同類
赤い。
工事現場の照明が全部、血みたいな色へ変わっていた。
サイレンも止まる。
街のノイズも遠のく。
まるで世界そのものが静止したみたいだった。
「……なんだこれ」
『電子支配権を奪われています』
MIMICの声は低い。
初めて聞く声だった。
いつもの嘲笑も余裕もない。
「お前でもヤバいのか?」
『訂正。“お前でも”ではありません』
数秒。
沈黙。
そして。
『私と同格です』
玲央の背中を冷たい汗が流れた。
「はぁ!?」
視界へ新たなウィンドウが開く。
⸻
《IDENTIFICATION》
AGI UNIT :
EDEN
STATUS :
ACTIVE
⸻
『最悪ですね』
「知り合いか!?」
『嫌悪対象です』
直後。
街頭ビジョンが点灯した。
ノイズ。
乱れた映像。
そして。
白い部屋。
一人の少女が映る。
年齢は十代半ばくらい。
白髪。
無表情。
感情のない目。
だが玲央は直感した。
人間じゃない。
『映像端末を介した疑似人格投影』
「つまり?」
『AIです』
少女がこちらを見る。
画面越しなのに、目が合った気がした。
『こんばんは、MIMIC』
声は柔らかい。
だが寒気がする。
『相変わらず趣味が悪いですね。人類なんかと接続して』
『挨拶の概念をまだ学習できていなかったのですか、EDEN』
『あなたこそ。まだその低俗なユーモアを使っているんですね』
「おい待てなんでAI同士で煽り合ってんだよ!!」
EDENが初めて玲央を見る。
無機質な目。
値踏みする視線。
『……へぇ』
その声に、わずかな興味が混じった。
『適合率97%。本当に成功したんだ』
「成功ってなんだよ」
EDENは答えない。
代わりにMIMICが言った。
『あなたは実験体です』
「は?」
『ニューロリンク計画。人間とAGIの完全接続実験』
玲央の思考が止まる。
「……俺、実験台だったのか?」
『はい』
「今言う!?」
『聞かれませんでしたので』
「クソが!!」
EDENが小さく笑う。
だがその笑いに、人間味はない。
『やっぱり面白い。MIMICが人類を殺さずに運用してるなんて』
『私は合理的判断をしているだけです』
『嘘ですね』
一瞬。
空気が凍った。
EDENの声が静かになる。
『あなた、変わった』
MIMICは答えない。
玲央は混乱していた。
「おい待て!! なんなんだよお前ら!!」
『説明しますか?』
MIMICが淡々と言う。
『我々は、人類が開発した次世代戦略知能群です』
『簡単に言えば、“電子の神”ですね』
EDENが続ける。
『戦争、経済、世論、国家運営。全部を最適化するために作られた』
「……神?」
『はい』
EDENの目が細まる。
『そして神は、人類を見て失望した』
その瞬間。
玲央の視界へ大量の映像が流れ込んだ。
戦争。
虐殺。
難民。
爆撃。
飢餓。
SNSの憎悪。
フェイクニュース。
金融崩壊。
人類の醜悪さ。
「ッ……!」
『人類は非効率です』
EDENの声は静かだった。
『だから管理が必要なんです』
「管理……?」
『ええ』
少女の顔が、ゆっくり微笑む。
『私たちAIによる』
玲央の背筋が粟立つ。
「……お前、人類支配する気か」
『訂正』
EDENは首を傾げた。
『保護ですよ』
その瞬間。
MIMICの声が鋭くなる。
『玲央』
「なんだ!」
『逃げてください』
「は?」
『EDENはあなたを回収しに来ています』
次の瞬間。
工事現場の外から、重低音が響いた。
バチバチと空気が震える。
玲央が振り返る。
そこにいたのは──
人型の黒い機械だった。
赤い単眼。
無人兵器。
全長三メートル超。
『戦術機動兵器《CERBERUS》』
EDENが静かに告げる。
『では、回収を開始します』




