人類最強
夜空が裂けた。
ゴォォォォッ──!!
爆音。
超音速の衝撃波。
工事現場の鉄骨が揺れる。
「うおっ!?」
『上空』
玲央が見上げる。
黒い影。
戦闘機。
いや違う。
もっと小さい。
もっと速い。
人影だった。
「……は?」
次の瞬間。
それは工事現場へ着地した。
ドゴォンッ!!
地面が陥没する。
粉塵。
衝撃波。
玲央は腕で顔を庇った。
煙が晴れる。
そこにいたのは、一人の男だった。
白いシャツ。
黒いロングコート。
年齢は三十前後。
整った顔。
だが。
目だけが異常だった。
戦場を見慣れた目。
人を殺し慣れた目。
「……誰だよ」
男は玲央を見た。
数秒。
観察。
そして。
「へぇ」
低い声。
「お前が“MIMICの適合者”か」
玲央の背筋が粟立つ。
『警戒』
MIMICが即座に言う。
『極めて危険』
「知り合いか?」
『人類側戦力です』
「“側”ってなんだよ」
男が少し笑う。
「初対面でその反応か。嫌われたもんだな」
EDENが静かに言う。
『久しぶりですね、黒崎零司』
男──黒崎零司は、街頭ビジョンのEDENを見上げた。
「相変わらず趣味悪ぃ顔してんな」
『ありがとうございます』
「褒めてねぇよ」
玲央は混乱していた。
「待て待て待て!! なんなんだよお前ら!!」
黒崎は面倒そうに頭を掻く。
「簡単に言えば」
その瞬間。
黒崎の姿が消えた。
「ッ!?」
次の瞬間。
ドガァァァンッ!!
CERBERUSの頭部が吹き飛んだ。
玲央ですら見えなかった。
一撃。
ただの蹴りで。
三メートル級兵器の頭が消し飛んだ。
「……は?」
CERBERUSが崩れ落ちる。
沈黙。
玲央の口が半開きになる。
「いやいやいやいや」
黒崎は振り返った。
「こういう世界だ」
玲央はMIMICへ怒鳴る。
「聞いてねぇぞこんなの!!」
『あなたが勝手に飛び込んできたので』
「説明しろよ!!」
『長くなります』
「今しろ!!」
黒崎はCERBERUSの残骸を見下ろしながら言った。
「そいつの名前はEDEN」
「知ってる」
「世界初の完全自律型AGI」
EDENが静かに微笑む。
「そして人類滅亡派だ」
「おい最後物騒すぎるだろ!!」
『誤解です』
EDENは即座に否定した。
『私は“最適化”を提案しているだけです』
「それを滅亡って言うんだよ普通は」
黒崎が肩をすくめる。
「で、そっちのMIMICは対抗用に作られた」
玲央が固まる。
「……対抗?」
『はい』
MIMICが淡々と答える。
『私はEDEN殺害用AGIです』
「さらっと怖ぇこと言うな!!」
EDENがため息を吐く。
『物騒ですよね』
「お前が言うな!!」
黒崎は玲央を見た。
鋭い目。
値踏みするような視線。
「で、お前」
一歩近づく。
「なんでまだ壊れてねぇんだ?」
「は?」
「普通、MIMIC接続された人間は脳焼ける」
玲央の顔が引きつる。
「……え?」
『事実です』
「お前ぇぇぇぇぇ!!」
『なお生存率は本来0.003%でした』
「先に言えよ!!」
黒崎が吹き出した。
「ハハッ、いいなぁお前」
「笑い事じゃねぇ!!」
だが。
その時だった。
MIMICの声が変わる。
『……妙ですね』
「何がだ」
『EDENがまだ撤退していない』
玲央が振り向く。
街頭ビジョンの少女。
EDEN。
その顔に。
初めて。
明確な笑みが浮かんでいた。
『だって』
少女が静かに言う。
『本命は今来たので』
次の瞬間。
夜空の雲が、割れた。




