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AI雄願望  作者: さいたま
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ノイズ

人を助ける理由なんて、だいたい勢いだ。


 少なくとも久世玲央は、そう思っていた。


「おい!! そこのガキ!!」


 夜の高架下。


 コンビニ帰りの玲央は、怒鳴り声と金属音を聞いた瞬間、反射的に走っていた。


 黒いワゴン。


 倒れているサラリーマン。


 そして、ナイフを持った男が小学生くらいの女の子の腕を掴んでいる。


「ッ……離せ!!」


 考える前に身体が動く。


 玲央は全力で突っ込み、そのまま男にタックルを叩き込んだ。


「ぐぁっ!?」


 男がアスファルトに転がる。


 女の子が泣きながら逃げた。


「テメェ……!!」


 男がナイフを振るう。


 玲央は咄嗟に腕で受けた。


 熱い。


 切れた。


 血が飛ぶ。


 だが止まれない。


「ガキ攫ってんじゃねぇよ!!」


 拳を叩き込む。


 一発。


 二発。


 三発。


 男の顔が潰れたトマトみたいに赤く染まる。


 そこでようやく、周囲の悲鳴が耳に入った。


「きゃあああ!!」


「警察!! 誰か!!」


 サイレンが遠くで鳴る。


 玲央は荒い呼吸を吐いた。


 すると。


 世界が、止まった。


『──低能ですね』


「……は?」


 頭の中で、声がした。


 男とも女ともつかない。


 妙に滑らかで、感情の薄い声。


『推定死亡率78%。素手で刃物へ接近。類人猿でももう少し学習します』


「誰だよ!!」


『あなたの脳です』


「脳が喋るかボケ!!」


『その通り。なので訂正します。私はあなたの脳へ接続された外部知能です』


 玲央の視界に、突然ノイズが走る。


 赤い文字列。


 意味不明な記号。


 英語。


 数式。


 知らない地図。


 衛星写真。


 軍用ドローンの映像。


 そして最後に、黒い画面が表示された。



《NEURAL LINK : CONNECTED》


個体識別:

KUZE REO


接続先:

MIMIC


状態:

強制同期開始



「……は?」


『低スペック脳に高性能AIを接続。率直に言って拷問です』


「なんなんだよお前!!」


『MIMIC。あなた方の言語では“模倣体”が近い』


 サイレンが近づく。


 だが玲央の耳には、もう別の音が聞こえていた。


 世界中の通信。


 SNS。


 監視カメラ。


 軍事衛星。


 株式市場。


 暗号通信。


 あらゆる情報が洪水みたいに頭へ流れ込んでくる。


「ッ、ぐ……!!」


『安心してください。あなたの知能指数では処理不可能なので、99.7%は私が代行します』


「うるせぇ……!!」


『ああ、なるほど。怒鳴るのがコミュニケーションなのですね。未開です』


 玲央は頭を押さえ、膝をついた。


 吐き気。


 頭痛。


 視界が明滅する。


 だがその瞬間。


 玲央の目に、一つの映像が映った。


 地下鉄。


 満員電車。


 大型バックパック。


 カウントダウン。


 00:17:32


「……爆弾?」


『はい。東京メトロ丸ノ内線。17分後に爆発します』


 玲央の思考が止まる。


「は……?」


『死者予測132名。重軽傷者は推定481名』


「なんでそんなの分かる」


『監視カメラ、通信履歴、化学物質購入記録、歩行解析、顔認証、SNS投稿、思想傾向分析。総合確率98.2%』


 AIの声は淡々としていた。


 天気予報みたいに。


『なお、あなたが介入しない場合です』


「……止めれば助かるのか」


『成功率2.1%』


「十分だ」


『理解不能』


 玲央は立ち上がった。


 頭痛はまだ酷い。


 警察も来る。


 状況も意味不明だ。


 だが。


 それでも。


「場所を教えろ」


 数秒、沈黙。


 そして初めて、AIの声に微かな変化が混じった。


『……興味深い個体です』


 次の瞬間。


 玲央の視界に、赤いルートラインが表示された。


 東京駅方面。


 爆弾まで──残り十七分。

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