第七十六術 到達!ようこそ王都へ!!
翌日、目覚めた俺たちは朝食を済ませ、王都に行く準備を整えると、キョーヤ校長と合流した。
「おはよう、冒険者諸君。昨日はよく眠れたかな?」
「はい、ばっちりです!」
「うむ、元気があってよろしい―――では、早速じゃが、『パシフィスト』の王都へ行こうかの」
そう言うと、キョーヤ校長は魔法の詠唱を始めた。
次の瞬間、俺たちの足元へ巨大な魔法陣が展開される。
「うおっ!」
「では行こうぞ―――『瞬間移動魔法』!!」
――シュン……
眩い光に包まれた俺たちの姿は、その場から一瞬で消え去った。
◆
――シュン!
視界が晴れると、目の前には巨大な城壁がそびえ立っていた。
「こ、ここが王都……」
「そうじゃ。正確には王都の入口じゃがの……ほれ、冒険者カードを用意しておくのじゃ」
「え?……ああ、そう言えば、これって証明書になるんでしたね……」
「うむ。では行こうかの」
俺たちはキョーヤ校長に案内されながら、王城へ向かって歩き出す。
歩きながら、ふと気になっていたことを尋ねた。
「そういえば、キョーヤ校長。この国の王様ってどんな人ですか?」
「ん?ああ、この国の統一しているのは『パシフィスト・マスカット』という王女じゃ」
王女ってことは、女王様みたいな立場なのか。
ということは―――
「へー……ということはマスカのお母さんがこの国を治めてるんですね」
「……ん?」
キョーヤ校長が、不思議そうに首を傾げた。
「……マスカ?それは一昨日の手紙の人物か?」
「え?はい……そうですが……」
「ふむ―――」
校長は何かを考え込むように顎へ手を当てる。
えっなに?なんなの?
「えっと……キョーヤ校長?」
「……ほっほっほっ、そうか、そういうことか」
「え、何が?」
「いや、今は言わんでおこう。お前さんがそう思っておるなら、その方が面白いからの~」
何ッ!?何なの!?何かあるの!?怖いよぉ!?
「ほっほっほっ……まぁのちに分かるもんじゃ」
「ええ……」
一人だけ納得した様子のキョーヤ校長を見つめながら、俺たちは王城へと向かった。
◆
城門へ到着すると、門番による入城確認が始まった。
「失礼ですが、招待状を確認します」
「うむ……」
「あ、はい」
「……」
招待状を確認した門番は、少し戸惑った表情で俺を見た。
「あの……その、角の生えた馬の魔物は……」
「え?ああ、麒麟さんですか。この招待状をいただいた後に契約したんです」
「な、成程……そうですか……取り敢えず、この魔物はあなたの『契約獣』という認識で間違いありませんね?」
「はい、大丈夫です……」
「かしこまりました。では確認を終えましたので、キョーヤ様はこちらへ。サチ様ご一行は、別の者が王室までご案内いたします」
「え?王室……何故?」
「実は、サチ様がお越しになりましたら、直接王室までご案内するよう王女様から命を受けておりますので……」
王女直々!?
まじか……
「ほっほっほっ……ではワシは一足先に入るとするかのう……ではまたの、幸。パーティを期待しているぞ」
「あはは……キョーヤ校長も気を付けて」
そうしてキョーヤ校長は先に城内へ入り、俺たちは別の門番に案内されることになった。
歩いている途中、後ろから門番たちの小声が聞こえてくる。
「……なぁ、あの馬って、もしかして噂の『聖獣』じゃないか?」
「馬鹿言え……いくら『二つ名』個体のドラゴンを『契約獣』にした人でも流石に伝説の聖獣まで契約できるわけないだろ…………仮にできたとしても、相当な手慣れの人しかあり得ん……!」
すみません……この子、銀瓏と同じく飯目的で『契約獣』になってます……
「でも、角の生えた馬の魔物なんていたか?『ユニコーン』ぐらいだぞ?」
「……そうかもしれんが、聞きたくねぇよ……気になるけど恐ろしくて聞きたくねぇよ……」
俺は思わずガーネットさんへ耳打ちする。
「めちゃくちゃビビってますね……」
「そりゃ麒麟は『聖獣』だからね……物語の神話に出てくる級の獣だから、そりゃビビるよ……」
苦笑しながら歩いているうちに、王室前へと到着した。
すると、そこには見覚えのある二人が待っていた。
「むっ……?おお!久しいな、サチ殿、ガーネット殿、ギンロウ殿。見ぬ間に、さらに強くなったようだな」
『ふんっ当然だ。俺のステータスは一万を超えたからな!』
「いっ……凄すぎて、想像もつきません……」
「ははは……お久しぶりです、ルーシーさん、レットさん」
