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紫導家ヒストリー  作者: AliceMa
第1章〜紫導家〜
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EP9〜嵐華VS緋織〜

挿絵(By みてみん)


「……あれは二度と見れないでしょう」


 後に、教師はこの出来事をそう語った。


 それはある2人の「ある授業中」に起こった。


 嵐華らんか緋織ひおり


 IRISアイリス能力育成機関に所属している為、中学校では通常授業のみ受けていた。


 入学してまだ2ヶ月も経過していない。


 だが、中間テストの結果で明確化されていた。


 この中学では上位50位までが掲示板に貼り出される。


 嵐華は13位。緋織は……1位だった。


 教室でテストの点数が書かれた紙を見ていた2人。


「緋織はやっぱり凄いね」


 嵐華にそう言われ、緋織は微笑みつつも褒め返す。


「嵐華も……怪我で少し勉強が遅れましたからね」

「それでもこの順位は努力の成果です」


 お互い優等生であり、美人双子。


 そして、能力者であり、育成生ながらIRIS所属。


(神は二物以上を与えすぎてない?)


 クラスメイト達はそう思いつつもそれをひけらかすこともなく、真面目に生活している嵐華と緋織を尊敬していた。


 学力面は凄い。


 だが、特に注目を集める授業があった。


 それは「体育」である。


 まず前提として、2人は中学1年生として身長160cm超え、発育も良く、スタイルも整っている。


 ジャージ姿でも分かるプロポーション……男女問わずに視線が集まるのは避けられなかった。


 しかし、真に騒がれていたのが容姿ではなく、運動能力。


 嵐華も緋織も共通しているのは体の動かし方が上手い。


 小学生の頃は神威、黒葉から訓練を受け、IRISでもトレーニングを含めた訓練を受けている。


 全ての動きが最適化されているような動きだった。


 足が速く、高く飛び、投擲能力も抜群。


 嵐華も緋織も同学年で断トツの運動能力を見せ、体力テストでもそれを裏付ける結果を叩き出していた。


 それでもクラスメイトの中では一つの指標が出来ていた。


 嵐華は確かに運動能力は高く、スポーツも普通に出来る。


 しかし、なぜか「無防備」なところがあり、たまにポカをする時がある。


「運動能力は高いけど、IRISで訓練している割には何か抜けてる……?」というのがクラスメイトから見た嵐華の評価。


 逆に緋織は運動中も常に冷静。


 無駄が全くなく、身体操作も嵐華以上。


 学力もトップ。


 2人の比較として「紫導姉も凄いけど……妹の方が上」という認識が定着しつつあった。


 だが、今回の授業でその認識が間違いだったとクラスメイト達は再認識することになる。


 本日の体育の授業はバスケットボール。


 クラスの女子は20名。


 5人ずつのチームに分かれ、10分ずつ試合をする形式。


 そして、嵐華はAチーム、緋織はBチームとなり、対戦することになった。


 周囲は姉妹対決となったことに興奮していた。


 緋織は準備運動をしながら嵐華を見ていた。


 緋織には分かっていた……嵐華が「本気」を出せていないことに。


 今はIRISでしか本気で動いていない。


 だが、IRISでの訓練は神経をすり減らす。


 本当の意味で嵐華は「楽しく本気で運動したことがない」。


 だから……緋織はただのガス抜き目的で言っただけだった。


「嵐華……私が相手ですから、本気でやっても良いですよ?」


 周囲は「え?」と声を上げ、緋織を見る。


 嵐華はきょとんとしながら緋織を見る。


「いいの?」


「ええ、今日は楽しむ為に“本気”を出しましょう」


 緋織の言葉に微笑みつつも、表情は真剣になる。


「……分かった」


 それだけ言い、嵐華は目を瞑る。


 それから数十秒……静寂な時間が流れる。


 そして、嵐華が目を開ける。


「……お待たせ」


 空気が変わり、先ほどまでの優しい雰囲気が消えた。


 能力を使うわけではない。


 ただ、普段よりも集中して身体を動かすだけ。


(……入った)


