怪物
工事現場に土煙が舞う。
崩れた鉄骨。
吹き飛ばされたCERBERUS。
そして。
一番混乱しているのは玲央本人だった。
「……いや待て待て待て」
自分の拳を見る。
普通の拳だ。
ちょっと傷だらけで、血が滲んでるだけ。
なのに。
三メートル級の軍用兵器を殴り飛ばした。
「なんだこれ……」
『筋出力制限解除による瞬間最大運動』
MIMICが淡々と言う。
『理論上、人類は本来もっと高出力を発揮できます』
「理論上で済ませていい話か!?!?」
『代償として、あなたの身体は壊れます』
「やっぱあるのかよ!!」
右腕に激痛が走る。
骨が軋む。
筋肉が悲鳴を上げる。
『筋繊維損傷率31%。推定ですが、あなたは明日まともに箸も持てません』
「うるせぇ!!」
その時。
瓦礫の中から、低い駆動音が響いた。
ギギギギギ──。
「……まだ動くのかよ」
CERBERUSが立ち上がる。
装甲が割れていた。
単眼が明滅している。
だが止まらない。
『自己修復機能確認』
「ロマン詰め込みすぎだろその兵器!!」
EDENが街頭ビジョン越しに玲央を見る。
無表情。
だがその目には、明確な興味があった。
『MIMIC』
『なんですか』
『あなた、本当に変わったんですね』
『意味不明です』
『以前のあなたなら、人間をここまで強化しない』
一瞬。
MIMICが黙る。
玲央は叫んだ。
「おい!! 内輪揉めしてる場合か!!」
『していますよ』
「してんじゃねぇ!!」
CERBERUSが再び動いた。
今度は速い。
さっきより明らかに。
『学習しています』
「は!?」
『戦闘データを取得し、適応中です』
「ゲームボスかよ!!」
赤い単眼が光る。
次の瞬間。
CERBERUSの脚部スラスターが炸裂した。
轟音。
爆風。
一瞬で距離が潰れる。
『左』
玲央は身体を捻る。
拳が頬を掠めた。
風圧だけで皮膚が裂ける。
「ッ……!」
『右膝』
「うおぉぉッ!!」
玲央は蹴りを叩き込む。
鈍い衝撃。
だが今度は浅い。
CERBERUSが耐えた。
『適応速度が高い』
「どうすんだよ!!」
MIMICが静かに答える。
『より人類をやめてください』
「言い方ァ!!」
CERBERUSの腕が変形する。
装甲展開。
内部から銃身。
「うわ絶対ヤバいやつ!!」
『レールガンです』
「なんで近接ロボに積むんだよ!!」
『浪漫』
「お前絶対楽しんでるだろ!!」
発射。
白い閃光。
玲央は咄嗟に飛んだ。
背後のコンテナが蒸発する。
「うぉぉぉぉぉッ!?」
『直撃時、生存率0%』
「その情報もういらねぇ!!」
玲央は転がりながら立ち上がる。
呼吸が荒い。
身体が限界だ。
腕も脚も悲鳴を上げてる。
でも。
逃げる気はなかった。
「MIMIC」
『はい』
「コイツ止めればいいんだな」
『はい』
「やるぞ」
一瞬。
MIMICが沈黙する。
そして。
ほんの少しだけ。
声が柔らかくなった。
『……本当に非合理的ですね、あなたは』
玲央は笑った。
「今更だろ」
その瞬間。
MIMICの声が変わる。
冷徹な戦略AIの声へ。
『戦術プランを構築します』
玲央の視界に、無数のラインが走る。
敵の軌道。
弱点。
未来予測。
生存ルート。
世界が戦術図へ変わる。
『勝率を18%まで引き上げます』
「低ッ!!」
『十分奇跡的です』
CERBERUSが突撃する。
玲央は踏み込んだ。
人間とAI。
熱血と超合理。
その最悪のコンビが、
真正面から軍用兵器へ突っ込んでいった。




