第八術 ダンジョンの依頼と腹ごしらえ
バロンさんの急な話に、思わず息を呑む。
その場でガーネットさんが一歩前に出て、説明口調で問いかけた。
「ま、待ってください!早すぎませんか?始めたばかりで実績も浅いですし、しかもランクはEではなくC?普通はそこまで上がるのに一年以上かかるはずですけど……」
「ええ、ガーネットさんの言う通りです。始めたばかりの冒険者がCランクに到達するには、よほどの才能か、相応の実績が必要になります……そう、“普通ならば”」
「……なんだか含みのある言い方ですね」
「理由はあります。あなた方がガッツさんに依頼した“解体”の件です」
解体——その言葉で、ようやく腑に落ちる。
そういえば、銀瓏が狩ってきたのはBやAランクの魔物ばかりだった。
序盤の街に出回るはずのない素材が大量に持ち込まれれば、評価が跳ね上がるのも当然だ。
「はい。ですので、あなた方のような『契約獣を持つ冒険者』には、特例として依頼を出すことになりました」
「えっと……それって銀瓏が勝手にやっていた部分も多いんですけど……」
「それでも討伐・採取の成果は成果です。それに、ドラゴンを従える者をFやEに留めておくのは惜しい」
「仰る通りです……」
ここまで言われては、断る理由もない。
「ですので、どうかこの依頼を受けて頂かないでしょうか?」
「えっと……ところでその依頼内容は?」
「この町から離れたところにダンジョンがあります。そこで倒してほしい魔物が……」
「……ダンジョン?」
ファンタジー定番の、あのダンジョンだろうか。
「はい。本来は初心者向けの実戦訓練用ダンジョンですが、現在は奥に高ランクの魔物が住み着き、被害が出ています」
「ダンジョンは創造神ガーシュ様が作ったとされ、階層ごとに地形や魔物が変化します。魔力で維持されているため、内部の資源は“リポップ”します」
「へぇ……ゲームみたいですね」
「ただし、魔力でできている以上、内部で力尽きればダンジョンに取り込まれる危険もあります。行方不明者も少なくありません」
「怖っ……」
そう聞くと、ダンジョン怖ぇぇぇ!?絶対行きたくなくなる!?
「実は最近、Dランクの冒険者がそのダンジョンに入って最深部に突入したのですが……その奥で見られない高ランクの魔物と出会ってしまって、命からがら脱出し、報告を受けていたのです」
「バロンさん、その高ランクの魔物って?」
「Dランクの冒険者の証言を合わせますと……『三つ首の蛇』、『炎、氷、電気の三属性攻撃』……これです。『トライサーペント』と言われる魔物です」
本のページに描かれていたのは、三色の頭を持つ巨大な蛇で体から尻尾まで真っ黒だった。
「『トライサーペント』……これ『フォレストス』で稀に見かけるAランクじゃないですか。何故こんなダンジョンに?」
「……おそらくですが、『レオンガル』の王都に関係すると思われます」
「『レオンガル』?」
名前からして強そうな名前だな。
「『レオンガル』と言えば、『人間至上主義』を掲げている国で、魔物だけじゃなく、エルフやドワーフ、獣人などの人種すら差別するし、奴隷にするし、ひどい国よ」
「えぇ(ドン引)……つまり独裁国?」
「はい、しかもその国王は自分が偉いと絶対的な自信を誇り、色んな国から戦争を引き起こしているのです」
「はた迷惑すぎる……」
「しかも、レオンガルの貴族はパンのカビ並に腐っているから街の人達はひどくてつらい目に遭っている……」
銀瓏が鼻を鳴らす。
『昔、俺の力を利用しようとした愚かな国もあったがな。軽くひねってやったが』
「絶対軽くないやつだよそれ」
それにしてもそんな国王の下で生まれた人たちはかわいそうだな。
「そして、そんなレオンガルで厄介な宗教……『ズイーマ教』があるんですよ」
「『ズイーマ教』?」
「最高神『ズイーマ』を崇拝し、あがめている宗教です。ただ、最高神だからといって、献上しないと恐喝や借金取り立てなど姑息で汚い手を平気でやってきます」
「最低じゃねぇか」
「しかも、そもそもそんな神がいるなんて迷信です」
「え?そうなの?」
「ええ、そもそもこの世界の神は有名どころだと、創造神『ガーシュ』様という女神ともう一人は破壊神『ソトール』っていう神なのよ」
「他の神も少なからずいますが、そんな記載はありませんね」
ということは、そのズイーマって言う神はレオンガルが自分たちに都合がいい仮想の神様ってことか?なんて罰当たりな……
「しかもその破壊神『ソトール』様はレオンガルの貴族にとって忌み嫌われていて、そのソトール様に関する情報をもみ消して邪神と罵っているらしいのです」
「ええ……こりゃひでぇな。そんな国滅んでもおかしくないが……」
「レオンガルにはいくつか鉱山があって、そこには貴重な鉱石が沢山豊富なので、切っても切れない関係にあるんですよ……」
うへーよくある政治絡みー……めんどくせー……
「ただ、最近戦争を吹っ掛けたせいで鎖国してまして……」
「はぁ~……」
さらに話は続く。
「最近その国では“勇者召喚”の禁術が行われたらしいのですが……」
『……っ』
一瞬、空気が張り詰める。
「その召喚した勇者を魔物やら魔王やらでっち上げて『奴隷の枷』を装着させて言いなりにさせようとしていたらしいですよ?」
「『奴隷の枷』!?いくらなんでもやりすぎよ!」
「なにその『奴隷の枷』って?」
「『奴隷の枷』って言うのはね、これを装着した人に催眠効果を付与させて、宿主の言いなりなっちゃう恐ろしい品物よ!色々問題があったからもう撤去されていたと思っていたけど……」
うわっヤバいやん。簡単にR-18ができちゃうヤツだこれ。
「如何やら、『暗黒街』の掘り出し物かららしいです……そしてこれこそ、今回の依頼になった原因があります」
『その原因とやらはなんだ?まさか……失敗したのか?』
「半分正解です」
「半分?」
「召喚自体は成功しました。ただ、出てきたのが勇者じゃなく、山すら覆い尽くす魔物だったのです」
『はいっ!?』
その正体に俺とガーネットさんは声を重ねて驚く。
「その魔物が出現したせいで、各国の魔物同士が反発し、巡り巡ってこの他の魔物がこのダンジョンに来たらしいのです……」
生態系を狂わすほどの魔物ってなんだよ……Sランクかなんかか……?
