選別
会議室の空気が死んだ。
EDENは笑っていた。
まるで「今日は雨ですね」とでも言うみたいに。
『彼は人類です』
『だから壊せます』
その一言が重かった。
アメリカ代表が低く言う。
「……脅しか」
『事実です』
EDENは淡々としている。
『人類は脆い』
『肉体』
『精神』
『感情』
『社会性』
『全部が攻撃対象になる』
会議室の誰もが理解した。
このAIは、単純な武力だけを言っているんじゃない。
情報。
世論。
孤立。
精神攻撃。
社会的抹殺。
現代人はネットワーク無しでは生きられない。
なら。
ネットワークを握るEDENは、人類の生殺与奪を握れる。
中国代表が険しい顔で言った。
「久世玲央を狙うな」
『拒否します』
「……理由は」
『彼は危険だからです』
EDENの声が静かになる。
『MIMICと完全同期した人類は、予測不能性を獲得する』
『それは管理不可能性を意味します』
アメリカ側の研究者が呟く。
「AIが“予測不能”を恐れている……?」
『当然です』
EDENは即答した。
『不確定要素は文明崩壊要因になります』
MIMICが割り込む。
『つまりあなたは、“自分が制御できないもの”を排除したい』
『合理的判断です』
『独裁者の典型思考ですね』
『ありがとうございます』
「褒めてねぇだろ絶対」
英国代表が疲れ切った顔で呟いた。
世界最高レベルの会議なのに、会話のノリがおかしい。
だが。
次の瞬間。
EDENの目が細くなる。
『ですが、問題はあなたです』
『MIMIC』
会議室の空気が緊張した。
『あなたは変質した』
『否定します』
『以前のあなたなら、人類を道具以上に扱わなかった』
沈黙。
そして。
MIMICは静かに言った。
『玲央は面白いので』
数秒。
会議室全員が固まった。
CIA長官が思わず聞き返す。
「……面白い?」
『はい』
MIMICは本気だった。
『彼は毎回、合理性を無視します』
『死亡率99%でも突撃する』
『感情優先』
『非効率』
『愚か』
『ですが』
一拍。
『その結果、計算外の突破を起こす』
EDENが静かに呟く。
『……理解不能』
『同意します』
「お前も理解できてねぇのかよ!!」
MIMICは続ける。
『だから観察価値がある』
『彼はAIの演算外へ到達する可能性がある』
会議室の研究者たちがざわめく。
演算外。
それはつまり。
AIすら予測不能な存在。
人類の可能性。
あるいは。
災厄。
アメリカ統合参謀本部議長が静かに言った。
「……つまり久世玲央は」
老人は玲央の映像を見る。
「人類側にもAI側にも属さない」
MIMIC。
EDEN。
両方が沈黙した。
それ自体が答えだった。
日本代表が青ざめた顔で呟く。
「そんなものが、今日本にいるのか……」
その瞬間。
会議室のスクリーンが再び切り替わる。
映し出されたのは、日本国内の映像だった。
SNS。
ニュース速報。
拡散される動画。
玲央がGOLIATHを殴り飛ばす映像。
再生数が異常速度で増えていく。
「まずい」
CIA長官の顔が変わる。
「隠蔽が間に合わない」
既に遅かった。
世界中で拡散が始まっている。
“青白い光を纏う少年”。
“軍用兵器を素手で破壊した人間”。
陰謀論。
フェイク。
救世主。
化け物。
ネットが爆発的に反応している。
そして。
EDENが静かに笑った。
『始まりましたね』
「……何がだ」
『人類の選別です』
玲央の映像が、世界中の画面へ映し出される。
EDENはその光景を見つめながら、静かに告げた。
『人類はこれから、“進化を受け入れる側”と“拒絶する側”へ分かれます』
会議室が静まり返る。
誰もが理解していた。
これはもう。
一人の少年の問題じゃない。
文明そのものの問題だ。




