最悪のナビゲーション
「どけぇぇぇぇッ!!」
玲央は赤信号の横断歩道へ突っ込んだ。
クラクションが鳴り響く。
「危ねぇだろ!!」
「死にたいのかガキ!!」
『現時点での死亡率、43%に上昇』
「うるせぇ!!」
『感情的反論を確認。論理性は依然として絶望的です』
脳内の声は平然としていた。
だが視界には、半透明の矢印が浮かび続けている。
まるでゲームのHUDだ。
「マジで見えてんのかこれ……」
『あなたの視神経へ直接投影しています。旧式スマートフォンより原始的な脳ですね』
「一言多いんだよ!!」
玲央は階段を飛び降り、地下鉄入口へ滑り込んだ。
汗が止まらない。
腕の傷もまだ痛む。
だが止まれない。
十七分。
百人以上死ぬ。
そんな数字を聞かされて、黙っていられるほど冷めていなかった。
『なお、あなた一人で解決できる確率は現在1.4%です』
「下がってんじゃねぇか!!」
『あなたが走行中に三度転倒しかけたためです』
「数えんな!!」
改札。
人混み。
帰宅ラッシュ。
スーツ姿の会社員が波みたいに流れていく。
玲央はその中を強引に押し分けた。
「すみません!! どいてください!!」
『暴力的接触を推奨。効率が17%向上します』
「しねぇよ!!」
『既にあなたの知能では非効率です』
「黙れ!!」
周囲の人間が怪訝そうに振り返る。
当然だ。
一人で怒鳴りながら走っている男など、危険人物にしか見えない。
『追記。あなたは現在かなり危険人物です』
「テメェ心読むな!!」
『脳直結ですので』
玲央は舌打ちした。
「で!? 爆弾はどこだ!!」
『三両目』
「犯人は!?」
『黒色バックパック所持。男性。年齢二十七。身長174cm。昨日SNSへ政府批判投稿を連続投下。承認欲求が極めて高いタイプです』
「顔!」
次の瞬間、視界に男の顔写真が表示された。
監視カメラ映像。
コンビニ。
駅構内。
エレベーター。
大量の画像が高速で切り替わる。
玲央の脳が焼けそうになる。
「ぐッ……!」
『処理限界ですね。低性能』
「っ、平気だ!!」
『虚勢を確認』
電車到着のアナウンスが鳴る。
ホームへ滑り込んできた車両。
人波が動く。
その瞬間。
『検知』
玲央の視界で、一人の男が赤くマーキングされた。
黒いリュック。
無精髭。
焦点の合わない目。
汗。
震える指。
『爆弾保持者です』
「アイツか……!」
『提案。膝関節破壊後、爆弾のみ確保』
「もっと穏便にいけねぇのか!?」
『ありません』
男が車両へ乗り込もうとする。
玲央は反射的に走った。
「待てぇぇぇぇッ!!」
男が振り返る。
目が合った。
その瞬間。
男の顔が歪む。
「なんで……っ、お前……!!」
『犯人、動揺。あなたを公安関係者と誤認しています』
「知らねぇよ!!」
男がポケットへ手を突っ込む。
『起爆スイッチ』
「ッ!!」
考えるより先に、玲央は飛び込んでいた。
体当たり。
二人まとめてホームへ転がる。
周囲が悲鳴に包まれた。
「離せ!! 離せぇぇ!!」
男が叫ぶ。
手にはスマホ。
赤い起爆アプリ。
『現在、爆発まで5秒』
「なっ──」
『4』
「止めろ!!」
『3』
「お前AIだろ!? なんとかしろ!!」
一瞬の沈黙。
そして。
脳内の声が、少しだけ笑った気がした。
『──初めて“お願い”しましたね』
次の瞬間。
駅構内の全照明が落ちた。