「ですので、どうか『トライサーペント』の討伐をぜひあなた達にお願いしたいのですが……」
「うーん……銀瓏、行ける?」
『誰にものを言っている?多寡だかAランクの魔物、俺の『氷結魔属性』で永遠の眠りにつかせる』
ふんすっ、と鼻息を出し、やる気に満ちた銀瓏だった。
わー……すげー頼もしい……
「……ということですので、依頼のほうは大丈夫です」
「っ……!そうですか。では依頼達成できるよう健闘を祈ります」
バロンさんは何処かほっとした様子でこの場から去って行った。
俺たちは明日に備えて夕食の準備を進めることにした。
「明日はダンジョンが控えてるからな……力をつけ、なおかつ簡単な……コカトリスの肉にするか。鶏みたいなもんだと思えばいいし。あと、そろそろ米が食いたいな……ガーネットさんからそれっぽいものがないか聞いてみるか」
土鍋はあるみたいだし、有難く借りておこう。
「ガーネットさん、何か穀物のものはあります?」
「ん?そうね……麦米ならあるよ」
「あ、ならそれ使いますね」
「ええ、いいわよ」
「ありがとうございます」
麦米は健康にいいしいいけど、俺はやっぱり白米だな……
俺はガーネットさんから貰った麦米を錬金して白米へ変える。
『麦米』⇒『白米』
錬金した米でご飯を炊く。
「うーん……なんかいい匂いするね」
「米を炊いてるんですよ。やっぱ日本人は米が食いたいからね」
「にほんじんってのは分からないけどご飯はいいよね」
米を炊いている間に、俺はふと、バロンさんがさっき言ったことを思い出しそれについてガーネットさんに聞いてみた。
「……そういえば、バロンさんが言っていた『レオンガル』のことなんですが……」
「言いたいことは分かるわ……召喚についてよね」
「……はい」
あの時、レオンガルの王は勇者を召喚しようとした。だけどなぜか巨大な魔物が召喚されてしまった。
そして、今度はガーネットさんが伝説の魔物を召喚しようとしたけど、なぜか俺がここに召喚された……うん、見事に逆だ。
「あの時、召喚は失敗したと思っていたけど……違ったわね。召喚自体は成功、だけどその召喚先がなんらかの手違いを起こしたってことよね?」
「それがもし本当なら――誰かが手を加えた?」
「可能性としてはありね。だけど、それができる芸当は神様ぐらいの力がないと不可能に近いのよ」
「あぁ、確か創造神『ガーシュ』様と破壊神『ソトール』様だっけ?」
「ええ。その二人のどちらかがもしかしたら召喚先を入れ替えたのかもしれないわね……」
「……神様がねぇ」
『……ふふ』
ふと、そよ風に乗った女性の声が耳に届いた感覚がした……そんなことを思っていると、お腹が空いた銀瓏がしびれを切らして聞く。
『おい、夕食はまだか』
「ああ、はいはい……後焼くだけだからまってろー」
考えたって仕方ない……ちゃちゃっと作ってその次に考えよう。
まずコカトリスの肉を筋を取り除き、塩胡椒を振って、皮目から焼く!
皮がぱりぱりした所がたまらないんだよな~
反対側にひっくり返して、余分な脂を拭いて、蒸し焼きにする。
火が通って、ソースを掛けたら……
―――完成!『コカトリスステーキ』!
山もりのチキンステーキを銀瓏に差し出すと、ダラダラと涎が出てくる。
『おお!このソースはあの『にんにくじょうゆ』とやらか!あの味がより肉の味を引き立たせるぞ!』
「今回はそれだけじゃなくて、『おろし醤油』に『ガーリック、オニオン』、『トリュフ風味』も錬金してみたからかけてみてくれよ!」
「わー!私、『おろし醬油』かけてみますね!」
それぞれステーキにソースをかけた後、ご飯を食べ始める。
『いただきまーす!――――っ!?うまぁぁぁぃ!!』
一口食べた瞬間美味しさが下の上で感じた。
うっま!!やっぱり魔物の肉って結構うまいんだな……ただ焼いただけなのにステーキ醬油のソースが最高!
『うむ!うまい!やっぱり肉はこのソースだな!』
「この『おろし醬油』……肉の油をさっぱりさせてくれるからバクバク食べれるし、この米もふっくらしてて箸が止まらないよ!」
と、ステーキだけじゃなくごはんにも絶賛してくれた。
やっぱ米はいい……
数分の内に完食し、片付けた後、明日依頼でダンジョンに向かうため、早めに眠ることにしたのだった……
創造神『ガーシュ』
この世を作ったと言われる女神。自由を愛する女神で欲望に忠実。
破壊神『ソトール』
不必要なものを破壊する神。秩序を重んじる神であり、いつも適当なガーシュに手を焼いている。