 緋織は息を呑み、これから対峙する「最強」に備える。


 AチームとBチームがそれぞれ配置につく。


 嵐華と緋織はセンターサークルの近くで待機していた。


 試合開始——。


 ホイッスルが鳴り、ジャンプボール。


 弾かれたボールの先に嵐華。


 ボールを持った瞬間……全員が動けない。


 抜かれたのではなく、置いて行かれた……。


 最速判断で、最短距離で無駄が全く無い。


 そのままレイアップでゴール。


 ただゴールネットをくぐる音とボールが床に落ちる音だけが響く。


「え……なに?今の?」


「みんな全く動いてなかったよね?」


「嵐華?速すぎない!?」


 周囲と実際にプレイしているチームメンバーもざわつく中、緋織は冷や汗を掻いていた。


(……やっぱり嵐華は凄いですね)


 嵐華がゴール前から緋織を見ている……だが、その目は鋭かった。


 緋織も微笑む。


 だが、その表情は少し狂気じみていた。


(だからこそ……やる意味があります!!)


 Bチームのリスタートで試合再開。


 緋織がボールを受け取り、ゴール下へ切り込む。


 そこに嵐華が待ち構える。


 緋織がカットインするも、嵐華が追いつく。


「……く!!」


 緋織がさらにロールでかわそうとするが、嵐華がボールを弾く。


 そして、そのまま味方へパスし、追い抜いていく。


 嵐華が手を上げると味方からパスを受け取り、ドリブル開始。


 そのままレイアップで追加点……と思われたが、緋織がシュートを弾く。


 ボールはラインを割り、嵐華と緋織は対峙したまま動かない。


(緋織……)


(嵐華……)


((……負けない!!))


 そこからは実質「嵐華 VS 緋織」のタイマン勝負になる。


 周囲は嵐華と緋織にボールを渡すしか出来なかった。


 「嵐華の瞬発力と反応速度」 VS 「緋織の予測と読み」


 嵐華が突破すれば、緋織が止める。


 緋織が攻めれば、嵐華が追いつく。


 最初は嵐華に圧倒されていた緋織だったが、嵐華の動きに順応していく。


 点の取り合いになり、まるで別次元の戦いになっていた。


 クラスメイト達は思う……これ……中学の授業だよね?


 試合時間残り10秒——。


 1点差で緋織のBチームがリード。


 嵐華のドリブルを緋織が真正面で止める。


 一瞬の静止後、フェイント。


 緋織はその動きを読み、その逆を取った。


(……止めた!!)


 緋織が勝ったと確信した瞬間、嵐華は後方へ飛ぶ。


(……!?)


 後方へ飛びながら緋織のブロックを外し、空中で体勢を保ったままシュートを放つ。


(……フェイダウェイ!?)


 クラスメイトの中にバスケ部の子がおり、高等技術のシュートに驚く。


 放たれたボールは綺麗な放物線を描き、ゴール。


 そしてブザーが鳴り響き、最後はブザービーターで終幕。


 嵐華のAチームが勝利を飾り、体育館内のクラスメイト達は大興奮。


 だが、一緒にプレイしていた嵐華、緋織以外の8人は大の字で倒れていた。


 2人の動きに振り回され、完全に10分間往復ダッシュしているようなものだった。


 嵐華は試合終了後、いつもの優しい雰囲気に戻り、満面の笑みを浮かべる。


 その反応でさらにファンを増やしてしまう嵐華だった。


「楽しかったね♪」


 とても満足そうに喋る嵐華。


 緋織は額の汗を拭きながら嵐華を見る。


「……体育でそこまでやる人は普通いません」


 冷静に答えてはいたが、目は少しだけ楽しそうだった。


 クラスメイト達はのちに語る。


「IRISに入ってなかったら何かのプロ選手になれていたのでは?」と。


 この日、中学校にもう一つの伝説が生まれてしまった。


「紫導姉妹、本気体育事件」


 暗黙の了解でチーム戦は嵐華、緋織を一緒にすることが決まった。


 そして、冒頭の体育教師の言葉に戻る……あれはもう二度と見れない姉妹対決だった。

次回、EP10〜傑物〜

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