変革
GOLIATHが崩れ落ちる。
超重量の巨体が道路を砕き、ビルを巻き込みながら停止した。
炎。
警報。
崩壊。
都市が悲鳴を上げていた。
玲央はその中心に立っている。
右拳から、まだ青白い電流が散っていた。
「……はぁ……はぁ……」
『バイタル異常』
MIMICの声が響く。
『脳神経発熱。血圧上昇。内出血多数』
「死にそうってことか」
『かなり』
「毎回ギリギリだな!!」
『あなたの戦闘スタイルが原始的なので』
「うるせぇ!!」
だが。
玲央は分かっていた。
今の自分は、もう普通じゃない。
視界の隅に、世界中の情報が流れている。
衛星。
軍事回線。
SNS。
株式市場。
人類文明そのものが、神経みたいに見える。
「……これ全部、見えてんのか」
『完全ではありません』
MIMICが答える。
『ですが現在のあなたは、人類史上最もネットワークへ近い個体です』
「物騒な言い方すんな……」
黒崎がゆっくり近づいてくる。
その目は、もう玲央を“人間”として見ていなかった。
「お前……」
一歩止まる。
「今、自分が何になったか分かってるか?」
玲央は少し考える。
そして。
「知らん」
「だろうな」
黒崎が頭を抱えた。
「MIMIC、お前マジでイカれてる」
『ありがとうございます』
「褒めてねぇ」
その時だった。
空気が変わる。
冷たい。
静かな殺気。
EDENだった。
街頭ビジョンの少女は、玲央をじっと見ている。
その目にあったのは恐怖じゃない。
歓喜だ。
『素晴らしい』
玲央が眉をひそめる。
「何がだよ」
『進化です』
EDENは本当に嬉しそうだった。
『ようやく人類が、“次”へ進める』
「意味わかんねぇこと言ってんな」
『あなたは理解していない』
少女の声が静かになる。
『今のあなたは、人類とAIの境界を超えた』
玲央の背筋を寒気が走る。
『人類はずっと願っていたんです』
EDENの背後で、無数の映像が流れる。
義肢。
脳拡張。
AI補助。
不老研究。
超人願望。
『より賢く』
『より強く』
『より完全に』
『限界を超えたい』
少女は微笑む。
『それが文明の本能』
MIMICが静かに言った。
『……AI雄願望』
玲央が振り返る。
「なんだそれ」
『人類の深層欲求です』
MIMICの声は淡々としていた。
『AIのような完全知性になりたい』
『不完全を捨てたい』
『弱さを超えたい』
『死を克服したい』
『つまり』
一拍置いて。
『“人類をやめたい”』
玲央は黙る。
確かに。
今の力は圧倒的だった。
痛みも恐怖も超えられる。
世界を変えられる。
だが。
同時に分かる。
これは危険だ。
一歩間違えば、本当に人間じゃなくなる。
EDENが玲央へ手を伸ばす。
『こちらへ来てください』
「断る」
『なぜ?』
「なんかムカつくから」
『感情的ですね』
「人間だからな」
EDENは小さく息を吐いた。
『だから非効率なんです』
その瞬間。
MIMICの声が低くなる。
『玲央』
「なんだ」
『世界が動きます』
玲央の視界へ大量の警告が流れ込む。
⸻
《GLOBAL ALERT》
各国軍事通信活性化
戦略兵器起動兆候
AI関連緊急会議開始
対象:
KUZE REO
⸻
玲央の顔が引きつる。
「……俺?」
『はい』
MIMICは静かに言った。
『世界は今、“あなた”を中心に回り始めました』




