第九十一術 大蛇、育成計画
「ぐへー……」
「やれやれ……こうなりましたか」
すべての肉を完食した頃には、ギャリックさんはすっかり出来上がっていた。
もちろん、ガーネットさんもである。
「あとのことは私達に任せて、貴方様はガーネットさんをよろしくお願いします」
「あ、どうも。ありがとうございます」
そうして片付けを済ませた俺たちは、『クリムゾン』を後にした。
さて、BBQコンロも手に入ったし……次はどうしようかな……
そう考えていると、銀瓏が何かを思いついたように口を開く。
『そうだな……久しぶりにトランザのダンジョンに行きたいな』
「ええ?ダンジョン?」
『何を言う。ちょうどダンジョンで腕試しがしたい。それにいい機会だ』
「機会?」
『あの時は高ランク魔物ばっかだったが……前に攻略した時、レベルが下がっているはず。これを機に、大蛇を強くさせるのがいい』
「ええ……」
俺としては、大蛇にはあまり戦ってほしくないんだけどな……。
すると、銀瓏が大蛇へ問いかける。
『どうだ大蛇?強くなって、主を守りたいだろう?』
『あるじを?それなら、あーし、頑張る!!』
「ええ!?……大蛇、別に頑張らなくても……」
『あーし、あるじにいっぱいおいしいもの食べさせてもらったから、あーしはあるじに恩をかえしたい!』
大蛇はキラキラした目で見つめる。
くっ……めっちゃええ子や!
『あーし、ギンロウおじちゃんみたいに強くなって、あるじを守るの~!!』
「ぶほっ……!」
『なっ!?』
大蛇が唐突に銀瓏を『おじちゃん』呼びしたことに、俺は思わず吹き出した。
『おじちゃんだと!?俺はこう見えてもまだ若いぞ!!』
(500歳の時点で俺からしたらおじちゃんなんだけどな……)
『おじちゃんはね~すごく強くて~頭が良くて~だからおじちゃんなの~!』
『ぐっ……!純粋な目で言っているから悪気はないと感じ取れるが……俺はおじちゃんではない!!』
『えー……ギンロウおじちゃんはおじちゃんなの……』
大蛇はウルウルと涙を浮かべる。
「おい、銀瓏……大蛇を泣かすなよ」
『ぐっ……』
大蛇が涙目になり、銀瓏は苦虫を噛み潰したような顔をする。
『……ええい!分かった!!好きに『おじちゃん』と呼んでもいいから泣くな!』
『ほんと?わーい!!ギンロウおじちゃん大好き~!』
『……ふん』
と、銀瓏が『おじちゃん』呼びを許可したので、大蛇は嬉しそうにはしゃぐ。
『では、私はなんですか?』
『えーとね……キリンばあちゃん!』
『ふふ……おばちゃんですよ』
『きゅー!!』
麒麟はそう言いながら、大蛇の顔に鼻をこすりつける。
「それじゃあ、ガーネットさんは?」
『え?えーとね……』
ガーネットさんは『ガーネットおねえちゃん』とか言いそうだな。
そう思っていると、大蛇は自信満々な声で答えた。
『―――ぱぱ!!』
「――ぶほぁっ!?」
唐突の『パパ』呼びで俺は思わず吹き出す。
お、大蛇!?
「え、えーと……なんでガーネットさんはパパなの?」
『えーとね、優しくて~あるじと仲良くて~物知りで~それがぱぱなの~!』
「ええ……」
どちらと言うと、俺が『パパ』に相応しいと思うんだけど……
――とすると、『ママ』って……
「ちなみに大蛇……『ママ』は誰?」
『ままは……あるじ~!』
「ですよね~……」
薄々勘付いてたけど……俺がママかよ。
逆だろ普通……
『ままはね~ご飯が美味しくて~あーしのことを大切にしてくれて~いつも一緒に寝てて~それがままなの~!』
『そうだな……言われてみれば、主がママでも別に違和感は無いな』
『確かに……』
「ちょっと二人とも!?」
そこ納得しないで!?
