第七十二術 王都への準備と日記発見
あの後――結局、一睡もできなかった。
寝不足でぼんやりする頭をどうにか働かせながら、俺は簡単な朝食を用意し、王都へ向かう準備を進める。
そんな俺たちの前に、キョーヤ校長が姿を現した。
「おお、おはよう。幸、ガーネット……昨日はぐっすり――寝られてないようじゃな」
「うす……ちょっと色々考えて……」
「……」
校長は俺たちの顔を見るなり、苦笑する。
「おいおい、大丈夫か? まあ、今日の予定に支障がないなら構わんが……」
そう言って懐から二枚のカードを取り出した。
どちらも眩い輝きを放ち、見るからに高級感が漂っている。
「ほれ、受け取るのじゃ」
「これは……?」
「『Sランク冒険者』と『魔賢者』の証じゃ。これでお前さんたちは、それぞれ最高位の称号を正式に授かったことになる」
「こ、これが……『魔賢者』のカード――あっ、二つ名の項目がある!」
ガーネットさんが目を丸くした。
「『二つ名』?……それって銀瓏みたいな感じか?」
「うむ。『魔賢者』ともなれば、その実力を認められ、正式な二つ名が与えられるのじゃ」
校長は胸を張って笑う。
「ちなみにワシは『無限のキョーヤ』と呼ばれておる」
無限……『無限魔力術』からついた名か……
「どうじゃ?名は決まっておるのか?」
「は、はい、昔から決めていたものがあって……」
「ほーう?どんな感じじゃ?」
ガーネットさんは少し恥ずかしそうに頬を染めながら、小さく答えた。
「……『守護神』かな。ちょっとおおげさな感じになるけど……」
「ふむ……『守護神』か」
校長は満足そうに頷く。
「実に良い名じゃ。仲間を守るお前さんの魔法に、これ以上相応しい名はあるまい」
「確かに、ガーネットさんの結界は色々守って助かってますからね……良いと思いますよ!」
『ふん。Sランクの攻撃を受け止めても揺るがぬ結界だからな。悪くない』
『神……そうですね。あの結界の練度は私から見ても相当なものですからね。いいと思いますよ』
銀瓏と麒麟からも太鼓判を押され、ガーネットさんは顔を真っ赤にした。
「も、もう! みんな褒めすぎだよ!」
その姿に思わず笑いが零れる。
「さて、話は変わるが……」
校長は咳払いを一つすると話題を変えた。
「この国は豊富な魔道具が沢山ある。遠くの国の商人もそうだが、生徒個人が開く店もある」
「生徒が?」
「うむ。主に『魔具学』の生徒が開いての……自分で作った魔道具を販売しておる。売り上げが伸びれば、そのまま成績や評価にも繋がる仕組みなのじ」
生徒が販売……文化祭やバザーのようなものを、日常的にやっている感じか。
「運が良ければ、この協会でしか手に入らぬ一点物も見つかるかもしれんぞ?」
「へー……!それはぜひとも見てみたいですね!……あ、結構高かったらどうしよう……」
「そういう時は、高ランク魔物の素材と交換するのじゃ。生徒は素材が手に入り、お前さんは魔道具を手に入れられる。双方に利益があるじゃろ?」
「高ランクの魔物か……」
それなら、ダンジョンで取れた高ランク素材も沢山あるし、いいかもな!
