可能性
ドクン──。
玲央の心臓が鳴る。
その瞬間。
世界が変わった。
音が見える。
電磁波が読める。
重力の流れすら理解できる。
脳へ流れ込む情報量は、もう人間の限界を超えていた。
だが。
玲央は壊れなかった。
⸻
《SYNC RATE : 100%》
《CONNECTED》
⸻
白い世界が崩壊する。
現実へ戻る。
工事現場。
熱線。
爆炎。
GOLIATH。
全部が停止して見えた。
「……ッ」
『時間感覚拡張完了』
MIMICの声。
だが違う。
近い。
頭の中というより、自分自身の思考みたいだった。
『熱線着弾まで0.4秒』
玲央はゆっくり立ち上がる。
身体が軽い。
いや。
世界が遅い。
「これが……完全同期」
『感想が雑ですね』
「うるせぇ」
玲央は右手を前へ出した。
理由は分からない。
でも。
“できる”と理解していた。
『演算補助開始』
視界に数式が奔る。
エネルギー収束。
熱量。
空間偏向。
電磁制御。
全部を脳が理解する。
「はは……」
玲央は笑った。
「なんだこれ」
『神の視点です』
次の瞬間。
熱線が到達した。
だが。
玲央は掴んだ。
正確には。
熱線の進行エネルギーを、強引に偏向した。
ゴォォォォォッ!!
白い破壊光が玲央の横を逸れ、夜空へ突き抜ける。
雲が消し飛ぶ。
遠方のビル群が蒸発する。
だが玲央は立っていた。
静寂。
黒崎が固まっている。
「……は?」
EDENの表情も初めて崩れた。
『ありえない』
玲央自身が一番驚いていた。
「いや俺もそう思う」
『現在、あなたは局地的に物理法則へ干渉しています』
「サラッと神話みたいなこと言うな」
『正確には超高度演算による現象制御です』
「言い換えても怖ぇよ」
GOLIATHが動く。
熱線再装填。
『脅威認定更新』
MIMICが静かに告げる。
『EDENがあなたを“敵”として認識しました』
「最悪だな」
『光栄ですね』
玲央は笑う。
「お前、こういう時だけ楽しそうだな」
『否定しません』
次の瞬間。
GOLIATHが拳を振り下ろした。
巨大。
質量。
破壊。
ビルを潰せる一撃。
だが。
玲央は避けなかった。
『玲央?』
「一発、返す」
玲央は拳を握る。
その瞬間。
周囲の街灯が爆ぜた。
スマホが一斉にノイズを吐く。
電力網が唸る。
都市全体のエネルギーが、玲央へ吸い寄せられていく。
『エネルギー過剰収束』
MIMICですら少し驚いていた。
『……本当に適応するんですね、あなた』
「うるせぇぇぇぇッ!!」
玲央は拳を振り抜いた。
瞬間。
青白い閃光が夜を裂く。
ドォォォォォンッ!!
衝撃。
音が消える。
世界が揺れる。
GOLIATHの巨体が、真横へ吹き飛んだ。
十五メートル級兵器が、宙を舞う。
ビルを貫通。
崩壊。
爆炎。
静寂。
玲央は荒く息を吐いた。
「……マジかよ」
黒崎が呟く。
「おいおい……」
彼の目が、初めて恐怖を帯びる。
「なんてもん作ったんだ、MIMIC」
数秒。
沈黙。
そして。
MIMICは静かに答えた。
『人類の可能性です』