少しは否定して!?
『だから、あるじはままで、ままがあるじなの~!』
「そ、そうなんだ……でも、俺的にはあるじでいいかな~」
『?……分かった!』
「あと、せめてガーネットさんはできれば『おねえちゃん』って言ってほしい……」
『?……なんで?』
「なんでって……その……まだ、夫婦になってないって言うか……ゴニョゴニョ……」
俺は恥ずかしながらも大蛇に説明する。
『?……うーん、わかった。ぱぱはおねえちゃんっていえばいいんだね?』
「うん、ごめんね。わがまま言って」
『あるじがダメならあーし言わない~』
あ~めっちゃええ子!
きっと俺の母さんたちもこんな感じだったんだろうな……
『……なんか、俺の時と対応が違うような……』
『日頃の行いじゃないですか?』
……銀瓏、ドンマイ。
さて、やることは決まったし……明日のために作り置きをしておくか。
幸い、BBQに使わなかった肉も残っているし。
そうして俺は、明日のダンジョン攻略に備えて料理を作り置きし、眠りについた。
◆
『さて、ダンジョンに行くぞ』
『わーい!』
「やれやれ……」
ダンジョンの入り口に着いた俺たち手続きを済ませて中へ入る。
『トランザダンジョン 一階』
「今回は二十階までにしておくぞ」
『何?……なぜだ?』
「あのな……大蛇はまだレベルが低いんだから二十階層より下は高ランクがゴロゴロいるに決まっているだろ!」
『むぅ……そんなもん、俺が何とかすればいいだろう』
「ただお前がやりたいだけじゃん……」
『そんなことより……来ましたよ』
「え?」
すると、前方からゴブリンの群れが走ってくる。
「うおっ!もう早速来た……大蛇、俺たちがサポートするから、その隙に止めを刺してくれ」
『わかった~!』
「よし―――『雷電銃』っ!」
――バドドドドッ!!
『『ぐげげげっ!?』』
ウィズを『錬成』で銃へと変形させ、小型の雷魔法を放つ。
雷撃を受けたゴブリンたちは、痺れて動きを止めた。
「動きは止めたぞ。大蛇!」
『うん、わかった!』
――シュバッ!!
大蛇は俺の首から離れると、魔法陣を展開する。
『いっけぇ!』
――ババババッ!!
魔法陣から水魔法の連撃が放たれ、ゴブリンたちへ次々と命中する。
『『ぐぎゃぁぁぁっ!?』』
何度も水魔法を叩き込み、ゴブリンを数体倒すことに成功した。
初めての戦闘にしては上出来だ!
「凄いぞ、大蛇!」
『えへへ……お魚で捕まえる時に使ってたから~』
『ほう……筋はなかなか良いな……よし、もっと当て続けろ!』
『うん、分かったギンロウおじちゃん!!―――それぇ!!』
大蛇は残ったゴブリンたちへ、さらに攻撃を続ける。
そして――
『『ぐぎゃぁぁぁっ!!』』
襲いかかってきたゴブリンたちは、次々と水魔法に撃ち抜かれ、その場へ沈んでいった。
『わーい、出来た!!』
「偉いぞ、大蛇」
『えへへ……あーし、強くなった?』
「調べてみるね」
そう言い、ガーネットさんは大蛇のステータスを確認する。
【名前】 大蛇
【年齢】 2
【性別】 ♀
【種族】 ポンド・スネーク
【契約先】 酒森 幸
【パーティ】 自由の食旅
【レベル】 12
【ステータス】
・体力 210
・魔力 310
・筋力 80
・俊敏性 130
・耐久性 60
【スキル】
・念話・危機察知・水魔法
【個体能力】
・水中適応術
レベルが上がってるな……一気に12まで上がったぞ!
「この調子でいけばあっという間に20はいきそうだな」
『えへへ……あーし頑張る!』
そう言って、大蛇は嬉しそうに笑う。
こうして俺たちは、大蛇の成長を見守りながら、次の階層へと降りていくのだった。




