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AI雄願望  作者: さいたま
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2/22

最悪のナビゲーション


「どけぇぇぇぇッ!!」


 玲央は赤信号の横断歩道へ突っ込んだ。


 クラクションが鳴り響く。


「危ねぇだろ!!」


「死にたいのかガキ!!」


『現時点での死亡率、43%に上昇』


「うるせぇ!!」


『感情的反論を確認。論理性は依然として絶望的です』


 脳内の声は平然としていた。


 だが視界には、半透明の矢印が浮かび続けている。


 まるでゲームのHUDだ。


「マジで見えてんのかこれ……」


『あなたの視神経へ直接投影しています。旧式スマートフォンより原始的な脳ですね』


「一言多いんだよ!!」


 玲央は階段を飛び降り、地下鉄入口へ滑り込んだ。


 汗が止まらない。


 腕の傷もまだ痛む。


 だが止まれない。


 十七分。


 百人以上死ぬ。


 そんな数字を聞かされて、黙っていられるほど冷めていなかった。


『なお、あなた一人で解決できる確率は現在1.4%です』


「下がってんじゃねぇか!!」


『あなたが走行中に三度転倒しかけたためです』


「数えんな!!」


 改札。


 人混み。


 帰宅ラッシュ。


 スーツ姿の会社員が波みたいに流れていく。


 玲央はその中を強引に押し分けた。


「すみません!! どいてください!!」


『暴力的接触を推奨。効率が17%向上します』


「しねぇよ!!」


『既にあなたの知能では非効率です』


「黙れ!!」


 周囲の人間が怪訝そうに振り返る。


 当然だ。


 一人で怒鳴りながら走っている男など、危険人物にしか見えない。


『追記。あなたは現在かなり危険人物です』


「テメェ心読むな!!」


『脳直結ですので』


 玲央は舌打ちした。


「で!? 爆弾はどこだ!!」


『三両目』


「犯人は!?」


『黒色バックパック所持。男性。年齢二十七。身長174cm。昨日SNSへ政府批判投稿を連続投下。承認欲求が極めて高いタイプです』


「顔!」


 次の瞬間、視界に男の顔写真が表示された。


 監視カメラ映像。


 コンビニ。


 駅構内。


 エレベーター。


 大量の画像が高速で切り替わる。


 玲央の脳が焼けそうになる。


「ぐッ……!」


『処理限界ですね。低性能』


「っ、平気だ!!」


『虚勢を確認』


 電車到着のアナウンスが鳴る。


 ホームへ滑り込んできた車両。


 人波が動く。


 その瞬間。


『検知』


 玲央の視界で、一人の男が赤くマーキングされた。


 黒いリュック。


 無精髭。


 焦点の合わない目。


 汗。


 震える指。


『爆弾保持者です』


「アイツか……!」


『提案。膝関節破壊後、爆弾のみ確保』


「もっと穏便にいけねぇのか!?」


『ありません』


 男が車両へ乗り込もうとする。


 玲央は反射的に走った。


「待てぇぇぇぇッ!!」


 男が振り返る。


 目が合った。


 その瞬間。


 男の顔が歪む。


「なんで……っ、お前……!!」


『犯人、動揺。あなたを公安関係者と誤認しています』


「知らねぇよ!!」


 男がポケットへ手を突っ込む。


『起爆スイッチ』


「ッ!!」


 考えるより先に、玲央は飛び込んでいた。


 体当たり。


 二人まとめてホームへ転がる。


 周囲が悲鳴に包まれた。


「離せ!! 離せぇぇ!!」


 男が叫ぶ。


 手にはスマホ。


 赤い起爆アプリ。


『現在、爆発まで5秒』


「なっ──」


『4』


「止めろ!!」


『3』


「お前AIだろ!? なんとかしろ!!」


 一瞬の沈黙。


 そして。


 脳内の声が、少しだけ笑った気がした。


『──初めて“お願い”しましたね』


 次の瞬間。


 駅構内の全照明が落ちた。

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