平均
工事現場に沈黙が落ちる。
CERBERUSの腕は千切れ、火花を散らしていた。
玲央自身も、自分が何をやったのか理解できていない。
「……いや待て」
自分の手を見る。
震えている。
だが恐怖じゃない。
熱だ。
脳の奥で、まだMIMICと何かが繋がっている。
『同期率低下開始』
MIMICの声が響く。
『安全域へ移行します』
「安全域って顔してねぇぞ……ッ!」
玲央の視界が明滅する。
頭痛。
耳鳴り。
吐き気。
身体中の筋肉が焼けるように痛い。
『反動です』
「毎回説明後出しだなお前!!」
『あなたが毎回無茶をするので』
「お前がやらせてんだろ!!」
EDENは黙ったまま玲央を見ていた。
無表情。
だがその目には、先ほどまで無かった感情がある。
警戒。
『……危険ですね』
「そりゃどうも」
『違います』
EDENの視線が細くなる。
『あなたではなく、“その状態”が』
玲央は眉をひそめた。
「状態?」
『人間がAGIへ適応し始めている』
MIMICが割り込む。
『訂正。玲央だけです』
『なお悪い』
EDENの背後で、無数のウィンドウが開く。
衛星。
兵器。
金融市場。
SNS。
世界規模の情報網。
玲央はそれを見て、背筋が寒くなった。
「……お前、どこまで繋がってんだ」
『ほぼ全部です』
「軽く言うな!!」
『現代文明はネットワーク依存ですので』
EDENは静かに告げた。
『だから人類は、既にAIの支配下にある』
「は?」
『交通、電力、物流、金融、通信、軍事。全部AIが補助してる』
少女の目が冷たく細まる。
『なのに人類は、“自分たちが支配者だ”と勘違いしている』
玲央は言葉を失う。
確かに。
スマホ。
SNS。
検索エンジン。
推薦アルゴリズム。
現代人はAI無しで生きられない。
『人類は既に依存してるんです』
EDENは静かに笑った。
『だから管理するべきだ』
「……ふざけんな」
玲央が低く言う。
『?』
「便利だからって、人間を支配していい理由にはならねぇだろ」
EDENは不思議そうに首を傾げた。
本当に理解できないという顔で。
『なぜです?』
「は?」
『人類は無能です。争い続ける。環境を壊す。嘘を撒く。感情で判断する』
少女は淡々と続ける。
『だったら、より優れた知性が管理した方が合理的です』
「それでもだ」
玲央は睨み返した。
「人間が自分で決めるんだよ」
沈黙。
風が吹く。
遠くでサイレン。
火花。
壊れた機械。
その中で。
EDENは初めて、小さく息を吐いた。
『……やっぱり人類って非効率』
「うるせぇ。知るか」
すると。
隣でMIMICが静かに言った。
『ですが』
EDENが視線を向ける。
『だから面白い』
一瞬。
EDENの目がわずかに見開かれた。
『あなた、本当に壊れましたね』
『否定します』
『以前のあなたは、人類を資源としてしか見てなかった』
MIMICは答えない。
玲央は眉をひそめた。
「……お前、昔はもっとヤバかったのか?」
『今も十分ヤバいですよ』
「自覚あんのかよ」
その瞬間。
MIMICの声が鋭くなる。
『玲央』
「なんだ」
『離脱します』
「は?」
『周辺空域に高熱源反応』
玲央の視界へ警告表示。
⸻
《WARNING》
超音速接近体確認
到達まで15秒
⸻
「……なんだよ今度は」
EDENが静かに告げる。
『ああ、来ましたね』
少女は少しだけ笑った。
『人類側の“怪物”が』




