第八十七術 なんか色々あったけど、一回顔洗って落ち着こう
翌朝、俺は昨夜の出来事を、ガーネットさんに説明していた。
「ええ!?私に加護が!?」
「そうなんですよ……。たしか、ビネガーン様とミイソ様とユーセイ様の加護が与えられているはずです」
俺がそう伝えると、ガーネットさんは慌てて『鑑定』を使う。
「ほ、本当だ……【加護】って項目が追加されてる……!」
そう呟いた瞬間、ガーネットさんはわなわなと震え始めた。
「ああ……ついに、私も『加護持ち』……!こんなに嬉しいことは無いわ!!」
(すごい喜んでるな……)
「それに、全属性魔法の習得!今まで習得してなかった『草魔法』や『無属性魔法』なんなら『聖属性』とか『呪属性』が使えるかも!」
……まぁ、ガーネットさんが喜んでるならいいか。
『それにしても……流石は幸と言いますか。まさか、すべての神の加護をコンプリートしてしまうとは……』
「確かに……」
これ絶対、歴史的に残るよな……
『それに、確か『生命神』の加護は寿命が延びるんだったな』
「ああ、確か小さい加護で1000年は生きられるんだっけ?」
『うむ……ということは、これから長い年月をかけて、主の料理を食べ続けることができるということだ!!』
「だと思ったよ……」
この食い意地龍が……
「さて、朝ごはんをちゃちゃっと作りますか」
気を取り直して、朝食の準備を始める。
今日の朝飯は、目玉焼きにウィンナー、それからトースト……シンプルで基本的な朝食だ。
俺は手際よく、それぞれのおかずを作っていく。
――ジュァァァァッ!
――ジジジ……
香ばしい匂いが辺りに漂い、数分後には朝食の準備が整った。
俺は皆を呼び集める。
「ほら、出来たぞー」
『『おおっ!』』
焼けた匂いに釣られるように、皆が盛り付けられた料理の前へ集まってくる。
「じゃあ、いただきます」
『『いただきます!』』
――ザクッ!
「んん!目玉焼きの濃厚な黄身にバターが香るパンと一緒に食べることで美味しさがさらに高まる!」
『このウィンナーも、噛めば噛むほど肉汁が溢れてくる!やはり主の料理は朝昼晩、いつ食べても旨いな!!』
『私も、このぐらいならまだまだ食べれます』
「はいはい……皆、褒めても何も出ないぜ?」
俺はミルクティーを啜りながら言う。
こうして外で食べる、軽めの朝食も悪くない。
「ふぅ……さて、朝飯も食べたし、行くか」
『むっ……そうだな、行くとしようか』
朝食を終えた俺たちは、出発の準備を整え、『トランザ』へ向かうのだった。
◆
向かう途中、CやDランクの魔物と出会うが……
「……弱いな」
『うむ』
『一瞬で終わりましたね』
今の俺たちにとっては、もはや敵ではないので、サクッと倒して、俺たちの食事の肉へと変える。
……やはり、高ランクの魔物との戦いを経験すると、低ランクの魔物では驚かなくなってくるな。
そんなことを考えながら走り続けていると、やがて夕暮れが近づいてきたのでまた野宿するのだった。
「おっ、ここならいいな」
近くには湖がある。
水も確保できるし、魚とかいるのかな?
そうだ、魚と言えば……久しぶりに生魚を食べたいな。
「あの、ガーネットさん。この世界の魚って生で食べれるんですか?」
「んー……基本的には焼いて食べるわね」
「やっぱりそうか」
「魚の中に『フィッシュ・ワーム』がいる危険があるから」
「え、なにそれ」
「食べた魚から体内に侵入して、内臓を食い破る寄生虫型の魔物よ」
「怖っ!?」
腹を壊すとか、食中毒とか、そういうレベルじゃねぇ!?
仕方ない……ここは安心と安全の日本製品でいきますか……
俺は、『等価交換』で『刺身』各種を錬金する。
今回は、『マグロ』、『サーモン』、『サバ』、『甘エビ』の刺身だ。
あとついでに、ご飯とみそ汁も用意する。
「ほーら、皆。出来たぞー」
『ほう、これは……魚か?しかも――焼いてないな』
「ああ、これは『刺身』って言って、生魚を醤油につけてたべる料理だ」
「……これ『フィッシュ・ワーム』とか大丈夫?」
「流石に日本製だからそんな心配はないが……」
「そ、そう……」
俺たちは、それぞれ刺身を醤油につけて食べだす。
――ハムッ……
『『っ!』』
「んん!旨い!」
マグロの脂がのった旨味が口いっぱいに広がって……うめぇ~!
