第七十一術 チョコ尽くし
さて、『等価交換』で色んな種類のチョコを大量に用意したのはいいが……もう一品くらい、特別なものも作りたい。
「……そうだ、折角だし『フォンダンショコラ』が食いたいな」
あーでも、手間かかるからな……あっ、こういう時の『錬金』!
以前、日本でフォンダンショコラを食べたこともあるし、材料があればいけるだろ!
取り敢えず、俺は『等価交換』で必要な材料を取り出し、魔法陣の上へ並べる。
初めて複数の素材をまとめて錬成するが、大切なのは完成形を鮮明に思い描くこと。
あの、とろりと溶け出す温かなチョコレートを思い浮かべながら――
『チョコ』+『バター』+『薄力粉』+『卵』+『ココアパウダー』⇒『フォンダンショコラ』
淡い光が素材を包み込み、魔法陣の中央から現れたのは、こんがり焼き色の付いた小さなケーキだった。
よし!成功したぞ!
これだけでも十分だが、やっぱりフォンダンショコラにはバニラアイスが欠かせない……暖かいフォンダンショコラに冷たいアイスが合わさって美味しいんだよな~!
「みんな!出来ましたよ~!」
『うむ!来たな!』
「わー!美味しそう!」
「おお……!これは」
俺はテーブルの上へ、様々な種類のチョコレートと、出来立てのフォンダンショコラを並べていく。
キョーヤ校長は目を細め、懐かしそうに眺めた。
「これは……アイスじゃな。久しぶりに食べるものじゃ……そしてその隣のケーキは……」
「フォンダンショコラです。時間が足りなさそうなので知っている味で錬金しました」
「おお、フォンダンショコラ!こんなケーキは500年ぶりじゃ……!どれどれ?」
待ちきれない様子でスプーンを入れ、一口運ぶ。
中から溶け出したチョコレートとアイスが絡み合い、その瞬間――
「んん!熱い……いや冷たい!」
久しぶりの味に思わず目を見開くキョーヤ校長。
「この熱々のチョコソースが、冷たいアイスと混ざり合って、味に深みが増したぞ!んー……この感覚、こりゃ止まらんわい!」
『うむ!焼き立ての生地がとろけたアイスが染み込み、甘さがダントツで上がったぞ!』
銀瓏も夢中になって食べ進める。
一方、麒麟は別のチョコレートへ興味を示していた。
『ちらのチョコレートも美味ですね。甘さが控えめで、ほどよい苦味があります』
「おっ、麒麟さん『ダークチョコ』が好きなんですね」
「同じチョコなのに白いのがあるわね……」
「それは『ホワイトチョコ』ですね。普通のチョコよりミルク感が強くて甘いですよ」
「こ、これは……!『アーモンドチョコレート』!何百年ぶりじゃ……!これを食べるのは!」
「他にも『マカデミアナッツチョコ』もありますよ」
『うむ、中に木の実が入っているのか……!香ばしい木の実がチョコとよく合うな!』
それぞれが気に入ったチョコを見つけ、楽しそうに食べ比べを始める。
他愛もない会話を交わしながら、甘い香りに包まれた穏やかな時間が流れていった。
◆
「ふぅ……食べた、食べた」
満足そうに息をつくキョーヤ校長。
「やはり、日本の菓子は格別じゃのう……。異世界にいても、こうして昔と変わらぬ味を口にできるとは……」
「その気持ち、わかりますよ……!」
異世界の料理も美味しい。
だけど、子どもの頃から慣れ親しんだ味というのは、やっぱり特別だ。
ふと、校長の表情が少しだけ寂しげになる。
「……もう少し早く、お前さんと出会えておればな。この味を、あの頃の仲間たちにも食べさせてやれたのじゃが……」
「「……」」
500年―――
その長い年月の重みが、その一言に込められていた。
「いかんいかん。年寄りが昔話ばかりしても仕方あるまい」
校長は苦笑しながら頭を掻く。
「その……よかったら後でチョコレート、たくさん用意しますよ」
「ほう、いいのか?」
ぱっと表情が明るくなる。
「すまない、何せこちとら500年も日本のチョコを食べてないからの~これだけの種類のチョコを食べれるのはうれしいからの……やっぱり日本の菓子は素晴らしい物じゃ……」
「ですよね~」
同じ日本から来た人だからこそ、この感覚は痛いほど伝わってくる。
すると、校長は「あっ」と何かを思い出したように手を叩いた。
「そうじゃ。チョコに夢中ですっかり忘れておった」
「何ですか?」
「お前さんたち、この後の予定はあるかの?」
「いえ、特には」
「実はの……『マスカ』と名乗る人物から手紙が預かっておる」
「え?手紙?というか、何でここにいるって分かったんです?」
まだ『魔術協会』にいるって言ってないよな?
「それはのう、『届屋』という店で売られておる特殊な切手があっての。送り先の名前を書けば、その人物の一番近くにいる運び屋へ荷物が転送される魔道具なんじゃ」
「へー……そんなものが……」
本当に、この世界は魔法が万能だ。
感心しながら封を切る。
『サチ様へ
お元気ですか?私は元気です。今日もサチ様から貰った剣で魔物たちを倒しています!
