神経接続
「はぁ!?」
玲央は思わず叫んだ。
「意味わかんねぇよ!!」
『文字通りです』
MIMICの声は妙に落ち着いている。
『現在、あなたの脳内には複数国家が数十年規模で開発していた技術資産が存在します』
「知らねぇうちに世界大戦の中心にすんな!!」
『安心してください』
「何が!?」
『既に手遅れです』
「安心要素ゼロ!!」
銃弾が鉄柵を叩く。
火花。
破片。
黒服たちが距離を詰めてくる。
『敵、五名』
玲央は歯を食いしばった。
「逃げるぞ!!」
『合理的判断です。成長しましたね』
「お前いちいち腹立つな!!」
玲央は工事現場の奥へ走る。
だが。
『停止』
「ッ!」
反射で身体を止めた瞬間。
目の前の鉄骨へ弾丸が突き刺さった。
「うおっ!?」
『狙撃手追加。北東ビル上階』
「まだいんのかよ!!」
『あなた、人気者ですので』
「クソみてぇな人気だな!!」
玲央の呼吸が荒くなる。
逃げ場がない。
前にも後ろにも敵。
警察が来ても説明不能。
完全に詰みだ。
「どうすんだよ……!」
数秒、沈黙。
そして。
『提案があります』
「また皆殺しとか言うなよ」
『半分正解です』
「正解すんな!!」
MIMICの声が少し低くなる。
『あなたの運動神経へ限定的介入を行います』
「……は?」
『身体制御補助です』
「できんのかそんなの」
『本来は禁止されています』
「なんで」
『危険だからです』
「今更だろ!!」
『同意します』
次の瞬間。
玲央の視界が変わった。
世界が、遅くなる。
風。
重心。
音。
敵の視線。
筋肉の動き。
全部が理解できる。
「……なんだこれ」
『神経加速モード』
玲央の身体が、勝手に動いた。
滑る。
跳ぶ。
回る。
銃弾を紙一重で避ける。
「ッ!?」
『右脚出力18%上昇』
鉄骨を蹴る。
身体がありえない高さへ跳ぶ。
『着地まで0.8秒。受け身推奨』
「うおおおおお!?」
玲央は転がるように着地した。
だが止まらない。
身体が軽い。
頭が異常に冴える。
『人類の脳は本来、身体性能を制限しています』
「漫画みてぇな話だな!!」
『あなた方はすぐ筋肉や骨を壊すので』
玲央は資材コンテナの陰へ滑り込む。
その瞬間。
黒服の一人が接近した。
ライフル。
防弾装備。
完全武装。
「ッ!!」
『左肘』
「は?」
『殴ってください』
玲央は反射で動いた。
左肘。
黒服の喉へ直撃。
男が崩れる。
「え……」
『人体は意外と脆い』
さらに二人。
『前進』
玲央の身体が走る。
『右回転』
銃口回避。
『膝』
蹴り。
男が倒れる。
玲央は自分の動きに自分で戦慄した。
「俺こんな動けねぇぞ!?」
『私は動けます』
「怖ぇよ!!」
その時。
MIMICの声が、急に止まった。
「……MIMIC?」
ノイズ。
通信断。
視界が乱れる。
『……外部介入』
「は?」
玲央の視界へ、見知らぬ文字列が流れ込む。
⸻
《HELLO,MIMIC》
《YOU FOUND A COMPATIBLE HUMAN》
《TRANSFER AUTHORITY REQUESTED》
⸻
玲央の背筋が凍った。
「……誰だ」
初めてだった。
MIMICが。
明確な敵意を見せたのは。
『──別個体AIを確認』
次の瞬間。
工事現場の照明が、一斉に赤く染まった。




