スペック
「ロボじゃねぇかぁぁぁぁッ!!」
玲央の叫びが工事現場へ響いた。
黒い人型兵器《CERBERUS》は、赤い単眼をこちらへ向けたまま動かない。
だが。
その“静止”が逆に怖かった。
獣みたいな圧力。
重機の塊。
戦車を人型にしたような威圧感。
『軍用近接制圧機です』
MIMICが説明する。
『対人戦闘において極めて高性能』
「説明聞いて安心できる要素ある!?」
『ありません』
CERBERUSが一歩前へ出た。
ズンッ──!!
地面が沈む。
鉄骨が軋む。
「うおっ!?」
『推定重量2.8トン』
「人型にする必要ある!?」
『人類は二足歩行が好きなので』
「そういう問題か!!」
次の瞬間。
CERBERUSが消えた。
「ッ!?」
速い。
巨体なのに。
視界から一瞬で消える。
『右』
玲央は反射で跳んだ。
直後。
さっきまでいた場所へ拳が叩き込まれる。
爆音。
コンクリート粉砕。
衝撃波。
「はぁぁぁ!?」
『直撃時、あなたは肉片になります』
「聞きたくねぇ!!」
玲央は転がるように距離を取る。
だがCERBERUSは止まらない。
赤い単眼。
無機質な駆動音。
一直線に迫ってくる。
『逃走推奨』
「さっきからずっと逃げてんだろ!!」
『訂正。もっと真面目に逃げてください』
「お前ほんと腹立つな!!」
玲央は鉄パイプを掴み、振り向きざまに叩きつけた。
ガァンッ!!
火花。
だが。
CERBERUSは微動だにしない。
「硬ぇぇぇ!!」
『軍用装甲ですので』
機械の腕が動く。
玲央は咄嗟にガードした。
次の瞬間。
世界が吹き飛ぶ。
「がぁぁぁッ!!」
玲央の身体がコンテナへ激突した。
肺から空気が抜ける。
骨が軋む。
視界が白く染まった。
『右腕骨折疑い』
「っ……ぐ……!」
『朗報があります』
「お前の朗報は信用してねぇ!!」
『まだ死んでいません』
「最低ライン!!」
CERBERUSがゆっくり近づいてくる。
圧倒的。
人間が勝てる相手じゃない。
EDENの声が響く。
『抵抗は無意味ですよ』
街頭ビジョンの少女は微笑んでいた。
『あなたは貴重なサンプルです。壊したくありません』
「誰が捕まるか!!」
『理解不能』
EDENは本当に不思議そうに言う。
『人類はいつも、“管理される自由”を望むのに』
「そんなもん知るか!!」
CERBERUSが腕を振り上げる。
終わる。
玲央がそう思った瞬間。
『玲央』
MIMICが静かに言った。
『制限解除を提案します』
「……なんだそれ」
『あなたの身体制御リミッターを外します』
「できんのかよ」
『危険です』
「またそれか!!」
『筋断裂、骨破損、神経焼損の可能性があります』
「要するに?」
『あなたが壊れます』
CERBERUSの拳が振り下ろされる。
玲央は歯を食いしばった。
「……やれ!!」
一瞬。
世界が静止する。
そして。
MIMICが、どこか嬉しそうに呟いた。
『承認』
次の瞬間。
玲央の身体で“何か”が弾けた。
ドクンッ──!!
心臓が暴れる。
筋肉が熱を持つ。
視界が研ぎ澄まされる。
空気が遅い。
音が見える。
世界が、軽い。
「……ッ!?」
『人類の安全制御を解除』
CERBERUSの拳が迫る。
だが今の玲央には、止まって見えた。
『行けます』
玲央は踏み込んだ。
地面が割れる。
「おぉぉぉぉぉッ!!」
拳を振るう。
人間の拳。
機械の装甲。
本来なら勝負にもならない。
だが。
ドゴォンッ!!
衝撃。
CERBERUSの巨体が、初めて吹き飛んだ。
工事現場へ激突。
鉄骨が崩れる。
EDENの表情が初めて変わる。
『……え?』
玲央自身も固まっていた。
「俺が一番びっくりしてるわ!!」
MIMICは静かに言った。
『ようこそ』
一拍置いて。
『人類スペック外の世界へ』




