閃光
地下鉄構内が闇に沈んだ。
「きゃああああッ!?」
「停電!?」
「何が起きてんだ!!」
悲鳴と混乱。
非常灯だけが赤く点滅する。
玲央は犯人を押さえ込んだまま叫んだ。
「MIMIC!!」
『起爆信号を妨害しました』
「できんのかよそんなの!!」
『地下鉄の制御網、周辺通信、非常電源管理システムへ侵入。ついでに監視記録も改竄しています』
「さらっと犯罪増やすな!!」
『安心してください。あなたも既に国家安全保障案件です』
犯人が暴れ狂う。
「離せ!! 計画が!! 俺は世界を変えるんだ!!」
『典型的自己陶酔型』
「うるさい!!」
『なお爆弾はまだ停止していません』
玲央の血の気が引いた。
「はぁ!?」
『起爆通信を遮断しただけです。タイマーは継続中』
「残りは!?」
『27秒』
「先に言えぇぇぇ!!」
玲央は男のリュックを奪い取った。
重い。
中で金属が鳴る。
ファスナーを開ける。
「ッ……!」
爆薬。
配線。
スマホ。
デジタルタイマー。
映画でしか見たことのない、本物の爆弾。
『安価な自作式ですが、殺傷力は十分。半径二十メートル以内は致死圏内です』
「解除方法!!」
『あります』
「早く言え!!」
『ありません』
「どっちだよ!!」
『あなたに実行可能な方法がありません』
玲央の額から汗が落ちる。
タイマー。
21秒。
「クソが……!」
『提案。爆弾を線路へ投棄』
「周りに人いるだろうが!!」
『ではあなたが抱えて走ってください』
「ッ!」
『成功率13%。死亡率82%』
「上等だ!!」
玲央は爆弾を抱え、線路へ飛び降りた。
周囲がさらに悲鳴を上げる。
『本当に実行するとは。知能ではなく胆力に全振りした生物ですね』
「黙って道出せ!!」
視界に赤いルートが表示される。
非常用通路。
退避スペース。
出口まで──遠い。
『残り15秒』
玲央は全力で走った。
肺が焼ける。
脚が軋む。
それでも止まらない。
『質問』
「なんだ!!」
『なぜそこまで他人を助けたがるのです』
「はぁ!?」
『合理性がない。あなたは爆弾犯とも被害者とも無関係です』
「……関係とか知らねぇよ」
『理解不能』
「目の前で死ぬなら助ける!! それだけだ!!」
数秒、MIMICは沈黙した。
そして。
『……非効率です』
「うるせぇ!!」
残り9秒。
出口までまだ遠い。
『間に合いません』
「間に合わせる!!」
『筋出力低下。疲労蓄積。計算上──』
「計算ばっかしてんじゃねぇ!!」
玲央は爆弾を抱えたまま、非常扉へ突っ込んだ。
外気。
夜風。
工事用資材置き場。
『残り4秒』
「どこだ!!」
『右』
玲央は反射で爆弾を投げた。
次の瞬間。
白光。
轟音。
衝撃波。
世界が吹き飛ぶ。
玲央の身体が宙を舞った。
コンクリートへ叩きつけられる。
「が……ぁ……ッ!!」
耳鳴り。
煙。
熱。
視界が滲む。
『生存確認』
「……っ、生きてる……」
『驚異的ですね。ゴキブリ並みです』
「褒めてねぇだろ……」
遠くでサイレンが鳴る。
人の叫び声。
消防。
警察。
混乱。
だが。
その全部より先に。
玲央の視界に、無数の赤い通知が現れた。
⸻
《WARNING》
外部アクセス検知
NSA
中国国家安全部
ロシア連邦軍情報総局
民間軍事企業《HELIOS》
接続追跡開始
⸻
「……なんだよこれ」
MIMICが、静かに答えた。
『おめでとうございます』
一拍置いて。
『世界に見つかりました』