そこには、騎士のルーシーさんに、魔法使いのレットさんが出迎えてくれた。
「ああ、久しぶりの再開に私も嬉しいぞ」
「私もです!」
「あ、そうだ。マスカも元気でやっていますか?」
「ああ、王女様もお元気だ。この間、A+ランクの『グレート・グリズリー』を単独討伐されたぞ」
「ええ!?1人で!?」
マスカすげー……もうそんなところまで強くなったのか。
「これも、サチ殿から授かった剣のおかげだ。その剣のおかげで王女様への支持も日に日に高まっている」
「そうなんですね……」
さすが神剣……威力はんぱねぇ~……
その時、レットさんが麒麟へ視線を向けた。
「あの~ところで……その隣の馬は……」
「え?ああ、この子は『麒麟』さんで、魔術協会に行く途中で『契約獣』になりまして……」
『どうも』
「ああ、こちらこそ……しかしギンロウ殿に負けぬほど神々しいな」
そりゃ『聖獣』ですからね……神の加護を持ってますし……
「えっと……見間違いかもしれませんが……まさか――『聖獣』ってことはないですよね?」
「……」
「あー……」
俺とガーネットさんは視線を逸らす。
すると、銀瓏がズバッと言う。
『そうだぞ』
「ちょっ!?銀瓏!?」
『いずれ分かることだ。それに俺が契約されている時点で、今さらだろう』
「そんな身もふたもないことを……」
「――――」
そう言うと、レットさんは口を開けたまま固まってしまう。
「お、おいレット?」
ルーシーは固まったレットを不意に触ると――
――ドンッ!!
「レ……レットォォォっ!?」
そのままレットさんは気絶してしまった。
兵士たちが慌てて彼を運び出し、ルーシーさんは申し訳なさそうに頭を下げる。
「す、すまない……まさか、レットが放心するとは……」
「ああいえ、大丈夫です……にしても、あんな風になるとは……」
「ああ、レットは昔から聖獣に憧れていてな。神話や伝承の本ばかり読んでいたんだ。夢だった存在が目の前に現れて……その、こうなった……」
『どういうことだ……それは……』
……おいたわしや、レットさん。
「コホン。では改めて、王女様がお待ちだ」
「ああ、マスカのお母さんですね。実はお土産も用意してきたんですよ」
「そ、そうか……うむ、有難い……」
?……なんかぎこちないなルーシーさん。どうした?
そんな違和感を覚えながら、俺たちは王室へ入った。
広い謁見の間には兵士たちが左右へ整列し、奥には大きなカーテンが下ろされている。
その向こうには、一人の人物の影が映っていた。
「王女様。サチ殿ご一行をお連れしました」
「ええ、ご苦労様です、ルーシー。ここからは私が対応します」
「はっ」
ルーシーさんは一歩下がる。
俺は深呼吸し、カーテン越しの人物へ頭を下げた。
「こ、こんにちは!最近Sランク冒険者になった『自由の食旅』の『酒森 幸』と言います!」
「私は同じく、『魔賢者』となりました。『フラム・ガーネット』です!」
「そして、私の『契約獣』の銀瓏と麒麟さんです」
『ふんっ……』
『どうも』
「本日はお招きいただき、ありがとうございます!」
「まあ……」
聞こえてきたのは、とても優しく澄んだ女性の声。
……あれ?どこかで聞いたことがあるような……
「ふふ……そんなに緊張しなくても大丈夫ですよ?」
「そ、そうですか?――ああ、そうだ!実はお土産を持ってきまして……」
「土産?」
「ええ、この世界じゃ珍しい『チョコレート』を持ってきまして……」
「ちょ、チョコレートですか!」
うわ、声大きっ……
「コホン……王女様?」
「はっ……し、はっ……失礼しました。ありがとうございます。後ほど大切にいただきます」
「ええ、マスカもきっと喜ぶと思うので一緒に食べてくださいね」
「っ!?」
――ザワッ……
あれ、急に空気がざわついた。俺、何か変なこと言った?
「……はぁ、王女様。これ以上続けると誤解が深まるだけです。そろそろ芝居は終わりにしましょう」
「え?」
何て言った?芝居?
「ふふ……そうですね……折角来ていただいたのですもの―――」
――バサッ!!
その瞬間、カーテンが勢いよく開く。
その先に立っていたのは――
「私の大切なお友達には、たくさんおもてなしをしないといけませんからね♪」
豪華なドレスに身を包んだ、見覚えのある少女。
「えっ―――えええええぇっ!?」
そこに立っていたのは、王女姿のマスカだった。
つまり――
この国で言われていた『王女』とは、マスカ本人だったのである。
あまりにも衝撃的な事実に、俺はその場で言葉を失ってしまった。