さて、噂には聞いています。最近、『トランザ』であの『S+ランク』の魔物を倒したとお聞きしました。
流石です!ギンロウ様もですが、その契約先のサチ様もガーネット様も皆、壮絶な戦いが起こっていたのでしょう。
私もサチ様達みたいにいつかSランクの魔物を討伐できるよう頑張ります!――』
「マスカも頑張っているんだな~……まぁ俺は色々ありすぎて今じゃSランクになったけどね……」
『さて、そんなサチ様にお願い事がありまして……
もうすぐ『パシフィスト』王都にて、各王国の代表が集う祝宴が開かれます。
もしよろしければ、その席でサチ様のお料理を振る舞っていただけないでしょうか。
報酬は国王陛下より直接お渡しいたします。
何卒、ご検討ください――』
「……ええ!?」
俺は思わず大声が出た。
「各国王が集まるパーティって……!」
「ほっほっほっ。これは良い機会ではないか。日本の料理を世界へ広められるぞ」
「いやいや……俺、ただの一般人ですよ?国王の下に合うかな~?」
「安心せい、この世界は食が杜撰な物ばかりで、味付けが乏しい……お前さんの調味料があれば、国王はスンッと黙るはずじゃ」
「そ、そうか……?」
「うむ……それにの……」
「?」
校長は一枚の手紙を取り出し、ニヤリと笑う。
「ワシもその国から招待されちった★」
「えぇぇぇっ!?」
「せっかくの機会じゃ。しかも、お前さんが料理を作るとなれば、日本の味をまた食べられる。行かぬ理由がないわい」
「ええ……」
……この人、完全に食べる気満々だ……ん?よく見ると、追伸があるな……
『追伸
サチ様から貰った材料がなくなりそうです。あの味が食べれなくなると……私は……是非とも王都に来て欲しいです!』
100%バリッバリの私欲が書かれていた。
……はー、しょうがないな~!皆がそう言うなら、俺――人肌脱いじゃいますかー!!
「……よし、折角名指しで誘われたんだ……俺たちも行くとするか!」
「うわー……私、王都に行くの初めてかも……!」
『ふんっ……退屈なことが起きそうだな』
「そう言うな、銀瓏。パーティだと、色々な料理を食べれるんだぞ?」
『なんと!それは主が作る料理か!』
「そういうことになるな……」
『そういうことなら行く価値は十分ありますね』
銀瓏だけでなく、麒麟も行く気になる。
……というか、俺の料理目当てだけだろ。
「ほっほっほっ……決まったようじゃの」
「ええ、そうですね」
「なら明日、準備を進めておいておくのじゃ。『瞬間移動魔法』で『パシフィスト』の王都まで送ろう」
「いいんですか!」
「うむ。そうしたほうが手っ取り早いからの~」
「あ、ありがとうございます!」
「ええよ……それと、期待しているからの?お前さんが作る料理は」
「あはは……」
俺は苦笑しながら、翌日の準備を始めることにした。
◆
夜。
ベッドへ横になっていると、不意に隣から声が聞こえた。
「幸……まだ起きてる?」
「ん?まだ大丈夫ですが……」
「そ、そう……あ、あのね……」
ガーネットさんは少しもじもじしながら、小さな声で続ける。
「その……ありがとう」
「え?……それはどうも……けど、なんで急に?」
彼女は天井を見つめながら、ゆっくりと話し始めた。
「……私さ、夢が『魔賢者』になることだったの」
「魔賢者に……ですか?」
「うん、『魔賢者』になって、お父さんとお母さんに胸を張れる魔法使いになりたくて、今までこの数年、頑張って来たの……だけど、ある日あなたが来てから、全てが変わった」
静かな声が、夜の部屋に響く。
「銀瓏に出会って、見たこともない料理をたくさん食べて、高ランクの魔物を倒して、聖獣とも出会って……フォレストスのいざこざまで解決した」
一つ一つ思い返すように、優しく笑う。
「気付けば私は夢だった『魔賢者』になっていた」
そして、まっすぐ俺を見る。
「そんな毎日が続けられたのは……幸、貴方があの日、この場所で出会ったおかげよ」
ガーネットさんは起き上がり、俺の方を見つめる。
「だから……そ、その……あれよ!これからもよろしくね!」
「えっあっはい!」
お互い照れくさくなって、慌てて布団へ潜り込む。
少し間を置いて、俺は口を開いた。
「えっと……ガーネットさん」
「な、何よ……」
「……俺も、初めて会った人がガーネットさんで本当に良かったです」
「――ふぇっ……!?」
「何も分からなかった俺に、この世界のことを教えてくれて、料理を美味しいって笑ってくれて、危ない時はいつも守ってくれて……」
胸の奥から、自然と言葉が溢れる。
「感謝しているのは、俺の方です」
「そ、そう……」
ガーネットさんは照れたように顔を逸らし、小さく微笑んだ。
「それはありがとう……」
「じゃあ、お休みです」
「お、お休み……」
そうして俺たちは目を閉じ、明日に備えて寝ることにした……
「……」
寝ることに……
「……―――」
寝る……ことに……
「っ~~!!」
寝れねぇぇぇぇ!!
ああ~!何言ってんだ俺ぇ!!
今の完全に告白みたいな流れだったんじゃないか!?
意識すればするほど恥ずかしくなってきた!
その後も布団の中で何度も身悶えしながら、俺は結局、朝までほとんど眠れなかった。




