切り内の鏡の前で、黒葉が最終確認を行う。
「姿勢を正して」
嵐華と緋織は凛とした姿勢を維持。
そのまま仕切りから出て、クラスメイトにお披露目。
和風美少女双子の完成。
嵐華と緋織はどちらもほんのり顔が赤かった。
男子は目が死んだ……優勝確定だろ……。
男女共にテンションが上がっていた。
クラスメイト達は確信する。
着物。
料理。
そして紫導姉妹。
戦力として完璧。
売上優勝間違い無し!!と……。
しかし、この時は誰も知る由もなかった。
文化祭本番。
そこで”紫導家全員”が伝説を残すことになるとは。
〜続く〜
次回、EP11〜初めての文化祭②〜和風喫茶〜