「分かりました。早速見てきます!」
「うむ。良い品と巡り会えるとよいの」
そう言い、俺たちは生徒たちが集まっている店へ向かう。
◆
『魔術協会 商店街』
到着した先には、ずらりと店が立ち並び、多くの生徒や冒険者たちで賑わっていた。
魔道具、薬草、魔物素材、食料品――
ありとあらゆる品物が並び、歩いているだけでも楽しい。
「うわっ!多いな……流石、商店街。活気がいいな」
「ふふっ♪ じゃあ案内してあげる!」
ガーネットさんは嬉しそうに俺の腕を引いた。
「私がよく行くお店があるの。ほら、こっち!」
「うおっ!?」
勢いよく引っ張られ、俺は慌てて後を追う。
『まったく、はしゃぎおって……』
銀瓏が呆れたように鼻を鳴らす。
『良いではありませんか。若者らしくて微笑ましいですよ』
麒麟は柔らかく笑いながら続く。
『クレース魔術図書』
案内されたのは、少し年季の入った石造りの建物で中に入ると、そこには壁一面を埋め尽くすほどの本棚があり、魔導書や古文書らしき本が隙間なく並び、独特の紙の香りが漂っている。
※銀瓏と麒麟は大きさ的には入れないので外で待機。
「うわ……凄い数の本だ」
「私が知ってる中では、一番本が多いお店よ」
ガーネットさんは店の奥へ向かって声を掛けた。
「クレース、いる~?」
「はーい……いるよ」
返事と共に現れたのは、緑色の髪をサイドで三つ編みにまとめ、とんがり帽子を被った丸眼鏡の女性だった。
「久しぶりね、ガーネット」
開口一番、彼女はにやりと笑う。
「聞いたわよ。昨日『魔賢者』になったんだって?」
「うわっ!何で知ってるの?」
「ここの一番の情報屋が昨日飛び込んできたからね。おめでとう」
いや情報が回るの早っ!
そして彼女は俺へ視線を向ける。
「んで……君がサチだね。噂には聞いてるよ」
「えっ噂?」
「ドラゴンと聖獣を『契約獣』にした人物が、ガーネットの弟子らしいってね」
そう言って首を傾げる。
「……でも、弟子なんて取るタイプじゃなかったでしょう?」
「あ、あはは……」
「そこは何というか……その……」
俺たちは曖昧に笑って誤魔化すしかなかった。
「ふーん……まぁいいわ。んで、ウチに何かな?ここは魔導書専門店よ。珍しい本も多いから、好きに見て回って」
「魔導書……えっここ全部魔導書!?」
「そうよ。私、こう見えて『魔法士』……それなりにダンジョンやらで魔導書とか回収しているわ。私は魔導書を集めるのが趣味なのよ?」
「へー……」
「折角だし、見て回ったら?もしかしたら幸にぴったりな魔法が出るかもね!」
「ありがとうございます」
俺は本棚を見て回ることにした。
「こうしてみると、色々あるな……『火魔法の極意』、『ポーション製作のコツ』……『鍛冶屋の錬成説明』……こんなのもあるのか?」
ファンタジーのものから、専門系まで幅広くあるな……
「ん?なにこれ」
そんな中、一冊だけ異様に古びた本が目に留まった。
革表紙は擦り切れ、紙もかなり黄ばんでいる。
「ん?」
何気なく手に取る。
「これ……」
クレースさんがこちらへ来る。
「ああ、それ?古代文字で書かれた本よ。題名も本文も全部解読不能。今では完全にお手上げね」
「いや……古代ってこれ……」
ページをめくり続けるが……
これ、明らかに『日本語』で書かれてるんだけど……!
「あの……これ『異世界日記』って書いているんですど……」
「えっ――読めるのそれ!」
クレースさんが固まる。
「読めるというか……これ、俺のせ……国の文字ですね」
「なんと!そうなのか!?是非とも、読み聞かせてくれないか!?」
興奮した彼女は俺の両肩を掴んだ。
「え、ええ……今ですか?」
「ああ!何せ、それは誰も解読できない本なのでね!その内容が分かると、どうも気になってしょうがないのさ!」
ち、近い……
「わ、分かりましたよ……だから少し落ち着いてくださいよ」
「おっと……すまない」
クレースさんは咳払いして姿勢を正した。
「あはは……にしても、私も気になるな~その内容」
ガーネットさんも興味津々といった様子で本を覗き込む。
「日記……と言うことは、誰かの記録か?」
こうして俺は、誰も読むことのできなかった一冊の『異世界日記』を、二人へ読み聞かせることになった。




