第七十三術 異世界日記
今回はちょっと短めです
――〇月×日
これは、私が訳も分からないままこの世界へ呼ばれてしまった、その出来事を記録するための日記。
偶然、白紙の本が売られていたから、これを『異世界日記』として使うことにした。
私の名前は『橘 葵』。前の世界では30歳の会社員のOLとして、ごく普通に働いていた。
「へー……葵って女性なのか……」
「まさか別世界の来た日記だったとは――ん?あれ?ということはサチって……」
「よーし!続き読むぞ!」
突然この世界へ呼ばれた私は、王国から『勇者』として迎えられた。
話によれば、魔族の侵攻によって国は疲弊し、国民は貧しい生活を強いられているらしい。
……その後、訳も分からない私は、国王から延々と長い説明を聞かされることになった。
「魔族……ということは、キョーヤ校長よりも前の話か?」
「いや、もしかしたら300年前の人かも?」
「でも、その頃なら魔族の侵攻は、そこまで激しくなかったんじゃないか?」
どうやら聞けば、この国は『レオンガル』っていう国らしい。
なんか強そうな名前だな……
「おっと?流れ変わったぞ?」
でも、国民が貧しいと言うわりには――王族は誰一人として痩せていない……むしろ、みんなふくよか。
そんな姿で『国は貧しい』なんて言われても、説得力がない。
私は、その瞬間に確信した。
――この国、絶対に駄目だ。
「確定したなこれ……」
「うん……」
急いでここから逃げ出そうと考えたが……まずは情報が必要だ。
この国について調べてからでも遅くはない。
今日はもう疲れた……行動は明日からにしよう。
「この人か……未来でラグナロクの魔王と結婚する人……」
〇月◆日
私には能力がある。
どうやら『個体能力』という、一人につき一つだけ能力を授かるらしい。
戦闘系なら、ある程度護身に使えるからいいと思うけど……私の能力は『農業』だった。
「―――農業?」
「農業?」
「農業ってあれだよな……畑とか耕す、あの……」
農業……それを聞いた時、私は軽く絶望した―――『これでどうやって戦えばいいんだ……!』と……
能力を詳しく確認すると、魔力を消費して農具を生み出したり、自分が食べた野菜や果物を種なしで栽培できるらしい。
……あれ?これ、意外と便利じゃない?
異世界の食べ物にはまだ慣れないし、食べ慣れた食材を育てられるなら、旅の食糧問題は解決できそう。
「種なしで育てられるのか……!便利だなそれ」
「幸が言う?それ?」
取り敢えず王様から貰った軍資金で植木鉢を買った。
土を入れ、スコップで耕し――試しにプチトマトを育ててみる。
本当に種なしで育つのか半信半疑だけど……明日になれば分かるはず。
〇月▽日
朝起きて植木鉢を見ると――
そこには真っ赤なプチトマトが実っていた。
「「早ッ!?」」
私は驚愕した……いくら何でも早すぎてしょ、昨日植えたばかりなのに……私はさっそく実ったプチトマトを食べてみる。
……ん!美味しい、いつも食べてる『プチトマト』ね。これなら安心安心!
私はプチトマトを食べつつ、この街で情報を集めることにした。
〇月XX日
やばい。ここから逃げないと……!あいつらの奴隷になってしまう!
「なんかすっごい急展開がでたな……」
偶然、貴族たちの話を聞いてしまった。
どうやら私を『奴隷の枷』で支配し、好き勝手に利用するつもりらしい。
もう駄目だ――ここにはいられない……!
一刻も早く、この国から逃げなければ!!
「やっぱりレオンガルってクソだと思うんですけど」
「うん、あれは滅んだ方がいいわね、一回」
〇月□日
失敗した。
馬車でなんとか国を脱出したけど、隣国へ入った瞬間、土砂崩れに巻き込まれた。
痛い。
膝が痛い。
動けない。
死ぬ。
嫌だ。
助けて。
どうしてこんなことに。
生きたい。
死にたくない。
助けて。
助けて。
助けて。
助けて。
助けて――
助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けてT
―――スバァァンッ!!
「……」
――俺は勢いよく、この本を閉じた。
「ど、どうしたの急に……」
「……やめよう。この先読むの」
「え?」
「これ絶対ヤバいやつだろ……!呪いの本みたいになってるじゃん! 今にも黒魔術とか飛んできそうなんだけど!」
最後に見たページは、インクではない……
乾いて黒ずんだ――まるで血文字のような色で、狂ったように『助けて』が書き殴られていた。
見ているだけで背筋が寒くなる。
「でも、この先が気になるわ?」
「そうだよ。今もその人は生きてるんでしょう?だったら大丈夫じゃない?」
「うぅ……」
二人に言われると、確かに気にはなる。
俺は大きく息を吸い込み、恐る恐る本を開いた。
次のページには、一体何が書かれているのか――