『なんだこれは!ただの生魚なのに、醬油につけるだけでこんなにも旨い!』
「ほんと……これが魚を生で食べる料理なのね……」
『このオレンジ色の刺身……とろけるような脂身が美味です』
「ああ、『サーモン』だな。子供や大人でも人気の魚だぞ」
「この尻尾がついた身……甘くてぷりっぷり……」
「それは『甘エビ』ですね。普通のエビとは甘さが違いますから美味しいですよ……そうだ」
俺はワサビを取り出す。
「これを醤油に少しだけ入れて食べてみてください。ピリッとした辛味が加わりますよ」
「へー……どれどれ?」
ガーネットさんはワサビを少量溶かした醤油に刺身をつけ、一口食べる。
「んん!生魚の旨味が更に引き立ってる!?」
「そうでしょう。それにワサビには魚の生臭さを和らげる効果もありますから結構食べられるんですよ」
『私もいいですか?』
「ああ、どうぞ」
『ありがとうございます……んん!これも美味です』
やっぱり刺身はいいな。
いつか『寿司』も食ってみたいものだ……
そんなことを考えながら食事を続けていると――
ふと、足元に違和感を覚えた。
「……?」
何だと思って、足をみると……水色の鱗をした蛇がこちらを見ていた。
「うおっ!?びっくりした!?」
「ど、どうしたの幸?」
「い、いや……俺の足元に魔物がいきなり現れて……」
「魔物?……ああ、この蛇ね」
ガーネットさんは、特に驚く様子もなく蛇を見る。
「この魔物は『ポンド・スネーク』よ。弱いから基本的には人間にはほぼ無害な魔物よ」
「む、無害?じゃあ何食ってるんですか?」
「基本的には湖に住んでいて、小魚とか、そこら辺に生えてるキノコや木の実なんかを食べてるわね」
「へ、へー……」
そう言われて、改めてポンド・スネークを見る。
『……』
チロチロと舌を出しながら、『ポンド・スネーク』は俺の持っている刺身をじっと見つめていた。
……もしかして、食いたいのか?
「……ほら、食うか?」
俺は刺身を一切れ、箸で掴む。
醤油につけて、『ポンド・スネーク』の前へ持っていった。
『……』
最初はチロチロと舌を動かし、刺身を舐めるように味見する。
『……っ!』
――ハムッ!
すると、美味しかったのか、そのまま刺身をがぶりと一口食べる。
『……!!』
……なんか、明らかに『もっと食べたい』と言っている気がする。
「そんなに美味しい?」
『……』
「じゃあ、ほら」
俺は刺身を数切れ、皿に盛って差し出す。
『!!』
――ガブガブッ!!
『ポンド・スネーク』は勢いよく刺身に食らいついた。
『ケフッ……』
「凄い食いっぷりだな」
食べ終わったポンド・スネークは、満足そうに一息つく。
……こうして見ると、蛇でも可愛いな。
『……』
「ん?」
すると、『ポンド・スネーク』はジッと俺を見つめる。
その瞬間。
――シュルルルッ!!
「おわっ!?」
『ポンド・スネーク』が俺の足へ巻きついた。
そのまま身体を這わせるように上へと登り、あっという間に顔の近くまでやってくる。
「ちょっ……この……何だよ!?」
「さ、幸!?」
俺は慌てて蛇を引っ張り、顔から離そうとする。
その時―――
『ねぇねぇ!さっきの料理、バリ旨かったっしょ!もっとある!?』
「……え?」
今、女性の声が聞こえたような……
ガーネットさんや麒麟の声とは違う、もっと若い、明るい声……
「……え?え?」
『……はぁ』
銀瓏が、呆れたようにため息をついた。
『おい、主』
「な、なんだ?」
『その蛇、お前の『契約獣』になったぞ』
「……えっ―――えええっ!?」
『……?』
俺は思わず叫んだ。
どうやら俺は――いつの間にか、三体目の魔物を『契約獣』にしてしまったらしい……




