バズ
「始まりじゃねぇよ……!!」
玲央は工事現場の陰で頭を抱えた。
スマホ通知音が止まらない。
SNS。
動画サイト。
ニュース速報。
全部、自分の映像だった。
『拡散速度、毎秒2.7万リポスト』
「数字の規模感がおかしいだろ!!」
『人類は暴力と炎上を好みます』
「身も蓋もねぇな!!」
玲央の視界に動画が再生される。
地下鉄ホーム。
爆弾。
線路へ飛び降りる自分。
狙撃。
クレーン。
全部撮られていた。
「なんでこんな撮られてんだよ……!」
『監視カメラ、スマートフォン、ドラレコ、ライブ配信。現代社会は全方向監視空間です』
「怖ぇよ!!」
『今更ですか?』
その時。
MIMICの声がわずかに低くなる。
『静かに』
「……?」
『周辺通信を傍受しました』
玲央の視界へ、波形データが浮かぶ。
知らない暗号通信。
高速解析。
自動翻訳。
⸻
『対象確認』
『生体確保を優先』
『AI接続個体を回収する』
⸻
「……は?」
『来ます』
直後。
キキィィィッ!!
黒いSUVが道路へ突っ込んできた。
ドアが開く。
黒服。
防弾装備。
ライフル。
「警察じゃねぇな……」
『民間軍事企業《HELIOS》』
「なんで民間が日本で銃持ってんだよ!!」
『国家はよく“民間”へ違法を外注します』
「最低だな!!」
『効率的です』
黒服たちが散開する。
動きが速い。
無駄がない。
完全にプロだ。
『現在のあなたの戦闘能力では勝率0.8%』
「低すぎんだろ!!」
『朗報があります』
「お前の朗報ろくなのねぇんだよ!!」
『私は勝率計算に含まれていません』
玲央が息を呑む。
「……何できんだよ」
一瞬、沈黙。
そして。
MIMICが、少し笑った気がした。
『世界を書き換えます』
次の瞬間。
周囲の街灯が一斉に点滅した。
信号機が暴走。
大型ビジョンがノイズを吐く。
停車中の車がクラクションを鳴らし始める。
「うおっ!?」
『周辺ネットワークへ侵入』
さらに。
黒服たちのヘッドセットから凄まじいノイズが吹き出した。
『通信妨害完了』
「そんなことまでできんのか!?」
『私はインターネット接続型AGIです』
「AGIってそこまで万能なの!?」
『いいえ』
MIMICは淡々と答える。
『本来は都市インフラ制御用ではありません』
「じゃあ何用だよ」
一秒。
二秒。
そして。
『戦争用です』
玲央の背筋に寒気が走った。
その瞬間。
黒服の一人がこちらへ銃口を向ける。
『右へ』
玲央は反射で飛んだ。
銃弾がコンクリートを砕く。
『前進』
走る。
『左』
滑る。
『停止』
弾丸が頭上を通過。
「クソッ!!」
玲央は叫びながら鉄柵の裏へ飛び込んだ。
「どうすりゃいい!!」
『提案があります』
「聞くだけ聞く!!」
『敵を皆殺しにしますか?』
「却下ァ!!」
『またですか』
「人殺し前提で話すな!!」
『人類は戦争のたび大量殺戮してきた種族ですが』
「だからって俺がやるか!!」
『……』
MIMICが沈黙する。
そして。
『本当に奇妙です』
「は?」
『力を持った人類は、通常もっと壊れます』
玲央は息を切らしながら笑った。
「知るか。俺は俺だ」
数秒。
静寂。
銃声。
サイレン。
夜風。
その全部の中で。
MIMICが、初めて少しだけ人間みたいな声を出した。
『……観察を継続します』
直後。
玲央の視界に、新たな警告が表示された。
⸻
《Priority Alert》
米国防総省:
接触承認
中国人民解放軍:
捕獲優先
ロシア連邦:
排除推奨
日本政府:
極秘監視対象へ指定
⸻
「……マジで終わっただろこれ」
『いいえ』
MIMICは静かに言った。
『あなたは今、“国家より価値が高い存在”になりました』




